毎年CGWORLD7月発売号で年次企画として実施している「CGWORLD白書」でおなじみのアーティスト座談会。今回は、海外プロダクションでの就労経験を経て帰国後も活躍されているお三方に、海外と日本での働き方のちがいやご自身の環境による働き方の変化などを語っていただきました。


※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 216(2016年8月号)からの転載となります

構成_ks
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura、山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

ロケーション協力_Creative Lounge MOV
東京都渋谷区渋谷2-21-1
渋谷ヒカリエ8 階 8/(ハチ)
www.shibuyamov.com

CGを始めてから現在までのキャリア

CGW:さっそくですが、これまでのキャリアをお伺いします。

米岡:僕が最初にCGに触れる機会があったのは、大学時代の「メディアアート」の授業のときです。そこで初めてCGというものを見て、やってみたいなと。卒業してからは笹原組(※1)に参加して、アニマアニマロイドデジタル・メディア・ラボオムニバス・ジャパンオキシボットと、基本的にはフリーランスとして様々な会社に携わりました。それから2011年に海外に渡って、ドイツのPIXOMONDO、カナダのScanlineVFXで勤務し、一昨年の7月に日本に戻ってきて、エフェクト専門の会社「ステルスワークス」を起ち上げました。基本的にはずっとエフェクトでやってきています。

※ 1:笹原組
現・ILCA所属の笹原和也氏が1997年に起ち上げたCGプロダクション。その後2002年に株式会社アニマに名称変更され現在にいたる

  • 米岡 馨(よねおか けい)
    アニマ、アニマロイド、デジタル・メディア・ラボ、オムニバス・ジャパン、オキシボット等の日本国内のプロダクションを数社経た後PIXOMONDO のベルリン支社、ScanlineVFX のバンクーバー支社と海外でハリウッド作品のエフェクトを数多く手がける。帰国後の現在は、自身が起ち上げたエフェクト専門会社ステルスワークスの代表を務める
    Twitter:@Keiyoneoka
    vimeo.com/100568414

菊地:CGを始めたのは97年か98年頃ですね。高卒で、小さなTV番組のCGを請け負う会社で1年半くらい働いて、その後ちゃんと勉強をしたいと思ってカナダの大学へ留学しました。で、4年間勉強して卒業後、スクウェア(現スクウェア・エニックス)のヴィジュアル・ワークスに4年半在籍しました。それからBlizzard Entertainment(以下、Blizzard)に6年間、日本に戻ってマーザ・アニメーションプラネット、その後ILMWeta Digital、という感じです。今は国内でフリーランスでやっています。エフェクトがメインですが、パイプラインやレンダリングまわりのテクニカル・ディレクター(TD)的な働き方もしています。

  • 菊地 蓮(きくち れん)
    カナダ・オンタリオ州のシェリダンカレッジを卒業後、日本のゲーム会社のムービー部門での勤務を経て、米Blizzard Entertainment のCinematics Division にて数々のゲームムービーの制作に携わる。その後は日本のマーザ・アニメーションプラネット、米サンフランシスコのIndustrial Light & Magic、ニュージーランドのWeta Digital にてSenior Effects Technical Director として大規模映画のVFX やフルCG 映画に参加。主にHoudini を使用してのショットデベロップメントおよびエフェクトアセット作成に携わる。現在はフリーランスのエフェクトアーティスト、およびテクニカルコンサルタントとして活動中

鈴木:僕は大学と並行してCGの専門学校に通ってMayaを習得し、大学卒業後にスクウェアに入りました。もともと海外志向があったので、ちょうど『ファイナルファンタジーXIII』が終わったところでタイミング良くBlizzardへ。で、ビザ更新のタイミングと子どものこともあって帰国し、今は株式会社フォトン・アーツのスーパーバイザーとフリーランスの2足のわらじでやらせていただいています。

  • 鈴木卓矢(すずき たくや)
    1980 年生まれ。大学卒業後、スクウェア ヴィジュアル・ワークスに入社。その後、アメリカに渡りBlizzard Entertainment のCinematics Division にてシニアアーティストとして背景のデザインからモデリングまでを担当。2014 年に活動の場を日本に移し、現在は都内のCG 制作会社PhotonArts にてエンヴァイロメント&プロップスの モデリングスーパーバイザーとして勤務。自身のさらなるスキルアップのためにフリーランス の背景モデラーとしても実写、フルCG、アニメなど幅広く活動中
    photonarts.co.jp

CGW:米岡さんは一昨年に帰国されて、ステルスワークスを起ち上げられたのはいつ頃でしたか?

