>   >  スマホ『インディーズ』にも波及しはじめた3Dビジュアル Vol.1 ストアランキング総合1位まで獲得した怪作、『俺の校長 3D』はどのように生まれたか?
スマホ『インディーズ』にも波及しはじめた3Dビジュアル  Vol.1<br> ストアランキング総合1位まで獲得した怪作、『俺の校長 3D』はどのように生まれたか?

スマホ『インディーズ』にも波及しはじめた3Dビジュアル Vol.1
ストアランキング総合1位まで獲得した怪作、『俺の校長 3D』はどのように生まれたか?

ロジックに縛られない
"見た目の美しさ"へのこだわり

こうしてまったくのイチから開発を進める中、最も苦労をしたのが質感表現の部分だったという。ボクセル表現はいいとして、そのままのいかにもデジタルな3D質感になることがどうしても違和感になっていたという中西氏は、撮影したようなミニチュア感が出せる、アンビエントオクルージョン(AO)による柔らかい影を、モデルにどうしても落とし込みたかった。

「素人で、知識もない中ですからね......。最初はスクリーンスペース・アンビエントオクルージョン(SSAO)というのがUnityで出来るというのを知って、喜んでやってみたら、そりゃもうものすごい重くって(笑)。とてもじゃないけど動くような代物にならなかった。それでいろいろ調べて、結果的には動かないオブジェクトにはUnityで普通のAOによるベイクを、動くキャラクターにはBlenderでテクスチャとして事前に焼き込んだものを貼ればなんとかなる、っていうことがわかったんですが、それまでが大変でした」。

とはいうものの、結果的にはそうした表現が違和感なく、そして実用レベルで実現できてしまっている、ということが驚きでもある。何度も言うが、3DCGの概念に初めて触れて1年経つか経たないかである。とてもそれとは思えない習得度合いで、ボクセルベースではあるもののこだわりぬかれた、品質の高いビジュアルが構築されていった。

▲Unityでベイクされた背景のAO効果比較。左がAOによるベイクなし、右がベイクありの完成系。AOの採用で、箱庭感の表現としてのクオリティが格段に上がっている

その他にも、表現に関わるこだわりは細部にまで渡っている。そこには"理論的な正しさ"ではなく、普通の人がパッと見て"自然に感じさせる美しさ"を優先して調整された、中西氏なりの美学も見受けられる。

「これね、実はドット絵的世界観で考えたら、わかる人にはめっちゃ怒られるようなルール無視をいっぱいしてるんですよ。たとえば、1つのボクセル(1ドット=1つの立方体)の大きさ、これって2Dのドット絵だったら、当たり前ですが変わらないはずなんですよね。だから、通常ボクセル表現ってのはその2Dのルールを踏襲するかのように、忠実に3D空間でもドットの大きさを保持して作られているものなんです。でも『俺の校長 3D』では、校庭の木の1ドットの大きさ、校舎の1ドットの大きさ、そしてもちろんキャラクターの1ドットの大きさに至るまで......実はほぼ全部サイズが違うんですよ(笑)。ドット絵世界としては、破たんしてるんです。もっと言えばですね......"斜めに切られたオブジェクト"だってあるくらいなんですよ(笑)」。

これらは、ルールがわからなかったからそうしたのではなく、中西氏が"あえてそうしている"という表現だ。ボクセルというのは、あくまで表現手法であって、見た目の違和感を犠牲にしてまでも正確さを適用する必要はない、というジャッジなのだ。

「実際、大きいオブジェクトもあれば小さいオブジェクトもあるわけで、一番小さなキャラクターサイズで1ドットずつ作ったら、大きなものはそれこそドットが細かくなりすぎて違和感があります。しかも大きなものはカメラ的には引いて見るようなオブジェクトですからね。スケール感的に、細かく割っていたらブロック感が全然出ないですよ。同じような理由で、現実的には斜めになっていたり球形であるべきオブジェクトなどは、無理やり細かく立方体を組み上げて作っても見た目綺麗にはならないんで、普通に見て綺麗なほうでバランスとればええやないか、となりました。あえてボクセルのルールのこだわりは外してみることで、ゲームのカメラを通して見た場合の"いい感じの雰囲気"としてのボクセルの世界観を重視してバランスを取っていったんです」。

▲Qubicleで表示させた、校庭にある2種類の木のモデルと、校長のモデル。キャラクターとのドットのスケール感が違うのはもちろん、それぞれの木ですらドットの割られている大きさが違うことがわかる。さらに言えば、Unity上でもそれぞれの木がスケーリングして使われるため、実は描画されている多くの木で、ドットは揃っていないのだ。しかし、ゲームプレイをしていてそんなことが気になる人がどれくらいいるだろうか? そここそが中西氏が目指した見た目の綺麗さと違和感の無さということになる

▲モデル左がQubicleで作られた元の学校の"階段"。右側が、わざわざBlenderで斜めにモデリングしなおした階段だ。ゲーム中での画面も見てみよう。言われるまで気づかないほど、自然に馴染んでいるのがわかる

1年前には、完全な3D初心者だったはずの中西氏。しかしインタビューでは、出てくる単語やこちらの質問に対する受け答え、そして演出の考え方やビジュアルの構築手法の説明に至るまで、完全にCGに長けたプロそのものだった。話を聞くだけでは簡単そうに話してくれていたが、ボリュームの限られたカジュアルゲームとはいえ、この短期間でこれだけのクオリティの世界を構築するのは、並大抵のことではなかっただろう。

最後に、今後中西氏が作っていくゲームビジュアル開発の方向性を聞くと、明確な答えが返ってきた。

「あくまでアイデア次第です! 表現の幅が大きいので、極力3Dを使いたいな、というのはあるけど、その時々にやりたいゲームのテーマに向いた表現があるはず。なので2Dのほうが"笑かせられる!"と思ったら迷わず2Dです。でも、今回で3D表現にめどが立ったのは大きい。3Dでしかできない独特の動かし方、そして笑わせ方が絶対にありますからね」。

TEXT_SADAMU TAKAGI

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Profileプロフィール

中西 修二/Shuji Nakanishi

中西 修二/Shuji Nakanishi

ナカニシワークス/代表
2012年頃から大阪で個人アプリ開発を開始。同年に代表作「俺の校長」をヒットさせたのち、本格的な事業としてアプリ開発に取り組む。他業種からの転身ながら、業務外で好きで学んでいた美術などの物作り経験が役立ち、個人開発ながらアプリストアー無料ゲーム1位獲得など実績を持つ。アプリ業界ではヒット作にちなんで「校長」という通り名がある。作品には、大阪出身ならではの「笑かしたる」という気質が強く感じられ、最近ではUnityを使った初の3Dゲーム「俺の校長3D」をリリースし好調。

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