>   >  「フォトリアルな男性キャラクターのつくり方」ヘキサドライブ・清水智規が語るその面白さと難しさ、そして雑草魂
「フォトリアルな男性キャラクターのつくり方」ヘキサドライブ・清水智規が語るその面白さと難しさ、そして雑草魂

「フォトリアルな男性キャラクターのつくり方」ヘキサドライブ・清水智規が語るその面白さと難しさ、そして雑草魂

<3>すごいCG作品を見ることが次なるモチベーションに

——清水さんが恩師のような方から教わったことで大事にしていることは何でしょうか?

清水:私の場合、先ほど話したように新卒の時期に業界に入っておらず、派遣としてツールが使えることが前提での就業でしたので、ツールの類は自分で買って覚えてから就業していましたし、今のスキルもネット等で調べて見よう見まねでやってみた結果なので、誰かに教えてもらったことがほとんどないんです。だから、特段恩師というような人物はいないかな......。

ただ、同僚では刺激を受けた人が何人かいます。私より年上の方や10歳くらい年下の方もいますが、みんな「CGバカ」、「CGオタク」という言葉がピッタリくるくらいのCG好きです。知識やスキル、探求心が皆すごいんですよ。周りにこういう人間がいると、やはり触発されますね。大事にしていることは「向上心」や「探求心」をいつまでももち続けることでしょうか。

——CGクリエイターとして日頃から意識して行なっている情報収集や観察の仕方、技術向上に向けて取り組んでいることなどを教えてください。

清水:「特別な何か」、ということはありませんが、やはりインターネットや書籍の活用。月並みだとは思うのですが、CG業界の新しい技術等に常にアンテナを張ることでしょうか。アナログの芸術とはちがい、まだまだ技術の進歩で表現力が急激に上がっていく、いわば発展途上の世界なので、新しい事柄に興味をもてないとどんどん化石になっていきますよね。

私の場合は、今はフォトリアルな人物制作のスキルを上げたいと思っているのですが、自分の目標とするレベルの作品がどんな風に制作されているのか知りたくて、チュートリアルやブレイクダウン等をよく探します。目指したいレベルのチュートリアル等をいくつか見ていくうちに、トレンドになっている手法や使われている素材、それを販売しているサイト等がわかってきます。

人物の造形に関しては、美術解剖学系の書籍を見ながらつくってみたり、実在の人物をつくるときなどは、解像度の高い画像を集めてひたすら観察したりというような、割と誰でもやっていることばかりだと思います。日常で人を観察することもありますが、道行く他人をじっくりと観察するわけにもいかないので(笑)。やはりネットで探すことが多いですね。

——日頃からご自身に課していることは何かありますか?

清水:個人作品をつくってArtStation等、「海外」の作品投稿サイトに定期的に、最低でも1年に1〜2回は投稿することでしょうか。だいたい毎日21時頃に帰宅するので、そこから夜中の3〜4時くらいまで個人制作をしています。あえて海外に限定していますが、海外のとんでもないレベルの作品を見て「自分もこんな作品をつくりたい」と挑戦していくことで、少しずつながら上達しているのかなと思います。



  • 清水氏がArtStationに投稿している作品の一部(『ゲーム・オブ・スローンズ』のファンアート)

——このお仕事を長く続けられているモチベーションは何ですか?

清水:正直なところ何度も辞めたいと思ったことがあります(笑)。映画でもゲームでもすごい作品を見ると「すげー!」とワクワクしますが、それと同時に悔しいと思うことでしょうか。世界中で同じDCCツールを使ってCGがつくられているわけですが、自分よりはるかに若い人がはるかにすごい作品をつくっている、その事実はやはりとても悔しいですよね。「もっと上手くなりたい」、「自分でもあんな作品をつくってみたい」という思いがモチベーションにつながっていると思います。

——このお仕事をしていての喜びはどんなところにありますか?

清水:やはり関わった作品が世に出て、様々な人の目に触れ、反響があることでしょうか。おそらく、この業界の人は全員、「あの作品のあれは私がつくった」と自慢したいと思っているはずです(笑)。個人作品も同様で、世界中の人が「いいね」をくれたりコメントをくれるとやはり嬉しいですよね。自分の理想とするものに少しでも近づいているという実感を得られると嬉しいです。

——クリエイターとしてつい気になってしまう、職業病のような事柄はありますか?

