Case 2:Superrune
シンプルなワークフローを構築して、たった 2 人で作りきる
本プロジェクトに参加した VFX スタジオ Superrune 、実は ルネ・スパーンズ/Rune Spaans 氏の個人屋号である。ただし、今回は難易度が高いこともあり、アトレ・ブラクセス/Atle Blakseth 氏がキャラクター・アニメーションを手伝っているとのこと。いわば、制作可能な "最小構成" で『トロール・ハンター』VFX 制作に臨んだわけだが、劇中でも重要な位置を占める「リングルフィンチ」など 10 ショットを担当しているというから驚きだ(メイキング動画をご覧頂ければお判りの通り VFX 精度も素晴らしい)。
スパーンズ氏は、Autodesk 3ds Max をメインに使っているとのこと。あくまでも私見だが、昨今のエンターテインメント分野の 3DCG 制作において Maya などにリードを許してしまっている感のある 3ds Max を武器に挑んだというのは、ワンマンスタジオらしい特徴だと言えると思うう。なぜなら、3ds Maxの場合、インターネット上でシェアされている豊富なプラグインとスクリプトを利用できるからだ。

3ds Maxのモディファイヤを使用して制作された、リングルフィンチがヤギを捕食するショット
中盤に登場する リングルフィンチ は森の川辺を中心に生息しており、ヤギや羊を捕まえて食べるという設定。スパーンズ氏が担当したのは、主人公たちと同行しているトロール・ハンターのハンスが危うくこのリングルフィンチの餌食になりかけるというシーンである。捕食という行為を描く都合上、リングルフィンチと羊、そしてハンスというそれぞれキャラクター演技のインタラクションを考慮しなければならない。しかし、いずれも非常に密接なアクションのため、このシークエンスではデジタルダブルが用いられた。
Troll Hunter VFX - CG Models Showcase from Rune Spaans on Vimeo
リングルフィンチと羊、そしてハンス(デジタルダブル)のモデル解説動画
Troll Hunter VFX - Ringlefinch from Rig to Render from Rune Spaans on Vimeo
リングルフィンチのリグとアニメーション解説動画
Troll Hunter VFX - Shot Breakdowns from Rune Spaans on Vimeo
リングルフィンチ登場シーケンスのショットブレイク
ワークフロー(下図)は実にシンプル。まず、簡単なリグとローポリモデルを元にアニメーションを付けてからマッスルシミュレーションを施す。続けて、それをポイントキャッシュして最終的なモデルに反映させ、体毛の Fur シミュレーションとライティングを施し、レンダリングという流れだ。
アニメーションデータに関してはファイルシェアサービス Dropbox を用いて、前述したアニメーターのブラクセス氏とオンライン上でファイルのやり取りを行なったそうだが、こうした点にも少数精鋭で制作する際の工夫を感じる。映画の重要な VFX シーン制作を任される SOHO 型スタジオがハリウッド以外の地域から出てきたことはとても興味深い。

Superrune のワークフロー図。アニメーションデータのやり取りはDropboxを使用してオンライン上で行われた
レンダリングには Brazil r/s が用いられた。「Brazil r/s は納期が差し迫っていても決して裏切らないんだよ」(スパーンズ氏)。近年、3ds Max で用いられるレンダラとしては V-Ray の人気が高いが、彼の場合は長年 Brazil r/s を信頼して使い続けているそうだ。
コンポジットには Storm Studiosと同様、NUKE を使用。本作では夜間撮影やデジタルカメラ CCD の特性、レンズディストーションなど、実写カメラの様々な "クセ" をコンポジットワークで再現する必要があった。レンズディストーションを再現したり、グレイン(粒子)の付け足し、色収差や被写界震度、モーションブラー等々、様々なシミュレーションを NUKE 上で施し、ドキュメンタリーのテイストを失わせないよう細密に作業したという。
最後に、両スタジオに対してノルウェーで VFX 制作を行うアドバンテージについて聞いてみたところ、どちらも 小さい単位で動ける ということを挙げてくれた。もちろんハリウッドのような大規模制作はできないことはネガティブ要素でもあることを自覚しているのだが、近年の映画エンドクレジットが示す通り、VFX ヘビーな作品でも、アジアを中心に今までは見かけなかった国籍のスタジオ名をちらほらと見かけるようになってきた。ハリウッド大手スタジオがバンクーバーやシンガポール等にサテライトスタジオを構えることが定着したように、IT の進化がより多種多様な制作スタイルを実践しているわけだ。

© 2010 Filmkameratene AS Alle rettigheter forbeholdes. All rights reserved.
VFX 業界において決して大国ではない、むしろ小国に分類されるであろうノルウェーにおいて(筆者の思い上がった主観である)、国内のスタジオだけでここまでハイクオリティの VFX を作り出し、エンターテインメント作品としても成功している本作の存在は、日本の同業者としては正直、差を付けられてしまった気分だ(苦笑)。何はともあれ、映画『トロール・ハンター』は、エンターテインメント作品としても自信を持ってお薦めするし、少数精鋭でハイクオリティな VFX を作り出した成功例としても、実に学ぶべきものが多い要注目作である。
TEXT_テラオカマサヒロ(Galaxy of Terror)
『トロール・ハンター』
TOHO シネマズ日劇<レイトショー>他、全国絶賛公開中
監督・脚本:アンドレ・ウーヴレダル
配給:ツイン
宣伝:KICCORIT
© 2010 Filmkameratene AS Alle rettigheter forbeholdes.
http://troll-hunter.jp/