米岡:2015年の6月9日ですね。ちょうど1周年になります。

菊地:おめでとうございます!

米岡:ありがとうございます。去年は子どもも生まれ、会社も起ち上げといろいろ大変でしたが、充実した日々を送らせていただいています。

鈴木:菊地さんはTD的な動きもされるとのことでしたが、米岡さんはTDのくくりになるんですか?

米岡:一応TDではありますが、アーティスト業も多いです。菊地さんみたいにプログラムに強いわけではないですね。

鈴木:じゃあ、菊地さんと米岡さんは同じエフェクトでもちょっとフィールドがちがってくるわけですね。

菊地:そうですね。あとはソフトもちがいます。米岡さんは3ds Maxですが、僕はHoudiniです。

海外を目指したきっかけ

CGW:海外で働くことを志したきっかけをお聞かせください。

鈴木:そもそも初めてCGというものを意識したのがハリウッド映画だったんですね。なので、そういう作品を作りたければハリウッドに行くしかない! という思いからでした。スクウェアに就職したときも、できればホノルルスタジオ(※2)に行きたかった。国内 の会社で最も海外に近い現場だと思ったので。

※ 2:ホノルルスタジオ
スクウェアUSA ホノルルスタジオ。1997年~ 2002年まで、映画『ファイナルファンタジー』(2001)の制作を主な目的としてハワイ・ホノルルに構えられていたスクウェアの拠点。出身者には現在も第一線で活躍するクリエイターが多い

菊地:まったく同じパターンですね(笑)。カナダの大学にいた当時はアメリカの会社に就職したかったのですが、カナダ人の同級生たちはどんどん就職先を決めていくのに、自分はアメリカのビザがないためなかなか見つからない。で、日本に戻るにしても最も海外に近そうなヴィジュアル・ワークスを目指しました。

米岡:実写の映画案件に参加したとき、まさに寝る間もないようなハードさだったんです。そこまで追い込んでやっているのに、クオリティは一向に上がらない。ついつい海外の作品と比べては、海外はなぜこんなにクオリティが高いの? と疑問に思っていました。それを知るにはもう向こうで働くしかないなと考えて、3年くらいかけて英語を勉強しました。その後SIGGRAPHに出かけてPIXOMONDOの求人ブースに応募しました。運よく引っかかったものの、そのときはインタビュー(面接)で落とされてしまって。ただそれから1~2年経って、今度は向こうからお声がかかって、行くことに決まったんです。

鈴木:米岡さんはどの段階でエフェクトに絞ったんですか?

米岡:以前はゼネラリストだったんですが、SIGGRAPHで当時CafeFXでマットペインターをされていた佐々木 稔さん(※3)にリールを観てもらう機会があって。そのときに、エフェクトを観た佐々木さんが「米岡さん、エフェクト1本に絞った方がいいんじゃないの?」って。

※ 3:佐々木 稔さん
Digital Domain 3.0 のデジタル・エンヴァイロメント・リード

菊地:それは、エフェクトだけ突出していたということですか?

米岡:いえ、自分の中ではモデリングもエフェクトも同じくらいの水準だと思っていたんですが。先日ふと思い出してそのことを佐々木さんに聞いてみたら「エフェクトは楽しんで作っているのがわかる」とのことでした。一方でゼネラリスト時代の経験が活きることも多々あって。背景もやっていたというのが特に効いていますね。

鈴木:なるほど、「破壊といえば米岡さん」という印象がありますが、確かに破壊エフェクトは背景との絡みが重要ですからね。

米岡:建物のアセットといえばこうあるべき、というのを把握できているので、大きめの破壊案件が来たときに「こういう作り方でやってください」という指示を出しやすい。そうすると、4社、5社と外注さんに出していても、上がってくるものの構造が同じになるので、こちらは1つのアセットでどんな建物でも破壊できる。いろいろな人がいろいろな作り方で上げてきたら、それぞれにチューニングして処理しないといけないですからね。

