<2>「雑草中の雑草かなと思いますね(笑)」
——清水さんがCGを始めたきっかけについて教えてください。
清水:私はこの業界的には結構年配の部類に入ると思うのですが、元々はCGそのものというよりゲーム制作に携わりたかったんです。初代のPlayStationやNINTENDO64等が発売された時期で、日本のゲーム業界が大きく盛り上がっていた頃でした。ファミコン時代からゲームが好きでしたし絵を描くのも好きで、「ゲーム会社に就職すれば、金持ちになれるかな?」という安直な思いもあってゲームのデザイン職に就きたかったのが始まりです(笑)。
趣味程度に絵を描いたりはしていましたが、高校まではガチガチの運動部に所属していたので、デザイン系、アート系の仕事に就くのに芸大や美大に行くという発想も能力もなく、コンピュータでつくるんだからコンピュータの学校に行けば良いんだろうという感じでした。そこでコンピュータ総合学園HALの大阪校を選んだのも、当時はインターネットもなく、CMでよく見るHALくらいしか知らなかったから、という割と適当な感じでした(笑)。
通い始めた頃はまだWindows 95ですらなく、3.1の時代です。ちょうどそのくらいの時期に映画『ジュラシック・パーク』(1993)が話題になってCGそのものに魅力を感じ始め、さらに『鉄拳2』(1995)のオープニングムービーを見て「こんなにリアルな人間の表現ができるCGってスゲー!」と、ゲームというよりCGがやりたい! と思うようになりました。
——当時の機材はどんなものでしたか?
清水:Windows 95が出たくらいの時代ですからWindowsでの環境はまだまだで、個人レベルでは「CGやるならMacでしょ!」という感じでした。Adobe製品もまだMac版しかなかった頃です。当時学校で使っていたのはMacで動くSTRATA STUDIO Proというツールで、頂点編集のできるポリゴンモデラーがまだ搭載されていなかったと記憶しています。
業務用ではシリコングラフィックスのグラフィックワークステーションが流行っていた時代でもあり、旧Softimage 3DやMayaの前身のPowerAnimator、Houdiniの前身のPRISMSというツールが使われていましたが、価格が数百万もして、とても個人で買える代物ではなかったです。他にもたくさんのDCCツールが発売されて群雄割拠で、今よりももっと混沌とした時代だったと思います。そうそう、HAL入学当時はCGWORLDさんもまだ創刊されていませんでしたよ(笑)。
——そして卒業後はいったん、別の業種でお仕事をされていたそうですね。
清水:卒業する頃、正直なところ「この業界は大丈夫か?」という思いと「この業界でやっていけるのか?」という思いの両方がありました。当時の不況のあおりか、内定の出た会社が倒産した同級生の話や、労働環境、待遇の悪さ等のネガティブな話を聞き不安になったり、実際に大阪で受けた会社の面接で「プロに教えてもらえるんだから、勉強と思って一人前になるまでは当然給料ナシ」といわれたりしたこともありました。
後者については、学校側もまだまだCGに精通している人が少なく、カリキュラムに試行錯誤していたということもあったと思うのですが、当時主流のツールにまったく触れたこともなく、「人体モデリングとは」という理論を教わったこともなかったので、それで「こんなのでプロとしてやっていけるのか?」という疑問が自分の中で拭えませんでした。
そういう経緯もあって、結局就職活動をしないまま卒業してしまい、フリーターとしてコーヒーチェーン店でのアルバイト等をしていました。しかし、他にやりたいと思うことも見つからず、とりあえず個人作品をつくってコンテストに応募し、賞を貰ったりはしていましたが、プロの世界はやはり進歩が速くアマチュアの自分とのレベルの差が広がる一方で、ますます自信がもてないまま数年が経ってしまいました。
そうして「このままでは真剣にヤバイな」と考えていたときにクリエイターの人材派遣会社であるデジタルスケープ(現・イマジカデジタルスケープ)の存在を知り、やはりCGに未練があったので、とにかく派遣登録をしてみたのが業界で働き出したきっかけです。業界未経験どころかフリーター経験しかないまま数年を過ごしてしまっていたので、最初の派遣先が決まるまでに半年以上かかった記憶があります。あのとき派遣で何とか働き始めることができたからこそ、今があるのだと思います。いわば業界の落ちこぼれ。雑草中の雑草かなと思いますね(笑)。
——これまでの清水さんの代表的な作品での経験について教えてください。
清水:代表的というか印象に残っている作品は、劇場CGアニメ『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(2014)ですね。それまで映像系の仕事といえば遊技機ばかりだったので、『楽園追放』は初めての劇場版ということでテンションが上がりました(笑)。これより前のトゥーンの案件ではfinalToonを使うことが多かったのですが、このときPencil+を初めて使いました。
トゥーンの場合、ラインを出すためにスムージンググループを分けたり、ラインを出したい部分にエッジを追加したりというような、少し特殊なモデリングを行うことが多いと思います。メカから人物までいろいろとやらせてもらったのですが、試行錯誤しながらだったので、工夫する余裕まではなかった気がします。それでもいくつかこなしていくうちに、ラインの出し方等トゥーン用のモデルのつくり方が少しずつわかってきました。話題になった作品ですので、作成したモデルがCGWORLDさんに載ったときやPVやCM等を見たときはやはり嬉しかったですね。
CGWORLD vol.196 (2014年12月号)に掲載された、清水氏制作の無人迎撃機モデル
© 東映アニメーション・ニトロプラス/楽園追放ソサイエティ
もうひとつは、コーエーテクモゲームスさんのアクションRPG『仁王』(2017)のオープニングムービーです。ムービーの冒頭でカラスがどアップで出てくるのですが、そのカラスのモデル制作や、シーン内のオブジェクトの配置をしたり、Forest Pack Proという3ds Maxのスキャタリングプラグインを使って草を生やしたりしています。
当初、私がカラスをつくる予定はなかったのですが、急遽つくることになり、羽をどうしようかと考えました。最近ではHairツールがスキャタリングツールも兼ねていることが多いので、MayaのXGenもそうですが、Hairを生成しそのHairをポリゴンオブジェクトに置き換えてスキャタリングするというような使い方ができますよね。実際に羽の作成にHair機能を使用したことはなかったのですが、Ornatrixという3ds MaxのHairプラグインで試してみました。Hairを生成し、そのHairを羽のアルファで抜いた板ポリゴンに置き換える感じです。制御がかなり難しかった気がします。
あと、周りに死体が転がっていてカラスが死体をついばんでいるという割とグロいシーンなのですが、参考にネットでグロ画像を調べたりしたので、ちょっと気持ち悪かったです......(苦笑)。『仁王』も話題になった作品ですので関われたことはやはり嬉しいですね。