>   >  デジタルアーティストが監督に徹する上で必要な覚悟とは、TVアニメ『イングレス』櫻木優平監督&石井朋彦Pr.
デジタルアーティストが監督に徹する上で必要な覚悟とは、TVアニメ『イングレス』櫻木優平監督&石井朋彦Pr.

デジタルアーティストが監督に徹する上で必要な覚悟とは、TVアニメ『イングレス』櫻木優平監督&石井朋彦Pr.

<2>櫻木優平、『イングレス』にカメオ出演!?

CGW:キャラクター原案は本田 雄さんが手がけられています。どのようなオーダーをされましたか?

櫻木:海外の人たちも観る作品なので()、キャラクターは日本のアニメらしさがあるというよりも、海外の俳優さんのようなキャラクターにしたいという意図がありました。お渡しした資料も、海外ドラマの俳優さんの写真でした。それを元に、本田さんがとても良いかたちに仕上げてくださいました。

※:本作の放映枠「+Ultra」は、高品質で世界基準のアニメーション作品を、日本をはじめとした世界にも向けて届けていくことをコンセプトに掲げている


 CGW:キャラクターのなかでも特に目を引くのが、ヒューロン幹部で主人公たちの前に立ちふさがる、劉 天華(CV:鳥海浩輔)です。彼のルックを見て、櫻木監督をモデルにしているのではと思ったのですが?

櫻木:最初はまったく意識せずに、別の俳優さんの写真を渡してお願いしたのですが、本田さんから上がってきたものを観たときに「似てしまった......!」と思いました(笑)

劉 天華(CV:鳥海浩輔)

© 「イングレス」製作委員会


石井:でも、みんなが気づきはじめたのは最近なんですよ。僕も気づかなかったのですけど、夜中に家でチェックしていたら娘が起きてきて画面を見て「あっ、櫻木さんだ!」って(笑)

櫻木:いや、みんな絶対思っているけど言わないんだろうなと感じてましたよ(笑)

石井:じゃあさ、今後の作品でも必ず自分に似たキャラクターがいるようにしていこうよ。ヒッチコックとかスタン・リーみたいにさ(笑)

CGW:(笑)。アニメーションにおいてはどんなところにこだわりましたか?

櫻木:今回は海外の方を含め、高い年齢層に向けた作品なので、自分としてはリアル目の格好良い芝居を心がけました。一般的な日本アニメのケレン味溢れる画づくりだと、海外にはそれに慣れていない方もいますし、キッズ向けのように見えてしまう恐れがあったので。アニメーターたちもそうした意図を的確に理解していたし、こうした作風の作品を実はやりたかったと言ってくれるスタッフも多かったので、モチベーション高く表現をしてもらえと思います。

© 「イングレス」製作委員会

CGW:アニメーションのは完全に手付け(キーフレームアニメーション)ですか?

櫻木:はい。基本3コマ打ちで完全に手付けです。


CGW:レイアウトもロングショットを多用されていたりと、相応にこだわっている印象があります。

櫻木:写真を撮れるところはできるだけ撮ってきて、写真をベースにレイアウトしています。また、レイアウト工程では空間的に広くとることを意識しました。コンセプトアーティストの幸田(和磨)さんにも広めの空間で描いていただき、レイアウトも画面の余白を大きめにとって、余裕のある空間の使い方を意識しました。極端なアップにするというのは、ある意味で逃げやすい手法でもあるんです。この作品は海外の方も観るので、いきなり目がドアップになったりする日本のアニメ独特の表現をしても、日本人は見慣れているかもしれませんが、海外の方はその演出について来られないことも起こり得るので、アップを使うにしても鼻や口もしっかり認識できるように収めるといった見せ方を心がけました。ただ、渋くなりすぎてもつまらないので、行き過ぎないようにというジャッジをする感じですね。コンテが上がってきて、印象が弱かったら盛っていくこともありましたし、行き過ぎていたら削る。そうしたバランス取りを心がけました。

CGW:ドラマづくりについてはいかがですか? 3年前のインタビューでは、「『ちゃんとドラマをつくれるようになりたい』と常々思っています」と、力強い意志を示されていました。

櫻木:ドラマづくりの部分が今回、最も力を入れているところです。ナイアンティックの、ゲーム側のストーリーを考えていらっしゃる脚本チームにも協力していただきました。ハリウッドでもシナリオを書いているような方々です。さらに、石井さんをはじめとしたクラフターのスタッフたちもアイデアを出してくれて、それらを月島総記さんがとても上手にまとめてくれました。プロットから何回もじっくりと時間をかけて練り上げたので、非常に満足のいく仕上がりになっています。

