>   >  2015年は助走に過ぎない~橋本善久(リブゼント・イノベーションズ)~今年活躍したデジタル・コンテンツ制作者に聞く(3)
2015年は助走に過ぎない~橋本善久(リブゼント・イノベーションズ)~今年活躍したデジタル・コンテンツ制作者に聞く(3)

2015年は助走に過ぎない~橋本善久(リブゼント・イノベーションズ)~今年活躍したデジタル・コンテンツ制作者に聞く(3)

ーーリアルタイムCGの映像制作についても「Agni's Philosophy - FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO」(2012年)で先鞭をつけられていました。

橋本:自分にとっては、リアルタイムCGもプリレンダーCGも、そんなに違いはないんですけどね。レイトレース式やラスタライズ式などのレンダリングの仕組みの違いやCPUやGPUなど計算環境の違いはありますがレンダラーで書き出した画像を、あとから一枚ずつ連続して再生すればプリレンダーCGで、その時々で表示すればリアルタイムCGというだけで。もっといえばゲームかノンゲームかも、あまり違いはなくて、映像体験に対してゲームデザインの要素が入っていれば、ゲームと言われるだけですから。ただ、リアルタイムエクスペリエンスの価値を高めていけるのはゲーム会社の持つ技術や経験になると思います。そういう意味では僕はこれまでもこれからも変わらず、ゲーム業界の人間だと思っています。

▲2012年6月5日、E3にて発表されたリアルタイム技術映像作品「Agni's Philosophy -- FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO」の映像

ーーリアルタイムCGは今後、映像業界でも普及するでしょうか?

橋本:最終的には普及するでしょうけれど、最初はすごく苦労すると思います。ワークフローの概念や文化が違いますし、TA(テクニカルアーティスト)的な人材やエンジニアが必要ですし、スタッフの意識改革も必要です。そうした現場の抵抗感や不安感や不足を緩和して進めるには、経営者のビジョンと強い意志決定と合理的な推進が必要になります。

ーーゲーム業界でもゲームエンジンの導入に強い抵抗感がありましたね。しかし、今では多くの企業でUnityやUNREAL ENGINEなどが使われています。

橋本:そうですね。映像業界でもセルルックのようにレンダリングコストが低い場合は、リアルタイムCGの恩恵は少ないかもしれませんが、フォトリアルなビジュアルのCG制作では恩恵が大きいでしょう。また映像・VR・ゲームなどのマルチ展開を行う上では、リアルタイムCGは有効です。MARZA ANIMATION PLANETさんは『HAPPY FOREST』の制作を通して、リアルタイムCGのメリット・デメリットを一通り体験されたわけですから、すごく強いと思います。

ーー2015年で印象的だったトピックはありますか?

  • 月並みですがVRですね。特にOculus Riftの専用入力デバイスである、Oculus Touchは驚きました。デバイスを左右に握って、トリガーボタンを押しているだけなのに、ちゃんとモノを拾ったり、オンライン越しにつながっている別の人にモノを手渡したりといった感覚が伝わってきました。また、映画『バクマン』のCG表現も印象的でしたね。技術だけでなく、製作陣の原作に対する愛情や、ものづくりという世界に対する愛情が伝わってきました。いくら技術が高くても、作り手の熱量がないと優れた「作品」にはならないんだなと、あらためて実感しました。

ーーでは2016年はどうでしょうか?期待されているトピックはありますか?

橋本:先日、電動車椅子とHMD(Head Mounted Display)を組み合わせたライゾマティクスさんのインスタレーション『border』を体験して、可能性を感じたんですよ。1度に10人ずつ体験する屋内型の作品で、コンピュータ制御によって自動的に移動する電動車椅子に乗り、ダンサーが舞踏したり、他の車椅子が動く様子をHMDごしに眺めるというものです。車椅子の動きはセンシングされていて、HMDにはさまざまなCG映像が表示され、すばらしいVR/ARコンテンツとなっています。

ーーそれはおもしろそうですね。

橋本:これの最大の特徴は、VRコンテンツの弱点とされる「移動が難しい」という点を克服している点なんですね。まずVR HMDを装着していると、ケーブルに縛られるし、周りが見えないので移動すると危ない。ゲーム内で移動させるにも、VR酔いの問題がある。ところが『border』では自分自身が電動車椅子で移動しているわけです。ゲームセンターやテーマパーク向けに、さまざまなアイディアが考えられると思います。

個人としては、ライフイズテックで開発中のオンラインIT学習システムがリリースできる状態になるので、その仕上がりと反響が楽しみです。プログラマだけでなくて、アーティストやクリエイター育成にも繋がる仕組みになります。そして自分の会社リブゼントからもプロダクトがリリースされます。インエイも新しい活動が構想されています。

ーーでは最後に読者にメッセージをお願いします。

橋本:毎年のように過渡期だと言われていますが、結局はそれぞれの立ち場で、丁寧な仕事をしていくしかないのだと思います。やりきった仕事って、思った以上に周りの人が見てくれていますので、次の仕事にもつながります。あとは皆さん、ぜひ体を大事にしてください。

TEXT_小野憲史
PHOTO_弘田充



  • CGWORLD大賞2015

    2015年にCG・VFXをはじめとする日本のデジタルコンテンツ業界で目覚ましい活躍をされた方々をCGWORLD編集部が独自視点で選出し、その中から大賞を決定することで、1年をふり返りつつ、業界の活性化につなげていく企画です。
    大賞は、2015年12月25日(金)に本サイトで発表します。


    ●詳細はこちら●
    cgworld.jp/special/award2015

Profileプロフィール

橋本善久/YOSHIHISA HASHIMOTO

橋本善久/YOSHIHISA HASHIMOTO

東京大学 工学部を卒業後、株式会社セガに入社。その後株式会社スクウェア・エニックスに転職。 『Agni ’s Philosophy– FINAL FANTASY REALTIME TECH DEMO』のプロデューサー兼ディレクター、『ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア』(PC)の技術ディレクター、ゲームエンジンLuminous Studio開発責任者、CTOを務めた後、2014年に独立して株式会社リブゼント・イノベーションズを設立。www.libzent.co.jp

スペシャルインタビュー