<3>独自に開発したクラウドレンダリング管理システム「Conductor」
ルックデヴにはThe FoundryのKATANAが使用された。Atomic Fictionはライティング・パイプラインを『ザ・ウォーク』の制作時にKATANAに切り替えている。今回はKATANAを中核にしたレンダリングのためのパイプラインも構築している。担当するシーケンスはほとんどフルCGとなったため、非常に多くの数のアセットをルックデヴする必要があった。そのためルックデヴの環境を統一し、テンプレートが用意された。そしてベースのマテリアルはKATANAのマクロで記述してバンクとして利用できるようにされた。また様々な箇所に使用できるランダム化ツールも開発された。これを使うと簡単に既存のアセットにバリエーションを加えることができる。こうして膨大な量のアセットを統一してクオリティ・コントロールすることが可能になった。
本プロジェクトにおける基本的なコンポジット構成(globals)
KATANAのノードツリー
Atomic Fictionはオークランドの本社に加え、LAとモントリオールという3つの地域に拠点をかまえている。実作業は主にオークランドとモントリオールで行われているが、両拠点は地理的に離れているため双方を結びつけるマネジメントツールConductorを開発している。Conductorについて、タイユフェール氏は次のように紹介してくれた。「Conductorプロジェクトは数年前にスタートしました。2014年の『ザ・ウォーク』の制作時に使い始めました。そして今はより優位性を高めるために、APIの拡張、レンダリングジョブの起動とモニタリング方法の充実、アップロードとダウンロードのプロセスを確実なものにする作業を進めています。システムはGoogle Cloudのサーバー、ライセンス・サーバー、OS、アップロードとダウンロード、ローカルデータの収集ツールなど多くの既存ツールと結びついています」。
映画『ザ・ウォーク』制作時のConductorの利用イメージ (出典)http://www.renderconductor.com/thewalk
Atomic Fictionでは早い段階からGoogle Cloudをレンダリングに利用している。クラウド・レンダリングを制作に取り入れるためには、これまでと異なる発想が必要になったようだ。タイユフェール氏は、「クラウド・レンダリングを行うということは、レンダリング・コストを異なる方法で考えるということ。それに時間やコストを制御するために、新しい方法にチームを慣れさせる必要もあります。伝統的なレンダリング・ファームでは、問題はCPUを遊ばせないことです。しかしGoogle Cloudでレンダリングする場合は、レンダリングする回数を最小限にすることが重要です。またできる限り静止画や、半分の解像度でのレンダリングで済むように工夫します」。
車内のショットは、クルマのセットでスタジオ撮影した実写素材をベースに、窓の外をグリーンバック合成することで作られている。一方、車外のショットはフルCGで作られている。この2つの状況のライティングをマッチさせるためには以下のような方法がとられた。スタジオ内のライティングはLEDパネルに映像を上映しながら撮影された。例えば、橋の下を走るとか、壁が近づいてきて暗くなる映像が使用された。この映像はCGのライティングのガイドにもなった。車外のシーンでは街並みを撮影したHDR写真を使ってライティングしている。このシーケンスの照明条件は晴れの太陽光で非常に方向性が強いものだったので、マッチングは比較的容易であった。車外のショットの方が自由度が大きいため、基本的に車内のショットの実写のライティングに違和感がないように車外のライティングを調整している。
このインタビューを仲介してくれたコンポジット・スーパーバイザーのウェイ・リー/Woei Lee氏が補足してくれた、「車内のグリーン・スクリーンのショットはまったく異なるライティングで撮影され、まったく異なるカラー・グレーディングで処理されたので、一度ニュートラルなライティングに全てのショットを調整し、全てのCGを同じくニュートラルなライティングで照明し、レビューのときにクライアントに見せるためにカスタムなカラー・グレーディングを施しました。そのため、全てのショットで適切なカラーバランスと、CGと実写を合成する一貫したワークフローを保つことができたのです」。
タイユフェール氏はAtomic Fictionでの本作の制作をふり返る。「われわれはまるで家族みたいに機能しています。だから素早いコミュニケーションや、細かい軌道修正にも対応できます。みんな一緒に働くことを楽しんでいますが、『デッドプール』は特に楽しかったので、余計に効率も上がりましたね!」全米公開後、『デッドプール』は各方面でよい評価を聞く。VFXを手がけたタイユフェール氏も手応えを感じているようだ。「マーケティング的には本当にうまくいっていたので、映画は成功するとは思っていましたが、本当に市場の感想や興行の数字には感激しました。そのおかげでいい未来が待ってそうですしね!(※)」
※:本作プロデューサーのひとりサイモン・キングバーグへのインタビュー(2016年6月24日付)にて、2017年の早期には続編の撮影に着手する予定であると、米COLLIDER誌が報じている
作品情報
-
映画『デッドプール』
監督:ティム・ミラー
脚本:レットリース&ポール・ワーニック
製作:サイモン・キングバーグ, p.g.a./ライアン・レイノルズ, p.g.a./ローレン・シュラー・ドナー
製作総指揮:スタン・リー
撮影監督:ケン・セング
VFXスーパーバイザー:ジョナサン・ロスバート
VFX制作:Digital Domain/Atomic Fiction/Blur Studio/Digiscope/Image Engine/Lma Pictures/Rodeo FX/Weta Digital
© 2016 Twentieth Century Fox. All Rights Reserved. deadpool.jp