「CGWORLD Online Tutorials」にて、「フォトリアルな男性キャラクターのつくり方」講座を配信中のベテランモデラー・清水智規氏。仕事を離れてもCGを作り続ける理由と、自身を「雑草中の雑草」と表現するほどたくましいCGアーティストになるまでの道のり、そしてその過程で覚えていった技術と知識の身に付け方。モデリングの次のステップのノウハウや、フォトリアル系に限らずCGを使うにあたっての多くの気づきを与えてくれた。

INTERVIEW_日詰明嘉 / Akiyoshi Hizume
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
PHOTO_清水智規 / Tomonori Shimizu

フォトリアルな男性キャラクターのつくり方
(CGWORLD Online Tutorials)
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<1>フォトリアルな男性キャラクターをつくる面白さと難しさ

——8月より「CGWORLD Online Tutorials」にて、清水さんの「フォトリアルな男性キャラクターのつくり方」が配信されています。どのような経緯からこの配信が行われるにいたったのでしょうか?

清水智規氏(以下、清水):私は趣味と実益を兼ねて、ArtStation等の作品投稿サイトのいくつかへ個人作品を投稿しているのですが、「CGWORLD Online Tutorials」の担当者さんが作品を見て下さっていたようで、「講師をやってみませんか?」とご連絡をいただいたことが発端です。

でも当初は、正直少し考えました。というのも、私に知名度や輝かしいキャリアがあるわけでもなく、もっと上手な人はたくさんいますし、そういう方々に追いつきたくてまだまだ勉強している立場だったので、「ほんとに私で良いのでしょうか?」とお尋ねしました(笑)。そうしたら、「講師の人選では特に知名度にこだわっているわけではなく、国内のCG業界を盛り上げたい」というお返事をいただきまして。私としても作品を見てお声をかけていただいたことは率直に嬉しかったですし、会社の了承も得られましたので、それならば業界を盛り上げるためにと、お引き受けしました。

——清水さんがつくられているフォトリアルな男性キャラクターは、ゲームや映画、CMなど多彩な用途に使えそうですが、お仕事ではどのようなキャラクターをつくってこられましたか?

清水:実は私、仕事ではほとんどフォトリアル系をやったことがないんですよ(笑)。今までに関わった仕事では、3ds MaxとPencil+を使用したトゥーン系や、デフォルメ系が多かったです。海外のようなフォトリアル系の方が好きなのですが、なかなか業務では関わることができないので、そのフラストレーションを個人作品で発散している感じです(笑)。ただ、最近ではPS4等、フィジカルベースドレンダリング(PBR)表現のゲームの仕事に関わることができていて、今回の「フォトリアルな男性キャラクター」のような作例は役に立っているかなと思います。

——どんなところが役に立っているのでしょうか?

清水:プロジェクト内容にもよりますが、まず、PS4等の今世代機でのキャラクター作成では、制作フローがプリレンダー作品とかなり近くなっているということです。ZBrushMudboxのようなスカルプトツールでディテールを作成してハイメッシュのモデルからノーマルマップを作成しますし、MARISubstance Painter等の3Dペイントツールも使いますので、やっていることはプリレンダー用のキャラクター作成とほとんど変わらないのではないでしょうか。まだリアルタイムではUDIMやHairの使用は少し難しいですが、それ以外の部分では大して変わらないと思います。他にも肌の質感にサブサーフェス・スキャタリング(SSS)を使用する場合は、プリレンダーほどではないとはいえV-Rayで質感設定をするときの考え方が役に立っています。

そして、カメラの露出ですが、今回のチュートリアルではV-Rayのフィジカルカメラを使用しています。これは実際のカメラと同じ設定項目が用意されていて、EVの考え方やISO、F値、シャッタースピードが現実世界で写真を撮影するときと同じように扱えます。ゲームでのPBR環境ではライトやカメラの露出をより現実の世界に近づけようとしますので、V-Rayでのライト設定やカメラの露出設定の考え方を理解していればPBRの環境構築で役に立ちます。というよりも、現実のカメラの考え方を覚えるとCGでも役に立つと言う方が正しいでしょうか。