鈴木:僕は『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』を観たときから「背景でいこう!」と決めていました。キャラクターモデリングは競争率も高いしダメだなと思って、となるとマットペイントか背景アセットになるんですが、マットペイントとなると相当絵が描けないといけないですからね。

菊地:僕は、もともと映画学科の撮影専攻でした。照明やフィルムを学んでいて、いずれはセットで働きたいな、と思いつつCGの勉強もしていたところ、CGをやっているクラスメイトが「エフェクトが一番金になる!」と。「人が足りないし、単価が高くて、ハリウッドでやるならエフェクトだ!」と言っていたんです。それからエフェクトを意識し出したんですが、教えてくれる人が周囲に多かったし、なんだか肌に合ったんですよね。ド文系なんで逆にスクリプトとかできると楽しくなっちゃって(笑)。そういう意味では、自分には「オレがすごいショットを作るんだ!」みたいな欲はないかもしれません。Blizzardでもパイプライン周りを担当していたんですが、要はパッケージとしてお膳立てして、上手く回って最終的に良いものができたらいいなと。

米岡:確かに、「すごいものを出さなきゃ」という感覚もありますが、会社を作って考え方が変わったかもしれないですね。今はステルスワークスから「米岡」というイメージを薄めさせたい、と思っています。組織として良いものを出せていれば、必ずしも常に自分が前に立つ必要もないんじゃないかって。最近はリードに近いスタッフにもフロントに立ってもらっています。

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環境と年齢がもたらす
働き方の変化

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環境と年齢がもたらす
働き方の変化

  • 「海外のレベルの高いワークフローを日本で実践できれば」(米岡 馨)

米岡:日本に帰ってきて「働きやすくなった? 働きにくくなった?」とよく聞かれるんですが、クライアントも年を取ったのか、落ち着いたような印象はありますね。

菊地:成熟したのかなと思いますよね。変に体育会系みたいなところも和らいできたという点では働きやすくなっていると思います。

米岡:CM制作をやっていたときは、とにかく「パターン出し」が多かったですね。千本ノック。選ぶ側は実際に目で見て気に入ったものを選べば良いのでスムーズかもしれませんが、出す側は何日も徹夜して取り組んで、すり減っちゃう。昔はそういったことが横行していましたけど、最近はスケジュールこそきつくなったとはいえ、そのぶん「二本ノック」くらいになった感はあります。「どちらがいいですか?」「じゃ、こっちで」という。元同僚に聞いても、スケジュールは短くなったけど、楽にはなったと。

菊地:一律「楽になった」とは聞きますよね。Blizzardも、今は天国のような制作環境と言われていますが、僕が入った当時は労働時間だけで言えばブラックでしたからね(笑)。

米岡:どうしても海外ってクリーンなイメージですけど、自分がPIXOMONDOやScanlineで働いた感覚だと、業務としてのハードさは日本とあんまり変わらないなという部分はありましたね。3ds Max使いの最高峰集団であるScanlineに行って、やはりダメなところは日本と同じでダメだなと(笑)。ただし、バカンスは絶対取る。

菊地:確かに海外はどこでもそうでしたね。休みを申請したら、マネージャーがそれを考慮してどう業務をふり分けるかという動き方をする。

米岡:僕が移籍した当時、Scanlineは伸び盛りでイケイケでした。そういうところはやはりどこかで無理をする。ごくたまにですが、23時とか、朝の4時までとか、働いたりするんです。忙しくないときは一般的な海外の会社なんですが、忙しいときの詰め込まれ方が尋常じゃない。そして重要なのが、標準的な業務時間8時間で結果を出すスピードがものすごいんです。アーティストにはかなりスペックの高いマシンが割り当てられて、3ds Maxを5~6個、RealFlowを10個くらい起ち上げて作業していましたね。

菊地:エフェクトは純粋に待ち時間が長いのもあって、そうなりますよね。ただ、個人的には並行するなら3ショットくらいかな。それを超えてくると破綻してくる感じがちょっとあります。

