原作漫画、アニメ化、実写ドラマ化、そのいずれもが高い支持をあつめ、近年のキャンプブームを牽引し続ける『ゆるキャン△』がVRゲーム化。VR空間への没入と、原作の魅力を絶妙に両立させた開発の舞台裏にせまる。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 273(2021年5月号)からの転載となります。

TEXT_葛西 祝 / Hajime Kasai
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamda
©あfろ・芳文社/野外活動委員会 ©Gemdrops, Inc.

『ゆるキャン△ VIRTUAL CAMP ~本栖湖編~』配信中
『ゆるキャン△ VIRTUAL CAMP ~麓キャンプ場編~』配信中

ジャンル:バーチャルキャンプアドベンチャー
プラットフォーム:iOS / Android、PlayStation 4(PlayStation VR対応)、Nintendo Switch(VRゴーグルToy-Con対応)、Steam(Oculus Rift / HTC VIVE / Valve Index対応)、Oculus Quest
企画・開発・販売:ジェムドロップ株式会社
yurucamp-v.com

キャンプ特有の空気感をVRゲーム化

女の子たちがキャンプを楽しむ姿を描く漫画『ゆるキャン△』。アニメ化も話題を呼んだ本作がVRゲームになったのが、『ゆるキャン△ VIRTUAL CAMP』(以下、ゆるキャン△ VR)だ。今年3月4日(木)に『本栖湖編』がリリースされ、4月には『麓キャンプ場編』がリリース予定である。その開発からパブリッシングまでを手がけたのが、ジェムドロップだ。2年ほど前から企画がスタートし、最終的に今年1~3月に放送された『ゆるキャン△ SEASON2』放送に合わせてリリースすることが決まったと、ジェムドロップ代表取締役であり、本作のプロデューサーを務めた北尾雄一郎氏はふり返る。

左から、シニアアニメーター 黒瀬美樹氏、アートディレクター 増田幸紀氏、プロデューサー 北尾雄一郎氏、アーティスト 須田正広氏、プログラマー 福田裕士氏、アーティスト 山田恒輝氏。以上、ジェムドロップ
www.gemdrops.co.jp

ジェムドロップはこれまでに複数のVRゲームを開発してきたが、今回はiOSとAndroidというスマホのスペックでも成立させる必要があったため、相応の苦労が求められたという。「『ゆるキャン△』の3DCG化も本作が初めてのこと。しかもVRということで正直、ハードルも高くプレッシャーは凄かったですが、スタッフががんばってくれました」(北尾氏)。開発はスマホ版をベースにマルチプラットフォーム化するというながれで進められた。「頭の動きと連動するVRでは、酔いの軽減のため常に高いfpsを保つ必要があります。それをスマホのスペックでも成立させるためには様々な工夫が求められました」と、プログラマーの福田裕士氏。当初はスマホ版のみのリリース予定だったが、開発が進行するに従い、PS4、Switch、Steam、Oculus Questでもリリースすることが決まった。またグラフィックとしては、アニメ版のルックや映像表現が指針となったが、VR表現へといかにして翻訳するかもチャレンジとなった。24fpsかつカメラやレイアウトを創り手が指定できるアニメと、60fps以上が求められ見え方も基本的にはプレイヤーに委ねるVRゲームでは、自ずとつくり方や演出が変わってくることは想像に難くない。

<1>アニメと同じ印象を求めて~キャラクターモデル~

アニメ版のエッセンスを最大限に反映

『ゆるキャン△ VR』に登場するキャラクターは、各務原なでしこ(CV:花守ゆみり)と志摩リン(CV:東山奈央)のふたりだ。キャラクター制作をリードしたのが、アーティストの須田正広氏。モデリング等の3DワークにはMaya 2020を使用し、テクスチャリング等の2DワークはPhotoshopで行われた。まずは、アニメ1作目の設定等の資料を参考にベースモデルを作成。キャラクターをアニメの印象へと近づけていく過程では、原作者あfろ氏や、アニメーション制作のC-Stationにも見ていただきつつ、フィードバックを適宜反映していったという。あfろ氏からは、本作向けに新たな衣装デザインや、食事イベントに登録する料理の案なども提供してもらうことで、漫画やアニメ版のファンが見ても違和感のないデザインを実現させている。

