質感のちがいやハイライトを強調し、性能とイメージを伝えるメカの画づくり
メカはエンジンやサスペンションなどの走行パーツ、安全装備などのクルマの内部構造を表現した画で、その性能をわかりやすく訴求するためにつくられる。例えば「環境性能と走行性能を追求したハイブリッドシステム」という訴求ポイントにフォーカスしたい場合は、エンジンと電動モーターの優れた形状や素材、性能がわかりやすく伝わる画をつくる。訴求ポイントを強調するためにドラマチックな構図にすることもある。メカの画の構図は、定型と呼べるようなものがなく、外装や内装よりも自由度が高い。実際、車両カタログには、創意工夫を凝らした画が並んでいる。
本来であれば見えない内部構造を表現する上で、CGは最適な手段と言えるだろう。CGであれば、パーツを空中に浮かせる、外装を透過して内部を見せる、パーツを切断して断面を見せるといったことも可能だ。
前述の内装と同じく、メカのCGも3ds MaxとV-Rayで制作している。メカのマテリアルの種類は内装より少なく、忠実に再現すると、クランクシャフトやピストンなどの鋳物(いもの)と、ボルトやビスのちがいがわかりにくい。プラスチックとラバーのちがいも同様だ。そのため、パーツ単位でマテリアルを分け、実物よりも質感やハイライトを強調することが多いという。なお、メカは汚しを入れるとリアリティが増すが、顧客に対する訴求力を高められるわけではないため、新品の状態が表現される。メカの場合は色や仕様のちがいがなく、画の点数が少ないため、コンポジットにはPhotoshopが用いられる。この段階でも前述の質感やハイライトの調整がくり返され、特にハイライトの入り具合には神経を使っているという。
▲レーザースクリューウェルディング(LSW)と呼ばれるボディ剛性を高める溶接技術を伝える画。【上】は加工前、【下】は加工後。【下】では質感を調整し、適用部位を強調している
▲3ds Maxの作業画面。ツインターボエンジンのマテリアルを設定している。【上】はシルバーの金属、【下】は黒のプラスチックの質感を調整している
▲ツインターボエンジンの完成画像。鋳物、ボルト、プラスチック、ラバーなどの質感のちがいが強調され、ハイライトによって立体感が増している
▲外装を透過し、ハイブリッドシステムの性能とイメージを伝える画
クルマの購入・試乗体験ができる、VR・ARコンテンツの開発
さらに近年は、VR・ARを活用したビジュアライゼーションにも力を入れている。2019年の社内内けイベントでは、LEXUSのあるライフスタイルやラグジュアリーなイメージを、VRを用いて伝えた。参加者の評判は上々で、確かな手応えを感じたとのことだ。その後、関係者向けイベントでのARの使用も企画され、今後の展開を念頭に置いたVR・ARコンテンツの開発が続けられているという。なお、開発には主にUnreal Engineを用いているとのこと。
VR・ARは、ディーラーの店舗などの限られたスペースで、様々な車種の色と仕様を確認したり、購入・試乗体験をしたりするのに有効だ。特に、ARはヘッドマウントディスプレイなどの特殊なデバイスを必要としないため、国外の販売拠点ではかなり普及しつつあるという。VR・ARは多くの可能性を秘めた分野なので、今後のさらなる発展に期待したい。
▲ARコンテンツを制作中のUnreal Engineの作業画面。VREDによる外装の画づくりと同様、マテリアルの再現にこだわっている
▲ARコンテンツを実行中の画面。スマホのカメラで撮影した実写とCGのクルマを合成した映像をリアルタイムに生成しており、実物大のクルマを任意の方向から眺めたり、内装を覗き込んだり、色や仕様を変更したりできる。VR・ARは、ゲーム感覚で顧客にクルマの購入・試乗体験をしてもらう手段として注目されており、国内外で導入が進んでいる
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