>   >  3Dレイアウトをフル活用した劇場オリジナルアニメーション『サイダーのように言葉が湧き上がる』
3Dレイアウトをフル活用した劇場オリジナルアニメーション『サイダーのように言葉が湧き上がる』

3Dレイアウトをフル活用した劇場オリジナルアニメーション『サイダーのように言葉が湧き上がる』

<2>物語の舞台設定を3DCGを使ったダイナミックなカメラワークで提示する

作品冒頭に登場する、田んぼの上空からショッピングモールまでを空撮するようなショットは、舞台となる場所の地理的状況や文化、季節までをワンカットで説明し、物語に引き込んでいくという見事なショットだ。「このショットは稲の表現がすごく上手くいきましたね。ダイナミックなカメラの動きに応じて、稲のディテールがはっきり見えてくるというような稲の見え方が変化していくショットなので、とても難しいと思ったのですが最終的に上手くつながりました」とイシグロ監督。「カメラが上空にあるときにはディテールを潰さないといけないし、カメラが寄ったときには稲のディテールを見せなきゃいけないということで、どうしようかと。監督といろいろ相談しましたね。まずは、カメラワークを決めてしまって、そこから稲のディテールの見せ方を考えていきました」と塚本氏は話す。結果的にこのショットでは、最初は美術スタッフに上空から見た1枚の美術素材を作成してもらい、それをテクスチャとしてマッピングし、カメラが地上に近づいた速いカメラワークに合わせてディテールのある稲のモデルにオーバーラップさせて切り替えているという。

オープニングの美術ボード

3DCGのアニメーション作業に入る前に、美術側から提示された美術ボードだ。80年代に流行ったイラストのようなアメリカンポップ風の色調が強調されたイメージになっている。あえてアンビエントオクルージョンのような陰影を使わず、雲の影などのシルエットで陰影が表現されている

▲オープニング冒頭の田んぼと幹線道路の俯瞰

▲人目線の高さでショッピングモールを捉えたオープニングの最後の部分

ダイナミックなカメラワーク

オープニングのショットを作成するにあたり、まずはカメラワークから詰めていったという。稲のモデルやテクスチャのディテールを途中で切り替える必要があったため、監督と意見を交換しながら、何度も試行錯誤しつつカメラワークが作成されている

▲【左】ラフモデルを使って作成したカメラワーク、【右】最終的な完成カット

▲LightWaveでカメラワークを付けている作業画面。カメラワークが単調にならず、ダイナミックな動きになるように、田んぼの並ぶ方向なども計算されている

自然な稲の描写

「稲の動きがとても上手くいった」とイシグロ監督が言うように、オープニングに登場する稲の表現は非常に自然で気持ちの良い画になっている。オープニング冒頭の俯瞰では、美術が描いた水彩風の稲のディテールを落とした田んぼの素材を、区画ごとに色味を変えて配置しており、カメラがスピードアップするところで、稲のテクスチャをマッピングした板ポリゴンをインスタンスで配置したシーンモデルに上手く切り替えている。稲のテクスチャにバリエーションをもたせることで、より自然に見せているという



  • ▲美術が作成した田んぼのテクスチャ素材



  • ▲板ポリゴンに貼り込むための稲のテクスチャ

▲オープニングのシーンの状態。自然に見せるため稲用の板ポリゴンが場所によって密度を変えて配置されているのがわかる

<3>スマートフォンで撮影された360度パン映像を3DCG的な手法で効率良く制作

3DCGを利用した特徴あるつくり方になっているのが、スマイルがショッピングモールで、スマートフォンを使って動画配信するときの画面表現である。スマートフォンをパンさせ自撮りしているため、3DCGの背景に合わせたキャラクターの作画が難しいカットだ。「このカットは非常に複雑な撮影になりそうだったので、参考用のコンポジションを作成して撮影のスタッフに指示しました。3DCGでカメラワークを決めてもらって、3Dレイアウトとして連番ファイルで出力して、その連番ファイルに合わせてTVPaint Animationを使って作画してもらうというながれになっています。キャラクターはカメラを横切っている人もいれば、ベンチに座っている人もいる。これらのキャラクターの作画は、2D的な知識しかないと単純に送りで作画してしまうと思うのですが、3DCG的に考えれば作画したキャラクターを板ポリゴンにマッピングすれば効率良く複雑なショットも制作できます。自分の3DCGの知識がとても役に立ったショットのひとつでした」とイシグロ監督。これまで3DCGを利用した作品を多く手がけてきた監督ならではの手法と言えるだろう。

LightWaveでカメラワークを設定する

まずは、制作に先立ってLightWaveを使ってカメラワークが作成されている。スマイルが自撮りをしながら回転しているため、背景だけが回転しているというショットになっている

▲カメラワークをLightWaveで設定している作業画面

▲キャラクターの作画参考に出力された3Dレイアウト。人物は全て作画に置き換えられる。中央の赤い枠は自撮りのスマイルが入る範囲だ

カメラマップ用のガイドを出力する

▲カメラワークが決まったところで、図のようなカメラマップ用素材を美術が作画するためのガイドが出力される。美術はこのガイドに対して、ショップ名やガラスの反射などを貼り込んでガメラマップ用の背景素材を作成していく。図は抜き出した画像の一部だ。実際には膨大な数の素材が出力される

カメラマップ素材

▲図は出力された3Dレイアウトをベースに美術が作成したカメラマップ素材だ。ショップ名やガラスの反射、壁の陰影などが描き込まれている。この素材をカメラマップに使用して360度回転する背景動画が作成される

カメラマップ素材を貼り込む

▲作成されたカメラマップの素材を貼り込むと【上の3画像】のようになる。このようなカメラの動きを作画で行うと非常にコストがかかる作業になるが、3DCG背景を使用することで効率良くカットを作成できるという。ただしこのカットでは作画やコンポジションの指示が非常に細かくなり、タイムシートでは理解しにくい部分もあるため、監督が仮コンポを組んで指示している

▲TVPaint Animationを使ったデジタル作画の作業画面。TVPaint Animationはプレビューしながら作画することができるため、このようなタイミングを見ながら作画するには非常に優れたツールだという

次ページ:
<4>割れたピクチャーレコード盤を3DCGを使って効率良く&効果的に表現

特集