プリレンダーでのキャラクター制作のフローをひと通り経験しておけばゲームキャラクター制作にも比較的楽に入れるのではないかなと思います。PBR以前のゲームキャラクターではディフューズ(カラー)テクスチャに陰影やハイライトを描き込むことも多かったですが、元々プリレンダーではそういうことはマテリアルの設定やレンダリングでの計算に任せているので、描くこともなかなかないと思います。

——フォトリアルな男性キャラクターをつくる面白さはどんなところにありますか?

清水:まず面白さですが、男性キャラクターをより現実的につくりたい場合、顔の凹凸や皺などが多く、女性より形状が複雑になるのでつくり甲斐があるところです。メイクをすることもほとんどないと思うので、アザやシミ等肌の荒れた感じにも凝ることができます。年齢を重ねた男性はそれらがより顕著に現れます。日本人の好みの傾向として、造形的に「実際の人間のような」というよりセミリアルな感じが好まれると思うのですが、より現実的な特にコーカソイドのような人種の男性は、かなり立体的でゴツゴツしているのでスカルプトするのも楽しいですね。

——一方で、難しさはどんなところにありますか?

清水:個人的には全部です(笑)。今回の作例については、私は『ゲーム・オブ・スローンズ』と言う海外ドラマにむちゃくちゃハマっていて、そのドラマに出てくるジェイミー・ラニスターというキャラクターを制作してみたのですが、これがなかなか似なくて(笑)。モデリングはこれくらいで良いかなと思って質感設定していくと「全然ちがう」となったり......。



  • 『ゲーム・オブ・スローンズ』に登場するジェイミー・ラニスターをベースとしたチュートリアル動画の男性モデルの初期テスト版(左)と完成版(右)

今回テクスチャをハンドペイントで作成しているのですが、最近は写真を使うことが多かったので久々にチャレンジしたら難しかったです。やはり実在の人物に似せるのは難しいですね。ほんの少しちがうだけでも別人に見えてしまいますし。似る/似ない以前にCGそのもののクオリティを上げるのも難しいですね。不気味の谷からなかなか抜け出せないです。まだまだ模索中なので、むしろ私がノウハウを教えてもらいたいです(笑)。

——チュートリアルの内容紹介に「モデリングがある程度できるようになった後に陥りやすいのが、肌の質感や髪のリアリティ不足です」とあります。この考えにいたった理由を教えてください。

清水:これは私個人の感覚ですが、CGを始めるときは、まずモデリングから入ることが多いと思います。CGツールとしては安価な部類に入るZBrushやZBrush Coreが普及していること、モデリングの解説書やチュートリアルはたくさん出ていることもあって、スカルプトも含めモデリング(造形)そのものは比較的アプローチしやすいと思うんですね。ところが、ある程度モデリングができるようになった後の質感設定や髪の作成になると、数段ハードルが上がるという印象です。個人的にもなかなか良いチュートリアルを見つけられなかったりして、今でも難しいのですが、ここでつまずいてしまうことが多いのではないかと感じたんです。

チュートリアル作例のスカルプトモデルをZBrushで表示した様子

例えば、SSSを使った肌の表現をV-Rayで行う場合ですが、V-RayではSkin用マテリアルが複数あるので、どれを使えば良いか迷うこともあると思います。そしてこのSkinマテリアルは、V-Rayの複数のSkinマテリアルや他のレンダラのマテリアルも含め細かく設定項目がちがうんですよね。大きな枠での概念は似たようなものだと思いますが、細かい項目が異なるので、同じテクスチャを使っていても同じ質感にするのは難しいですし、同じマテリアルを使用していても使用者ごとに設定の仕方が異なることも多く、自分がつくりたい質感を出すためにどうアプローチすれば良いか混乱しやすいのかなと。そういう意味では今回使用しているVRayAlSurfaceと言うマテリアルは比較的使いやすいマテリアルだと思います。

