<2>若い才能を大抜擢〜背景美術&ルックデヴ〜
ーー世界観設定や背景などの美術デザインは、どのように進めましたか?
木綿:美術デザインは、TriFの塗壁さんとオカモトさんに一任しているんですが、制作期間や予算からもリアルな世界を描くのは難しいと判断し、デフォルメされた世界を構築してもらうことにしました。まずは、どの程度のデフォルメが許容されるのか建物から小道具に至るまで検証を重ね、パイロット映像を制作する過程で「必要以上に描き込まない」というルールが生まれてきたので、そのルールに則ってTriFさんにデフォルメ具合いをコントロールしてもらっています。TriFさんにはインターンの大学院生も在籍しているのですが、クオリティが高い上にものすごい物量を短期間で描き上げてくれるんですよ。
ーー学生さんですか!? それは末恐ろしいですね。
木綿:そうなんです。最近はデフォルメ具合いも定着してきたのでスケッチレベルで確認して問題なければ本番用の背景作業に取りかかってもらうながれになっています。とても優秀な方なので今後も多くの作品で協力してもらいたいですね。
背景デザインの例。(上)第1話に登場するレストラン「MIFUNE」店外のアートボード/(下)アートボードを下に作成されたパノラマ美術
背景デザインの例。(上)第2話の舞台となるパリ俯瞰のアートボード/(下)アートボードを下に作成された背景美術(赤枠はカメラのフレーム)
プロップデザインの例。(上)スシポリスたちが乗る「ロケット漁船」のデザイン案。最終的に右列・中段のデザインが採用された/(下)デザイン案を下に作成された「ロケット漁船」完成モデル
ーー全体的な色味やライティングなどはどのように決めてるのですか?
木綿:海外作品で見かける欧米独特の色彩感覚を取り入れたかったので、パイロットの制作時にキーとなるショットをビトに担当してもらい、色味のバランスや最終的な画の見映えなど検証をしています。日本人と外国人では瞳の色(虹彩)が異なるためなのか、暗部の色味の捉え方が異なると聞いたことがあるんですが、それで色づかいも日本人とは異なるんじゃないかと思っています。
ルックテストの例
© "SUSHI POLICE" Project Partners
第3話『メキシコの老シェフ』より。上図のルックデヴと比較すると、しっかりと本制作に継承されていることがわかる
木綿:幼少時に育った環境によって異なるとも思いますが、日本のタッチや色づかいはアニメや漫画の影響を強く受けている気もしますね。ビトくんのビジュアルを参考に制作していますが、作品全体のトーンは話数によってシチュエーションが異なるので舞台となる国や街のイメージに合わせて構成するようにしています。例えばロンドンが舞台なら「曇り空」をモチーフに描く、話数の中で色味が統一されていれば作品全体でトーンが多少異なっても問題ないと思っています。
ーーなるほど。
木綿:ライティングに関しても本来はシチュエーションごとにコンセプトアートを描くべきなんでしょうけど、時間的な制約もあるので海外作品のビジュアルを切り出して奥と手前の明度差や色の転ばし具合を参考にしてAfter Effects(以下、AE)上でライティングや全体の色味を調整いています。後処理で対応できるのが2D背景の利点ですね。3Dで背景を制作していたらこの期間で完成させるのは難しかったと思うので(汗)。
レストラン「MIFUNE」のコンセプトアート。実際の本編は、よりビビッドなルックに仕上げられているが、2D要素との親和性等を考慮したものだと推察される
© "SUSHI POLICE" Project Partners
第7話『フリー寿司運動、勃発』より。ちなみに、左図・中央がビト氏をモチーフに塗壁氏がデザインしたキャラクター