>   >  海外のCG現場は日本と何がちがうのか?〜海外就労経験アーティスト座談会〜
海外のCG現場は日本と何がちがうのか?〜海外就労経験アーティスト座談会〜

海外のCG現場は日本と何がちがうのか?〜海外就労経験アーティスト座談会〜

自分の目で海外の現場を見てほしい

菊地:あとは海外では仕事でケンカになっても、プライベートと切り離せるというのもありますね。「ああ言ったじゃん!直して!」みたいないざこざがあっても、仕事が済んだら「飲みに行こうぜ!」みたいな。

米岡:プロフェッショナリズムのちがいですよね。

菊地:仕事の進め方についての話題なのに、人格の否定につながったりすることがあるのは、日本でやっていて引っかかることですよね。これやったら嫌われちゃうかも、みたいに仕事上でも対応を切り離せずにいられると辛い。

米岡:とはいえ、日本は狭いというか、特に東京で一極集中みたいなのはあって、業界1人2人はさめば誰かにつながるから、あまり悪い印象の話を広めたくないというのもあります。

菊地:「レイオフ」も日本の「クビ」と区別されていませんが、できないから切られた、ということではなく、方針の不一致でもレイオフの対象になる。だから、レイオフされたから問題がある、実力がない、ということではない。大きな作品を動かすときに、ビッグタイトルに関わった人をたくさん雇ったけどもあまり上手くいかなくてレイオフ、という例も、会社が立ちいかなくてとかではなく、方向性のちがいを整理したかったから、ということもあるんですよね。Blizzardをレイオフされて、いまはGoogleの第一線でバリバリやっているという人もいます。幸運にも僕はこれまでつくってきたものが世に出なかったことというのがなかったんですが、少し前に関わったある作品がキャンセルになったんです。それは僕の中ではすごく大きなことで。足りないものがわかったというか、大きなプロダクションがどうやって大きな作品を終わらせるのかを見てこないといけないと思ったんです。もう一度海外に出ることにした理由のひとつです。ILMもWetaも、もっと長くいてくれと言われたけれど最初から短期間の契約にしてもらって、コアな部分をしっかり確認して、次にそのキャンセルになった作品のような案件が来たときに、どうやってそれを活かすかという準備をしている感じです。

米岡:海外には行った方がいいと思いますね。やはり、自分で見るのは全然ちがう。セミナーに行って「あー、海外ってそうなんだー」も、いいですが。やはりそれでは自分が変わることはない。

鈴木:そうですね、実際に手の速さを見ると、インパクトが全然ちがう。

米岡:Scanlineに行きたいという人がいたら、僕はぜひ行くように言っています。圧倒的なスピードでエフェクトをさばいていく様子を見てほしい。仕事のぶっ込まれ方も半端ないですけどね。かといって、血反吐を吐くような状況でもない。日本と海外で何がちがうんだろうという疑問の、何がわかっていないのかがわからない、みたいなもののうち自分が咀嚼できた部分をもって帰ってきて、それをステルスワークスで取り入れていっている感じです。

鈴木:日本に一流はたくさんいるんですけど、超一流はほんの少ししかいないんですよね。BlizzardにVitaly Bulgarov(※4)というウルトラ超一流のアーティストがいて、その人には「生まれ変わっても勝てないな」と思いました。まず「この形状は何分」「これは何分」と分刻みで作業を見積もるんですよね。1日でどれくらいまでいける、とかじゃない。さらに、ハワイにバカンスに行って、何をするかというとずっと籠もってモデリング。「1日1個モデル作るんだ」って。

※4 Vitaly Bulgarov/ヴィタリー・ブルガロフ
コンセプトアーティスト。ドリームワークス、Blizzard Entertainment、ILMなどを経て独立し、現在Black Sky SymmetryのCEOを務める
http://www.bulgarov.com/

米岡:僕の中でのひとつの結論としては、「クオリティ」って「スピード」なんですよね。田島くんもそうですけど、異常に速い。短くやろうが長くやろうが経験値「1」入るとしたら、断然速い方がたくさん経験値を貯められますよね。Scanlineは、そういう経験値を死ぬほど貯め込んでいる人の集団なんだなと思います。僕も日本に戻ってきてからはスピード命で、一切の無駄を省いて取り組んでいます。

鈴木:Blizzardでは、この人のこういうところみたいんだけどと連絡したら、そのための時間を取ってくれるメンターシップという制度がありました。で、Vitalyの作業を見せてもらったんです。そしたら彼は、操縦桿を作れというオーダーを受けて、まず人間の骨盤を検索したんですよ。それをイメージソースにしてつくり始めた。もう、そういうところからちがってくると思いました。その後自分もビルを作れといわれたとき、スーパーをうろうろしていて「あ、ドライヤーを使えるな」って思ったときに、超一流に発想の仕方を学ぶのって全然ちがうなって感じましたね。

