<3>ファッション業界から環境問題にも取り組む
バーチャルヒューマンが注目されるのは、インフルエンサーとしての機能だけではない。例えば、バーチャルなファッションアイテムの市場開拓につなげることも期待できる。自分のアバターに好きなバーチャルファッションを着せて、ネット上で写真を投稿する時代は、夢物語ではなくなりつつある。
こうしたアイデアが生まれる背景には宮地氏のキャリアも関わっているはずだ。宮地氏は、アメリカ留学を経て起業家として活動を開始。2014年9月に動画でファッションアイテムを紹介する3ミニッツを創業。動画制作やファッション動画マガジン、D2Cブランド「エイミーイストワール」「エトレ トーキョー」事業などを展開後、2017年2月にグリーに約43億円で売却した。その後、再び渡米した宮地氏はロサンゼルスでバーチャルヒューマンの波を体験し、2019年1月に1SECを創業。Liam、Lewisと立て続けにローンチをはたした。
宮地:女性のバーチャルヒューマンが先行する中、男性のバーチャルヒューマンがいなかったため、そこにチャンスがあると思いました。
Lewis〜シーンメイキング<1>
<A>ロケ現場となったレストラン内をTheta Sで撮影した写真を基に作成したHDRI/<B>Mayaによるライティング作業の例。基本的にはHDRIのみでライティングしているそうだが、必要に応じてライトを追加したり衣装に合わせて簡易的なオブジェクトを作成することもあるという/<C>実写素材に頭部の3DCGモデルを単純に合成しただけの状態/<D>一連のコンポジットワークが施された完成形。コンポジット作業にはNUKEを使用。投稿する写真によってはPhotoshopでさらに全体的な色味を調整することもあるそうだ
マーケットから逆算して、新たなビジネスを起ち上げるのが宮地氏のスタイルだ。ただし、そこには3ミニッツを通して知った、環境問題に対する思いもある。
2025年には300兆円規模の市場に到達する見通しで、華やかなイメージのあるファッション業界。しかし、「世界で2番目に環境汚染を引き起こしている業界」と言われるほど(※4)、環境に与える影響の高さが懸念されている。2016年の経済産業省の調査では、衣料品の廃棄量が年間で100万トン。枚数に換算すると30億着の衣料品が捨てられていることになる。1SECではこうした現状を、テクノロジーとバーチャル化で変えていくこともミッションに掲げているのだ。
※4:国連貿易開発会議(UNCTAD)の調査によると、ファッション業界は毎年930億立方メートルもの水を使用し、約50万トンものマイクロファイバーを海洋に投棄している。これにより、ファッション業界は世界で第2位の汚染産業と見なしている。(参照リンク:国連、ファッションの流行を追うことの環境コストを「見える化」する活動を開始)
1SECの第1弾バーチャルヒューマンであるLiamの活動には、このミッションを反映するものも見受けられる。数少ない男性バーチャルヒューマンとして登場後、バーチャルヒューマンとして初となるグラミー賞の受賞を目指して音楽活動の準備を進めているそうだが、彼のツイートには世界の環境問題を日本に伝えたいという意志が込められたものがそれだ。
カルロス・ゴーンさんの報道やるより、オーストラリアの山火事について日本の地上波は放送すべき。オーストラリア含めてアマゾン等の山火事で凄く人間も動物達も、被害が多数出てる。地球が泣いてるんだ。僕らが真剣に地球について考えて取り組まなきゃいけない問題が目の前にある。 pic.twitter.com/jHsHga0U7D
— Liam Nikuro (@liam_nikuro) 6 January 2020
宮地:Liamであれば、単にお洒落なキャラクターを創り上げるのではなく、Liamの音楽性に紐づけるかたちで、世界の情勢をいち早く伝える存在に育てていければと思っています。
映画『レディ・プレイヤー1』(2018)を観て、こんな世界が到来することを確信したという、宮地氏。バーチャルヒューマンがSNS上で活動し、バーチャルファッションアイテム市場が拡大する中で、新たな職種を生みだすと共に、環境問題にも貢献していく......これが1SECのビジョンだ。ファッションブランドとのコラボレーションも進行中で、今春にはLewisを介して、新たな展開も準備中だという。リアルとバーチャルの境界線上から、新たな可能性が生まれてくるのかもしれない。
Lewis〜シーンメイキング<2>
<A>フリー素材のHDRIを加工してライティングに利用した例。図では、「HDRI Haven」が配布しているものを加工/<B>Mayaによるライティング作業の例