劇場アニメ制作を支える"試行回数"と"ルックデヴ" ―― 安田現象監督が語る、AMD Ryzen™ 9搭載クリエイターパソコン「SENSE∞」がもたらす恩恵
SNSで絶大な人気を集め、昨年は長編アニメーション『メイクアガール』も公開となったアニメーション監督・3DCGクリエイターの安田現象氏。個人制作からスタジオでのチーム制作へと移行した現在、映像のクオリティを左右する「アニメ風3DCGのルックデヴ」にはどのような工夫が凝らされているのか。
今回は、安田氏に最新のAMD製CPU・GPUを搭載したクリエイターパソコン「SENSE∞」を試用していただき、実際の制作ワークフローにおけるハードウェアの重要性について話を伺った。さらに、6月13日(土)に開催されるAMD主催のオフラインイベント「PULSE Powered by AMD」への意気込みと併せてお届けする。
安田現象氏登壇イベント「PULSE Powered by AMD」
アニメーション・モーショングラフィックス・VRChat・立体造形など、異なるジャンルで活躍するクリエイターを招き、制作スタイルや制作環境に関する知見を共有する完全オフラインのトークセッションイベント。
イベント概要
イベント名:PULSE Powered by AMD
日程:6月13日(土) 13:00-17:30(開場12:30) AfterParty 19:00まで
参加費:無料(事前登録制)
開催場所:TUNNEL TOKYO
〒141-0033
東京都品川区西品川一丁目1-1 住友不動産大崎ガーデンタワー 9階
JR・りんかい線 大崎駅 南口 徒歩6分
主催:日本AMD × ボーンデジタル(CGWORLD)
安田現象
株式会社ゼノトゥーン所属。第29回CGアニメコンテスト(2020年)で入賞した自主制作アニメ『メイクラブ』をベースとしたプロジェクト作品・劇場長編アニメ『メイクアガール』を監督として制作。
X:@gensho_yasuda
xenotoon.com/studio
少数精鋭チーム×効率化で挑む長編アニメーション第2作
CGWORLD編集部(以下、CGW):まずは最近の活動状況について伺います。長編アニメ『メイクアガール』を2025年1月に公開し、現在は2作目となる長編映画を制作中とのことですね。
安田現象氏(以下、安田):はい。普段はSNSに向けてショートアニメを制作していますが、数年前から長編アニメーション作品をつくり始めました。現在は、自主制作や、そのほかのお仕事と並行しながら、2作目に着手しているところです。
CGW:『メイクアガール』公開からは約1年半。当時をふり返っていかがですか?
2025年1月31日(金)劇場公開
原作・脚本・監督:安田現象/配給:角川ANIMATION/アニメーション制作:安田現象スタジオ by Xenotoon/製作:メイクアガールプロジェクト
make-a-girl.com
©安田現象 / Xenotoon・メイクアガールプロジェクト
安田:公開直後の心境は、ただただ安心した、というところでした(笑)。当初は7名のチームメンバーで、90分の作品をつくるのは厳しいと思っていましたから。
実際、作っている最中はメインの部分を作るのに精一杯で、モブキャラクターがいなかったり、街を走る車の車種が1種類しかなかったりしたのですが、クラウドファンディングで皆様の力をお借りしながら、制作期間を延ばし、人員も増強できたことで、最終的には「人が生きている世界」をちゃんと描写できたと思います。
CGW:少人数ですと、各スタッフの担当カット数も多そうですね。
安田:そうですね。全1,000カットほどある作品を7名のチームメンバーで作ったので、かなり大変でした。
CGW:現在の制作体制はいかがですか?
安田:私と一緒に3DCGをつくっているチームは、現在10名ほどですね。ハードウェアなどの制作環境は『メイクアガール』の制作前後で大きく変わったということはありません。
普段から「いかに効率的につくるか」というのを重視しているのですが、ソフト・ハード面の性能アップではなく、工数そのものを削減するアプローチで効率化をしているため、ハードウェアも頻繁に更新せず長く使っています。
3DCG特有の“違和感”を消す、アニメ風ルックデヴの重要性
CGW:少ない人数で長編アニメを作るにあたり、画のクオリティはどのように詰めていったのですか?
安田:まずは60〜70点の画でつくり切ることを目的にして、一通り完成させるようにしました。その後、たっぷりとブラッシュアップの期間を設けて、ルックデヴの調整です。
ルックデブで一番調整しているのが、3DCGの“イヤなところ”を消し切ることで、そこにいちばん力を入れました。
CGW:“イヤなところ”というと?
