後出しの要望に対応する場合、追加料金は請求するのでしょうか?
C:要望をその場でスタイルフレームにして、お互いの頭の中にあるイメージをすり合わせたわけですね。
ゴーント:そうです。ブリスベンスタジオのポスプロチームにつくり直しを依頼する前に、ゴールを明確にしておく必要がありました。クライアントの承認を得たスタイルフレームは、そのままブリスベンスタジオでのミーティングにも使い、スタッフの意思統一を図りました。結局ブリスベンだけでは手が足りず、東京スタジオのスタッフにも一部のカットを手伝ってもらいましたね。クルマは単純に色を変えるだけではうまくいかず、ほとんど3Dに置き換えました。そのため最初の市街地のシーンは大半が3Dになっており、実写を使ったのはクルマのヘッドライトと路面くらいです。それでも2週間で必要なアセットを制作し、残りの2週間で全カットのつくり直しを完了できました。
▲【左】撮影時のカット/【右】ポスプロ後の完成カット。このカットはドローンで撮影されており、ゴーント氏がドローンのオペレーションを担当している
▲【左】撮影時のカット/【右】ポスプロ後の完成カット
C:ものすごい対応力ですね。
ゴーント:めったにないタフなプロジェクトでしたが、おかげで当社の優れたパフォーマンスを披露するいい機会になったとも思います。
C:下世話な話で恐縮ですが、そういう後出しの要望に対応する場合、追加料金は請求するのでしょうか?
ゴーント:はい。そこは請求させていただきます。
フランクリン:修正の内容にもよりますが、今回の場合は無料で対応できる範囲をはるかに超えていました。
8分のために、1年かけて中国の約30ヶ所をヘリとドローンで撮影
C:今回のようなオフライン編集に入ってからの変更というのは、よくあるのでしょうか?
ゴーント:ここまで大きな変更は珍しいんですが、最近はどのクライアントも「ポスプロ段階で変更できる」とわかっているので、変更を相談されるケースが増えていますね。
C:コンセプト映像や初期のスタイルフレームの段階で相談できれば、費用も時間も膨らまず、クライアントにとってもメリットがあると思いますが、ほぼほぼ完成してから変更を相談されるというケースはそれなりにあるわけですね。
ゴーント:初期段階から最終形をイメージするのは、クライアントにとっては難しいのだと思います。なるべくイメージしやすいコンセプト映像やスタイルフレームをつくり、ていねいに説明する努力が必要だと感じています。もうひとつ、ここ最近力を入れていた公開間近のプロジェクトについても簡単にお話します。Brogent Technologiesという台湾の会社の依頼を受け、i-RIDEというライド・アトラクション用の映像を制作しました。
▲i-Rideの紹介映像
フランクリン:ライドの前に巨大な180度スクリーンがあり、乗客は世界各国の名所や異世界を飛んで旅するような感覚を味わえます。とても面白いライドですよ。
ゴーント:このプロジェクトでは、中国の約30ヶ所の景勝地をヘリとドローンで撮影して回りました。映像の尺は8分程度ですが、制作には約1年を要しています。本作は来年の1月頃から、中国とオーストラリアで公開される予定です。ドローンで180度映像を撮影するにはいろいろな工夫が必要なので、リサーチや技術検証にかなりの時間を使いました。撮影のしくみを自分で考えるところから始めたので、とてもやりがいのあるプロジェクトでした。
C:8分のために、1年かけて30ヶ所で撮影するとは、気の長いプロジェクトですね。
ゴーント:「中国用の映像だと、それだけの地域を網羅しなければいけない」というのがクライアントからの要望でした。VFXやカラーコレクションなどのポスプロも当社で担当しており、魚眼レンズで撮影した映像を扱うための専用ツールをつくったりもしたので、ポスプロチームにとっても大きなチャレンジとなりました。
C:どちらのプロジェクトも「カッティング・エッジ」=「最先端、革新的」の社名を体現する、チャレンジ満載の内容ですね。続いて、そんなカッティング・エッジがなぜ東京にスタジオを設けたのか、その意図や経緯を教えていただけますか?
前編は以上です。後編の公開は、2018年10月10日(水)を予定しております。