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3Dレイアウトをフル活用した劇場オリジナルアニメーション『サイダーのように言葉が湧き上がる』

3Dレイアウトをフル活用した劇場オリジナルアニメーション『サイダーのように言葉が湧き上がる』

<4>割れたピクチャーレコード盤を3DCGを使って効率良く&効果的に表現

本作では、背景を中心に3DCGが利用されているが、そのほかにも様々なカットで3DCGが利用されている。例えばこの割れたピクチャーレコード盤を接着しようとしているショットだ。作画であれば割れたレコードに絵を貼り込んでいくという作業になるが、作業効率を考えたときに割れたレコード盤、レコード盤を持つ手、接着剤を全て3DCGで処理したほうが良い結果が出るだろうと考え、ほぼ3DCGで作成されたカットとなった。この一連のシーンに登場する割れたレコード盤は、イシグロ監督がBlenderを使ってモデリングしたモデルデータを基に、加工修正を施して使用されている。3DCGに造詣が深く、作画と3DCGを自在にコントロールするイシグロ監督だが、作画と3DCGについて「一番のちがいは影の付け方だと思っています。作画はカットごとにモデリングしているようなものなのです。3DCGよりも影の表現をそのショットに最適化した状態でコントロールして描くことができます。3DCGでも影の付け方をもっとショットごとにコントロールできるようになると、画的にかなり変わってくるだろうと思います」とイシグロ監督は話す。

ピクチャーレコードを3Dモデルで作成する

LightWaveで作成されたピクチャーレコードのモデル。割れ方や模様の位置を、複数のカットで正確に合わせないといけないような場合は、作画よりも3DCGで作成した方が管理が楽だ。レコード盤の割れ方は、イシグロ監督がBlenderでダミーを作成し、そのデータを基に作成されている



  • ▲LightWaveでのレコード盤のモデリング作業画面



  • ▲作中カットで繋ぎ合わされた状態になったレコード盤

キャラクターの手も3Dモデルで作成

このカットはレコード盤だけではなく、キャラクターの手なども3Dモデルが使用されており、ほぼ3DCGで出来上がっている。作画に比べて3DCGでは影の付け方が難しいため、影やハイライト位置の参考画像を作成し、最終的にはAfter Effectsで影の調整を行なっている



  • ▲LightWaveで作成した手のモデル。手に持った接着剤も3Dモデルで作成されている



  • ▲影付けの参考用の画像。赤いラインがハイライト、水色の部分が影の部分だ



  • ▲影を修正する前の状態。右手など、作画的にあまり見映えの良くない位置に影が入っている



  • ▲修正参考を基にAfter Effectsで影を修正した状態

監督自らレコード盤の割れ方をモデリング

▲イシグロ監督は自らBlenderでCG制作ができるため、レコード盤の割れ方や絵の入り方なども、実際にモデルを作成してスタッフに指示している。図はイシグロ監督がBlenderで作成したレコード盤のモデルだ。古くなったレコード盤の歪みなども細かくモデリングされている。「Blenderを覚えようと思ったのは、実際に3DCGの作業をするのはスタッフなのですが、彼らと同じ共通言語を身につけたかったからです。2Dも3Dも深く理解することで、作品制作を俯瞰で見ることができるようになりました」(イシグロ監督)

<5>3Dレイアウトを積極的に利用して物量の多い背景美術を事故なく制作していく

3Dレイアウトを使用する利点としてフジヤマ・レコードの店内と、主人公チェリーがバイトしているショッピングモール内のデイサービス「陽だまり」の内装を例に紹介したい。フジヤマ・レコードの店内は、物語の進行に合わせて店内の状態が変化していくが、これを作画だけで管理するのは至難の業だとイシグロ監督は言う。3DCGでシーンの香盤を管理できることで、気楽に物が減っていくというような演出を行えたという。このような使い方ができるところに、3Dレイアウトを組んでいる意味があると話す。また、「陽だまり」の内装のように、掛け軸や絵が壁に掛かっているような場合、それらを美術側で描くのではなく、3DCGのモデルにマッピングしてしまうことで、香盤的な間違いや作業の手間を省くことができるという。本作の3Dレイアウト作成ではラインを別出しし、塗り面に対してなるべく色が被らないようにしながら単色をマッピングして、美術側でスポイトしやすいように工夫されているため、マスクを別出しする必要がないのだという。大きな作品をつくる上で、このような制作上の枠組づくりが非常に大切だとイシグロ監督は語る。

3DCGでシーンの香盤を管理(フジヤマ・レコードの店内)

物語の進行に応じて状況が変化するような舞台では、その舞台の状態を記録した香盤表がとても大切になってくる。3DCGで舞台を作成しておくと、その香盤の管理が非常にしやすいという。このフジヤマ・レコードの店内では、レコードも細かくモデリングし配置され、演出に合わせて管理しやすくなっている

▲フジヤマ・レコードの室内モデル。全てのレコードや機材が配置された状態になっている

▲3Dレイアウトの例



  • ▲初期の状態



  • ▲中盤の状態

▲終盤、店内が全て片づけられた状態

テクスチャで貼り込みミスを回避する(「陽だまり」の内装)

デイサービス「陽だまり」の壁には、利用者が作成した掛け軸や絵画がところ狭しと飾られている。このような背景では、美術による貼り込みミスや作業効率を考え、3Dレイアウトを出力する時点で、テクスチャを使って掛け軸や絵画をマッピングしている



  • ▲「陽だまり」内装のモデルデータ。多くの絵などが壁にマッピングされているのがわかる



  • ▲LightWaveによるカットの3Dレイアウト作業画面

▲出力された3Dレイアウト

▲美術によってリペイントされた完成カット



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