>   >  コロナ禍がゲーム・プロモーションに与えた影響は「ありません」~書籍『伝え方は「順番」がすべて』小沼竜太氏インタビュー
コロナ禍がゲーム・プロモーションに与えた影響は「ありません」~書籍『伝え方は「順番」がすべて』小沼竜太氏インタビュー

コロナ禍がゲーム・プロモーションに与えた影響は「ありません」~書籍『伝え方は「順番」がすべて』小沼竜太氏インタビュー

INDIE Live Expo開催への道

CGW:そうした認識はコンシューマゲームとインディゲームでは異なるかもしれませんね。様々なプロモーション手段を駆使できるコンシューマゲームとはちがい、インディゲームではイベント出展を中心とした対面マーケティングが主流でした。

小沼:そうですね。INDIE Live Expoも、そうした問題意識から生まれました。ゲームの宣伝ができなくて困っている人たちがたくさんいるので、その助けになろうという気持ちです。その一方でインディゲームの開発者には、リアルイベントが唯一のプロモーション手段だと思い込んでいる人が多いと感じていました。そのため、ほかの手段があることを知ってもらいたかったという想いもありました。

CGW:INDIE Live ExpoはインディゲームブランドPLAYISMを展開するアクティブゲーミングメディアが協力していますね。どのように企画が起ち上がり、どのような知見が得られたのか、お聞かせください。

小沼:もともとインディゲーム専門のパブリッシャーで、自らも開発を手がけるWhy so serious, Inc.の方から、コロナ禍で困っているインディゲーム開発者が多いという話を聞いていました。そこでインディゲーム向けに宣伝機会を提供する試みについて提案したところ、賛同をいただいて。そこで、このアイデアを実現させるために日本で最大級のインディパブリッシャーである、アクティブゲーミングメディアの水谷俊次さんを紹介していただいたというながれです。水谷さんからも協力を快諾していただけました。

実際、水谷さんには情報集めの段階からご協力いただいています。どんなタイトルがあるのか、協賛していただけそうなを企業はどこか、といったレベルからですね。もっとも、コロナ禍でPLAYISMの側も課題を抱えていました。そこで我々の提案にご協力いただけたのだと思います。

前述したように、弊社ではインディゲームの方々に「プロモーションの手段は対面イベントだけではない」ことを知っていただく良い機会になるという考えがありました。この想いが通じて、東京ゲームショウの直前にPLAYISMが主催する『PLAYISM Game Show』という生放送番組が配信され、弊社も協力させていただきました。

CGW:良い話ですね。

小沼:生放送番組の費用は、それまで同社が確保されていたイベント出展向けの年間予算が原資になったそうです。実は先方でも、これまで国内外のイベントに出展されている中で「本当に意味があるんだろうか?」という疑問があったそうです。そうした中、INDIE Live Expoの開催を通して、生放送番組におけるプロモーション効果について認識していただけて。そこで、改めて自社で番組を配信したところ、大きな手応えを感じられたそうです。

CGW:興味深いですね。ただ、一般論としてインディゲーム関係者はお金をあまりもっていません。ビジネスという意味では旨みに乏しい気もしますが......。

小沼:おっしゃるとおりで、INDIE Live Expoだけでは儲かりません。ただ、将来に期待できる分野だと思っています。日本のインディゲームに不足しているものとして、次の3つの要素が挙げられます。第1に資本力。第2に「売れる製品をつくる」という意味でのプロデューサー。そして第3にマーケティングの知見と手段です。ただ、それでもヒットするタイトルはヒットするんですよ。

CGW:最近だと『天穂のサクナヒメ』が好例ですね。

小沼:はい。だからこそ、そこに対して弊社のマーケティング手法や知見を活用すれば、期待がもてる市場になる......、このことをINDIE Live Expoの初回開催を通して確信しました。こうした理由から、これからゆっくり育っていけば良いと思っています。

それに、INDIE Live Expoを通してすでに何社かプロモーションの相談を受けています。もちろん予算が潤沢にあるわけではないので、例えばロイヤリティ契約などを通してお互いにリスクを分け合いつつ、効果的な施策を打ち出していくといったことを進めています。

CGW:ワールドワイドで見れば『Untitled Goose Game 〜いたずらガチョウがやって来た!〜』が好例ですね。メルボルン(オーストラリア)のインディゲーム開発者が4人で開発したゲームで、世界中で大ヒットしました。開発中の動画をYouTubeに投稿したら、それが勝手にバズったのがきっかけです。宝くじに当選したようなものですが、まだまだそういったことが起こりうるんだなと驚かされました。

小沼:はいはい。INDIE Live Expoで徳岡正肇さんが解説されていましたね。

CGW:その上で気になるのは、そうしたヒットに再現性があるか否かで、世界中の関係者が答えを知りたいところだと思います。もちろん絶対の法則はないと思いますが、可能性を高める努力はできる。リュウズオフィスがもつ知見がその一助になって、もっとヒットタイトルが出て業界が活性化していけば個人的に嬉しいです。

小沼:ありがとうございます。


一周してパッケージゲームが最先端になってきた

CGW:インディゲームと、家庭用ゲームやスマートフォンといった大手企業が手がけるゲームで、マーケティングやプロモーションの施策を行なっていく場合、何かちがいはありますか?