米岡:以前勤めていた会社の同僚と話すと「あの頃は無茶苦茶だったねー」という話題になるんですよね。でも、当時突き詰めてやったからこそ今やれている部分もあるという話にもなる。クオリティも効率も海外だからとは思わずに、海外のレベルの高いワークフローを日本でも実践できればと思いますね。パイプラインは持ち込めないけれど、今は「Scanlineメソッド」というかたちで取り組んでいて、ばっちりフィットしてやれています。

菊地:個人的には、忙しいことよりも「終わりが見えない」のが嫌ですね。忙しいのが嫌かというとそういうことは全然なくて、どこまで進めたら休める、というのが見えないのはすごく消耗します。

米岡:自分も子どもができて、昔みたいな働き方はできないので、ここぞというときにガっと仕事をして、9時とか10時に会社行って17時には帰って、ご飯や風呂の準備、というのをやれないと意味がないなと気づいたんです。そして、やってみると意外とやれるなって。

鈴木:僕も今は9時に会社に行って18時に帰って、子どもと遊んで、子どもを寝かしつけつつ一緒に21時くらいに寝ちゃって、4時に起きて、フリーランスの方の仕事をして、9時に出社という感じです。会社の方では後進の育成がメインになっていて、やはり教えるだけでは自分が伸びないので、並行してフリーの仕事もやらせてもらっています。

米岡:それまでヤバいヤバいといくら思っても変えられなかった仕事のやり方が、子どもができてしまうとそれに半強制的に合わせないといけなくなって、不思議と変えられるんですよね。

鈴木:僕はBlizzardに行ったのが良かったと思いますね。Blizzardに入ったばかりのころ、ある日18時ごろに「ここを直しておいて」とチェックバックがあって、そのまま修正作業をして19時半ごろに相手に見せにいったんですよね。そうしたら、帰ってた(笑)。すぐ使うかと思ったのに! と、日本の感覚が抜けていない僕は思ってしまったんですが、向こうは「忘れないうちに言っとこう」くらいの感覚だったんですよね。

菊地:一方で、アーティストのメンタリティというところでは、日本も海外も同じなのかなと思いますね。Blizzardでも、エフェクトリードをやるにあたって、すごく厳しく言われたんですよ。「オーバータイム、これくらいしか取ってないから、絶対収まるように割り振ってね」って。それでもアーティストはついつい突っ込んでやっちゃいますから、割り振る側が気をつけないといけない。

鈴木:画づくりに関して言えば、日本は「どのショットも100にしようとする」というのはありますよね。指示出しについても、「ここをこうしてください」と言うだけで、どこがどう悪いからそういう指示なのかという説明はなかったりする。解き方を伝えていないために、答えに対して遠回りになることが多いですよね。日本に帰ってきて、教えるときに気をつけているのは、できるだけ解き方を教えるようにすること。Blizzardでもそうしていたのですが、そうすると7割までは誰でもいけるので、後はアートディレクターと直接やりとりしてくださいと言えるんですよね。

米岡:自分も若い子に教えるときは、ソフトのオペレーションもそうなんですが、「何が足りないとリアルにならないか」を教えるようにしています。それはどちらかというと、オペレーションよりライフスタイルを変えてもらうのに近い。通勤中にも窓ガラスの質感を観察するとか、そういう過ごし方を少し変えるだけで、本当に数ヶ月でも差が出てくる。

鈴木:結局日本のアーティストは、海外と比べてもクオリティにそう差はないと思うんですよ。でも、ありがちなのは「CGに対するストーリー」がないということ。オペレーターに近いですよね。

米岡:やはり学校出たてとかだとオペレーションで手一杯な部分もあって、「温度が高いと物質はどうなる」みたいな根本の部分まで気持ちがいかない。

菊地:いい画には理屈があるんですよね。マテリアルやレンダリングでも、値を変えるのには理由が必要。数字を打つときに根拠がないと、いつまで経っても同じところから脱せない。

鈴木:「ビルを上手に造るヤツは山ほどいるけど、瓦礫を上手くつくるヤツはなかなかいない」という話があるんです。要するに、本当に吹き飛んだ瓦礫にはどこかしら隙間があるはずなんですが、ついつい怖くて埋めちゃうという。

