>   >  1年次は「デッサン力」強化に注力。トライデントコンピュータ専門学校のカリキュラムに迫る
1年次は「デッサン力」強化に注力。トライデントコンピュータ専門学校のカリキュラムに迫る

1年次は「デッサン力」強化に注力。トライデントコンピュータ専門学校のカリキュラムに迫る

デッサンの上手い学生ほど3Dモデルも上手い

小島:学生の中には、興味の幅がすごく狭くてデッサンのモチーフを選り好みする人もいます。例えば「ロボットを描くのが好きだから錆びた鉄のモチーフは喜んで描くけど、花は描く気がしない」といった具合です。僕自身、昔は「花を描くのは照れくさい」と思っており、後になってすごく苦労しました(笑)。

C:実際の仕事だと選り好みはできませんからね......。

小島:そうなんです。加えて主役はロボットだったとしても、それが朽ち果てた場面を表現したいなら、その周囲に草や花も描いた方がリアリティがありますよね。「自分が感動した作品を思いだしてください。主役の周囲には、いろいろなものが表現されていたでしょう? それら全てが作品には不可欠なのです。何もない空間に主役だけが立っていても、観客は感動してくれません」と説明すれば、「選り好みしていいわけがない!」と納得してもらえます。加えて、どんなモチーフであれ、ちゃんと描ければカッコ良い絵になるのです。絵の良し悪しは、モチーフの好き嫌いではなく、ちゃんと描けているかどうかで決まると気づけば、どんなモチーフにも真剣に向き合えるようになります。

C:デッサンに加え、着彩画や色彩構成の授業にも力を入れていますが、どういった意図があるのでしょうか?

小島:最近の学生はデジタルツールで色を選ぶことに慣れているので、混色のできない人が多くいます。赤色と青色を混ぜると何色になるか、わからない学生がいるわけです。だから絵の具に触れてもらうことで、混色の感覚を養ってほしいと考えています。例えば一見すると空は青色に見えますが、微妙に赤色が混じっていたりもします。それに気づける目を養う上で、絵の具で混色する経験は有効だと思います。

▲【左】田中氏が1年次の11月に描いたアクリルガッシュによる着彩画/【右2点】田中氏が撮影した取材写真


▲【左】市川氏が1年次の7月に描いたアクリルガッシュによる着彩画/【右上】1年次の5月に描いたアクリルガッシュによる着彩画/【右下】1年次の7月に描いたアクリルガッシュによる色彩構成


C:学生の志望業界や職種に関わらず、1年次には全員がデッサンや着彩画を描くのでしょうか?

小島:はい。業界や職種を問わず先々で役立つ経験だと思うので、全員に同じ課題をやってもらいます。近くの商店街や動物園まで取材に行き、資料写真を撮影し、着彩画や粘土造形を制作したりもします。さらに3Dモデルも制作すると、よりいっそう取材や観察の重要性を感じてもらえますね。3Dモデルの制作は1年次の後期に行うのですが、前期でデッサンの上手かった学生ほど、いい3Dモデルをつくるのです。このタイミングで大半の学生が「結局のところ、デッサンの上手い学生ほど3Dモデルも上手い」ということに気がつきます。

C:いろいろな人の作品を比較できるのは学校で学ぶメリットですね。

▲【左】1年次の後期に動物園を訪れ、ゾウを観察しがら粘土造形をする田中氏/【右4点】田中氏が撮影した取材写真


▲田中氏が制作したゾウの粘土造形


▲【左】田中氏が制作したゾウの3Dモデル/【右】ゾウの3Dモデルのためのテクスチャ


▲【左】三浦氏が1年次の後期に動物園で撮影したサイの取材写真


▲三浦氏が制作したサイの粘土造形


▲【左】三浦氏が制作したサイの3Dモデル/【右上】サイの3Dモデルのワイヤフレーム。3Dの勉強を始めて間もない1年次のため、少ないポリゴン数で制作するよう指導されている/【右下】サイの3Dモデルのためのテクスチャ


