作画キャラとCGオブジェクトのマッチング
第1話のクライマックスに登場する、太陽系を模した巨大な機械仕掛けの時計台のようなオブジェクトが設置された"太陽系儀の間"。複雑なモーションかつ、規則的なデザインが求められるため太陽系儀はフルCGで作成されたが、回転する柱の上をヒロイン達が走り回るというアクションは一部を除き、大半が作画によって描かれている。つまり、作画キャラと柱CGのモーションのパースや接地に寸分違わずに合わせる必要があったわけだが、両者が絶妙に調和した見事な仕上がりだ。その制作手順は、まず作画のラフ原画のタイミングに合わせて柱CGのモーションを作り、静止画連番として書き出す。その連番をガイドに作画スタッフが接地ズレが生じないように本番の作画を行なっていくという流れである。作画を2回に分けて行う必要があるもの、作画班と3D班が密にやり取りを行うことで確実にブラッシュアップできるわけだ。
#270を例に、太陽系儀(CG)とキャラクター(作画)双方のアニメーション制作手順を解説したもの。上述したように、最初にラフ原画を描き、そのタイミングに合わせて太陽系儀のCGアニメーションを付けていく。太陽系儀の動きがFIXしたら連番素材を書き出し、それをアタリとしてCGとズレが発生しないようにキャラクターの動きが作画された
複雑なギミックと豊かな表情を持つルック
複雑な動きをする太陽系儀だが、そのアニメーションはエクスプレッションで制御するのではなく、敢えて手付けで行われた。「手付けで仕上げた理由は、作画のキャラクターが太陽系儀に乗ることが多く、カットごとに回転のスタート位置やスピードを細かく調整する必要があったからです。アニメは見た目の印象が全てなので、積極的に色々なツールを試すようにしていますが、最終的な調整は手付けで行えるようにしています」(井野元氏)。
太陽系儀のモデル全身(上)と根元の歯車ヨリ(下)。「ザワン・シン」と同様に細密なモデリングが施されていることが判る
太陽系儀周辺の足場ワイヤーフレーム
フルCGで作られた太陽系儀。「ザワン・シン」に対して、こちらは一種のメカ描写であり、CGとの相性は比較的良いと思われるが、そうした機械の質感表現であっても細かな配慮が随所に施されている。「CGの質感は、事前に上がってきた美術さんが描いた『太陽系儀の間ボード』と大きくズレないように仕上げていきます。このシーンの背景は、CGと美術班による背景が複雑に切り替わったり混在したりするため、両者の差が大きすぎると観客の意識が冷めてしまうからです」(井野元氏)。CGと作画の馴染みを向上させる上では、美術班が描いた背景画を切り分けカメラマップする、カットによってはオレンジの方で撮影の仮組みまでAEで行なっておくといった対応をしているそうだ。
太陽系儀のモデルとダミーを重ねた状態(上)と、回転アニメーション用のダミーモデルだけを表示させた状態(下)。太陽系儀の回転アニメーションは基点にダミーを配置し、それを回転させることによって表現。作画キャラクターが上に乗るカットが大分め、カットごとに速度やタイミングを調整しやすいように敢えてエクスプレッションは用いていない
太陽系儀のレンダーパス。左上から順に(1)カラー、(2)ヘアライン(金属質感を強調する白いスジ)、(3)陰影用のグラデーション、(4)アンビデント・オクルージョン、(5)特効処理の素材、(6)太陽の形状となる球体、(7)太陽の光源、(8)ステンドグラスからの光の回り込み素材、(9)Pencil+ 2.6で生成したライン、(10)全てのパスを重ね合わせた状態
太陽系儀のショットブレイク。左上から順に、<1>作画レイアウトを元にMax上で3DCGカメラの位置を決めた状態(この段階では背景もCGモデルも全て仮)、<2>太陽系儀のアニメーションがFIXしたら、本番素材に差し替えていく。まず、太陽系儀の下地となる素材には、PhotoshopとAEで加工したテクスチャ素材を貼り込む、<3>太陽系儀の下地にライン素材を追加、<4>下地の素材には陰影がなく質感もないためため、陰影素材・特効素材を追加、<5>金属としての質感を出すため、ヘアライン(白スジ)の素材を追加、<6>ステンドグラスから差し込む光の回り込みを表現する素材を追加、<7>太陽部分のグロー処理、人魂素材を追加、<8>BGを本番用の背景素材に差し替えて完成
作業の効率化、作画では不可能な表現の追求という両面において、アニメ業界におけるCGの活用は今後さらに増えていくだろう。しかし、それはCGが作画に取って代わるということでは決してない。日本のアニメ業界が長い年月をかけて積み上げてきた、その独特な表現をCGで描く上では作画のノウハウをないがしろにできないからだ。「最大の課題は、"CGっぽさ"をいかに効果的に制御していくかですね」(井野元氏)。「続く第2話、第3話では100体以上のキャラクターが織り成す戦闘描写があるのですが、同等の表現を作画で描こうとした場合、制作規模にもよりますが2ヶ月で2秒ぐらいが限界でしょう。ですが、CGをはじめとするデジタル技法を活用することで、それが可能になる。井野元さんには、ついつい難しい表現をお願いしてしまうのですが(苦笑)、いつも期待以上の表現に仕上げてくれるので感謝しています。CGがさらに作画と馴染んでいくことで、より効果的に観客を作品世界へと誘うことができるので今後も積極的に活用していきたいですね」(橘監督)。一見ではCGと作画が判別できない、高い次元で両者が融和している『Quantamu』のアニメーション。ぜひ劇場で確認してもらえればと思う。
第1話本編に登場する「太陽系儀の間」カット例(#253、#254)。作画と自然にマッチしつつ、3DCG特有の細かなディテールも兼ね備えていることが判る
TEXT_宮田悠輔
PHOTO_大沼洋平
『.hack//Quantum』全3話
「ANIME FES. "VS"」にて順次上映スタート!
バンダイビジュアル新作OVAを一挙上映する劇場上映イベント「ANIME FES. "VS"」にて、『.hack//Quantum』全3話が順次公開されます。ぜひ劇場でいち早くご覧ください!(詳細は公式サイトを参照)
[第1話]11月27日〜
[第2話]12月25日〜
[第3話]1月22日〜
「ANIME FES. "VS"」公式サイト
Blu-ray&DVD 第1巻
2011年1月28日発売!
販売元:バンダイビジュアル
価格:5,040円(Blu-ray)、3,990円(DVD)
発売日:2011年1月28日 ※第2巻:2月25日、第3巻:3月25日
原作:.hack Conglemerate
監督:橘 正紀
脚本:浜崎達也
キャラクター原案:貞本義行、細川誠一郎、喜久屋めがね
キャラクターデザイン・総作画監督:長谷部敦志
クリーチャーデザイン:安藤賢司
メカニカルデザイン:高倉武史
撮影監督:木村俊也
3D監督:井野元英二
アニメーション制作:キネマシトラス
『.hack//Quantum』公式サイト
『.hack//Quantum』メインスタッフ
右から順に
監督・橘 正紀氏(キネマシトラス)
デジタル動画/原画・まじろ氏(フリー)
3D監督・井野元英二氏(オレンジ)
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オレンジでは現在、大型案件本格始動開始につき 3DCG デザイナーを幅広く募集中です。詳しくは求人コーナー【JOB】をご覧ください!
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