菊地:そこがまさにストーリーってことですよね。

米岡:後輩や若い子には「一日中仕事のことを考えなくてもいいけど、仕事以外でもCGのことを考えろ」と言うようにしています。僕たちが若かったころ、めちゃくちゃ大変ではあったんですが、時期的には「こんなん働き方してたらダメだよね」という人が出はじめたころでもあります。印象深いのは、そういう時期にがっつり詰め込まれた人は後で頭角を現してくるのですが、ワークライフバランスを意識して完全に切り分けた人は、だんだんダメになっていったんですよね。勉強したり、アンテナを張ったり、それだけで腕はキープできるんですが、それすらやらずにプライベートと分けてしまった人は、やはり伸びてない。

鈴木:そのあたりは、教わった人にもよるのかなと思います。

菊地:確かに人を見るのは大事だと思います。国内に戻ってからまたILMへ出るとき、考えていたのは「もう一度すごい人たちを見に行きたいな」ということ。だから、ILMも本拠地のサンフランシスコ以外には行かないと決めていて、めでたく通ったんですが、やはりすごい人がたくさんいましたね。まず眼がいい。的確で、何を見るべきかわかっている。さっき「根拠」の話がありましたが、ILMにはフルイドダイナミクスの第一人者がいるんですね。その人はHoudiniは使っていないんですが、そこに使われている技術や理論を全て理解している。で、「ここにこういうパラメータがあるはずで、それをこうするとこうなるから」とアドバイスをもらって、実際やると言われた通りになるんですよね。ツールは関係ないんだなと実感しました。ディレクターでもVFXスーパーバイザーでも同じような感じで、2~3回見て「ここを少し暗く」とか一直線の指示が返ってくる。その究極がスピルバーグ。「OK、1/4EV絞ったら俺のほしい画になるから。見せなくていいよ、パブリッシュ」って。

一同:(感嘆)

鈴木:ちょっと細く、ではなくて「25%ダウン」といった、指示出しの的確さは確かに大きいですよね。

菊地:そうそう。ちょっと遅くではなくて10%遅く、とか。

米岡:指示が曖昧だと、「この人、指示を出す側でもちょっと迷ってるな」と思いますよね。

  • 「説得力のある画をつくるには"CGに対するストーリー"を意識することが大切」(鈴木卓矢)

  • 『KINGSGLAIVE FINALFANTASYXV』
    7 月9 日(土)公開(フォトン・アーツとして、モデリングほか複数セクションで参加)。
    kingsglaive-jp.com
    © 2016 SQUARE ENIX CO., LTD.All Rights Reserved.
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    photonarts.co.jp
    cgworld.jp/stdatabase/30226.html

海外で目の当たりにした 日本とのちがい

米岡:PIXOMONDOでもScanlineでも、日本と全然ちがうなと思ったのが、ヒーローショットをやるときに、アーティストが寄ってたかって何人もでつくるって決まってるんですよね。『SPACE BATTLESHIP ヤマト』のときは、自分ひとりで完結するようなやり方で進めていたんですが、PIXOMONDOに行って最初の大きな気づきは、「とにかくエレメントを分ける」ということ。「この煙は誰」「火花は誰」と細かく分けていく。そうすると何がいいかというと、画面を構成する要素が洗い出せるし、ひとりひとりは担当の要素に集中できる、作業が並列で進められる。日本ではそれができないということではなくて、そういうメンタリティがなかった。自分がPIXOMONDOやScanlineで、「なるほど、ヒーローショットはこうやって仕上げていくんだ」と、様々な人が関わって、要素を足していくんだというのを目の当たりにしてきた。今自分は日本でそれを実践していて、ベースのつくりは同じにして誰かがつくったベースを基にシームレスにつながるようにワークフローを組んでいます。このやり方、考え方を統一してやったら、作業効率が格段に上がって、自分の時間も確保できたし、最終的なクオリティも上がった。海外のやり方を採り入れてよかったなと思います。

