■色トレス線を消す工程
一般的な仕上げ作業は色トレス線を塗りつぶすことで消しているが、TBHは主線と塗りのレイヤーを分けているので、色トレス線を表示しない設定にすることで消すことができる。なお、パスデータ自体は残っているため、復元することも可能だ。マダム・ピカチュウの陰色トレス線を消す工程を見てみよう。
■TOPIC 3:デジタルの可能性
アナログの限界を超えた先にあるもの
デジタル作画が進むとどうなるのだろうか?「ノウハウとプラグインが充実すると、ひとりの天才が作品を1本全部つくることが可能になるかもしれません。演出も作画もできる人がそろえば、コストパフォーマンスの高いTVシリーズを量産できるかもしれないですね」と加藤氏。なかなか夢のある話だ。作画のデジタル化に着手したのは好奇心もあるそうだが"世界的にシェアの高いToom Boom製品を使う"ことと、手で描くことは変えずに"今後4Kや8Kに関する技術進歩が進む中でどう対応していくか探る"という理由があるという。「鉛筆の線はいずれ解像度的な限界がやってくるでしょう。その日のために今からデジタル化を進める必要があります」(加藤氏)。
また、デジタル化によって表現の幅が広がり、アニメーターとしての寿命が延びる可能性もある。「歳を重ねると老眼や筋力低下になって線を引けなくなることもありますが、デジタル作画なら拡大縮小も補正もできます。現在の制作スタイルは東京一極集中のため、実家や地元へ帰るとアニメーションの仕事はほぼなく、アニメーターを引退せざるを得ません。しかしデジタルなら離れた地域でも仕事ができます。会社としては育てた人材が離れてもその地で仕事を続けられるのは嬉しいものです」(室岡氏)。今後デジタル化が推し進められれば、アニメーターの間口も広がっていくのかもしれない。「まだ始まったばかりですが、若手を中心にデジタル作画をやりたいという声も挙がってきています。来年以降は、新卒の積極的な採用もしていきたいですね」(加藤氏)。デジタル化への移行には積極的なようだ。
最後に「デジタルらしい映像とか演出技法で描いた作品を子どもたちに届けたいですね。デジタル作画の表現は既存の作品と同じところまで来ましたが、そこからさらに先に進みたい。3Dとの親和性などを含めて今後の発展に興味があります」と加藤氏は締めくくってくれた。50数年の歴史をもつ日本のアニメーションは今、セルからデジタルへの革新に匹敵する変化のときを迎えているのではないだろうか。
TEXT_草皆健太郎 / Kentaro Ksakai(Z-FLAG)
EDIT_斉藤美絵 / Mie Saito(CGWORLD)
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【Information】
『ポケットモンスターXY&Z』
毎週木曜よる7時からテレビ東京系列にて放送中
総監督:湯山邦彦 監督:矢嶋哲生
アニメーション制作:OLM
www.tv-tokyo.co.jp
©Nintendo・Creatures・GAME FREAK・TV Tokyo・ShoPro・JR Kikaku ©Pokémon
対象話数は2016年1月28日OA予定
【Staff】
オジング氏(オー・エル・エム/演出)、室岡辰一氏(オー・エル・エム/動画検査)、加藤浩幸氏(オー・エル・エム/アニメーションプロデューサー)、小川智樹氏(オー・エル・エム/原画)、四倉達夫氏(オー・エル・エム・デジタル/R&Dリード)
【会社概要】
株式会社オー・エル・エム
olm.co.jp
デジタル作画スタッフ:6名(2015年11月現在)
デジタル作画導入時期:2015年4月
代表作にはアニメ『ポケットモンスター』シリーズ、
『妖怪ウォッチ』などがある。現在人材募集中!
olm.co.jp/recruit/
【機材情報】
■PC
DELL Precision T1700
CPU:Intel Xeon Processor E3-1241 v3
メモリ:16GB
GPU:NVIDIA Quadro K620
■タブレット
Wacom Cintiq 13HD
■ソフトウェア
Toon Boom Storyboard Pro 4.2
Toon Boom Harmony 11.2
【Information】
Toon Boom製品お問い合わせ先
ダイキン工業(株)電子システム事業部 営業部 MCグループ
電話:03-6716-0477
e-mail:info-dc.comtec@daikin.co.jp