安田:3DCG特有の“被り物感”やパースのつき方、影が丸くなりがちなところなど、“イヤな3DCGらしさ”ですね。
アニメの視聴者の中には、まだ“3Dアニメ”と聞くだけで敬遠してしまう方もいるかと思います。私自身、一視聴者として、“3Dアニメ”のルックの違和感に意識がいって、作品に集中できないと思ってしまったこともあります。
だからこそ、世間的に見て違和感がなく、3D、2Dといった表現手法ではなく、作品そのものの内容に集中してもらえるレベルまで、ルックを手直しするようにしました。
「3DCGでもここまで魅力的なキャラクターをつくれるんだ」と思ってもらえるように、丹念にブラッシュアップし続けたんです。
CGW:どういった調整でアニメらしいルックに仕上げるのですか?
安田:先ほどの“被り物感”や、影の丸みなどをひとつひとつ消し込んでいく作業です。「より良いものを目指す」というより、「気になるところを消す」という発想に近いですね。
ただ、このルックデヴ作業をし続けることで、チームのメンバーにも“絵心”が育って、可愛い表情を描くためのポイントなどを自然と共有できるようになりました。
今では、私が監修しなくても、最初からかなり良いルックが上がってきます。
関連記事:劇場アニメ『メイクアガール』少数精鋭のチームで描く安田現象ワールド全開の世界観 (3)~レタッチ篇 https://cgworld.jp/article/318-makeagirl-03.html
試行回数を増やし、作品の質を底上げする —— AMD Ryzen™ 9搭載クリエイターパソコン「SENSE∞」
CGW:今回はAMD Ryzen™ 9 9950X3DとAMD Radeon™ RX 9070 XTを搭載したクリエイターパソコン「SENSE∞」を実機検証していただきました。普段使用されているPCと比較して、率直な印象は?
AMD Ryzen™ 9 9950X3DとRadeon™ RX 9070 XT搭載ミドルタワークリエイターパソコン
クリエイターパソコン「SENSE∞」(センス インフィニティ)
iiyama PC SENSE-F1B6-LCR99Z-TGX
- CPU
AMD Ryzen™ 9 9950X3D
- GPU
AMD Radeon™ RX 9070 XT
- メモリ
DDR5 32GB
- SSD
M.2 1TB
安田現象氏が現在使用しているPCのスペック
- CPU
インテル® Core™ i9-10900K 3.7GHz
- GPU
GeForce RTX 3070
- RAM
32GB
- ストレージ
954GB
安田:第一印象は、いつも使っているものより一回り大きいなと(笑)。ただ、実際に動かしてみると、音も静かでしたし、何より動作面の恩恵が大きかったです。
私のつくり方で動作が重くなるのは、Blenderでキャラクターのサブディビジョンサーフェス モディファイヤーをオンにして細分化した状態でビューポートでモデルを確認している時と、背景のディテールが多い時です。
普段は重いのでサブディビジョンサーフェスをオフにして作業し、必要な時だけオンにして調整するか、さっさとAfter Effectsに持っていって2D的に調整するという妥協案で解決していました。
CGW:なるほど。今回検証いただいた「SENSE∞」ではいかがでしたか?
安田:雲泥の差がありました。サブディビジョンサーフェスをオンにした状態での速度感がまったくちがいます。
私のPCでは、重いシーンのプレビュー再生時、タイミングを保持するためにコマ落ちしてしまうのですが、「SENSE∞」ではかなりコマ落ちが抑えられています。ストレスなくBlender上でモーフを使ったレタッチ作業などがしやすくなったな、という印象です。背景のレイアウト作業も同様で、ストレスなく進めることができました。
CGW:作品のクオリティにも影響は出ますか?
安田:明らかに好影響だと思います。特に3Dカメラがグリグリ動くようなアクションカットでは、2D的なレタッチよりも3D的なレタッチを増やせた方が試行回数を増やせるので、クオリティがダイレクトに上がります。
作業も速くなりますし、3DCGならではの違和感をさらに消し込んで、キャラクターを魅力的にするための追加要素も入れやすくなります。これまでは、マシンが重くなる作業は避けるワークフローを組んでいましたが、マシンスペックが上がって天井が高くなることで、もっとつくり込みができるようになる、と実感しました。
CGW:PCのスペックでは何を重視していますか?