菊地:自分はゲームムービーから入ったのが良かったかなと思いますね。ワンショットをひとりで担当するところは米岡さんと逆なんですけど。それによって、自分で何でもできるようになったし、まんべんなくやり方を覚えることができた。その点は日本の良さでもあって、やらせてあげちゃうという気概がある。それはすなわち、ガイドラインがないという悪さでもあるけれど。いろいろ習得していると、それは海外でも活きる、むしろ重宝される。水のスペシャリスト、炎のスペシャリストはいるけど、あれもこれもを適度にできる人というのは、海外ではむしろ珍しいので。

米岡:Scanlineで『300』に参加したとき、血しぶきをリアルに表現しないといけなかったんです。ScanlineにはFlowlineというインハウスの流体ソフトがあって、それを使えばさぞかし良いものができるんだろうなと思っていたんですが、あれはラージスケール用で、血しぶきのようなエリアの限定される表現には向いていなかった。結局、かつて日本で『少林少女』の足払いの水しぶきで使ったRealFlowの簡単なしくみで、言ってみれば誰でもできるようなやり方でやったんです。それを使って出したら「あ、いいじゃん」って。そのときは不本意ながら血しぶき専門になってしまいました(笑)。でも後でプロデューサーから「ザック・シュナイダー監督がKeiの作った血しぶき超気に入ってたよ」と言われて苦労が報われました。それでも血しぶきよりも派手な破壊エフェクトをやりたかった気持ちは変わりませんが(苦笑)。

一同:(笑)

菊地:ゼネラリストの時代というのが来てるなと感じます。いろいろできて、プラス「メインで何か」という習熟の仕方というか。

鈴木:超一流とはちがうけど、一流のこれと二流のそれ、その合わせ技で「ないもの」をつくっていける人。ただいろいろできる難しさというものもあって、「モデリングできます」「加えてデザインもできます」というアピールで仕事をするときに、デザインの方の工数取っちゃっていいのかなと。

菊地:そこは、取るべきなんじゃないですか? でも確かに、悩ましいところだと思います。僕は最近コンサルとしての仕事もあるのですが、実務的にはあんまり時間を使わないのに、お金はちゃんと請求するのか、という葛藤があります。今までは、時間分の成果を出して金額を求めてきたので、そうではない業務のときに、自分の単価をどのあたりに設定するべきなのかなと。

鈴木:エフェクトは、形のわからないものをつくるから、見積もるのは難しくないですか? エフェクトはそのあたりセンスがいるなと思います。

菊地:そこは「終わらせる」という意識が大事ですね。6〜7割のところまではすぐ進めるんですよ。で、「最悪ここまで進めていれば納品できるよね」というところまでたどり着いて、そこから細かいところを詰めたり改良を進めたりする。

米岡:見積もりという部分では、確かにエフェクトは気を遣うんですよね。「背景やっててよかった」の話にもつながるんですが、「つくるもの決まったからこれでお願いします」みたいなのは一番苦しいんですよね。企画の段階から呼んでくれるよう機会があるごとに言うようにしています。こういうのは大変ですよとか、アニメーターやモデラーにどういうかたちで上げてもらうのがベストかといった段取りを伝えたりとか、そういう根回しをしておかないと工数を絞れないんですよね。

  • 「アーティストのメンタリティは日本も海外も同じ」(菊地 蓮)

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自分の目で海外の現場を見てほしい

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自分の目で海外の現場を見てほしい

菊地:あとは海外では仕事でケンカになっても、プライベートと切り離せるというのもありますね。「ああ言ったじゃん!直して!」みたいないざこざがあっても、仕事が済んだら「飲みに行こうぜ!」みたいな。

米岡:プロフェッショナリズムのちがいですよね。

菊地:仕事の進め方についての話題なのに、人格の否定につながったりすることがあるのは、日本でやっていて引っかかることですよね。これやったら嫌われちゃうかも、みたいに仕事上でも対応を切り離せずにいられると辛い。

米岡:とはいえ、日本は狭いというか、特に東京で一極集中みたいなのはあって、業界1人2人はさめば誰かにつながるから、あまり悪い印象の話を広めたくないというのもあります。

