3DCGを本格採用するきっかけとなった
"ボクセルアート"との出会い
その後、いくつかの作品をリリースして開発者としてのステップを踏み、チームを組んでのゲーム開発なども経て、その『俺の校長』から3年あまり。つい先日、中西氏は3DCGを採用し、ビジュアル的にも演出的にも大幅にパワーアップさせた『俺の校長 3D』をリリースした。
▲『俺の校長 3D』。相変わらずのテンポの良い演出が、3D空間を効果的に用いてさらに小気味良く展開される。UIも相変わらず文字入力するだけで楽しめる
▲Unityで構築された『俺の校長 3D』の風景
そのわずか1年前までは、前述の通り3Dには触れたこともなかった(それまでリリースしたゲームはすべて2Dビジュアル)という中西氏だが、開発者仲間にヒントをもらったことで3DCGの習得を、そして時間をかけて開発しても"ヒットする可能性"が感じられる企画(Youtuberとのコラボレーション)が持ちあがったことで、より話題の作りやすい『俺の校長』の3Dリメイクすることを決めたという。
「Unityを触り始めていた、ということも大きいですけどね。でもあれはエンジンなので、素材となる3Dアセットが作れなきゃ3Dのオリジナルゲームは作れない。もちろんアセットストアにいけばモデルやらモーションやらいろいろありますけど、自分は素材にこそこだわりたいタチ。それで自分には知識もないしなかなか難しいかなぁと思っていたところ、開発者仲間からいろいろアドバイスを聞く機会がありました」。
そうした仲間たちの声の中でも、大きく心に引っかかったのが「3D覚えたら2Dもできるんだから、Unity使っていくのならやらないと損」という言葉と、「ボクセルアートという3Dドット表現がある」という情報だ。この2つが、3Dを本格的にやる大きなきっかけになった。
そこから、まずはSculptris(いきなりスカルプティング!)からモデリングを、Blenderでテクスチャのセットアップやリギングを、そしてUnityで既存モーションによるコントロールをと、キャラクターを作って動かすことからひととおり覚えていったという。1〜2カ月は要したとのことだが、チュートリアルとネットのドキュメントだけを頼りに、「1.〜する」「2.〜する」といったかたちで必要となる作業を完全にマニュアル化して残した。「寄り道せずに迷わずに繰り返せるオリジナルの作業工程を作り上げていった」とのことだ。
「だいたい、素人がいきなりツール全部覚えるとか無理ですからね(笑)。必要な機能だけ使えればいい。Blenderは特にわかりづらいですし、決めた作業ルートを繰り返せばなんとかなるように、基本セットを1本作る。これを鉄板にして、それ以外が必要になった時にだけ、調べて作業追加する、というかたちで決め込んで、どうにか作業フローを構築できました」。
▲Sculptrisによる習作制作画面。いきなりスカルプティングからCG学習が始まるとは、ポリゴン1枚1枚をポイントつないで貼っていた時代を知っている筆者としては隔世の念を感じてしまう......
▲Blenderによる習作へのセットアップ。やること、必要なことのみに限定して繰り返す、というのは、目的が決まっている制作においては極めて有効な学習手法だろう。モチベーションも維持しやすい
しかし、こうして習作を作っているときはまだ具体的な表現イメージが持てないままだった、と中西氏は振り返っている。具体的に「これなら!」と思えるようになったのは、やはり"ボクセル"表現と、その作り方を知ってからだったという。ここで言うボクセルとは、ボリュームレンダリングのそれではなく、"3DCGによるドット絵表現"のことを指す。3D空間で立方体を並べ、ドットを打つようにモデルを作っていく。有名どころでいえば『マインクラフト』、そして昨今のスマホゲームのヒット作で言えば『クロッシーロード』などに用いられている表現だ。これらのボクセル表現には、専用のモデリングソフトも存在しているのである。
▲全世界で9000万人がプレイする『クロッシーロード』
「それでいろいろ自分で調べてみて、『Magica Boxel』と『Qubicle』というツールに行きついた。使ってみて、『Magica Boxel』はいろいろと機能が多いけどレンダリングして絵として出力することに向いたツールで、ゲーム制作にはスペックオーバーだった。『Qubicle』はその点、モデリングツールとして使い勝手がよく、ゲームに向いていました」。
中西氏曰く、ボクセルモデリングの利点は気負いを持たずに、極めて気さくにできることにあるという。基本はボックスの集合体であるためサクサク並べては消してという繰り返しで、かたちを作り始めて多少崩れても修正が気楽なのだ。「俺の校長のキャラクターで言うところの"16×16のドット"を並べて描いてるのが基本で、ほとんど気持ち的には2Dドットを打っているのと変わらなかった」という。UVも自動展開してくれるため、このQubicleでモデルを作れば、あとは作業フローとして決めきっておいた手順に沿って、Photoshopでテクスチャ描き、Blenderでの調整を経て、Unityへと持ち込めばいいだけとなった。
▲『クロッシーロード』の開発にも用いられているというモデリングツール、Qubicle。中西氏はクロッシーロードのクレジットの中から発見し、自分の作業フロー組み込んだ。当然、背景表現もこれでモデリングされている
▲俺の校長 3Dにおける、モデル制作の基本フロー。Qubicleにて16×16ドット(ディテール感を出すために32×32に割り直し、一部は倍の細かさ)をベースにモデルを制作し、Blenderで読み込む。ここでポイントとしては、ボクセル表現のこだわりとしてモデルに"ベイクした影を落としてアナログ的なミニチュア感を出す"ために、一度大きなテクスチャとしてUVをベイクして出力している。このベイクテクスチャと元テクスチャをPhotoshop上で乗算加工などをしてなじませ、テクスチャが大きくなりすぎないようにサイズ調整と全モデル用の1枚に集約させた本番用テクスチャ画像への追加を行い、またBlender→Unityへと持っていくわけだ