「アヌシー国際アニメーション映画祭 2015」招待作品『花とアリス殺人事件』(岩井俊二監督)ではCGディレクターを務め、さらに今秋公開された「日本アニメ(ーター)見本市」の短編『新世紀いんぱくつ。』で監督デビューをはたすなど、今年目覚ましい活躍を遂げた、櫻木優平氏(スティーブンスティーブン)。この度、「CGWORLD大賞 2015」にノミネートされた櫻木氏に、ひとりのクリエイターとしての現在の心境を率直に語ってもらった。
<1>初監督作品となる『新世紀いんぱくつ。』でこだわった、リッチな画面密度
――2015年、櫻木さんにとって印象深いお仕事は何でしたか?
櫻木優平氏(以下、櫻木):やっぱり3月から8月にかけて制作した『新世紀いんぱくつ。』(日本「アニメ(ーター)見本市」)になりますね。自主制作用に考えていたアイデアをこの作品に盛り込んだり、馴染みのスタッフと作れたりして、特に悩むことなく作れました。特に自分が監督としてジャッジできたのは"楽"(=スタッフ間の意思疎通が非常にスムーズ)でしたね。新しいトライ&エラーもいくつか出はしたんですけど、そこをわかってくれるスタッフとやっていたので、本当にサクッとつくれた感じですね。
-
櫻木優平/Yuhei Sakuragi
熊本県出身。実写映像・グラフィックデザインを学んだ後、フリーランスとして活動をはじめる。5年ほど前から、「アニメCG」(セル・シェーディングを軸とした、作画表現の系譜をもつ日本特有のCGアニメーション表現 ※CGWORLD独自の定義)に注力しており、現在はスティーブンスティーブンに在籍。
<主な参加作品>
CGディレクター:映画『花とアリス殺人事件』(2015)、Webコンテンツ『もうひとつの未来を。』(2014)
モデリング&アニメーション:映画『009 RE:CYBORG』(2012)、TVアニメ『ブラック★ロックシューター』(2012)
@yuheisakuragi
--『新世紀いんぱくつ。』において3DCGの長所を活かした部分はどんなところでしょうか?
櫻木:ディティールですね。手描きでは追いきれないような描線の量だったり、贅沢な撮影処理といった画面密度を上げる方向で勝負をしました。密度の上げ方といってもいろんな方法があって、セル・シェーディングではなく3DCG本来の特性を活かした質感を加えていくというアプローチもあるのですが、僕としてはベタに線を増やすことで情報量を上げた方がよく見えるなと思って。一回どこかでそれをやってみたかったんです。長編だったら鬱陶しくなっていたと思いますが、7分くらいの短編ならあのくらい濃い絵柄でも上手くハマったんじゃないかなと。キャラクターデザインの西田(亜沙子)さんも元々ディティールが多い絵を描かれるので、そのあたりも上手くマッチすると思いました。『ラブライブ!』シリーズなども手がけていらったりと、3DCG向きのキャラクターデザインについても熟知していらっしゃるので最高の盛り方をしてくれました。
-
CGWORLD vol.205(2015年9月号)
2015年8月10日(月)に発売された、月刊「CGWORLD + digital video」205号から2号にわたって、アニメ(ーター)見本市『新世紀いんぱくつ。』のメイキング記事が掲載された
――短編より大きなプロジェクトに興味はありますか?
櫻木:アニメの場合、たとえ5分作品をつくるにしてもかなりの時間を要します。なので、それ以上大きな作品をつくろうとした場合、表現方法は必ずしもアニメにこだわらなくても、"動かす(アニメーション)"という表現手法をあえて用いなくてもいいのかなとも最近は思っています。例えばマンガとかサウンドノベルとか。自分は個人作家としてやっていける方法をずっと模索してやってきたので、ひとりでも世に出せる方法はいろいろあると思います。時々、ひきこもって純粋にものづくりに没頭したくなるときはありますね(笑)。
© nihon animator mihonichi LLP.
「日本アニメ(ーター)見本市」公開作品『新世紀いんぱくつ。』
――休日はどのように過ごし方をされたり、どんなものをインプットしていますか?
櫻木:ひたすらアニメを観ていますね。最近だと『ゆゆ式』とか『ゆるゆり』シリーズを延々と観ています。あと『干物妹!うまるちゃん』がいい感じですね。新しいアニメを観て『うまるちゃん』を観てのくり返しですね(笑)。他にも『おそ松さん』とか『アイカツ!』もメッチャ面白いなと思って(笑)。自分にとってのアニメは深夜枠なので。もし自分が今後、監督する機会に恵まれたときもこうした作品のように、タイトルの方が制作スタッフの名前よりもキチンと前に出たプロジェクトを手がけることができればと考えています。
© nihon animator mihonichi LLP.
「日本アニメ(ーター)見本市」公開作品『新世紀いんぱくつ。』
――何か注目されている原作はありますか?
