Case 1:Storm Studios
トロールのデザインからコンポジットまで一貫した制作体制で、ドキュメンタリーならではの映像を巧みに演出
マネージング・ディレクターの Kristin Hellebust 氏が率いる Storm Studios は 1996 年に設立された VFXスタジオ、扱うプロジェクトは CM から映画まで幅広い。VFX スーパーバイザー オットー・ソービョルンセ/Otto Thorbjornsen 氏によれば、本プロジェクトにて Storm Studios はごく短期間で 20 の VFX ショットを本作で手がけたとのこと。その中にはトロールのデザイン、モデリング、キャラクター・アニメーション、コンポジットと VFX を完成させるまでの全作業が含まれていたという。さらに当時は別プロジェクトも同時並行で進んでいたためチームのメンバーは適宜入れ替わりながら、最終的に総勢 21名のアーティストが携わったそうだ。
そうしたタイトな条件下で難易度の高い VFX を仕上げるべく、今までの古いパイプラインを見直し、モデリング、アニメーション、コンポジット等の各セクションが、Autodesk Maya 、Houdini 、そして、3Dコンポジットのアドバンテージを持つ NUKE といった作業内容ごとに最適なツールを使い分ける形で、各作業を同時平行で行えるように再構築したという。これにより、従来はモデリング待ち、ライティング待ち、といった具合に前工程が仕上がるまで次の作業に入れない結果、終盤にコンポジターが忙しく働くという典型的な前時代的なワークフローの弊害を解消でき、モデルやアニメーションのデータがアップデートされても、コンポジターは常に作業を継続することができたそうだ。

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Storm Studios が手がけた山トロール 「マウンテンキング」 のシークエンス(劇中後半に登場)より
Storm Studios が担当したショットは、「ナイトショット」(暗視撮影) のものが多く、撮影されたプレート(実写素材)もナイトショットであった。ドキュメンタリーの体裁で描かれた本作では、ズーム可変レンズによるヨリヒキや、手持ちよる画面ブレ、さらにナイトショット等の特殊レンズによって生じるディストーション(画面の歪み)などを考慮する必要があったため、トラッキング作業は非常に困難を極めた。トラッキングツールだけでは追い切れないため、最終的には手付けでトラッキングも行なっているとのこと。
ただし、このようなシーンでは CG 上で十分な光源を当てることができないため、「今思うと、通常通りに撮影して、コンポジットでナイトショットに加工させた方が効率的だったかもしれないね(苦笑)」と、ソービョルンセ氏はふり返っていた。
本作で新たに導入されたパイプラインでは、Maya などを使いデジタル・アーティストが作成した各種アセットは、最終的に Houdini へと集約。そこでパーティクル等のエフェクトを追加した後に、MantraとRenderMan でレンダリングされた。また、トッサーランドが森の木をかき分けて登場する序盤のシーンでは、揺れる木々のアニメーションを Houdini のL-system を用いて作成するといった具合に、Storm Studios では Houdini の非常にフレキシブルなノードネットワークを用いてプロシージャルなアニメーション制作を行なっているそうだ。
Troll Hunter - Trees sim from Magnus Pettersson on Vimeo.
序盤に登場する木を掻き分けて登場するトッサーランドのアニメーションでは、湯揺れる木々の表現に、Houdini の[Lsystem]が用いられた
今回の VFX 制作で最も難しかった表現を質問をしてみたところ、「トッサーランドが石化するエフェクトだね。すごく大変だったよ」という答えが返ってきた。
The Troll Hunter - VFX Breakdowns from Storm Studios on Vimeo
Storm Studios によるメイキング動画。中程に、「最も苦労した」ソービョルンセ VFX スープが語る石化エフェクトが登場する
本プロジェクトにて新たに NUKE を導入した Storm Studios 。それまでは Shake を用いていたそうだが、使い始めた当初から NUKE の 3D 機能にとても自由を感じたという。「何年も Maya のプロジェクション機能を用いてきたけど、NUKE ではそれがとてもフレキシブルに利用できるため、今となってはもう手放せない」(ソービョルンセ氏)。