安田:CPUとGPU、そしてメモリでしょうか。私のPCは現在メモリが32GBなんですが、本音を言うと、64GBほしいです。BlenderとAfter Effectsを同時に立ち上げて作業することが多くて、使用割合も6対4くらいで併用するので、32GBだと少し厳しい場面が出てくるんですよ。
CPUとGPUの処理能力ももちろん大事です。その点、今回の「SENSE∞」は、試用した限りプロの制作現場でもしっかり活躍できる、素晴らしいスペックだと思います。
これからアニメ業界を目指す若手クリエイターへ、安田現象流「上達のコツ」
www.youtube.com/@gensho_yasuda
CGW:安田さんご自身は、アニメーション制作のどんなところに楽しさを感じていますか?
安田:私は最初に文章で内容を設計してから画づくりをしていくのですが、アニメーション制作においては「文章以上に細かい、画的なニュアンスの入れ方を偶然見つけられた瞬間」がいちばん楽しいです。
それはつまり、自分の中で表現を「ロジック化」できたということで、ロジックがあれば人に伝えられるようになりますよね。見つけたロジックAとロジックBが組み合わさって、新しいロジックCが生まれる。このアニメーションのロジック化が、個人的にはとても楽しいところです。
CGW:最後に、6月13日のイベント「PULSE Powered by AMD」での登壇内容について教えてください。
6月13日(土) 13:00-17:30(開場12:30) AfterParty 19:00まで
参加費:無料(事前登録制)
開催場所:TUNNEL TOKYO(東京・大崎) ※完全オフラインイベント
安田現象氏登壇セッション「アニメ風3DCGのススメ」は16:15-17:00を予定。
安田:「アニメ風3DCGのススメ」というテーマで講演を予定しています。3DCGでアニメをつくるとなると、どうしてもソフトの機能ばかりに目が向きがちですが、実はキャラクターをアニメ的に魅力的に見せるための「その後のレタッチワーク」が非常に大切です。
キャラクターモデルのつくり方やアニメーションの付け方の情報は世の中にあふれていますが、最後のルックデヴやレタッチワークの部分は意外と知られていません。
今回は、技術的な観点からその部分にフォーカスしたお話をしたいと考えています。
CGW:どのような方に聞いていただきたいですか?
安田:今回の講演では、アニメに憧れて、アニメライクなものをつくりたいと願っている皆さんに、少しアナログな観点も交えながらキャラクターの魅力を引き出す方法をお伝えする予定です。
なので、バリバリの業界関係者よりは、学生さんや初学者、個人で制作をされている方に聞いていただきたいですね。
基本的な歩きのアニメーションひとつとっても、最初は誰だってロジックがフワフワしていて上手くできません。それを乗り越えるために必要なのは、ひとえに自分から能動的に学んでいく姿勢です。ひとつひとつの壁を乗り越えるための継続的な熱意があれば、必ず上手くなります。
CGW:これからアニメ風の3DCGをつくりたい初学者の方へ、PC選びや制作のアドバイスをいただけますか。
安田:今回試用したPCはプロが実務で使えるハイスペックなものでしたが、初心者の方なら、無理にプロ向けのハイスペックなマシンを買うよりも、まずは自分のアナログな技能を使って、軽い負荷でも良いものをつくれるようになっていくことが大切だと思います。
初心者のうちは1本の作品を時間をかけてつくり込むよりも、細かいことは置いておいて一度作品を完成させてしまう。まずはそうやって、作品を何本もつくり重ねながらスキルアップしていくことをお勧めします。つくりながら「もっとこうすれば良いんだ」を見つけていくことが、一番の上達の近道です。
一方で、そうして制作を続けていくと、試行回数やリアルタイムでの確認作業など、PC性能が表現や制作効率を大きく支えてくれる場面も確実に増えていきます。今回の検証でも、その恩恵は強く感じましたが、アイデアや作品制作を邪魔しない環境は、クリエイターにとって大きな味方になります。
今回のイベントがアニメ業界を目指す若手クリエイターの皆さんが魅力的なアニメーションをつくるための一助となれば嬉しいです。ぜひ会場でお会いしましょう!
CGW:「PULSE Powered by AMD」のセッション、楽しみにしています。本日はありがとうございました!
TEXT__kagaya(ハリんち)
PHOTO_弘田 充
EDIT_遠藤佳乃(CGWORLD)