最初から90点の画を出し、森本監督をインスパイア
TRICK BLOCKは、前述のバセット・ハウンドの引きのカットに加え、近未来のバイク、宇宙人、UFO、鳥、蝶、モニターグラフィックスなどを担当した。主な制作ツールは3ds MaxとAfter Effectsで、社内の制作管理にはShotgun、社内外のデータの受け渡しにはGoogleドライブを使用した。なお、森本監督との打ち合わせにはZoomを使用している。
前述したように、本作のCG制作は、VコンテからCGモデルとカットの制作に必要な情報をくみ取り、段階的に細部を詰めていくというスタイルで進められた。これが実現できた背景には、森本監督作品を何度も手がけてきたTRICK BLOCKの豊富な経験がある。森本監督のビジョンを高い精度で共有できる"読解力"と、それを実現できる"技術力"を礎にして、最初から90点レベルの画をたたき出せるからこそ、森本監督はその画にインスパイアされ、さらに完成度を高める指示を出し、どんどん作品が磨きあげられていくという好循環が生まれた。
その代表例は、キャラクターを乗せた近未来のバイクが走行するカットだ。Vコンテを基にCG先行でレイアウトが組まれ、CGバイクの動きのタイミング、美術による流線背景に合わせた色味、作画によるキャラクターの服のなびき、バイザー上のモニターグラフィックスなどが順番に検討され、完成度が高められていった。UFOが移動するカットや、宇宙人がスマートヘッドセットを装着するカットの動きとタイミングも、Vコンテを基にTRICK BLOCKが提案し、試行錯誤がくり返された。
キャラクターを乗せた近未来のバイクが走行するカット
▲CGバイクの動きのタイミングを検討している。流線背景は仮のものを使用
▲背景を美術による流線背景に差し替え、その色味に合わせてCGバイクとキャラクターの色味を変更している
▲完成画像。CGキャラクターをガイドにして、作画によるキャラクターアニメーションを作成。さらにバイザー上のモニターグラフィックスも追加されている
宇宙人がスマートヘッドセットを装着するカット
▲手始めに、宇宙人がスマートヘッドセットにそっと触れる動きがつくられた
▲続いて、浮遊するスマートヘッドセットに宇宙人が勢いよく手を伸ばす、迫力のある動きがつくられた
▲完成画像。様々な試行錯誤の結果、スマートヘッドセットが光の玉の状態で出現し、実体化してから宇宙人の耳(?)に装着された後、そっと触れる動きがつくられた
移動するアダムスキー型UFOを飛行体が追尾するカット
▲森本監督によるVコンテ。衛星のようにUFOの周囲を回る複数の飛行体が描かれている
▲先のVコンテのUFOと飛行体を再現したCGアニメーション。Vコンテと同様、複数の飛行体が常にUFOの周囲を回っている表現が試されたが、「UFO以上に、飛行体の動きが目立ってしまい、主客転倒している」という理由により、別の表現を模索することになった
▲飛行体の動きが、UFOを追尾するようなものに変更されている
▲完成画像。UFOの急停止・急発進に連動するエフェクトも追加された。なお、UFOや宇宙人のCGアニメーションは渡辺廉司氏(CGIアーティスト)が担当しており、各カットの撮影(コンポジット)は畠中氏、渡辺氏、藤沼優子氏(CGIアーティスト)らが分担している
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