遊技機の企画提案では、紙や画面だけでは完成イメージを伝えきれないことがある。エゴ・ワンが開発した「デジタルモック」は、白く設えた立体モックに映像を投影し、盤面全体の印象を可視化する手法だ。その発想の源流にある、「映像を、触れるものにしたい」という思いをエゴ・ワンに聞いた。
Staff
企画段階で完成形を共有
エゴ・ワンのデジタルモックは、遊技機の企画提案における課題から生まれた。もともと同社は、遊技機やゲームのデジタル映像の開発、作画アニメーション、さらに映像とプロダクトを掛け合わせた企画まで幅広く手がけてきた。
そんな中で直面したのが、遊技機の開発において「紙面中心のプレゼンでは上層部に刺さりにくい」という問題だった。静止画や企画書だけで、実機特有の質感や空気感を共有することには限界がある。そこで、以前から得意としてきたプロジェクションマッピングの知見を活用し、企画を直感的に可視化する手段として開発されたのが、デジタルモックである。
こうした映像を体験できるものにする試みの原点といえるのが、体験型プロジェクションマッピング企画「南の島がんこおやじラーメン」だ。山型の立体模型に映像を投影し、ラーメンづくりの物語を見せ、最後には模型が開いて実物のラーメンが現れる。
見るだけでなく、映像と体験がひとつながりになるこの企画を通して、エゴ・ワンは「映像を触れるものにしたい」という発想をかたちにしてきた。デジタルモックは、その発想を遊技機の企画提案へと応用したものだといえる。
映像投影の質を支える工夫
もっとも、デジタルモックは単に白い筐体に映像を投影するだけで成立するものではない。市販の遊技機筐体は凹凸が多く、そのままではギミックや奥行きによって映像が歪みやすい。
そこでエゴ・ワンでは、パーツを分解し、反射を抑えたマットな表面へ塗装しなおし、必要に応じて形状をならす処理も施している。さらに、プロジェクタの角度や高さを柔軟に変えられる専用治具(投影を補助する器具)も改良を重ねてきた。既製品では足りないなら自分たちでつくる。その積み重ねが、立体への精度の高い投影を支えている。
現場での最適化を追求したモジュール
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▲プロジェクタを支える治具。高さ、角度ともに自由度高く調整できる。板金業者の工場に訪問し綿密にすり合わせしながら開発した -
▲投影前のデジタルモック。映像が歪まないよう、盤面の凹凸を抑える加工を施している。また、プレゼンの場やイベント会場では暗さが足りない場合もあるため、暗幕ルームも自作した
現場での柔軟性を担保する映像設計
映像設計にも、プロジェクションマッピングならではの発想がある。エゴ・ワンでは、盤面の位置関係を整理したガイドをつくり、どこに起伏があり、どの形状をどう使えるかを把握した上で画づくりを考えるという。こうすることで、液晶の外まで“はみ出す”見せ方や、盤面全体を1枚の画面として捉える構成がしやすくなる。
さらに、立体物に綺麗に映像を“吸着”させるための補正も重要だ。取材では、メッシュの頂点を動かしながら映像を引っ張るように変形させるツールや、TouchDesignerを用いた調整についても話が及んだ。企画、設計、検証、修正までを一連のながれとして有していることが、この手法の実用性を支えている。
筐体全体を使った映像設計
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▲盤面の外形や各パーツ位置を示したラインデータを下敷きに、液晶を含めた全体の見え方を設計している様子。筐体の突起や凹凸を考慮しながら、演出素材や表示要素の配置バランスを検討していく -
▲完成図。液晶外の立体パーツも演出に利用し、1つの世界観でまとめることで、より没入感のある映像になるように設計している
TouchDesignerにより現場でリアルタイムに調整
ハードとソフトを連動させる体験
デジタルモックは受動的なビジュアルの確認のみにとどまらない。エゴ・ワンは過去に参加したイベントで、PCやiPadとロボットアームを連動させる展示も行なっているが、その実装にはProtoPieやUnityが使われているという。
こうした技術はデジタルモックにも応用されており、例えばボタン入力に応じて役物が落ちるような、よりリッチなシミュレーションも可能になっている。見た目だけでなく、体験の手触りまで設計できる点も、この技術ならではの大きな利点だ。
遊技機提案の新しい選択肢
デジタルモックが効果を発揮するのは、見た目のインパクトにおいてだけではない。社内プレゼンや版権取得用のプレゼンでは、投影した瞬間に反応が変わったという。立体で見せることで、企画意図や見映えの方向性を一気に共有しやすくなるからだ。
さらにコスト面でのメリットも極めて大きい。従来の物理モックが約1,000万円かかるとした場合、デジタルモックなら約100万円で収まることもあり、最大で10分の1程度まで圧縮できる可能性があるという。
完成前のアイデアを、より早く、より伝わるかたちで共有する。エゴ・ワンのデジタルモックは、遊技機提案のあり方そのものに新しい選択肢を提示していると言えるだろう。
求人情報
株式会社エゴ・ワン
▼募集職種
・遊技機企画ディレクター
・遊技機演出企画
・遊技機CGデザイナー、ほか
www.ego-one.jp/recruit
TEXT_CGWORLD
EDIT_藤井紀明/Noriaki Fujii(CGWORLD)、高橋拓也/Takuya Takahashi(CGWORLD)
PHOTO_蟹 由香