アニメ調のルック開発には、「ユニティちゃんトゥーンシェーダー2.0(UTS2)」を採用。セル調のルックに定評のあるUTS2をベースにしつつ、使用しない機能は削除するなど適宜カスタマイズを施すことでVRゲームとしてのデータ制約にも対応させている。また、アニメ版の2Dキャラクターを3DCGモデルへと落とし込む上で気をつけたのが、キャラクターへの陰の入り方だった。アニメ版のキャラクターデザインには特有の陰の色や、陰の入り方があるため、3DCGモデルでの再現に力を入れたという。「普通に陰を入れてしまうとリアルすぎたり、アニメキャラとしては不要な陰がどうしても入ってしまいます。そこで、須田が綺麗なラインが入るように細かく調整してくれました」と、アートディレクターの増田幸紀氏が説明してくれた。

そして、『SEASON2』の放送が目前に迫ったタイミングで、シニアアニメーターの黒瀬美樹氏が合流し、キャラクター表現をVRゲームにも実装するためのさらなる調整が重ねられた。黒瀬氏は、1作目に加え放送中の『SEASON2』も参考にしつつキャラクターの表情を研究。手描きで表情をリストアップし、最終的なつくり込みに反映させた。自身も『ゆるキャン△』のファンだという黒瀬氏は、「原作らしさを込めるためにやれるだけのことをしたかった」と語る。そうした黒瀬氏の熱意と、須田氏を中心とするキャラクターチームの努力が結実することでキャラクターの完成度が着実に高められていった。

ポイントを絞って、つくり込む

▲『本栖湖編』用の志摩リンのモデル変遷。左からダミーモデル、仮モデル、仮モデル2。ダミーモデルは、デザイン設定が届く前に用いる試作段階のモデルであり髪型もお団子ヘアーだった。仮モデルは、デザイン設定を基に、アニメーターがモーション作業を進められるように骨格を決め、最低限の見た目と要素を入れたもの。そして、仮モデル2は、Unityでルックデヴ作業を行う段階のモデルである


完成モデル

▲本栖湖編のリン完成モデル(全身)

▲Unity上での最終ルック。シェーダ側で影やアウトラインや前髪がかかった目が透過する設定等が施されている

▲ブレンドシェイプ周りの情報。左が本栖湖編、右が麓キャンプ場編(プレイヤー視点)。「プレイヤー視点だと一部のイベント以外では基本自分の顔を見ることができない仕様のため、ブレンドシェイプの数を大幅に減らしました」(須田氏)

UTS2ベースのルックデヴ

質感調整の例

▲本作のキャラクターに共通で使われているテクスチャ情報。「Base Color」......ベースの色。肌や目、髪の毛などは原作アニメの色を使用。「Shade Color」......陰の色のテクスチャ。「Shade Position Map」......ライトの方向に関係なく常に陰を出す場所を指定するためのテクスチャ。「Outline」......輪郭の太さを指定するテクスチャ。「髪の毛先や顔、身体の関節部分ではアウトラインが意図通りに表示されない場合があるため、テクスチャで線の強弱や表示非表示を調整しています」(須田氏)

▲キャラクターに使われている主なシェーダの例。本作ではカスタマイズしたUTS2を使用、描画負荷を軽減するために使わない機能は削除された

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<2>キャンプ地のエンバイロンメント制作

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<2>キャンプ地のエンバイロンメント制作

実際のキャンプ地を再現しつつ容量とルックに対して最適化

キャンプ場をはじめ、実在する自然や観光地などのロケーションが丁寧に再現されていることも『ゆるキャン△』の大きな魅力であり、エンバイロンメント制作でもそうした姿勢がしっかりと継承されている。

エンバイロンメントとプロップ制作をリードしたのは、アーティストの山田恒輝氏。まずは実際にモデル地を訪問し、富士山などのランドマークとの位置関係などを確認。さらにRICOH THETA Z1にて360度写真を撮影し、それらをベースにエンバイロンメント制作が進められた。VRゲームとしてのリアリティを高める上では、テントをはじめとする様々なキャンプ道具についても実在するものは忠実に再現。実在しないプロップについては、アニメに寄せたデザインに仕上げることで実在感とアニメ版のエッセンスを巧みに組み合わせている。

