<3>インタラクティビティの創出
レンズを通して様々な世界を描くという企画骨子の下、『宇宙』篇、『人体』篇、『半導体』篇の3作品の制作が同時並行で進められた。いずれも共通するのが、KOO-KIが得意とするモーショングラフィックスを多用した3DCGアニメーションであること。
「解像度としては、W5,060×H3,240という4Kを超えるサイズであることに加え、ひと作品あたり約3分半というボリュームだったので、『宇宙』篇の場合は地球は2Dグラフィックを利用するなど、空間としては3Dだけど最大限2Dを活用することで作業負荷を軽減することを心がけました。モーションタイポについても全てAfter Effects上で作業しています。また、本作のように規定のフォーマットにはまらないプロジェクトの場合、作業を進めながら演出や表現を考えていくという、モーショングラフィックス的なアプローチが有効だったと思います」(池田氏)。
そうしたなかで、作業が難航したのが『人体』篇で視神経にながれるパルス(電気信号)のエフェクトであった。「当初は神経のラインにパーティクルを走らせコンポで光らせようとしたらものすごく時間がかかり、次にライトを走らせたらどうかと考えたのですが、1シーンに1,000個以上のライト
になってしまい、Mayaのレンダリングが回りませんでした」(池田氏)。
そこで、普段は3ds Maxをメインツールとしている山下裕次郎氏が、発光状態のテクスチャをアニメーションさせるという手法を考案し、パターンちがいのマテリアルをアサインすることで自然に見える光の走り方を表現したという。
『宇宙』篇3DCGアニメーション最終形|『Universe of Nikon』メイキング動画<2>
こちらの『宇宙』篇、そして『人体』篇は池田氏がディレクションと実制作をリード。そして、3篇のなかで最もアセットの物量が大きくなったという『半導体』篇は生嶋 就氏がディレクションと実制作をリードするかたちで作業が進められたという
実際のニコンミュージアム内で試写が行えるようになったのは今年の8月にはいってからであった。それゆえに前項で紹介したGA内の簡易プレビュー環境が効果を発揮したわけだが、本番環境で投影してみないと気づかない要素も多々あったという。
「幸い色味のズレは軽微だったのですが、投影する空間が広くなったことで、モーションタイポのサイズや観客の視野については細かな調整が求められました。それと、黒の表現も悩ましかったですね。白いホリゾントに、映像を投影するわけなのでどうしても黒が持ち上がってしまうわけなので」(上原氏)。
『宇宙』篇の完成形|『Universe of Nikon』メイキング動画<3>
本作をはじめ『Universe of Nikon』の魅力は、実際のホリゾントスクリーンで観ないとわからない。ぜひ、ニコンミュージアムへ足を運んでいただきたい
完成した『Universe of Nikon』は、公式サイトの紹介文で"インタラクティブシアター"と銘打たれている通り、3つの作品を選択する際のメニュー画面にも工夫が凝らされている。このUI制作をリードしたのが高村 剛氏だ。
「メニュー画面はUnityでコーディングしました。作業中は横幅5,000ピクセル以上の大サイズなので、マウスの移動感の落としどころに悩みましたね。ビジュアルコンセプトは"黒板"です。メニュー画面上に様々なアイコン的なグラフィックが浮かび上がるのですが、マウスを所定の箇所に移動させた際のレンズの表現を作る上では、屈折のアルゴリズムを組み合わせて最も気持ちの良いバランスを追求しました。操作デバイスについては当初、Leap Motionなどのセンシングの利用も検討したのですが、インタラクティブとしての感触、実体感(手触り感)を優先させた結果、トラックボールを採用しました。実はこのトラックボール、ボウリングの球なんですよ(笑)」(高村氏)。
(写真提供:KOO-KI)ボウリングの球をトラックボールに採用した操作デバイス、こちらもKOO-KI-が発案(※KOO-KIが描いたラフスケッチを下に、三友が設計・制作)したものだが、操作感が実に心地よかった
冒頭で述べた通り、映像世界への没入感を効果的に高める上では映像と音のシンクロニシティについてもこだわりが追求された。
「企画当初から音楽のウェイトが大きくなるという思いがありました。その場の空間を掌握する上では、音楽の要素が強くそこで相乗効果を引き出せないと映像も乗ってきませんから」(上原氏)。
一連のサウンドデザインを手がけたのが、インビジブル・デザインズ・ラボの中村優一氏と髙木公知氏。
「まずは、上原さんたちからコンセプトをお聞きして、イメージに近そうなサンプル音源を当ててみながら方向性を定めていきました。KOO-KIさんとのお仕事は、本作に限らず最終までアップデートが繰り返されることがほとんどですね。ひとつ前のバージョンと、修正したバージョンでは映像のタイミングが大きく変更されているといったこともよくあります(笑)。ですが、元々自分が映像に合わせてサウンドを作り込むということが大好きなので、即興性や意外性を楽しみながらつくらせてもらっています」(中村氏)。
『宇宙』篇より。サウンドコンセプトは、ずばり"スペースオペラ"。スケール感、その先に感じる孤独感を表現することが追求された
サウンドコンセプトが確立されるまでに最も時間を要したのが、こちらの『人体』篇。「体内を描くということで、バランスを間違えるとグロテスクな描写になりそうだったので、"ビューティー"というキーワードを手がかりに、水や光といったクリアな印象を与える音色を、そして最終的に女性ボーカルを加えるかたちでまとめました」(中村氏)
前半の静謐なシーンから、後半でガラッと印象が変わる『半導体』篇。半導体の回路が規則正しく並ぶビジュアルから荘厳な神殿というキーワードが生まれ、そこから"電脳ミサ"(エレクトリカルな宗教音楽)というコンセプトにたどり着いたという。「最初に上原さんから『電脳ミサ』とお聞きしたときは、!?という感じでした(笑)。ですが、その明解なコンセプトのおかげで、比較的スムーズに楽曲をつくることができたと思います」
最後に、上原氏に本プロジェクトを総括してもらった。
「視野角を映像で埋めるという作品づくりはわれわれにとっても初めての試みでしたが、上手く実践できたと自負しています。ただ、ニコンさんとお客様のコミュニケーションの場なので、同社の製品づくりの真摯な姿勢や正確さを象徴する画づくりを心がけました。その意味では、いつかKOO-KIプレゼンツで完全に"はっちゃけた作品"もつくってみたいですね」。
2015年11月10日(火)発売予定のCGWORLD vol.208(2015年12月号)でも、本作のメイキングをより具体的に解説しているのであわせてご覧いただきたい。
TEXT_須知信行(寿像)
EDIT_沼倉有人(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充
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ニコンミュージアム
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