▲【左】市川氏が1年次の後期に動物園で撮影したシカの取材写真


▲市川氏が制作したシカの粘土造形


▲【左】市川氏が制作したシカの3Dモデル/【右】シカの3Dモデルのためのテクスチャ


小島:「3Dソフトが使えるから、デッサンは必要ない」と思ってデッサンを真面目にやってこなかった学生は、一所懸命にデッサンを描いてきた学生に負けていくので「もっとデッサンをやらなきゃ!」と焦り始めます(苦笑)。さらに2年次になって3D制作の授業が本格化してくると、「もっとデッサンをやっておけばよかったです......」と言いだす学生が毎年でてきますね。

C:プロに取材していても「もっとやっておけば......」という方はいますし、プロになってからデッサンスクールに通い直す人もいますね。実際のところ、デッサン力の向上には際限がないように思います。

小島:そうなんです。「どこまでやればいい」という上限はないですし、どんなに上手くなったと思っても、自分より上手い人が必ずいます。学生には「満足する日は一生来ないからね」と言うようにしています。アーティストになるということは、ずっと勉強し続けることでもあると思いますね。

デッサンは不要でも、「デッサン力」は不可欠

C:商店街や動物園で取材をするときには、モチーフを選ぶところから学生に任せるのでしょうか? あるいは先生が指定するのでしょうか?

小島:基本的には学生に任せますが、例えば動物であれば「ペンギンのような骨格が想像しづらい形の動物は絵として様(さま)にならないし、観察力もアピールしづらいよ」といった話はします。プロを目指すなら「この学生は、ちゃんと骨格まで研究しているな」と感じてもらえるような作品をつくった方がいいですからね。そこまで念頭に入れて動物を選ぶよう伝えています。

C:就職用の作品制作まで視野に入れて指導するわけですね。

小島:そうです。先々でドラゴンをつくりたいなら、爬虫類をモチーフに選んだ方がいいですが、関節のはっきりしないヘビは避けた方がいい。ワニやトカゲなど、肩や腰まわりの骨格がはっきりしている動物の方が勉強になるし、アピールにもなるといった指導をしています。せっかくなら、自分の観察力や表現力を示しやすいモチーフを選んだ方が本人のためですからね。「その作品を通して採用担当者に何を伝えたいのか、考えた上で作品をつくりなさい」という話は1年次からするようにしています。

C:実際のところ、各社の採用担当者はデッサンなどの美術教育をどの程度重視していると感じますか?

小島:会社によって採用方針は様々ですが「すごく描ける学生は採ります!」と多くの方がおっしゃいますね(笑)。

C:やはり画力重視ですか。

小島:時代と共に各社の使用ツールや制作手法は少しずつ変わっていますが、「すごく描ける学生は採ります!」という声は変わらないですね。「しっかり観察して、しっかり描く学生は、安心して採用していただける」ということを、これまでの経験を通して僕らは確信しています。中には「ポートフォリオにデッサンが入っていなくても採用します。3D作品だけでもいいですよ」とおっしゃる会社もありますが、「3D作品を通してデッサン力が感じられなければ、絶対採ってもらえない」と僕は思っています(笑)。

C:デッサンは不要でも、「デッサン力」は必要だと。

小島:そうです。アニメーターの場合はアニメーションのセンスの方が問われると思いますが、キャラクターデザイナーやコンセプトアーティスト、モデラーなどを目指すのであれば「デッサン力」は不可欠です。だから1年次のうちにその重要性を理解し、自分の可能性と視野を広げてほしいと願っています。

C:トライデントの教育方針がよく理解できました。お話いただき、ありがとうございました。

Profileプロフィール

小島優二/Yuji Kojima

小島優二/Yuji Kojima

トライデントコンピュータ専門学校 CGスペシャリスト学科 常勤講師。愛知県立芸術大学 デザイン専攻を卒業後、美術予備校の講師を経て、コナミデジタルエンタテインメントにて7年間ゲーム開発に携わる。2004年から現職。
computer.trident.ac.jp

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