「人類は進化しているのだろうか。 モノがあふれ、情報があふれ、人間の本質が秒ごとに変わっていく現在。果たして進化の定義はどこにあるのだろうか?」

そんな問いかけを発信するのは、ショウダユキヒロ監督の最新オリジナル・アートフィルム『KAMUY』。主演を務める注目の俳優・村上虹郎は、男性でありながらその腹に子供を宿し、共演者のゆう姫はYoung Juvenile Youth(以下、YJY)として主題歌も提供する。そんな物語を体現するかのごとく、本作の手法自体も完成まで「進化」をし続けたプロセスだったという。制作プロダクションは国内外のプロデューサー&ディレクターにより結成されたNION(ナイオン)、CGプロダクションはAnimationCafe(アセット制作はグループ会社のModelingCafeが担当)。一流のスタッフが集結したとき、映像制作においてどんな化学反応が引き起こされたのか。<1>キックオフ編<2>メイキング編の2回に分けて、その舞台裏をお届けする。

INTERVIEW_山本加奈 / Kana Yamamoto
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota



『KAMUY』Official 30秒スポット

<1>ゼロからのディスカッションにより、企画をマッシュアップ

約1年前、本作はショウダユキヒロ監督が毎年必ず制作することを信条とするオリジナル映像作品の新作として緩やかにはじまった。友人のゆう姫(Young Juvenille Youth)と「何か一緒につくりたいね」という気軽な会話がきっかけとなり、気がつけばのべ100名以上もが携わる大プロジェクトへと膨らんでいったという。

ショウダユキヒロ監督(以下、ショウダ監督):仕事や遊びでいつもの映像仲間に「やれへん?」って声をかけたら、みんな賛同してくれた。年内完成目標でやろうか、なんて飲みながら、あんなの良いね、こんなの良いねって、ずっとアイデアを交換していたら2015年が終わってしまった。

ショウダユキヒロ最新オリジナル作品『KAMUY』をめぐる物語。一流アーティストたちが本気で手がけた15分間の脳内ワールド 〜<1>キックオフ編〜

© 2016 NION inc.

『KAMUY』で主演の兵士役を務める村上虹郎


と言うのも、ショウダ監督の中には、つくり方自体も「ガチのコラボレーション」に挑戦したいという思いがあったからだ。映像と音楽、だけでなく、カメラマン、照明、3DCGスタッフにいたるまで、ゼロからディスカッションにより企画をマッシュアップしていくことが目的だった。

ショウダ監督:モノづくりをガチでやっている仲間たちとガチでやりたいっていう気持ちがありました。どういうことかって言うと、だいたいは監督である僕がリードして映像の世界観を作り上げていく。ポストプロダクションまでいくと、CG部さんはじめ、監督の指示通りつくるって感覚はさらに強くなる。僕はポストプロダクションで働いていたこともあるので、そういう体質が面白くないなあ、と思ってた。アイデアや意見を活発に交換できる人たちと思いっきりやってみたかったんです。

このプロジェクトを大きくドライブさせた存在に、プロダクション、NIONがある。ショウダ監督や関根光才といった日本人ディレクターと、親交の深い海外のディレクターIan Pons Jewell/イアン・ポン・ジュウェルとMackenzie Sheppard/マッケンジー・シェパード、それに加えプロデューサーの高橋 聡、守屋貴行、山本 愛ら総勢7名により結成されたプロダクションだ。

守屋貴行プロデューサー:NIONは今年9月に起ち上げたプロダクションです。コンテンツ主義になっていくこのソーシャルメディアの時代に広告だけにすがるディレクターや映像業界って面白くないよね......。そんな会話をショウダ君とはずっとくりかえしてきました。そんな時この『KAMUY』プロジェクトが起ち上がってきて、だったら新しい形態のプロダクションも一気に全部つくってしまおうって。だからナイオンが目指すのは広告に頼らない新しいプロダクション。そしてもうひとつ "日本から世界に、世界から日本へ"って、いう橋渡しとなる役割を担っていければと思っています。

『KAMUY』は、NIONのオリジナル作品となる。

ショウダユキヒロ最新オリジナル作品『KAMUY』をめぐる物語。一流アーティストたちが本気で手がけた15分間の脳内ワールド 〜<1>キックオフ編〜

© 2016 NION inc.

惑星のような球体に映る、ゆう姫(YJY)


▶次ページ:
<2>トラック&ズームアウトの連続という未知なるビジュアルの追求

[[SplitPage]]

<2>トラック&ズームアウトの連続という未知なるビジュアルの追求

くりかえし行われたディスカッションのメンバーには、ショウダ監督と高橋プロデューサー、守屋プロデューサーに加え、カメラマンの上野千蔵、照明の西田まさちお、YJYのゆう姫とJEMAPUR、そして3DCGワークはAnimationCafeという、各分野でエッヂをみせる面々が名を連ねる。

AnimationCafe/佐藤大洋CGプロデューサー:チャレンジングな内容だとは思いましたが、それ以上に得られる経験に魅力を感じました。前作、『ALT』の時も一体感があって楽しかった。CG部と制作部さんの間には見えない壁が存在しがちなんですが。

ショウダユキヒロ最新オリジナル作品『KAMUY』をめぐる物語。一流アーティストたちが本気で手がけた15分間の脳内ワールド 〜<1>キックオフ編〜

『KAMUY』中核スタッフ

写真・右から、守屋貴行プロデューサー(NION)、遠藤基次CGスーパーバイザー(AnimationCafe)、ショウダユキヒロ監督(NION)、高橋 聡プロデューサー(NION)、上野千蔵撮影監督、佐藤大洋CGプロデューサー(AnimationCafe)、守屋雄介シークエンス・スーパーバイザー(AnimationCafe)