そしてHairについては、これもMayaや3ds Maxのプラグインも含めて複数のアプローチがありますし、スタイリングに関しても細かく設定してあげないとなかなかリアルな感じにつくるのは難しいです。質感に関しては、最近では各レンダラのHairマテリアルを使えば全て同じように間接照明も計算してリアルな結果が出せるので、XGenのようなHair作成ツール上では、いかにリアルにスタイリングできるかが重要になってきます。単純にHairを生やすだけではそれっぽくならないのでマスクを使って制御したり、部位ごとに分けたり、髪質の異なる毛を複数混ぜ合わせたり、そういった部分で慣れやノウハウが必要になるのかなと。

チュートリアル動画におけるXGenでの髪や髭のビュー表示とそのレンダリング画像

あとはレンダリングしないと結果が確認できないためトライ&エラーに時間がかかるのも、作成が難しいひとつの理由と言えます。悲しいことに肌の質感、HairやFurはキャラクターの作成において避けて通れない上に見映えにも大きく影響しますので、最終的にフォトリアルなレンダリングイメージを作成したい場合、そこを上手く作成できないと顔の造形が良くても全体的に今一歩の残念な作品になってしまうのかなと思います。

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<2>「雑草中の雑草かなと思いますね(笑)」

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<2>「雑草中の雑草かなと思いますね(笑)」

——清水さんがCGを始めたきっかけについて教えてください。

清水:私はこの業界的には結構年配の部類に入ると思うのですが、元々はCGそのものというよりゲーム制作に携わりたかったんです。初代のPlayStationやNINTENDO64等が発売された時期で、日本のゲーム業界が大きく盛り上がっていた頃でした。ファミコン時代からゲームが好きでしたし絵を描くのも好きで、「ゲーム会社に就職すれば、金持ちになれるかな?」という安直な思いもあってゲームのデザイン職に就きたかったのが始まりです(笑)。

趣味程度に絵を描いたりはしていましたが、高校まではガチガチの運動部に所属していたので、デザイン系、アート系の仕事に就くのに芸大や美大に行くという発想も能力もなく、コンピュータでつくるんだからコンピュータの学校に行けば良いんだろうという感じでした。そこでコンピュータ総合学園HALの大阪校を選んだのも、当時はインターネットもなく、CMでよく見るHALくらいしか知らなかったから、という割と適当な感じでした(笑)。

通い始めた頃はまだWindows 95ですらなく、3.1の時代です。ちょうどそのくらいの時期に映画『ジュラシック・パーク』(1993)が話題になってCGそのものに魅力を感じ始め、さらに『鉄拳2』(1995)のオープニングムービーを見て「こんなにリアルな人間の表現ができるCGってスゲー!」と、ゲームというよりCGがやりたい! と思うようになりました。

——当時の機材はどんなものでしたか?

清水:Windows 95が出たくらいの時代ですからWindowsでの環境はまだまだで、個人レベルでは「CGやるならMacでしょ!」という感じでした。Adobe製品もまだMac版しかなかった頃です。当時学校で使っていたのはMacで動くSTRATA STUDIO Proというツールで、頂点編集のできるポリゴンモデラーがまだ搭載されていなかったと記憶しています。

業務用ではシリコングラフィックスのグラフィックワークステーションが流行っていた時代でもあり、旧Softimage 3DやMayaの前身のPowerAnimator、Houdiniの前身のPRISMSというツールが使われていましたが、価格が数百万もして、とても個人で買える代物ではなかったです。他にもたくさんのDCCツールが発売されて群雄割拠で、今よりももっと混沌とした時代だったと思います。そうそう、HAL入学当時はCGWORLDさんもまだ創刊されていませんでしたよ(笑)。

——そして卒業後はいったん、別の業種でお仕事をされていたそうですね。

清水:卒業する頃、正直なところ「この業界は大丈夫か?」という思いと「この業界でやっていけるのか?」という思いの両方がありました。当時の不況のあおりか、内定の出た会社が倒産した同級生の話や、労働環境、待遇の悪さ等のネガティブな話を聞き不安になったり、実際に大阪で受けた会社の面接で「プロに教えてもらえるんだから、勉強と思って一人前になるまでは当然給料ナシ」といわれたりしたこともありました。