言うまでもなく、エンバイロンメント制作でもスマホスペックへの対応が求められた。マップの描画負荷や容量が限られるため、現実のロケーションをベースにしつつもスケールや距離を意図的に誇張することで違和感を感じないように調整された。具体的には、プレイヤーの近くにあるテント等のモデルはリアルスケールで配置する一方、遠景にあるモデルはサイズを縮小し実際より近い距離の位置にし、シーン全体の描画する距離を狭くすることで負荷を軽減している。

『ゆるキャン△ VR』では昼、夕方、夜、夜明けの時間帯が設定され、実際のキャンプに行ったときのような雰囲気を味わうことができる。冬の設定のため、彩度を低めにした画づくりを意識することで、リアルな空気を生み出している。そうしたライティングのこだわりが特に伝わってくるのが夜シーンだ。都会の夜とちがって、キャンプ場は明かりが少なく、焚き火の明かりは自ずと存在感が高まる。当初はUnityのPointLightを使った焚き火の表現を検討したというが、負荷が大きいため断念。代わりにDirectionalLightの一部機能を使い、焚き火の周辺を明滅させることで光の表現が創り出された。さらにキャンプの醍醐味である食事シーンも随所に工夫が凝らされた。当初はキャラクターが手にするため、アニメ調のルック、ディテールで作成していたが、美味しそうな見た目を追求するために、料理のモデルにZBrushでスカルプトを施し、Substance Painterでよりリッチな質感が加えられた。

ロケハン写真から再現



  • ▲本栖湖のモデル地で撮影した360度写真(プライバシーに配慮し、モザイク処理を追加した状態)。これをベースに背景セットを作成していく



  • ▲【左画像】とゲーム内のテクスチャとして作成した状態の比較図



  • ▲麓キャンプ場のモデル地で撮影した360度写真(プライバシーに配慮し、モザイク処理を追加した状態)



  • ▲【左画像】とゲーム内のテクスチャとして作成した状態の比較図。「実際のキャンプ場モデル地に行き、ゲーム内のどのあたりで、なでしことリンがキャンプしているかを想像しながら写真を撮りました。撮影機材は、RICOH THETA Z1を使用しています。撮影したのは昨夏で、麓キャンプ場モデル地のロケハンでは悪天候に見舞われ山のシルエットが雲に隠れてしまい何度も撮影をくり返しました(苦笑)。また、ゲーム内の季節は冬という設定で、緑の木々や真っ青な空などをそのまま利用することはできないため、Photoshopでレタッチし、禿げた山々や枯れ色になった葉、雪のかかった富士山などの表現を施しました」(山田氏)

キャラクターのルックとの整合性

キャラクターが手に持つプロップのルック調整例

▲本栖湖編のローテーブル上にあるプロップ(コップに注目)



  • ▲NG例。テーブル上にあるコップと同じマテリアルのコップをキャラに持たせてしまうと質感のギャップが目立ってしまう



  • ▲OK例(最終的なルック)。コップに対して、キャラに合わせた陰を落とさない色味とアウトラインを付与するマテリアルに切り替えることでギャップが払拭された。「本作ではセル調で表現されるキャラクターに対してフラットなテクスチャではあるものの通常のシェーダを採用しています。ゲーム内では【上画像】のような近場のアセットを注視することでキャラクターがそれらの背景アセットに触れる瞬間が発生します。そのままの質感でキャラクターと触れると質感の差異に違和感を感じてしまうので、キャラクターが直接触れるようなアセットに対してはアウトラインを追加し、陰なども落とさないフラットなシェーダに切り替える処理を行いました」(山田氏)

情感豊かなシーンをスマホ版でも成立させる

▲本栖湖編の背景セット例。Maya上でのデフォルトのシェーティング(ワイヤーフレーム付き)の状態

▲Unity上での最終的な出力。「本作ではスマートフォンで描画することを想定しています。そのため描画負荷の関係で非常にディテールに制約がかかっており、木など植物系のアセットは板ポリゴンによる軽減が必要でしたが、『ゆるキャン△』の背景美術を参考にしながら山々の実際の距離感なども崩さないよう注力しました。ポリゴン数はおよそ1万5,000ポリゴンほどです」(山田氏)