『KAMUY』公式サイト


プロダクション→ポスプロといった分業の考え方もなく、それぞれのプロの視点から意見を出し合い作品を誕生させていった。
そしてシナリオハンティングのために行なった合宿で、物語や表現は二転三転しながらむくむくと育っていった。最終的にはこんなストーリーとなっている。

男性は幾多もの破壊を行い、女性が幾多もの生命を誕生させてきた。もし男性に生命を誕生させる機能があれば、そこに新しい平和の価値観が生まれるかもしれない。 お腹に子を宿すひとりの兵士。彼の中に生まれる母性が、彼を苦しめる。胎児を育む母胎の中の宇宙。その宇宙で胎児が見る世界とは。

途中経過において、例えば、JEMAPURの「こうやって集まっているだけでDNAって交換しているって知ってました?」という話にインスパイアされたり、ムツゴロウさんに大きな影響をうけてきたと語る、上野カメラマンによる"犬と猿の話"にインスパイアされたりしたそうだ。
ちなみに、それは要約すると「犬は本能=DNAのプログラムだけで子孫を繋いでいける。一方猿は交尾が上手くいかなかったり、子育てが上手くできなかったりという、種を繋ぐためにバイタルな要素を社会の中の知識=社会的DNAとして存在させている。その最もたるものが人間だ」という話だ。

ショウダ監督:犬と猿の話は企画がジャンプした瞬間でした。その社会のDNAを描くっていうところに着想したんです。人間は本能のDNAだけじゃ生きていけないから社会があるのは確実で、その社会的DNAって、じゃあ何? って、言ったらそれは見えないもの。その見えないものを見ようというテーマなんです。だから主人公は盲目という設定なんです。

ショウダユキヒロ最新オリジナル作品『KAMUY』をめぐる物語。一流アーティストたちが本気で手がけた15分間の脳内ワールド 〜<1>キックオフ編〜

© 2016 NION inc.

フォトリアルな3DCGを駆使したビジュアルが随所に登場する


本作はほぼノーカットで進んでいく、臨場感溢れるカメラワークが見どころだ。ストーリーから刺激をうけJEMAPURが書いた音楽のリズムから、ショウダ監督の脳内に「ズームインとズームアウトを繰り返す、ノーカットのカメラワーク」というアイデアが閃いたそうだ。

ショウダ監督:見えないものを見るんやったら、見えないものを撮るカメラを使ったら面白い。3DCG上だと、ゼロに近いミリ数のレンズと無限に近いズームレンズだって作れる。そんなレンズで撮るズームイン、ズームアウトの反復世界を見れたら面白いねってなったんです。で、AnimationCafeさんに、『できますか!?』って聞いたら、『できません』って(笑)。『そんなゼロミリのぐにゃ~んって映るカメラは存在しません』って、言われましたね。でもその後にテスト動画を上げてきてくれたんです。僕は"ズーム"って言っただけなのに、"ズームしてから望遠、トラックバックしながらドーンとズームイン"といった動きを提案してくれた。ヒッチコックの映画でも使われているトラックアップ&ズームアウト※リバースズーム、逆ズームなどとも言われる)と言って、ズームアウトしならが虹郎に寄っていくけど、背景は広がっていく。逆にカメラはトラックバックしながらズームインするといったVFXで、パースの効いたこのズームの感じが3DCGならではでした。リアルの世界で200〜1000mmで、ズームアウトをしようとしてもできません。そんなレンズもないし、そんなに早くカメラは動けませんからね。

AnimationCafe/遠藤基次CGスーパーバイザー: 「先ほどの話にあったとおり、現実にはCGでも不可能なレンズ効果です。そこでショウダ監督がイメージされた動きに見えるように、いくつかのレンズシミュレーションやカメラワークを組み合わせて表現ししています。

AnimationCafeにおける本作のプロジェクトメンバーの中で一番キャリアも長い経験豊富な遠藤氏でさえも、このカメラの動きは初めての試みだったという。

ショウダユキヒロ最新オリジナル作品『KAMUY』をめぐる物語。一流アーティストたちが本気で手がけた15分間の脳内ワールド 〜<1>キックオフ編〜

© 2016 NION inc.

その浮遊感のあるカメラワークが今度は、寝転んで天井のスクリーンを観るという鑑賞スタイルの提案につながった。10月29日(土)&30日(日)に代官山ヒルサイドプラザにて開催される上映会では、特製のベッドが用意され、特別な体験ができる予定だ。生と死・性と命とをテーマに、映像制作にとことん向き合ったチームによる15分間の脳内革命アートフィルムを体験しにいこう。

次回公開予定の「メイキング編」では、表現も作り方も新しい挑戦となった、制作の舞台裏をよりディープに紹介したい。

作品情報

  • ショウダユキヒロ最新オリジナル作品『KAMUY』をめぐる物語。一流アーティストたちが本気で手がけた15分間の脳内ワールド 〜<1>キックオフ編〜
  • 体感型の脳内革命アートフィルム
    『KAMUY』公式サイト
    2016年10月29日(土)&30日(日)、代官山ヒルサイドプラザにて公開!

    出演:村上虹郎・ゆう姫(Young Juvenille Youth)
    監督:ショウダユキヒロ
    撮影監督:上野千蔵
    衣装:伏見京子
    特殊メイク:JIRO
    3DCG:AnimationCafe / ModelingCafe

    制作プロダクション:NION
    © 2016 NION inc.
    nion.tokyo/kamuy