小沼:実はこれもあまりちがいはないんですよね。考え方ややってることは基本的に一緒なんです。インディゲームと言ってもほぼ普段の仕事の知見が適用できるし、インディゲームの仕事をして得た知見というのも通常タイトルにもって来れる。まったく同じです。

CGW:インディゲームは規模が小さいので、プロデューサーやディレクターがプロモーション担当を兼ねている場合が大半ですよね。これが個人制作者であれば、1人で全部こなすことになります。だからこそ、in Minutes Operationのようなきめ細かいプロモーションがしやすい印象もあります。その一方で、どうしてもつくるだけで大変になってしまいプロモーションまで気が回らないところがあるのかな......、という気もします。

小沼:そうですね。ケースバイケースですが、意思の疎通に必要な人数が少ないので、スピーディな意思決定ができるところはインディゲームの強みだと思います。

CGW:あとは大手企業のプロモーションであれば、御社のような会社は黒子に徹すると言うか、表舞台に出てくる例は珍しいですよね。その一方で、インディゲームでは宣伝する側が表に出てアピールしていかないと、タイトルが埋もれてしまう感じもします。

小沼:そこもケースバイケースなんですよ。INDIE Live Expoについては、リュウズオフィスが旗振り役なので弊社の名前を出していきます。ただ、個々のタイトルをプロモーションする上で鍵を握るのは、ゲームを実際に開発している方々だと思います。そういう意味では変わらないですね。

CGW:本質的なことは規模の大小は問わず同じだということですね。

小沼:そう思います。

CGW:話は変わりますが、上海で開催されているインディゲームの展示イベント「WePlay 2019」に参加されましたね。自分もWePlay 2017を取材して、その熱気に驚かされました。まだまだWePlayに注目している関係者は少ないと思いますが、よく参加されましたね。

小沼:たまたま『INDIE Live Expo II』でテーマ曲の作曲をお願いした、『東方Project』で知られるインディゲーム開発者のZUNさんとご一緒に、会場を視察する機会がありました。自分が見た中でも、『東方Project』のステージイベントは一番盛り上がっていたように思います。

CGW:自分が取材したときもファミコンのアクションゲームでクリアタイムを競う大会が行われていて、とても盛り上がっていました。日本と中国で同じようなゲームで盛り上がっているんだなと、文化圏の近さを改めて感じました。

小沼:そういったところはありますね。

CGW:また、WePlayでは2019年度から、新たに「上海WePlayインディーズグランプリ・ノベルゲームコンテスト部門」が設置されました。日本では、JAGSA(一般社団法人日本ゲームシナリオライター協会)が窓口となり、ゲームの募集とプレイアブル展示が行われました。2020年度は自分が教えている専門学校からも応募があり、6作品を展示していただけました。

ただ、いずれも日本語のまま展示されたので、現地の人は満足に遊べないんですね。それでも先方からJAGSAに協力依頼があった理由として、「中国では原作に相当するストーリーを制作する力が弱いので、日本からも応募してもらって刺激を与えたい」という要望があったと聞いています。そういったことからも、現地の熱気が窺えました。

小沼:なるほど。自分自身もWePlay 2019がきっかけになって、海外市場や海外ユーザーに対する興味が広がりました。これは書籍にも書きましたが、WePlay 2019に参加していなければINDIE Live Expoは生まれていなかったと思います。

CGW:INDIE Live Expoは、当初から日本語・英語・中国語の三カ国語で配信されていて、日本だけでなく東アジア、そして世界に広がっていますね。今後の市場を考えると、100億円以上の開発費で開発された一握りのAAAゲームが10年くらい売れ続ける一方で、大量のインディゲームが発売されてそのいくつかがヒットするというように、世界中で二極化が進んでいく気がしています。

小沼:そのとおりですね。その上でインディゲームに関して言うとSteamというプラットフォームと切っても切り離せない関係があります。ただ、Steamは困ったことに国内の普及数がまだ小さいので、インディゲームに関わると必然的に中国語圏や英語圏のユーザーについて気にせざるを得ません。そのため、いかに彼らに情報を届けるかが課題となってきます。INDIE Live Expoが3カ国語対応を行なっているのも、そうした理由からです。

特に東アジアとは時差も近いですし、言語はちがってもゲームに関する文脈を一部共有できていると思っています。こんなふうに、日本のインディゲームにとって東アジアはものとても重要だと思っています。

CGW:一方で大手のゲームタイトルはいかがでしょうか?

