>   >  特撮映画への"愛"をVFXに活かす。映画『怪物はささやく』にみる、J.A.バヨナ監督の演出術
特撮映画への"愛"をVFXに活かす。映画『怪物はささやく』にみる、J.A.バヨナ監督の演出術

特撮映画への"愛"をVFXに活かす。映画『怪物はささやく』にみる、J.A.バヨナ監督の演出術

<2>バルセロナとロンドンのスタジオがVFXワークをリード

――エフェクトを手がけたスタジオの役割分担を教えて下さい。

バヨナ:怪物の制作は、複数のスタジオの共同作業だったので、それぞれの仕事を上手くまとめることが求められたんだ。まず怪物のデザインだけど、原作のジム・ケイのイラストから着想を得たものに、DDT SFXが手を加えて仕上げている。その後、DDTがアニマトロニクスを駆使して巨大な頭、両腕、片足を作ったのさ。つまり30年代に『キング・コング』で用いられた方法と同様の手法だね。

『怪物はささやく』J.A.バヨナ監督インタビュー

© 2016 APACHES ENTERTAINMENT, SL; TELECINCO CINEMA, SAU; A MONSTER CALLS, AIE; PELICULAS LA TRINI, SLU.All rights reserved.

DDT SFXは、1991年にバルセロナで創業した特殊メイク、アニマトロニクス、特殊効果などを手がける工房で、『ヘルボーイ』(2004)、『パンズ・ラビリンス』、『ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー』(2008)など、デル・トロ監督お気に入りのスタジオでもある。同社は『怪物はささやく』において、コナーと絡むシーン用に実物大のアニマトロニクスを制作した。だが怪物の全長は12mもあり、その全てを造るには予算的にも技術的にも非現実的である。そこで胸から上と、両腕の肘から下、そして右足が、DDTのスタッフ40人によって造形された。不足している箇所は、MPCがアニマトロニクスの質感をスキャンして、CGで補っている。怪物がフルサイズで動き回る場面は、声も担当している俳優のリーアム・ニーソンが演じ、MPCがモーションキャプチャをベースにCG化している。

『怪物はささやく』J.A.バヨナ監督インタビュー

『怪物はささやく』:3DCGアニメーション&VFXメイキング

バヨナ:『キング・コング』では、(実物大のアニマトロニクスと)ストップモーション・アニメーションを組み合わせていたよね。一方、僕たちは(アニマトロニクスと)CGとモーションキャプチャを使ったけど、創作方法に対する考え方は基本的に同じだ。

  • 『怪物はささやく』J.A.バヨナ監督インタビュー
  • 『怪物はささやく』J.A.バヨナ監督インタビュー


  • 『怪物はささやく』J.A.バヨナ監督インタビュー
  • 『怪物はささやく』J.A.バヨナ監督インタビュー

怪獣のイメージボード例

これらの全工程をスーパーバイズしたのが、2004年にマドリードで創業したVFXプロダクションのEl Ranchitoである。同社はCMのVFXをメインに活動していたが、スペイン映画の『アレクサンドリア』(2009)や『私が、生きる肌』(2011)を手がけ、『インポッシブル』でも活躍している。またテレビシリーズの『コスモス: 時空と宇宙』(2014)や、『ゲーム・オブ・スローンズ』のシーズン5-6(2015~16)も担当した。

『怪物はささやく』J.A.バヨナ監督インタビュー

怪獣のコンセプトアート例

怪物が語る「3つの物語」の内の2つのお伽噺(3つ目は性質が異なり、明確なストーリーがない)と、コナーが祖母の部屋を破壊するシーンは、水彩調のアニメーションで表現されている。これを手がけたのは、1995年にロンドンのソーホー地区で創業したGlassworksが、2001年にバルセロナに設立したGlassworks Barcelonaであった。同社は、ジム・ケイのイラストのテイストを活かした水彩によるイメージボードを大量に制作し、この質感をそのままアニメーション化することを目指した。そして絵の具を水に溶いた素材を実写撮影し、3DCGのテクスチャ、あるいは背景やエフェクトのレイヤーとして用いた。流体シミュレーションで作られた絵の具の拡がりもある。