後者については、学校側もまだまだCGに精通している人が少なく、カリキュラムに試行錯誤していたということもあったと思うのですが、当時主流のツールにまったく触れたこともなく、「人体モデリングとは」という理論を教わったこともなかったので、それで「こんなのでプロとしてやっていけるのか?」という疑問が自分の中で拭えませんでした。

そういう経緯もあって、結局就職活動をしないまま卒業してしまい、フリーターとしてコーヒーチェーン店でのアルバイト等をしていました。しかし、他にやりたいと思うことも見つからず、とりあえず個人作品をつくってコンテストに応募し、賞を貰ったりはしていましたが、プロの世界はやはり進歩が速くアマチュアの自分とのレベルの差が広がる一方で、ますます自信がもてないまま数年が経ってしまいました。

そうして「このままでは真剣にヤバイな」と考えていたときにクリエイターの人材派遣会社であるデジタルスケープ(現・イマジカデジタルスケープ)の存在を知り、やはりCGに未練があったので、とにかく派遣登録をしてみたのが業界で働き出したきっかけです。業界未経験どころかフリーター経験しかないまま数年を過ごしてしまっていたので、最初の派遣先が決まるまでに半年以上かかった記憶があります。あのとき派遣で何とか働き始めることができたからこそ、今があるのだと思います。いわば業界の落ちこぼれ。雑草中の雑草かなと思いますね(笑)。

——これまでの清水さんの代表的な作品での経験について教えてください。

清水:代表的というか印象に残っている作品は、劇場CGアニメ『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(2014)ですね。それまで映像系の仕事といえば遊技機ばかりだったので、『楽園追放』は初めての劇場版ということでテンションが上がりました(笑)。これより前のトゥーンの案件ではfinalToonを使うことが多かったのですが、このときPencil+を初めて使いました。

トゥーンの場合、ラインを出すためにスムージンググループを分けたり、ラインを出したい部分にエッジを追加したりというような、少し特殊なモデリングを行うことが多いと思います。メカから人物までいろいろとやらせてもらったのですが、試行錯誤しながらだったので、工夫する余裕まではなかった気がします。それでもいくつかこなしていくうちに、ラインの出し方等トゥーン用のモデルのつくり方が少しずつわかってきました。話題になった作品ですので、作成したモデルがCGWORLDさんに載ったときやPVやCM等を見たときはやはり嬉しかったですね。

CGWORLD vol.196 (2014年12月号)に掲載された、清水氏制作の無人迎撃機モデル
© 東映アニメーション・ニトロプラス/楽園追放ソサイエティ

もうひとつは、コーエーテクモゲームスさんのアクションRPG『仁王』(2017)のオープニングムービーです。ムービーの冒頭でカラスがどアップで出てくるのですが、そのカラスのモデル制作や、シーン内のオブジェクトの配置をしたり、Forest Pack Proという3ds Maxのスキャタリングプラグインを使って草を生やしたりしています。

当初、私がカラスをつくる予定はなかったのですが、急遽つくることになり、羽をどうしようかと考えました。最近ではHairツールがスキャタリングツールも兼ねていることが多いので、MayaのXGenもそうですが、Hairを生成しそのHairをポリゴンオブジェクトに置き換えてスキャタリングするというような使い方ができますよね。実際に羽の作成にHair機能を使用したことはなかったのですが、Ornatrixという3ds MaxのHairプラグインで試してみました。Hairを生成し、そのHairを羽のアルファで抜いた板ポリゴンに置き換える感じです。制御がかなり難しかった気がします。

あと、周りに死体が転がっていてカラスが死体をついばんでいるという割とグロいシーンなのですが、参考にネットでグロ画像を調べたりしたので、ちょっと気持ち悪かったです......(苦笑)。『仁王』も話題になった作品ですので関われたことはやはり嬉しいですね。

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<3>すごいCG作品を見ることが次なるモチベーションに

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<3>すごいCG作品を見ることが次なるモチベーションに

——清水さんが恩師のような方から教わったことで大事にしていることは何でしょうか?

