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「現代社会の女性をいかに描くか」コンセプトアーティスト・友野るいの世界観構築

「現代社会の女性をいかに描くか」コンセプトアーティスト・友野るいの世界観構築

<2>技術があれば上手くなるわけではない。必要なのは動機

――友野さんは昨年「イラスト構図 完全マスター」という本を出版されました。その中で"「印象づけたいもの」を適切に配置し意図を伝える""「視線誘導」で絵の印象を強く残す"といった基礎となるテクニックに触れられています。これらはイラストレーションだけではなく、コンセプトアートにも応用が利くものでしょうか。

友野:イラストレーションもコンセプトアートも、わかりやすくシーンや世界観を伝えるという点において変わりはありません。だから技術は境目なく使えると思います。僕は学生の頃に美術予備校で講師をしていたのですが、模試などがあると、一斉に貼り出された絵を100枚単位で見ることになります。そういうときに視線誘導ができているものは、やはりパーンと目に入ってくる。これはあくまで一例ですが、基礎の技術はしっかり練っておくべきですね。


友野:ただ、それだけではダメなんです。重要なのは動機。僕も昔は技術さえあればすごい絵を描けるんじゃないかと思っていました。でも技術だけでは使いどころがないんです。大学に入って課題をこなしていくなかで、ある日ふと自分は何も知識を活かしていないなと思って。そもそも、「これをこういう風に描きたい」という動機があって、それを実現するために技術があるわけです。でも昔の自分の絵を見ると、それがなかった。だから描いていても楽しくなかったことを覚えています。しっかりと自分で「これを描きたい」と思ったときに、今までの知識が技術が全部活きてきた、という感じですね。

――描きたいものが心の中にあって、それを活かす手段としての技術。現在の友野さんが描きたいものは何ですか?

友野:ひとつ考えているのは「女性をどう描くか」です。「戯画☆桃太郎奇譚」のなかのひとつに、マスクをしているショートカットの女性の絵があります。これは、今風の強い女性みたいなものを主人公に据えたいなと思って描いたものです。僕ら絵描きの仕事はイメージを形にすることで、そこには世相が反映されるので、個人的にも興味があって、女性に関する現代が抱えている諸問題、例えば女性の社会参画とかジェンダーについての記事を意識的によく読んでいるのですが、そうしたときに男性として責任感を覚えるんです。最近、男性に都合の良いヒロイン像があまりに多すぎるのでは、と。僕もそういうオーダーのイラスト仕事を請けて、そうしたオーダーばかりの鬱屈した状況の中でいろいろと思うことがありました。だったら、そういうところから逸脱して、女性であることを全肯定した上で格好いい女性像を描けないかなと。


友野:そのキャラクターは女性のメイクを、絵の中できちんとメイクとして描いています。現実の女性でも、普段とちょっと印象がちがうなと思ったら、実は大事なプレゼンがあって自分を鼓舞するためにメイクを変えた日だった、ということがあったりします。そこには鼓舞しなくてはいけない弱さもあり、そこで戦っている強さもある。日常にはそういう仕草がいろいろあって、そういう小さいことの積み重ねを描くのが最近はすごく楽しいです。今、起こっているようなセクハラなどの問題も、本来女性よりは男性が考えるべきことだと思うし、僕も社会の一員として得意な絵で何かできることはないかと思って考えた答えがこれだったんです。

――学生さんやこれからものづくりをしていこうとしている方に向けて、若いうちにやっておいた方が良いことをアドバイスをするとしたら?

友野:僕もふり返ると、語学とかアルバイトとかいろいろやっておけば良かったなと思うことは多々あるのですが、敢えて言うと、何もしなくて良いと思うんです。若いうちから意味を求めすぎると、辛くなってしまうのではないかなと。上手く説明できないけれども、僕ら絵描きはイメージを形にすることに意味を求められるところがあって、そこに摩耗してしまってはならない。若い頃くらいはちょっと意味のないことをしても良いんじゃないかなと。役に立たないと思っていたゆるい時間が、実は案外自分の色になっていたりすると思うんです。僕も本当に学生の頃に何をしていたか覚えていないくらい、どうしようもない生活をしていたのですが、でもあの時期の「何となくでも、絵を描かなくては」とか「先生たちに偉いと言われる絵が本当に良いものなのか」といった、思考とも呼べないようなものの答えを今、表現できていたりする。当時の鬱屈したものが今の動機づくりになっていたりもします。だから、いろんなものを好きに見て、サボりたければサボればいいし、焦りを感じながら何もしない時間があってもそれはそれで良いと思います。

――答えを出そうとして焦らなくても良いよ、というニュアンスでしょうか。

友野:そうですね。あまり早く決めすぎているのも良くないかなと思うんです。「僕はキャラクターしか描かない」とか、「画集を全部揃えて勉強しなくては」なんて感じでやってきたことは、今になって考えればまったくの的外れでした。当時自分が全然好きではなかったようなものも今は描けているし、キャラクターよりも背景の方が今は楽しいし。答えを固定しすぎず、いろいろなものを見ていけば良いんじゃないかなと。


――何か表現のために生活の中を注視して生きるべしということではなく、つくることが自分自身を彩ったり、関心をもつことによって情報に対してのアンテナが向いたり。

友野:ええ。もちろん相互的ではあるのですが。今は絵以外の分野においてもすごく知識が増えて、例えば今までだったらわからなかった政治ネタで笑ったりしてそこで笑えた自分が嬉しい、みたいな(笑)。描くことが生活を豊かにもしますし、かなり相互に良い影響はあるのかなと思っています。

――9月には「CGWORLD +ONE Knowledge」にてコンセプトアートの講座「絵に臨場感や空気感を与える方法」を予定されています。どんな内容になりますか?

友野:現状、予定しているのは「目に見えないものをビジュアライズする」です。音とか匂いとか食感とか、そういったものを絵に落とし込むことを主題としていますので、そのお話になると思います。興味のある方は、ぜひいらしてください。



講座概要


  • 講座名:
    絵に臨場感や空気感を与える方法
    〜気温や匂い、雰囲気など、無形のものをビジュアライズする方法〜

    開催日:
    2018/9/5(水) 17:00 - 20:00

    参加費:10,000円(税別)
    定員:150名

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Profileプロフィール

友野るい/Rui Tomono(イラストレーター/コンセプトアーティスト)

友野るい/Rui Tomono(イラストレーター/コンセプトアーティスト)

関東の美大を卒業後にフリーでイラストレーター、コンセプトアーティストとして活動。ソーシャルゲームやコンシューマーゲームにおけるキャラクターデザインやコンセプトアート、アニメーション作品におけるイメージボードなどを手がける。参加作品に『ソウタイセカイ』(2017/コンセプトアート)、『死印』(2017/コンセプトアート、怪異デザイン)、『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』(2016/キャラクターデザイン)など
Twitter:@kyame
www.pixiv.net/member.php?id=27526
riririririririrrrrrr.blog80.fc2.com

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