『怪物はささやく』第1の物語+予告編

この2つのお伽噺の役割は、「絶対的に悪である人も善である人も存在せず、全ての人は両面を持っている」ということを主人公に教えるものだが、そもそもこの怪物自体がコナー本人の内面の存在であるから、彼は最初から気付いているのだ。だが、そこから導き出される"真実"を否定したくて拒み続ける。これが第4の物語となり、その意味するものはぜひ映画を鑑賞して知ってほしい。この真実に辿り着く葛藤は、地割れや教会の倒壊といったスペクタクルな映像として表現される。この場面は、DDT SFXによるミニチュア特撮と、El RanchitoのCGによるセットエクステンションやコンポジットで描かれた。

MPC "A Monster Calls" VFX breakdown

そしてこのシーンのコナーと母親が繋いでいた"手"や、彼と祖母が和解する場面の踏切、ラストで明かされる怪物の由来など、バヨナ監督はたった1カットで多くを語ってみせる。凡庸な監督ならセリフで説明したり、ナレーションを被せたり、不必要にカットを割ったり、回想シーンを挿入したりなどやりがちなのだが、彼はそういう野暮なことをしない。あくまでも1枚の絵の力を信じているのだ。やはり画家だった父親の影響を強く感じる。
こういった才能がハリウッドの人々にも注目され、ついに超大作の監督として抜擢されることになった。

『怪物はささやく』J.A.バヨナ監督インタビュー

© 2016 APACHES ENTERTAINMENT, SL; TELECINCO CINEMA, SAU; A MONSTER CALLS, AIE; PELICULAS LA TRINI, SLU.All rights reserved.

バヨナ:現在、『ジュラシック・ワールド』の続編を撮っているんだ。非常に多くのことを学ばせてもらっているよ。VFXはILMが担当しているんだけど、スタッフ全員が情熱にあふれ、素晴らしい仕事をしてくれていて、多くの刺激をもらっているよ。VFXの作業は実に面白いんだ。撮影と編集の段階でストーリーを完成させ、最後にVFXを加えていくんだけど、どんどん素晴らしい映画に仕上がっていくんだ。この時の高揚感はたまらないね!

『怪物はささやく』J.A.バヨナ監督インタビュー

© 2016 APACHES ENTERTAINMENT, SL; TELECINCO CINEMA, SAU; A MONSTER CALLS, AIE; PELICULAS LA TRINI, SLU.All rights reserved.

そう。バヨナ監督は、実に"こちら側"の人間だったのである。

info.

  • 『怪物はささやく』J.A.バヨナ監督インタビュー
  • 映画『怪物はささやく』
    全国で上映中

    監督:J.A.バヨナ
    原作・脚本:パトリック・ネス
    原案:シヴォーン・ダウド
    プロデューサー:ベレン・アティエンサ
    プロダクション・デザイナー:エウヘニオ・カバイェーロ
    撮影監督:オスカル・ファウラ
    VFXスーパーバイザー:フェリックス・ベルヘス(El Ranchito)
    VFX制作:El Ranchito、MPCほか
    SFXスーパーバイザー:パス・コスタ(DDT Efectos Especiales)
    アニメーション監督:エイドリアン・ガルシア(HEADLESS PRODUCTIONS)

    アニメーション制作:HEADLESS PRODUCTIONS、Glassworks Barcelonaほか
    配給:ギャガ

    © 2016 APACHES ENTERTAINMENT, SL; TELECINCO CINEMA, SAU; A MONSTER CALLS, AIE; PELICULAS LA TRINI, SLU.All rights reserved.


    gaga.ne.jp/kaibutsu

Profileプロフィール

J.A.バヨナ/Juan Antonio Bayona

J.A.バヨナ/Juan Antonio Bayona

1975年、スペイン・バルセロナ出身。『永遠のこどもたち』(2007)で長編映画監督デビューを果たす。同作がカンヌ国際映画祭で初上映されたとき、スタンディングオベーションが10分間鳴り響いたことでも知られる。その後、スペイン国内で封切られ、初日からの4日間の興行成績はその年の最高を記録し、当時はスペイン映画史上第2位となった。また、ゴヤ賞で14部門ノミネートされ、新人監督賞を含む7部門で受賞、一躍その名を知られる。
続く、ナオミ・ワッツ、ユアン・マクレガー主演の『インポッシブル』(2012)は、世界中で1億8,000万ドルの興行収入を記録し、ゴヤ賞では監督賞を含む5部門で受賞する。ガウディ賞でも監督賞を含む6部門での受賞を果たす。そのほか、TVシリーズ「ナイトメア ~血塗られた秘密~」(14)も手掛けている。最新作は、『ジュラシック・ワールド』(2015)の続編(原題:Jurassic World: Fallen Kingdom)。

スペシャルインタビュー