<2>プロが狙う次世代ドローン空撮環境
すでに独自のドローン空撮環境を構築し、数多くの実績を重ねる山崎氏だが、その目はすでに次世代に向かっている。今現在は、360度コンテンツの公開の出口はウェブであることも多いため、現時点では先述したGoProリグのシステムで品質的に十分だという。GoProは色再現性も素直で発色が良く、ログの収録も可能だ。自動露出機能と組み合わせれば、コスト面も含めてポストプロダクションにおいて現状最も扱いやすいと亀村氏も認めている。
一方で、RAWで撮影するのが当たり前のCMや映画を製作しているクライアントには、GoPro以上のカメラを求められるケースが出ていると山崎氏はいう。そこで次世代のドローン環境として、かなり広角なレンズを用いたBlackMagic社Microを複数台搭載したドローン空撮システムの導入を構想しているとのこと。山崎氏の自作ドローンならば、たとえ総重量が8kgになったとしても十分に安定した空撮が可能だと氏はいう。
高性能カメラを搭載する理由は、関与するプロジェクトの意思決定者の理解の問題だけではない。実際、これらプロユースのカメラはセンサーサイズも大きく6K動画をRAWで100fpsで記録することができるものもある。RAWであれば画質の劣化はなく、そもそものダイナミックレンジも広い。これはポストプロダクションにおいてCGと合成する際にも自由度が大きいことを意味する。一部のコーデックを除いて、基本的に動画のエンコードは不可逆であるから、既存のシステムとの差は決して小さくない。映像の最終品質を高めるために、プリミティブな素材の劣化がないことが最も有効なのは誰が考えても明らかだ。
ここに現世代のドローン空撮で培った山崎氏のノウハウが加わると、さらに高品質な映像が得られることだろう。具体的な内容を聞くことはできなかったが、ドローン本体の揺れを抑えることひとつを取っても、独自のノウハウがあるという。このほかにも、カメラのシャッターの仕組みに起因するローリングシャッター問題や、ドローン本体の形状によっては足が写ってしまう問題、ドローンのローターがブレとしてフレーム内に写ってしまう問題など、ドローン空撮の素人では直ちに解決できない問題に対しても、対処法があるというのだ。
やはり自分自身でフロンティアを切り開いてきたことが大きいのだろう。何か問題があっても、都度改善のためのアイディアを生み出す前提となるノウハウと、アイディアを具現化するアトリエの存在が大きな拠り所となっていると感じられた。
▲山崎氏が撮影を行った『MITSUBISHI ESTATE』
Multicopter 6 Rotor
Battery:TATTU 16000mAh (5min-6min)
Camera:BMCC(production 4k)
Lens:Canon EF16-35mm F2.8L II USM
Gimbal:MōVI M5
ATOMOS:ATOMS2H001
対談の後の余韻に乗じて、山崎氏に対して一般のドローン空撮未経験者がやるなら、どのあたりの機種がいいか尋ねてみた。読者諸氏の参考に、というのはもちろんのこと、筆者自身も参考にするためだ。実際のところ、筆者が想定するようにVRゲームの最遠景としてスカイドームなりスカイボックスに貼り付けるといったユースケースの場合、撮影する素材は静止画でも良い。高性能なジンバルを装備したDJIなどのハイエンドモデルに、要求品質で撮影が可能なカメラを搭載すれば、動画ほど揺れの問題に悩まされることなく撮影可能とのことだった。ただ、VR用途の360度撮影となると、完全に定位置に空中で静止できる前提でカメラを回転させて必要枚数を撮影するか、山崎氏のようにカメラリグを組んだ上で、別途同期の方法についても考慮する必要があるだろう。現在販売中の手が届く価格帯のドローン完成品では、ビギナーには解決できない宿題が残るように感じられるというのが、今回の取材を経た筆者の率直な印象だ。
一方で製品レベルで使用しない、たとえばロケハンでの模擬的なテスト飛行や、CG合成前提のプロジェクトでCG制作側から実写撮影にリクエストを出す目的を兼ねたプリビズのようなものを作成する場合には、そこまで本格的なものでなくても意義があるように思われた。実際、ドローン空撮は自己のテリトリーではないという亀村氏も、あくまでテストとしてではあるが、自身でドローンを飛ばすことがあるという。すでにドローンを活用した映像づくりは始まっているのだ。
ドローン空撮のプロジフェッショナルである山崎氏の凄さは、機材面での最適解の提案にとどまらない。いかなる局面でも安定してドローンを飛行させるテクニックとノウハウがある。なかなか事前に飛行プランを立てておくことができない海外ロケを行うケースでも、現地での対応に強いドローン撮影技術者は、大いに心強いことだろう。亀村氏を始めとする映像業界のプロフェッショナルから絶大な信頼を得て、各所から依頼が舞い込む理由はここにある。
TEXT&PHOTO_谷川ハジメ(トリニティゲームスタジオ)
PHOTO_弘田充