菊地:「レイオフ」も日本の「クビ」と区別されていませんが、できないから切られた、ということではなく、方針の不一致でもレイオフの対象になる。だから、レイオフされたから問題がある、実力がない、ということではない。大きな作品を動かすときに、ビッグタイトルに関わった人をたくさん雇ったけどもあまり上手くいかなくてレイオフ、という例も、会社が立ちいかなくてとかではなく、方向性のちがいを整理したかったから、ということもあるんですよね。Blizzardをレイオフされて、いまはGoogleの第一線でバリバリやっているという人もいます。幸運にも僕はこれまでつくってきたものが世に出なかったことというのがなかったんですが、少し前に関わったある作品がキャンセルになったんです。それは僕の中ではすごく大きなことで。足りないものがわかったというか、大きなプロダクションがどうやって大きな作品を終わらせるのかを見てこないといけないと思ったんです。もう一度海外に出ることにした理由のひとつです。ILMもWetaも、もっと長くいてくれと言われたけれど最初から短期間の契約にしてもらって、コアな部分をしっかり確認して、次にそのキャンセルになった作品のような案件が来たときに、どうやってそれを活かすかという準備をしている感じです。

米岡:海外には行った方がいいと思いますね。やはり、自分で見るのは全然ちがう。セミナーに行って「あー、海外ってそうなんだー」も、いいですが。やはりそれでは自分が変わることはない。

鈴木:そうですね、実際に手の速さを見ると、インパクトが全然ちがう。

米岡:Scanlineに行きたいという人がいたら、僕はぜひ行くように言っています。圧倒的なスピードでエフェクトをさばいていく様子を見てほしい。仕事のぶっ込まれ方も半端ないですけどね。かといって、血反吐を吐くような状況でもない。日本と海外で何がちがうんだろうという疑問の、何がわかっていないのかがわからない、みたいなもののうち自分が咀嚼できた部分をもって帰ってきて、それをステルスワークスで取り入れていっている感じです。

鈴木:日本に一流はたくさんいるんですけど、超一流はほんの少ししかいないんですよね。BlizzardにVitaly Bulgarov(※4)というウルトラ超一流のアーティストがいて、その人には「生まれ変わっても勝てないな」と思いました。まず「この形状は何分」「これは何分」と分刻みで作業を見積もるんですよね。1日でどれくらいまでいける、とかじゃない。さらに、ハワイにバカンスに行って、何をするかというとずっと籠もってモデリング。「1日1個モデル作るんだ」って。

※4 Vitaly Bulgarov/ヴィタリー・ブルガロフ
コンセプトアーティスト。ドリームワークス、Blizzard Entertainment、ILMなどを経て独立し、現在Black Sky SymmetryのCEOを務める
http://www.bulgarov.com/

米岡:僕の中でのひとつの結論としては、「クオリティ」って「スピード」なんですよね。田島くんもそうですけど、異常に速い。短くやろうが長くやろうが経験値「1」入るとしたら、断然速い方がたくさん経験値を貯められますよね。Scanlineは、そういう経験値を死ぬほど貯め込んでいる人の集団なんだなと思います。僕も日本に戻ってきてからはスピード命で、一切の無駄を省いて取り組んでいます。

鈴木:Blizzardでは、この人のこういうところみたいんだけどと連絡したら、そのための時間を取ってくれるメンターシップという制度がありました。で、Vitalyの作業を見せてもらったんです。そしたら彼は、操縦桿を作れというオーダーを受けて、まず人間の骨盤を検索したんですよ。それをイメージソースにしてつくり始めた。もう、そういうところからちがってくると思いました。その後自分もビルを作れといわれたとき、スーパーをうろうろしていて「あ、ドライヤーを使えるな」って思ったときに、超一流に発想の仕方を学ぶのって全然ちがうなって感じましたね。

米岡:エフェクトも同様で、やっぱり普通につくると普通になるんですよね。自分も『ヤマト』のエフェクトをつくるときに、いつも通りフラクタルを乗せて、とやっていたんですが、よくある感じから抜け出せない。あるときふと、ミクロのものとマクロのものが似通ってくる、みたいなところから、脳の神経細胞のニューロンの配置と宇宙の銀河や星の配置が似てるな、と発想が飛んで。巨大な爆発なんだけどビー玉やボーリング玉を意識しつつ、最終的にはクロレラのような藻のようなものをテクスチャに使って、今までよく見てきた爆発表現から外れたものを出せました。