米岡:エフェクトも同様で、やっぱり普通につくると普通になるんですよね。自分も『ヤマト』のエフェクトをつくるときに、いつも通りフラクタルを乗せて、とやっていたんですが、よくある感じから抜け出せない。あるときふと、ミクロのものとマクロのものが似通ってくる、みたいなところから、脳の神経細胞のニューロンの配置と宇宙の銀河や星の配置が似てるな、と発想が飛んで。巨大な爆発なんだけどビー玉やボーリング玉を意識しつつ、最終的にはクロレラのような藻のようなものをテクスチャに使って、今までよく見てきた爆発表現から外れたものを出せました。

鈴木:普通じゃないところからもってこないとですよね。

米岡:王道みたいなところから一旦外れてみるのが大事ですね。

菊地:Vitalyもきっと、「操縦桿」で検索して出てくるようなものは、もう何も見ずに作れるレベルなんですよね。そういう超一流に会えるチャンスがあるかどうかという点では、海外の方がある。大きなプロダクションはそもそもそういう人材が集まる可能性がより高いわけですから。

米岡:PIXOMONDOはエフェクトも合成も飛び抜けている印象がありますが、行ってみてびっくりしたのが、ワークステーションが意外と低スペックなんです。それであのすごい画が出てくるのかというのが驚きで、ならひょっとしてすごいインハウスツールがあるのかと気にしていたら、そうではなくて、とにかくオプティマイズ(最適化)を極限まで突き詰めた結果だった。え?そういうこと?って。ハリウッドの画づくりは足し算なんですよね。と同時に、これくらいのハードウェアスペックがあればあのレベルのものができるんだと思うことができました。それで、自宅でもできると気づいたんです。そうして完成したのが怪獣のR&D。

菊地:誰かが担当して100点の画がぼーんと出てくるわけじゃなくて、80点の画づくりを大量に持ち寄って500点にする。そのために無駄なくつくる方法というのがあって、それを見てしまうと、いままで自分がいかにいろいろな無駄をしていたか気づける。どこに無駄があるかというのは、無駄してみないと気付けないんですよね。

米岡:ワークフローの改善とパイプラインを活かして、力技でねじ込む。徹底的に合理化によって画をつくるんだというのがわかったのは大きかった。オプティマイズを徹底して、無駄を排除すれば。

菊地:以前、流体の解像度はどうやって決めるのがいいかという話題があって。一番簡単なのは、ボクセル1つ分の大きさに合わせたキューブをシーンに置いて、それがどう見えるか、から逆算することかなと。重要なのはそうして適正かどうかを判定しておかないと、気づかずにオーバーに作り込んでしまうところも出てきたりして、無駄も増えるということ。

米岡:日本に戻って、うちのエフェクトチームを見てくれとお声がかかって見に行くと、やはりいろいろなところに無駄がある。もっと楽に仕事できるはずなんです。あとは、もっと人も自由に移っていいのかなと思いますね。

菊地:それはありますね。もっと流動性を高めた方がいいんじゃないかなと。

米岡:国内は今小さい会社がどんどん増えていて、1箇所に戦力が集まっていないとできない案件というのに対してコントロールしづらい状態です。外注さんとのやりとりでロスが大きくなりすぎる。

菊地:同じプロジェクトをやるなら、顔を突き合わせてやりたいですよね。

米岡:そうなんです。お互いのスピード感が釣り合っていなければフラストレーションがたまりますし。

今後について

CGW:最後に、今後の活動についてお聞かせください。

鈴木:僕は、国内で活動しながら、Blizzardで働いていた人たちと同じレベルの仕事をする、というところを目指していきたいですね。

菊地:場所にはこだわりがなくて、今はたまたま日本にいる時期ですが、また海外に行くこともあるでしょうし、何をやるかを重視しています。最初の方でもお話しましたが、自分がいい画を出していくというよりは、チームとしてのアウトプットをいかによくできるかに興味があります。

米岡:会社を誰かに任せられるようになったら、もう会社は渡して、『パシフィック・リム2』の話が来たらパッと参加できるようにしておきたいですね(笑)。今はとにかくアジアの勢いがすごい。日本のVFXと同等かそれ以上のものがどんどん出てきています。自分はそこにフォーカスしていて、日本から世に出ても恥ずかしくないものがコンスタントに出ていかないと、しぼんでいくだけなので。国内でも『2012』みたいなエフェクトをやれないと、という思いが以前からあるんですが、そのあたりはそろそろ足がかりができてきたと感じています。

菊地:日本にいようが海外にいようが、いかにエッジに立てるかですね。




  • 月刊CGWORLD + digital video vol.216(2016年8月号)
    第1特集 映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』
    第2特集 CGWORLD白書 2016

    定価:2,268円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2016年7月9日
    ASIN:B01G5SQRNE

Profileプロフィール

菊池 蓮/Ren Kikuchi<br />米岡 馨/Kei Yoneoka<br />鈴木卓矢/Takuya Suzuki

菊池 蓮/Ren Kikuchi
米岡 馨/Kei Yoneoka
鈴木卓矢/Takuya Suzuki

(左)菊池 蓮/Ren Kikuchi
(中)米岡 馨/Kei Yoneoka
(右)鈴木卓矢/Takuya Suzuki

スペシャルインタビュー