本栖湖編の夜シーンのライティング例

▲完成形

▲ライトマップのみを使用した状態

▲CookieテクスチャをDirectionalLightにアタッチすることでPointLightのような円形でぼんやりした光を疑似再現している様子

▲実際に使用されたCookieテクスチャ。黒の部分は本来透明だが、解説用にグレースケールにしている。「本作では全てのシーンでUnity標準のライトマップ機能によって光や影をベイクし描画負荷を削減しました。ただ、一度ベイクしてしまうとそれらの光と影は動かせなくなってしまうため、例えば焚き火シーンでは火によってプレイヤーの周りだけが浮かび上がり、火の光がゆらゆらと動くといったリアルな表現と暗闇の中でポツンと浮かび上がる幻想的な空間の表現をするために焚き火にPointLightを置き、Intensityのパラメータを上げ下げさせることによって焚き火周辺の光の明滅を再現しようとしました。ですが、スマホ版としても成り立たせる上では非常に負荷の制約が厳しく、リアルタイムのライトはDirectionalLightのみしか使うことができませんでした。そこで、DirectionalLightに放射ライトのような光と影のマスクをCookieテクスチャにアタッチすることで、PointLightを疑似的に再現できました」(山田氏)

食べ物のシズル感を高める

麓キャンプ場編の食事シーンに登場する「3種のロールキャベツ鍋」



  • ▲Maya上のデフォルトのシェーディング(ワイヤーフレーム付き)



  • ▲同テクスチャ表示

▲食事イベント中にて、ロールキャベツにアレンジが加えられる。そのアレンジを行なった後のテクスチャ表示

▲Unity上での最終的な出力状態。「イベント中になでしこがロールキャベツに缶詰のトマトとオートミールを加えてアレンジするのでそのためのテクスチャ、メッシュも用意しました」(山田氏)


ブラッシュアップ作業の例



  • ▲ロールキャベツをローポリ状態でZBrushに書き出した状態



  • ▲【画像左】をZBrushでスカルプトしたハイポリモデル



  • ▲キャベツ部分のベースカラー(調整前)



  • ▲Substance Painterで【画像左】をテクスチャリング。曲率、厚みマップを使用し質感が高められた



  • ▲Substance Painterでベイクして出力した、曲率マップ



  • ▲同・厚みマップ。「食べ物には、Substance PainterやZBrushも使用しています。ロールキャベツの場合は、スープにしみこんで不定形になった形や色味を再現する上で役立ちました」(山田氏)

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<3>キャラクターに命を吹き込むモーションとエフェクト

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<3>キャラクターに命を吹き込むモーションとエフェクト

アニメ版で培われたノウハウを取り入れる

プレイヤーの目の前にいるリンやなでしことの会話などが楽しめるのがVRゲーム化の大きな魅力。生きたキャラクターとして仕上げるためには、特に『麓キャンプ場編』のなでしこは、300以上のモーションパターン(FBXファイル数で換算)が実装された。なお、『本栖湖編』のリンは約210だが、両キャラクターの性格のちがいに加えて『麓キャンプ場編』のなでしこは犬とのやり取りもあるのに対して、リンは座った状態の演技が中心なことに起因する。膨大なモーションを限られた容量でどう実装したのか? Unityのタイムライン機能を使い、モーションやフェイシャル、音などを制御できるようにプログラム拡張したと、福田氏は説明してくれた。さらにボイスに合わせたモーションの調整も行われている。『ゆるキャン△ VR』では、プレイヤーと登場キャラクターが会話を交わすプレイも特徴であり、一緒にキャンプを楽しんでいる気持ちを高めるしかけとして機能している。プレイヤーの選択した会話に対する受け答えのモーションが丁寧に付けられているわけだ。

エフェクト表現にも『ゆるキャン△』らしさが込められている。例えば食事のイベントでは、キャラクターが美味しそうな料理を見た(口にした)とき、顔の周りにキラキラエフェクトと呼ばれる表現が加えられた。

このように開発終盤に入ってもキャラクターの表情やアニメーション、ソフトシャドウの調整等のビジュアルの完成度が着実に高められていった。ブラッシュアップの最終的な目的は、プレイヤーが自然に没入できるようにすることだ。そこをゴールにスタッフは全神経を注いだ。黒瀬氏は出来上がった作品に対し、「プレイした人に可愛いなと和んでいただけたら嬉しいです」と語る。「大変でしたけど、マルチプラットフォーム開発を完遂できて良かったです」と、増田氏も続ける。スマホ版がベースゆえの、スペックの制限を工夫して乗りこえながら、様々なハードにて展開。広いプレイヤーに『ゆるキャン△ VR』を届けることに成功したのである。

