<2>キャンプ地のエンバイロンメント制作
実際のキャンプ地を再現しつつ容量とルックに対して最適化
キャンプ場をはじめ、実在する自然や観光地などのロケーションが丁寧に再現されていることも『ゆるキャン△』の大きな魅力であり、エンバイロンメント制作でもそうした姿勢がしっかりと継承されている。
エンバイロンメントとプロップ制作をリードしたのは、アーティストの山田恒輝氏。まずは実際にモデル地を訪問し、富士山などのランドマークとの位置関係などを確認。さらにRICOH THETA Z1にて360度写真を撮影し、それらをベースにエンバイロンメント制作が進められた。VRゲームとしてのリアリティを高める上では、テントをはじめとする様々なキャンプ道具についても実在するものは忠実に再現。実在しないプロップについては、アニメに寄せたデザインに仕上げることで実在感とアニメ版のエッセンスを巧みに組み合わせている。
言うまでもなく、エンバイロンメント制作でもスマホスペックへの対応が求められた。マップの描画負荷や容量が限られるため、現実のロケーションをベースにしつつもスケールや距離を意図的に誇張することで違和感を感じないように調整された。具体的には、プレイヤーの近くにあるテント等のモデルはリアルスケールで配置する一方、遠景にあるモデルはサイズを縮小し実際より近い距離の位置にし、シーン全体の描画する距離を狭くすることで負荷を軽減している。
『ゆるキャン△ VR』では昼、夕方、夜、夜明けの時間帯が設定され、実際のキャンプに行ったときのような雰囲気を味わうことができる。冬の設定のため、彩度を低めにした画づくりを意識することで、リアルな空気を生み出している。そうしたライティングのこだわりが特に伝わってくるのが夜シーンだ。都会の夜とちがって、キャンプ場は明かりが少なく、焚き火の明かりは自ずと存在感が高まる。当初はUnityのPointLightを使った焚き火の表現を検討したというが、負荷が大きいため断念。代わりにDirectionalLightの一部機能を使い、焚き火の周辺を明滅させることで光の表現が創り出された。さらにキャンプの醍醐味である食事シーンも随所に工夫が凝らされた。当初はキャラクターが手にするため、アニメ調のルック、ディテールで作成していたが、美味しそうな見た目を追求するために、料理のモデルにZBrushでスカルプトを施し、Substance Painterでよりリッチな質感が加えられた。
ロケハン写真から再現
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▲麓キャンプ場のモデル地で撮影した360度写真(プライバシーに配慮し、モザイク処理を追加した状態)
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▲【左画像】とゲーム内のテクスチャとして作成した状態の比較図。「実際のキャンプ場モデル地に行き、ゲーム内のどのあたりで、なでしことリンがキャンプしているかを想像しながら写真を撮りました。撮影機材は、RICOH THETA Z1を使用しています。撮影したのは昨夏で、麓キャンプ場モデル地のロケハンでは悪天候に見舞われ山のシルエットが雲に隠れてしまい何度も撮影をくり返しました(苦笑)。また、ゲーム内の季節は冬という設定で、緑の木々や真っ青な空などをそのまま利用することはできないため、Photoshopでレタッチし、禿げた山々や枯れ色になった葉、雪のかかった富士山などの表現を施しました」(山田氏)
キャラクターのルックとの整合性
キャラクターが手に持つプロップのルック調整例
▲本栖湖編のローテーブル上にあるプロップ(コップに注目)
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▲NG例。テーブル上にあるコップと同じマテリアルのコップをキャラに持たせてしまうと質感のギャップが目立ってしまう
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▲OK例(最終的なルック)。コップに対して、キャラに合わせた陰を落とさない色味とアウトラインを付与するマテリアルに切り替えることでギャップが払拭された。「本作ではセル調で表現されるキャラクターに対してフラットなテクスチャではあるものの通常のシェーダを採用しています。ゲーム内では【上画像】のような近場のアセットを注視することでキャラクターがそれらの背景アセットに触れる瞬間が発生します。そのままの質感でキャラクターと触れると質感の差異に違和感を感じてしまうので、キャラクターが直接触れるようなアセットに対してはアウトラインを追加し、陰なども落とさないフラットなシェーダに切り替える処理を行いました」(山田氏)
情感豊かなシーンをスマホ版でも成立させる
▲本栖湖編の背景セット例。Maya上でのデフォルトのシェーティング(ワイヤーフレーム付き)の状態
▲Unity上での最終的な出力。「本作ではスマートフォンで描画することを想定しています。そのため描画負荷の関係で非常にディテールに制約がかかっており、木など植物系のアセットは板ポリゴンによる軽減が必要でしたが、『ゆるキャン△』の背景美術を参考にしながら山々の実際の距離感なども崩さないよう注力しました。ポリゴン数はおよそ1万5,000ポリゴンほどです」(山田氏)
本栖湖編の夜シーンのライティング例
▲完成形
▲ライトマップのみを使用した状態
▲CookieテクスチャをDirectionalLightにアタッチすることでPointLightのような円形でぼんやりした光を疑似再現している様子
▲実際に使用されたCookieテクスチャ。黒の部分は本来透明だが、解説用にグレースケールにしている。「本作では全てのシーンでUnity標準のライトマップ機能によって光や影をベイクし描画負荷を削減しました。ただ、一度ベイクしてしまうとそれらの光と影は動かせなくなってしまうため、例えば焚き火シーンでは火によってプレイヤーの周りだけが浮かび上がり、火の光がゆらゆらと動くといったリアルな表現と暗闇の中でポツンと浮かび上がる幻想的な空間の表現をするために焚き火にPointLightを置き、Intensityのパラメータを上げ下げさせることによって焚き火周辺の光の明滅を再現しようとしました。ですが、スマホ版としても成り立たせる上では非常に負荷の制約が厳しく、リアルタイムのライトはDirectionalLightのみしか使うことができませんでした。そこで、DirectionalLightに放射ライトのような光と影のマスクをCookieテクスチャにアタッチすることで、PointLightを疑似的に再現できました」(山田氏)
食べ物のシズル感を高める
麓キャンプ場編の食事シーンに登場する「3種のロールキャベツ鍋」
▲食事イベント中にて、ロールキャベツにアレンジが加えられる。そのアレンジを行なった後のテクスチャ表示
▲Unity上での最終的な出力状態。「イベント中になでしこがロールキャベツに缶詰のトマトとオートミールを加えてアレンジするのでそのためのテクスチャ、メッシュも用意しました」(山田氏)
ブラッシュアップ作業の例