鈴木:普通じゃないところからもってこないとですよね。

米岡:王道みたいなところから一旦外れてみるのが大事ですね。

菊地:Vitalyもきっと、「操縦桿」で検索して出てくるようなものは、もう何も見ずに作れるレベルなんですよね。そういう超一流に会えるチャンスがあるかどうかという点では、海外の方がある。大きなプロダクションはそもそもそういう人材が集まる可能性がより高いわけですから。

米岡:PIXOMONDOはエフェクトも合成も飛び抜けている印象がありますが、行ってみてびっくりしたのが、ワークステーションが意外と低スペックなんです。それであのすごい画が出てくるのかというのが驚きで、ならひょっとしてすごいインハウスツールがあるのかと気にしていたら、そうではなくて、とにかくオプティマイズ(最適化)を極限まで突き詰めた結果だった。え?そういうこと?って。ハリウッドの画づくりは足し算なんですよね。と同時に、これくらいのハードウェアスペックがあればあのレベルのものができるんだと思うことができました。それで、自宅でもできると気づいたんです。そうして完成したのが怪獣のR&D。

菊地:誰かが担当して100点の画がぼーんと出てくるわけじゃなくて、80点の画づくりを大量に持ち寄って500点にする。そのために無駄なくつくる方法というのがあって、それを見てしまうと、いままで自分がいかにいろいろな無駄をしていたか気づける。どこに無駄があるかというのは、無駄してみないと気付けないんですよね。

米岡:ワークフローの改善とパイプラインを活かして、力技でねじ込む。徹底的に合理化によって画をつくるんだというのがわかったのは大きかった。オプティマイズを徹底して、無駄を排除すれば。

菊地:以前、流体の解像度はどうやって決めるのがいいかという話題があって。一番簡単なのは、ボクセル1つ分の大きさに合わせたキューブをシーンに置いて、それがどう見えるか、から逆算することかなと。重要なのはそうして適正かどうかを判定しておかないと、気づかずにオーバーに作り込んでしまうところも出てきたりして、無駄も増えるということ。

米岡:日本に戻って、うちのエフェクトチームを見てくれとお声がかかって見に行くと、やはりいろいろなところに無駄がある。もっと楽に仕事できるはずなんです。あとは、もっと人も自由に移っていいのかなと思いますね。

菊地:それはありますね。もっと流動性を高めた方がいいんじゃないかなと。

米岡:国内は今小さい会社がどんどん増えていて、1箇所に戦力が集まっていないとできない案件というのに対してコントロールしづらい状態です。外注さんとのやりとりでロスが大きくなりすぎる。

菊地:同じプロジェクトをやるなら、顔を突き合わせてやりたいですよね。

米岡:そうなんです。お互いのスピード感が釣り合っていなければフラストレーションがたまりますし。

今後について

CGW:最後に、今後の活動についてお聞かせください。

鈴木:僕は、国内で活動しながら、Blizzardで働いていた人たちと同じレベルの仕事をする、というところを目指していきたいですね。

菊地:場所にはこだわりがなくて、今はたまたま日本にいる時期ですが、また海外に行くこともあるでしょうし、何をやるかを重視しています。最初の方でもお話しましたが、自分がいい画を出していくというよりは、チームとしてのアウトプットをいかによくできるかに興味があります。

米岡:会社を誰かに任せられるようになったら、もう会社は渡して、『パシフィック・リム2』の話が来たらパッと参加できるようにしておきたいですね(笑)。今はとにかくアジアの勢いがすごい。日本のVFXと同等かそれ以上のものがどんどん出てきています。自分はそこにフォーカスしていて、日本から世に出ても恥ずかしくないものがコンスタントに出ていかないと、しぼんでいくだけなので。国内でも『2012』みたいなエフェクトをやれないと、という思いが以前からあるんですが、そのあたりはそろそろ足がかりができてきたと感じています。

菊地:日本にいようが海外にいようが、いかにエッジに立てるかですね。




  • 月刊CGWORLD + digital video vol.216(2016年8月号)
    第1特集 映画『KINGSGLAIVE FINAL FANTASY XV』
    第2特集 CGWORLD白書 2016

    定価:2,268円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:144
    発売日:2016年7月9日
    ASIN:B01G5SQRNE