VR表示でも破綻しないモーション

キャラクターモーションの作業例

▲キャラクターと小物や犬が同時再生したり接触するモーションが多かったため、Mayaの1シーン内にUnity上の配置関係に近い状態を再現した上でモーション付けを行い、個別にモーションデータを書き出した

▲Mayaによるモーション作業の一部抜粋(上段が本栖湖編、下段が麓キャンプ場編)。「なでしこが犬に追われる場面は、Mayaでパスアニメーションさせたものを出力しています。リンが犬を撫でる場面は、VR的にも腕が 視界を妨げすぎない位置を撫でさせて もらっています」(黒瀬氏)

▲ボディリグ(左側が本栖湖編、右側が麓キャンプ場編)。同じキャラクター間でのモーションの流用が少なく、素体数も少なかったことから、比較的シンプルなものになっている


フェイシャルアニメーション作業の例

▲フェイシャルの大半はUnityで付けられている。「顔の部位ごとのパターンをClipで用意し、Timelineに配置してタイミングやブレンドを細かく調整することでアニメーションさせています」(黒瀬氏)

▲食事中など、ボイス・モーション・フェイシャルを細かく合わせる必要のある演技についてはMaya内でフェイシャルも一緒に作成してUnityに出力された

開発終盤までブラッシュアップを重ねる

▲黒瀬氏が描いた表情等のブラッシュアップ案のスケッチ。「残り約3ヶ月という、開発の後期に参加しました。タイミング的に、方向性を整えつつ仕上げていく必要があったので"場面やセリフに合う表情の把握強化""リップシンクの方向性の検討""原作により似せるための相談"、などの判断材料にとアニメ版から印象に残った表情を描き出したものになります」。このスケッチを基に、Unity内で再現テストを実施。スタッフ間で方向性をすり合わせたり、ブレンドシェイプ調整の相談が行われた。スケッチとして具体化することで、作業中にイメージがブレた際のリセットにも役立ったそうだ

▲【スケッチ】を基にUnityで再現テストを行なったもの。「リンについてはキャラクターに合う見た目のパターンは出揃っており、フェイシャル作業も進められていましたが、デフォルメの表情がなかったため和んでゆるめな雰囲気の目の追加をお願いしたり、少し愛想が良すぎる印象になっていたので、ボイスに合わせつつ"なでしこ相手にデレすぎず、でも向き合ってみて冷たく感じない"という印象に整えていきました」(黒瀬氏)。一方のなでしこは、リンに比べると形状の変化幅が極端で表情パターンも多く、見た目を破綻させずに印象も散らからないよう方向性の収拾をつける必要があったという。そこでテストした中からキャラクター性を強く感じる表情に絞って全体を安定させつつ、ところどころアクセントになる表情を加えるという要領でバランスが整えられた

アニメ版のエッセンスが込められたエフェクト



  • ▲麓キャンプ場編の焚き火エフェクト。アニメ版の焚き火表現の特徴がしっかりと込められている



  • ▲【画像左】の作業UI。Unityのパーティクルシステムを使用


スタッフ間で「キラキラエフェクト」と呼ばれたアニメ版に見られる表情エフェクトを再現したもの

▲本栖湖編のリンに出るキラキラエフェクト

▲麓キャンプ場編のなでしこに出るキラキラエフェクト。ビルボードであることがわかるようにカメラビューをアオリにしている

▲キラキラエフェクト作業UI。「キラキラエフェクトにもShurikenのパーティクルを使用しています。VR空間では様々な角度から見られるためビルボード設定をONにしつつ、ParticleSystemのRenderタブにあるAllow Rollのチェックを外してプレイヤーカメラと一緒にエフェクトがロール回転してしまわないように設定することで、アニメ版のキラキラを再現しています」(山田氏)


ポストエフェクトの例

▲ポストエフェクトOFF

▲ポストエフェクトON。「本作ではSteam版のみポストプロセスを適用しています。UnityのPost-Process VolumeのBloomとColorGradingを主に使用しました」(増田氏)。図は、麓キャンプ場編のラストシーンである朝日が昇るシーンから日の出後のもの。ポストエフェクトによって、空気感が効果的に高められた



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.273(2021年5月号)
    特集:「グラブルフェス Special Character Live」その進化をたどる

    定価:1,540円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:112
    発売日:2021年4月9日