<2>トラック&ズームアウトの連続という未知なるビジュアルの追求
くりかえし行われたディスカッションのメンバーには、ショウダ監督と高橋プロデューサー、守屋プロデューサーに加え、カメラマンの上野千蔵、照明の西田まさちお、YJYのゆう姫とJEMAPUR、そして3DCGワークはAnimationCafeという、各分野でエッヂをみせる面々が名を連ねる。
AnimationCafe/佐藤大洋CGプロデューサー:チャレンジングな内容だとは思いましたが、それ以上に得られる経験に魅力を感じました。前作、『ALT』の時も一体感があって楽しかった。CG部と制作部さんの間には見えない壁が存在しがちなんですが。
『KAMUY』中核スタッフ
写真・右から、守屋貴行プロデューサー(NION)、遠藤基次CGスーパーバイザー(AnimationCafe)、ショウダユキヒロ監督(NION)、高橋 聡プロデューサー(NION)、上野千蔵撮影監督、佐藤大洋CGプロデューサー(AnimationCafe)、守屋雄介シークエンス・スーパーバイザー(AnimationCafe)
『KAMUY』公式サイト
プロダクション→ポスプロといった分業の考え方もなく、それぞれのプロの視点から意見を出し合い作品を誕生させていった。
そしてシナリオハンティングのために行なった合宿で、物語や表現は二転三転しながらむくむくと育っていった。最終的にはこんなストーリーとなっている。
途中経過において、例えば、JEMAPURの「こうやって集まっているだけでDNAって交換しているって知ってました?」という話にインスパイアされたり、ムツゴロウさんに大きな影響をうけてきたと語る、上野カメラマンによる"犬と猿の話"にインスパイアされたりしたそうだ。
ちなみに、それは要約すると「犬は本能=DNAのプログラムだけで子孫を繋いでいける。一方猿は交尾が上手くいかなかったり、子育てが上手くできなかったりという、種を繋ぐためにバイタルな要素を社会の中の知識=社会的DNAとして存在させている。その最もたるものが人間だ」という話だ。
ショウダ監督:犬と猿の話は企画がジャンプした瞬間でした。その社会のDNAを描くっていうところに着想したんです。人間は本能のDNAだけじゃ生きていけないから社会があるのは確実で、その社会的DNAって、じゃあ何? って、言ったらそれは見えないもの。その見えないものを見ようというテーマなんです。だから主人公は盲目という設定なんです。
© 2016 NION inc.
フォトリアルな3DCGを駆使したビジュアルが随所に登場する
本作はほぼノーカットで進んでいく、臨場感溢れるカメラワークが見どころだ。ストーリーから刺激をうけJEMAPURが書いた音楽のリズムから、ショウダ監督の脳内に「ズームインとズームアウトを繰り返す、ノーカットのカメラワーク」というアイデアが閃いたそうだ。
ショウダ監督:見えないものを見るんやったら、見えないものを撮るカメラを使ったら面白い。3DCG上だと、ゼロに近いミリ数のレンズと無限に近いズームレンズだって作れる。そんなレンズで撮るズームイン、ズームアウトの反復世界を見れたら面白いねってなったんです。で、AnimationCafeさんに、『できますか!?』って聞いたら、『できません』って(笑)。『そんなゼロミリのぐにゃ~んって映るカメラは存在しません』って、言われましたね。でもその後にテスト動画を上げてきてくれたんです。僕は"ズーム"って言っただけなのに、"ズームしてから望遠、トラックバックしながらドーンとズームイン"といった動きを提案してくれた。ヒッチコックの映画でも使われているトラックアップ&ズームアウト(※リバースズーム、逆ズームなどとも言われる)と言って、ズームアウトしならが虹郎に寄っていくけど、背景は広がっていく。逆にカメラはトラックバックしながらズームインするといったVFXで、パースの効いたこのズームの感じが3DCGならではでした。リアルの世界で200〜1000mmで、ズームアウトをしようとしてもできません。そんなレンズもないし、そんなに早くカメラは動けませんからね。
AnimationCafe/遠藤基次CGスーパーバイザー: 「先ほどの話にあったとおり、現実にはCGでも不可能なレンズ効果です。そこでショウダ監督がイメージされた動きに見えるように、いくつかのレンズシミュレーションやカメラワークを組み合わせて表現ししています。
AnimationCafeにおける本作のプロジェクトメンバーの中で一番キャリアも長い経験豊富な遠藤氏でさえも、このカメラの動きは初めての試みだったという。
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その浮遊感のあるカメラワークが今度は、寝転んで天井のスクリーンを観るという鑑賞スタイルの提案につながった。10月29日(土)&30日(日)に代官山ヒルサイドプラザにて開催される上映会では、特製のベッドが用意され、特別な体験ができる予定だ。生と死・性と命とをテーマに、映像制作にとことん向き合ったチームによる15分間の脳内革命アートフィルムを体験しにいこう。
次回公開予定の「メイキング編」では、表現も作り方も新しい挑戦となった、制作の舞台裏をよりディープに紹介したい。
作品情報
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体感型の脳内革命アートフィルム
『KAMUY』公式サイト
2016年10月29日(土)&30日(日)、代官山ヒルサイドプラザにて公開!
出演:村上虹郎・ゆう姫(Young Juvenille Youth)
監督:ショウダユキヒロ
撮影監督:上野千蔵
衣装:伏見京子
特殊メイク:JIRO
3DCG:AnimationCafe / ModelingCafe
制作プロダクション:NION
© 2016 NION inc. nion.tokyo/kamuy