>   >  映画VFXを中心に手がけるスタジオが挑戦! LEDウォールを組み合わせたバーチャルプロダクション
映画VFXを中心に手がけるスタジオが挑戦! LEDウォールを組み合わせたバーチャルプロダクション

映画VFXを中心に手がけるスタジオが挑戦! LEDウォールを組み合わせたバーチャルプロダクション

<2>次なる目標は、多画面出力!

UEを積極的に導入しているランハンシャとの協業

今回の検証において、トラッキングと映像出力を組み合わせたUEのシステムは、CGプロダクションのランハンシャが制作した。NEWPOT PICTURESの藤原氏から依頼を受け、CGディレクターの大山俊輔氏とメインプログラマーの片渕孝一氏が中心となり、本プロジェクトに参加している。

大山氏はUEを5年以上愛用していて、以前からVPに可能性を感じていた。一方の片渕氏は「正直、最初はピンときていなかった」そうだが、内容を知るうちにVPの面白みを知り、手探りながら楽しんで開発を進めている。

検証の第1ステップは結果上々といったところだが、本命は次の「多面でLEDパネルに出力するステップ」だと大山氏は語る。構想しているのは、背面と左右、そして天井の4面だ。今回の検証では背面1枚のみへの出力となったため使用するマシンは1台だったが、4面への出力ではマシン2台を使い、それぞれ2面ずつ出力することとなる。UEには複数のマシン、複数の出力先でリアルタイムに同期が取れるnDisplayという機能があり、さらにGPUのNVIDIA Quadro同士を同期させられるオプションボード「Quadro Sync 2」を利用することで、4面(1面あたり2.5K解像度で出力)の完全同期を実現する。

すでに27型のPCディスプレイ4台に対する多画面出力は検証済みだが、その段階でも大山氏は「早くLEDパネル4面で検証したい」と感じたという。特に視界が覆われることで、「その世界への没入感」が強くある。「モニタだけで見ていても迫力がすごい。バーチャルプロダクションによる撮影以外にも、舞台やライブで多面のLEDパネルを利用するケースが増えていくのではないでしょうか」(大山氏)。

VPはその特性上、事前に映像の具体的なイメージを描けているかどうかが重要だ。プランが明確であればあるほど、UEがもたらす効果はより大きくなっていく。「UEは映像を見ながらコンポジットを確認できるので、今でも監督から『Unreal Engine良いね』とよく言われます。今後VPがより盛んになってきて、UEと映像業界は今後ますます接近していくと思います」(大山氏)。

nDisplayでビデオウォールを実現

UEバージョン4.20で追加された「nDisplay」(docs.unrealengine.com/ja/Engine/Rendering/nDisplay/index.html)を用いれば、Unreal Engineプロジェクトを複数のディスプレイで同期してレンダリングできる

▲ランチャー。起動するプロジェクトや設定ファイルを選択してnDisplayを起動

▲リスナー。nDisplayでレンダリングする各PCに起動しておく

GenLockによる複数画面の同期

GenLockの同期には、ブラックマジックデザイン「Mini Converter Sync Generator」を使用

▲NVIDIA コントロールパネル上での同期状況の確認例

▲同マスターPCの同期設定

モニタ4台による、nDisplayの同期検証

ランハンシャによる、PC2台(マスター×1、スレーブ×1)とモニタ4台を用いた同期検証時の様子。グラフィックスボードはQuadro RTX 4000が用いられた



  • ▲nDisplay 4画面出力。左・中央がマスターPC、右と天井用がスレーブPCからの出力



  • ▲画面間の同期を確認



  • ▲検証時は、Focus操作も確認された



  • ▲同期失敗例。通常は数コマのズレが発生する

▲同期成功例

Unreal Engineの利点

ランハンシャでは、大山氏の合流を機にUEの活用が広がっている。大山氏は、具体的な利点として「シーケンサー」(UEのマルチトラックエディタ)を挙げてくれた



  • ▲シーケンサーのUI。変数の制御、カメラアニメーション、キャラのマテリアル制御、ルックアット制御などを行なっている。また、イベントからシーケンサーのBlueprints(ブループリント)を呼び出している



  • ▲SequenceDirectorのUI。シーケンサー用のBlueprints



  • ▲シーケンサーでshotを並べている様子。カメラワークなどリアルタイムで確認できるようになっているため、更新もスムーズに行える。「右のレベルのタブの中に各ショットのレベルを入れ、【シーケンサーのUI】の画像のようにショットのアニメなど制御しているシーケンサーをマスターシーケンスの中に入れることによってクリップのような扱いで並べることができます」(大山氏)



  • ▲Blueprintsによるカメラの制御例


エピックゲームズは、UE作業データのバージョン管理システムとして、PerforceかSubersion(SVN)を推奨している。そこでランハンシャでは、SVNシステムをTortoiseSVNというGUIベースのクライアントを使用している

▲変更履歴のログ画面。任意のリビジョンに戻ることができるほか、派生バージョン(branch)の作成が可能

▲UEのソースコントロール機能。UE上からSVNにアクセスできる



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