櫻木:好きな作品とつくりたい作品では異なりますが、『フェノメノ』というオカルト小説作品とか、『クズの本懐』というマンガには興味があります。特に後者は読んだら影響されそうで、今やらなくてはいけないことができなくなっちゃいそうだから読んでないんですけど。自分がつくりたい作品とか、自分に近そうな話題作は恐くて(無意識に影響を受けてしまいそうで)観られなかったりします。
© nihon animator mihonichi LLP.
「日本アニメ(ーター)見本市」公開作品『新世紀いんぱくつ。』
▶次ページ:<2>宮﨑 駿監督初の3DCGアニメーション短編『毛虫のボロ』、櫻木氏が自身に掲げたミッションとは?
[[SplitPage]]<2>宮﨑 駿監督初の3DCGアニメーション短編『毛虫のボロ』、櫻木氏が自身に掲げたミッションとは?
――さしつかえのない範囲で来年の展望をお聞かせください。すでに宮﨑 駿監督の3DCG作品『毛虫のボロ』に参加されていることが明らかになっていますが、そちらの現場の様子はいかがでしょう?
櫻木:『毛虫のボロ』は、三鷹の森ジブリ美術館で公開される作品なので、いつまで制作が続くのか僕にも本当にわからないんですよ。なので、来年の予定は本当にわかりません(笑)。ただ制作現場自体はすごく快適で、今までにないくらい健全な職場だと思います。
© nihon animator mihonichi LLP.
「日本アニメ(ーター)見本市」公開作品『新世紀いんぱくつ。』
――宮﨑監督と言えば作画の巨匠でもありますが、制作における意思疎通はいかがでしょうか?
櫻木:「そんなにキッチリつくらなくていいよ」と言われることがあるのですが、どうもキッチリとつくることに僕が一生懸命になっていると思われているみたいなんです(笑)。手描きの場合、キッチリ描くということ=手間のかかることなのですが、CGの場合は元々正確な立体を描画しているので、キッチリする方が"楽"(=自ずと正確に描画されてしまう)なんですね。そこに手描きとCGの、ある種の感覚のちがいのようなものがあると思います。CGで手描きのように味がある画を描くには、"崩す"作業を意図的にしていく必要があります。CGの場合、単純にラフにつくっただけではミス(アーティファクト)としか思われないので、「キッチリ崩さないといけない」わけです。そこでどう上手く崩していくのかを常に考えながらつくっていますね。そしてそれが今回の作品における自分に課せられたミッションだと思っています。
――では、個人的な目標についてもお聞かせください。
櫻木:「ちゃんとドラマをつくれるようになりたい」と常々思っています。『新世紀いんぱくつ。』では短編としてひとつ密度の高いルックの作品をつくれたので、それが長い尺になったときにどういうルックで、どういうつくり方をすればハマるのかは次に考えなくてはいけないことだなと。あとは絵をいっぱい描きたいですね。3DCGが使えると、イラストを描く場合も背景とかレイアウトをきる上ですごく楽なんですよ。それにキャラを置いて撮影処理をかけるといったかたちで、CGアニメーション制作で培ったノウハウを用いて描けるのが自分にとってすごく描きやすいので。
――イラストレーターのお仕事の依頼があったら、やってみたいですか?
櫻木:ぜひやりたいですね。ライトノベルのイラストを描きたいです。そしてその作品がアニメ化されたら監督もぜひ(笑)。3DCGでつくるときは最終的に自分でデザインを起こさなくてはいけないので、結局のところ自分がCGでできる絵に寄せる必要があるわけです。イラストの時点からそれを見越してできるなら、それが一番だと思います。
© nihon animator mihonichi LLP.
「日本アニメ(ーター)見本市」公開作品『新世紀いんぱくつ。』
――今後、一緒にものづくりをしてみたいクリエイターはいらっしゃいますか?
櫻木:自分よりも若い人たちとつくってみたいですね。今年は、Netflixの上陸など動画配信サービスが注目されたりして、メディアの在り方がすごい勢いで変わってきてますし、ちょっと年がはなれると価値観や感性もちがってくるんです。
――最後にCGWORLD読者に向けたメッセージをいただけますか?
櫻木:今ここで語った内容を信用しないで(鵜呑みにしないで)ください(笑)。今後もずっと同じことを考えているかどうかはわからないですし、何かしらの影響で考え方が変わることは大いにあり得ますから。この時点ではそう思っていたというくらいに留めていただければと思います(笑)。
© nihon animator mihonichi LLP.
「日本アニメ(ーター)見本市」公開作品『新世紀いんぱくつ。』
INTERVIEW_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota
-
CGWORLD大賞 2015
2015年にCG・VFXをはじめとする日本のデジタルコンテンツ業界で目覚ましい活躍をされた方々をCGWORLD編集部が独自視点で選出し、その中から大賞を決定することで、1年をふり返りつつ、業界の活性化につなげていく企画です。
CGWORLD大賞は、2015年12月25日(金)に本サイトで発表予定です。大賞を予想して当たった方の中から抽選で10名様に月刊「CGWORLD + digital video」(定期購読1年分)をプレゼントするキャンペーンも実施中なので、ふるってご応募ください!
●詳細はこちら●
cgworld.jp/special/award2015