ダブル・ネガティブでの仕事を経て、コンセプトアーティストとして独立
ーー沢田さんはキャリアを重ねるにつれて求められることも大きくなってきたと思いますが、体感としてはどんなところが変わってきましたか?マットペインターとしては大きなショットを任されるようになり、皆から注目されるのでそのプレッシャーが大きくなりました。大きなショットというのはトレーラーで使われたりする目立つショットのことで、締切も早くなるしクライアントにそれで気に入ってもらう必要もあるためクオリティも高くなくてはいけなくて、どんどんデッドラインが迫ってくるという感じでした。そのなかでも嬉しかったのは、ザック・スナイダー監督から直接ノートが返ってきたときですね。僕は彼の『ウォッチメン』を見て「CGって格好良いな!」と思っていたので、感慨ひとしおでした。内容は普通にショットに対しての指示で、そういった指示の中には面倒くさいと思うこともあるのですが、このときは嬉しかったですね(笑)。
ーーそして次はダブル・ネガティブで『スター・トレック BEYOND』(2016)に参加され、その後フリーランスのコンセプトアーティストになられるわけですね。コンセプトの方に自分のフィールドを移すきっかけは何だったのでしょうか?
大きなショットをまかせてもらっているうちに、グリーンバックで抜いて配置を決めたりといった提案ができる立場になり、その面白さがわかるようになってきたんです。それまでは、言われたことをこなしていくだけで必死だったのですが、もっと様々なことができたら良いなと思えるようになりまして。そのために絵を描いているうちに、どんどんコンセプトアーティストになりたいなという気持ちが強くなっていきました。そんな時、MPCから『ワンダーウーマン』(2017;日本では8月25日公開)と、もうひとつの未公開作品でコンセプトアーティストのお話をいただいたので、ダブル・ネガティブを辞めてフリーランスになりました。コンセプトアーティストになりたいと思った理由としては、ダブル・ネガティブにいた田島光二さんの存在も大きいです。田島さんとは仲良くさせていただいて、作品を見てもらったりSkypeを使ってアドバイスをもらったりもしました。僕がマットペインターとして8時間仕事をしている間にも、田島さんはコンセプトアーティストとして仕事をしつつ、さらに家に帰ってもまだ描いているんです。これでは差が開く一方だと感じ、思い切って僕もコンセプトアーティストになろうと決意しました。フリーランスとして独立したわけですが、それであれば日本でも仕事はできるだろうと思い立ち、2016年の秋に帰国しました。僕が知る限り、日本でコンセプトアーティストとしての仕事をするとなると選択肢はゲーム会社になると思います。なかでも絵が好みだったのと地元の大阪にあったということで、プラチナゲームズでお世話になることになりました。
映画『ワンダーウーマン』本予告【HD】2017年8月25日(金)公開
ーーマットペインターとコンセプトアーティストのちがいはどんなところにありますか?
使用するソフトがPhotoshopだったり、空気遠近法やラインティングの知識が必要というところでは似ている部分がありますが、求められているものがまったくちがうと思います。最初のうちはコンセプトアーティストには画力が重要なのかと思っていましたが、それよりも発想力が求められる仕事だと思いました。この仕事はコンセプトを提供するわけですから、「そこに行ってみたいな」と思わせるような世界を生み出す力が必要です。その際に画力があるに越したことはありませんが。
ーー影響を受けたアーティストはどんな方ですか?
海外のコンセプトアーティストが多いですね。Eytan Zana(『アンチャーテッド』)、 John Sweeney(『The Last of Us』)、Raphael Lacoste (『アサシン クリード』)、James Paick(『ロストプラネット3』)、Ryan Church(『アバター』)などが挙げられます。僕のサイトの作例を見ていただけるとわかると思いますが、これらの方の作風にはとても影響を受けています。SF映画でも『ブレードランナー』のような近未来都市というよりも、『オデッセイ』のような惑星・遺跡といった風景のほうが好きですね。
ーー沢田さんがコンセプトアートを描く際のスタイルであるフォトバッシュの方法はバンアーツで教わったのでしょうか?
いえ、ほぼ独学です。空気遠近法の考え方とか物の捉え方などは様々な人に教えてもらいましたが、フォトバッシュについては特定の誰かから教わったというわけではありませんね。
ーーコンセプトアーティストになった現在、3DCGを使う機会は減りましたか?
傾向としてはそうなのですが、逆に僕は3DCGを活用していこうと思っていて、最近はMODOを勉強しています。コンセプトアートというのはプリプロダクションですから、ベースとなるものを素早く出すことが求められます。70点、下手したら60点でいいんです。MODOはそれに適しているので、現在それを使ったワークフローの構築をしている最中です。MODOにリプリケーターという機能があって、ランダムにいろんなものを配置してくれるので、何パターンかモデリングをして直感的に面白いものが見えたらそれをレンダリングするというやり方です。これをすることでもう少し幅が広がるかなと思います。
ーーコンセプトアーティストしての努力を続けられている最中かと思いますが、今後またハリウッドでのお仕事に戻られる予定はありますか?
いくつかオファーをいただいているので、タイミングが合えばという感じですね。面白いことに、日本に帰国する前は送ってもナシのつぶてだったところからお話をいただけたりするんです。振り返って考えると、以前の僕は画力のなさもそうでしたが、自分が描きたいものばかり描いていたんですね。しかし最近は万人が見て格好良いと思えるものが何かをきちんと意識できるようになったと思います。僕らは「これがアートなんだ!」と言い張る画家ではなく、やっぱりつくったものの先にはお客さんがいる仕事なので、誰にでも伝わる格好良さというのは何なのかということを、最近は特に意識して描くようにしています。それがわかった上で自分の描きたいものを描ければベストだと思います。
ーー長期的なご自身の目標についてはどのように考えていますか?
せっかく絵を描いているのでいつかは自分の画集を出せればと考えています。あと、学生のときにみんなで映画をつくった経験は今でも楽しかった思い出なので、大勢でつくる何かの作品でアートディレクションができるようになれれば良いですね。死ぬまでに、自分の名前が大きく載ったコンテンツをつくりたいなと考えています。