© 「イングレス」製作委員会

CGW:そして石井さんは、音響監督としてもクレジットされています。一般的にプロデューサーが音響監督をされるのは珍しいケースだと思うのですが。

石井:僕は高畑 勲さんや押井さんといった音づくりに強烈にこだわる監督たちと仕事をしてきて、アニメーションにおける音の重要性をこれまでずっと叩き込まれていました。現状のTVアニメづくりの体制だと、音をチェックできるのは、ほとんど当日というような状況になるので、それは避けたかったのです。キャスティングからスケジューリング、そして現場の指示やミックスまで僕が担当するという体制を構築しました。スカイウォーカーサウンドで制作した経験もあるので、今回の制作を通じてそうしたノウハウを櫻木監督に伝えるというねらいもあります。

CGW:キャストへはどのように演出をしていきましたか?

櫻木:基本的なやり方としては、自分が石井さんに演出意図を伝えて、キャスト陣には石井さんから指示していただくというながれでした。

石井:先ほどの高畑さん、押井さんの現場では、音響監督の若林和弘さんからものすごく多くのことを手ほどきしていただいた経験が僕にはあります。若林さんの特徴のひとつに、シナリオを徹底的に読み込んで現場に臨むというやり方があります。その点で言えば、僕はプロットづくりの段階から、もう何百回も読んでいるので、キャラクターについての理解はある。現場では僕がキャストに伝え、櫻木監督には客観的に判断してもらうという方法を採っていました。

櫻木:キャストの皆さんも本当によくキャラクターのことを考えて演じてくれたので、僕としてもとてもやりやすく、楽しくアフレコが進めることができました。

CGW:放送開始前に制作作業はすでに終盤とのこと。初のTVシリーズ監督としてここまでの制作をふり返っていかがですか?

櫻木:3DCGアニメーションによるTVシリーズというのは、自分の中で達成したいテーマのひとつでした。ただ、それをできる機会や場所に巡り合うのは簡単なことではなかったので、今回つくらせていただけたこと、協力してくれた皆さんに感謝しています。無事完成を迎えようとしている中、満を持して世に出せる作品になったと思います。この作品をきっかけにクラフタースタジオが誕生して、実際にひとつのシリーズが走ったことはとても大きな一歩です。さらにブラッシュアップを重ねていきながら今後もつくっていく心づもりです。アニメ『イングレス』のストーリーは、回を重ねるごとにどんどん物語のスケールが大きくなり、急展開していくので、ぜひ最後まで見届けていただけると嬉しいです。

© 「イングレス」製作委員会

info.

  • 『 INGRESS THE ANIMATION 』
    フジテレビ「+Ultra」にて毎週水曜日24:55から放送中
    NETFLIXにて全話配信中
    ほか各局にて放送
    ingressanime.com

    原作:Niantic, Inc.
    監督:櫻木優平
    脚本:月島総記、月島トラ、赤坂 創
    音楽:カワイヒデヒロ
    キャラクター原案:本田 雄
    副監督:入川慶也
    CGディレクター:古川 厚
    美術監督:加藤浩(ととにゃん)、坂上裕文
    美術監督補佐:新井帆海
    コンセプトアーティスト:幸田和磨
    モデリングディレクター:宮岡将志
    アニメーションディレクター:小林 丸
    撮影監督:野村達哉
    アニメーション制作:クラフター
    © 「イングレス」製作委員会

Profileプロフィール

櫻木優平/Yuhei Sakuragi

櫻木優平/Yuhei Sakuragi

熊本県出身。実写映像・グラフィックデザインを学んだ後、フリーランスとして活動をはじめる。岩井俊二監督の『花とアリス殺人事件』(2015)、宮崎駿監督のジブリ美術館短編アニメーション『毛虫のボロ』(2018)の3DCGスタッフとして頭角を現わし、脚本・監督を務めた日本アニメ(ーター)見本市『新世紀いんぱくつ。』(2015)で注目される。クラフターが推進する最新技術を投入したアニメーション手法「スマートCGアニメーション」にこだわり、繊細かつ緻密なアニメーション表現を得意とする、今最も注目される若手クリエイターのひとり。本作が初のTVシリーズ監督作品となる。

@yuheisakuragi

石井朋彦/Tomohiko Ishii

石井朋彦/Tomohiko Ishii

1977年生まれ、東京都出身。株式会社クラフター 取締役/プロデューサー。1999 年にスタジオジブリへ入社し、鈴木敏夫氏の下でプロデュースを学ぶ。『千と千尋の神隠し』(2001)や『ハウルの動く城』(2002)のプロデューサー補を担当した後、Production I.Gで『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』(2008)『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊 2.0』(2011)などをプロデュース。2011年にクラフターを設立。

クラフター公式サイト

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