清水:私の場合、先ほど話したように新卒の時期に業界に入っておらず、派遣としてツールが使えることが前提での就業でしたので、ツールの類は自分で買って覚えてから就業していましたし、今のスキルもネット等で調べて見よう見まねでやってみた結果なので、誰かに教えてもらったことがほとんどないんです。だから、特段恩師というような人物はいないかな......。

ただ、同僚では刺激を受けた人が何人かいます。私より年上の方や10歳くらい年下の方もいますが、みんな「CGバカ」、「CGオタク」という言葉がピッタリくるくらいのCG好きです。知識やスキル、探求心が皆すごいんですよ。周りにこういう人間がいると、やはり触発されますね。大事にしていることは「向上心」や「探求心」をいつまでももち続けることでしょうか。

——CGクリエイターとして日頃から意識して行なっている情報収集や観察の仕方、技術向上に向けて取り組んでいることなどを教えてください。

清水:「特別な何か」、ということはありませんが、やはりインターネットや書籍の活用。月並みだとは思うのですが、CG業界の新しい技術等に常にアンテナを張ることでしょうか。アナログの芸術とはちがい、まだまだ技術の進歩で表現力が急激に上がっていく、いわば発展途上の世界なので、新しい事柄に興味をもてないとどんどん化石になっていきますよね。

私の場合は、今はフォトリアルな人物制作のスキルを上げたいと思っているのですが、自分の目標とするレベルの作品がどんな風に制作されているのか知りたくて、チュートリアルやブレイクダウン等をよく探します。目指したいレベルのチュートリアル等をいくつか見ていくうちに、トレンドになっている手法や使われている素材、それを販売しているサイト等がわかってきます。

人物の造形に関しては、美術解剖学系の書籍を見ながらつくってみたり、実在の人物をつくるときなどは、解像度の高い画像を集めてひたすら観察したりというような、割と誰でもやっていることばかりだと思います。日常で人を観察することもありますが、道行く他人をじっくりと観察するわけにもいかないので(笑)。やはりネットで探すことが多いですね。

——日頃からご自身に課していることは何かありますか?

清水:個人作品をつくってArtStation等、「海外」の作品投稿サイトに定期的に、最低でも1年に1〜2回は投稿することでしょうか。だいたい毎日21時頃に帰宅するので、そこから夜中の3〜4時くらいまで個人制作をしています。あえて海外に限定していますが、海外のとんでもないレベルの作品を見て「自分もこんな作品をつくりたい」と挑戦していくことで、少しずつながら上達しているのかなと思います。



  • 清水氏がArtStationに投稿している作品の一部(『ゲーム・オブ・スローンズ』のファンアート)

——このお仕事を長く続けられているモチベーションは何ですか?

清水:正直なところ何度も辞めたいと思ったことがあります(笑)。映画でもゲームでもすごい作品を見ると「すげー!」とワクワクしますが、それと同時に悔しいと思うことでしょうか。世界中で同じDCCツールを使ってCGがつくられているわけですが、自分よりはるかに若い人がはるかにすごい作品をつくっている、その事実はやはりとても悔しいですよね。「もっと上手くなりたい」、「自分でもあんな作品をつくってみたい」という思いがモチベーションにつながっていると思います。

——このお仕事をしていての喜びはどんなところにありますか?

清水:やはり関わった作品が世に出て、様々な人の目に触れ、反響があることでしょうか。おそらく、この業界の人は全員、「あの作品のあれは私がつくった」と自慢したいと思っているはずです(笑)。個人作品も同様で、世界中の人が「いいね」をくれたりコメントをくれるとやはり嬉しいですよね。自分の理想とするものに少しでも近づいているという実感を得られると嬉しいです。

——クリエイターとしてつい気になってしまう、職業病のような事柄はありますか?