清水:これも月並みかもしれませんが、純粋にゲームや映画、海外ドラマ等、CGを見るたびに「お客さん目線」で楽しめなくなったことです(笑)。すごい作品ほど、「どうやってつくってるのこれ?」とか「え?ここCG?」と見てしまい、「たぶん、ここはこういう感じでつくってるよな」とか「これを自分でつくるとしたらこんな感じのフローかな」とか考えてしまいます(笑)。一方で、すごいCGを見た後は個人作品をつくりたくなってしまいます。つまり同業者として、いつまでもお客さんでいてはダメだろうと思うんです。同業者がつくったものを見てただただすごいと感心しているだけでは決して上達しないので。

——CGの分野で新たに興味のある技術や、今後CGクリエイターとして取り組みたいと思っている事柄について教えてください。

清水:特別新たな技術というわけではありませんが、リアルタイムレンダリングでしょうか。GeForce RTX 20xx番台のグラフィックスボードがリリースされ、リアルタイムでのレイトレーシング表現が次のステージに上がってきていますが、その恩恵を受けてGPUレンダリング等、プリレンダリングの方面もより高速になってくれないかなと期待します。Redshift Renderも触ってみたいですね。

個人的に取り組みたいのは筋肉シミュレーションです。今、興味があるのが、Ziva VFXというMayaの筋肉プラグインです。Houdiniにも標準で筋肉シミュレーション機能があるようなのでそちらも気になります。最近は顔のモデリングだけで力尽きてしまうのですが、ちゃんと画づくりをしたり、アニメーションまでやりたいなと思います。

A Quick Intro to ZIVA VFX from Ziva Dynamics on Vimeo.

——CGクリエイターを目指す学生や初心者に向けて、今のうちに行なっておいたほうが良いこと、大事なことなどアドバイスをお願いします。

清水:特別なことはないのですが、向上心や好奇心を忘れないことと、可能な限り作品を数多くつくってみることでしょうか。そして適度にCGを忘れて別のことをして楽しんでください。「1万時間の法則」なんてものがありますよね。これには賛否両論がありますが、あながち間違ってもいないかなと。社会人になり、年を取れば取るほど自由に使える時間もどんどん減ってくる可能性が高いです。「あのときにもっとやっておけば......」という後悔が一番もったいないので、時間の自由が利きやすい学生のうちに思う存分作品をつくってみてください。

ただ、精神論でひたすらやるというのも少しちがいます。闇雲に根性で的外れなことをやっても上手くならないので、参考にするものをよく観察し、モデリングにしてもアニメーションにしても、なぜそうなるのかを論理的に考えながらつくることが大事です。例えば、その形状になっているのにはちゃんと理由があるはずで、「ここは筋肉があまりなく、骨が表面に出てきているのでゴツゴツしている」とか、人工物ならば継ぎ目やネジなど技術的な理由や構造上の必要からそうなっているはずなんです。それを無視して勝手な想像でつくってしまうと、とたんに嘘くさくなります。そういうことを気にしながら、よく観察してつくるうちに上手くなるのではないかと思います。

そしてできるだけ他人の目に触れさせると良いです。最初は誰かに見せるのが恥ずかしいかもしれませんが、もっと上手くなりたいと言う向上心につながると思います。ArtStationを見ていても、みんな下手だろうが制作途中だろうが「俺のつくったものを見てくれよ!」という感じでバンバン上げていますよね。個人的には、こういう人たちがすぐに上手くなっていくのだろうなと思います。

私はCG業界のエリート街道を歩いてきたわけでもないですし、こんな風に取り上げていただいていますが正直まだまだ下手だと思っています。しかし凡人でも継続すればそれなりに上達はするものです。環境もちがうので簡単に比較はできないのですが、私の今と昔の作品を比べたら、格段に上達しているとは思います。何度も何度もつくってみてください。



  • 清水氏がCGを始めたばかりの頃の作品(左)と、現在の作品(右)

フォトリアルな男性キャラクターのつくり方
(CGWORLD Online Tutorials)
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Profileプロフィール

清水智規/Tomonori Shimizu

清水智規/Tomonori Shimizu

コンピュータ総合学園HAL大阪校を卒業後、他業種に従事。その後、大阪で派遣社員としていくつかのゲーム会社等で、ゲームのモデル制作や、VP等の制作を行う。アニマロイドウエスト(現・株式会社グリオグルーヴ アニマロイドチーム)を経て現在、株式会社ヘキサドライブ大阪でモデラーとして勤務。参加作品に劇場CGアニメ『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(2014)、『龍が如く 極』(2017)、『NIOH 仁王』(2017)オープニングムービー等
tomozoo.artstation.com

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