清水:これも月並みかもしれませんが、純粋にゲームや映画、海外ドラマ等、CGを見るたびに「お客さん目線」で楽しめなくなったことです(笑)。すごい作品ほど、「どうやってつくってるのこれ?」とか「え?ここCG?」と見てしまい、「たぶん、ここはこういう感じでつくってるよな」とか「これを自分でつくるとしたらこんな感じのフローかな」とか考えてしまいます(笑)。一方で、すごいCGを見た後は個人作品をつくりたくなってしまいます。つまり同業者として、いつまでもお客さんでいてはダメだろうと思うんです。同業者がつくったものを見てただただすごいと感心しているだけでは決して上達しないので。

——CGの分野で新たに興味のある技術や、今後CGクリエイターとして取り組みたいと思っている事柄について教えてください。

清水:特別新たな技術というわけではありませんが、リアルタイムレンダリングでしょうか。GeForce RTX 20xx番台のグラフィックスボードがリリースされ、リアルタイムでのレイトレーシング表現が次のステージに上がってきていますが、その恩恵を受けてGPUレンダリング等、プリレンダリングの方面もより高速になってくれないかなと期待します。Redshift Renderも触ってみたいですね。

個人的に取り組みたいのは筋肉シミュレーションです。今、興味があるのが、Ziva VFXというMayaの筋肉プラグインです。Houdiniにも標準で筋肉シミュレーション機能があるようなのでそちらも気になります。最近は顔のモデリングだけで力尽きてしまうのですが、ちゃんと画づくりをしたり、アニメーションまでやりたいなと思います。

A Quick Intro to ZIVA VFX from Ziva Dynamics on Vimeo.

——CGクリエイターを目指す学生や初心者に向けて、今のうちに行なっておいたほうが良いこと、大事なことなどアドバイスをお願いします。

清水:特別なことはないのですが、向上心や好奇心を忘れないことと、可能な限り作品を数多くつくってみることでしょうか。そして適度にCGを忘れて別のことをして楽しんでください。「1万時間の法則」なんてものがありますよね。これには賛否両論がありますが、あながち間違ってもいないかなと。社会人になり、年を取れば取るほど自由に使える時間もどんどん減ってくる可能性が高いです。「あのときにもっとやっておけば......」という後悔が一番もったいないので、時間の自由が利きやすい学生のうちに思う存分作品をつくってみてください。

ただ、精神論でひたすらやるというのも少しちがいます。闇雲に根性で的外れなことをやっても上手くならないので、参考にするものをよく観察し、モデリングにしてもアニメーションにしても、なぜそうなるのかを論理的に考えながらつくることが大事です。例えば、その形状になっているのにはちゃんと理由があるはずで、「ここは筋肉があまりなく、骨が表面に出てきているのでゴツゴツしている」とか、人工物ならば継ぎ目やネジなど技術的な理由や構造上の必要からそうなっているはずなんです。それを無視して勝手な想像でつくってしまうと、とたんに嘘くさくなります。そういうことを気にしながら、よく観察してつくるうちに上手くなるのではないかと思います。

そしてできるだけ他人の目に触れさせると良いです。最初は誰かに見せるのが恥ずかしいかもしれませんが、もっと上手くなりたいと言う向上心につながると思います。ArtStationを見ていても、みんな下手だろうが制作途中だろうが「俺のつくったものを見てくれよ!」という感じでバンバン上げていますよね。個人的には、こういう人たちがすぐに上手くなっていくのだろうなと思います。

私はCG業界のエリート街道を歩いてきたわけでもないですし、こんな風に取り上げていただいていますが正直まだまだ下手だと思っています。しかし凡人でも継続すればそれなりに上達はするものです。環境もちがうので簡単に比較はできないのですが、私の今と昔の作品を比べたら、格段に上達しているとは思います。何度も何度もつくってみてください。



  • 清水氏がCGを始めたばかりの頃の作品(左)と、現在の作品(右)

フォトリアルな男性キャラクターのつくり方
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