小沼:インディゲームに限らず日本のコンシューマゲームも、もはや海外を意識せざるを得ないと思っています。言い方を変えると、今や「海外に出しさえすれば売れる」という世界に変わりました。あらゆるゲームが国外に意識を向けるべきだし、情報を伝えようと思えば伝わるんじゃないかと。

CGW:PS3世代の頃は、出す前にちゃんとカルチャライズしないと売れるものも売れない、みたいな風潮がありましたよね。その最大の成功事例が『ポケモン』シリーズの世界展開でした。それに対して、最近では無理にカルチャライズしなくてもこれは日本のゲームだから、日本のゲームはこうだからという風に受け入れてもらえるようになってきたように思います。

小沼:そうですね。日本のゲームを文化的な文脈まで含めて受け入れてくれる人の数が、以前より確実に増えてきています。もちろん、それらはニッチであることに変わりはないのですが、世界中のニッチをかき集めてくると、とんでもない数になってきたというのが、最近の特徴ではないでしょうか。北米だけでも、かつては数十万人くらいだったものが、今では数倍に増加していると言うか。

CGW:あくまで主観ですが、『ファイナルファンタジー(以下、FF)』シリーズが好例ではないでしょうか? 『FF』シリーズは長く「究極のRPGをつくる」ことをミッションに掲げる一方で、市場や顧客の定義は不明瞭なところがありました。「究極のRPGをつくれば全世界で売れる」といった具合です。しかし、『FF XV』から自分たちをグローバルニッチであると再定義した......、そんな印象があります。「全世界の『FF』ファンを糾合し、彼ら・彼女らに喜んでもらえるものをつくる」といった感じでしょうか。これが過去10年間の変化を象徴している気がします。

小沼:それはありますね。私もグローバルニッチの考え方であったり、「海外に届けようと思えば届くのだ」という感覚を『FF』シリーズのプロモーションを通して教えてもらいました。実は、『FF XV』のSNSコミュニケーションは弊社でお手伝いしていました。我々のミッションは、英語と日本語で世界中のユーザーと同時にコミュニケーションを取ることでした。その際、完全に日本人目線のやり方を貫いたんですね。つまり、日本のやり方を受け入れてくれる消費者を相手にしたんです。それをワールドワイドでやった結果、そういったユーザーは世界中に存在して、届けようと思えば届くのだという確信を得ました。

CGW:一方でスマートフォンゲームのプロモーションはいかがでしょうか? スマホゲームの世界展開はなかなか難しいところがありますね。

小沼:はい、そうした案件も弊社で手がけていますし、そう感じます。スマホゲームでは世界の市場がリージョンで分かれているので、ドメスティックな状態が続いていますね。

CGW:パブリッシャーのモチベーションも下がっていて、国内で固く当てる戦略にシフトしている印象を受けます。

小沼:そうですね。今からふり返ると、2010年代の前半はコンシューマゲームが本当にボロボロでした。当時と比べると、グローバルニッチ市場に日本人が気づいた点が大きな変化だと思います。そのためコンシューマゲームではタイトル数も減りましたが、楽観的なムードが漂っていますね。その一方で、スマホゲームでは国内市場を取り合うといったように視野が狭くなっている気はします。

CGW:そんなふうに10年単位でトレンドが変わっていくため、リュウズオフィスが手がけられている分野に対する、大手企業の参入が難しいのかもしれないですね。

小沼:スマホゲーム、コンシューマゲーム、インディゲームでは、それぞれ常識がちがうので、我々も案件ごとに頭を切り替えながら対応しています。今は状況が一周して、コンシューマゲームやインディゲーム、いわば「売り切り型のゲーム」の方が、宣伝や売り方の面では最先端に来ているのかなと思います。

CGW:今のコロナ禍の状況が来年どうなるかは不明ですよね。そうは言っても、ゲームのマーケティングやプロモーションの本質的な部分では規模の大小を問わず、やるべきことは変わらない。これまでと同じことを粛々とやっていくだけということでしょうか。

小沼:それで良いと思っています。もちろん細かいトレンドは変わるので、それらを把握しながらではありますが。我々としても対応すべき分野が増え続けているので、各分野のプロの採用に注力しています。ただ、弊社はコンシューマ向けのビジネスをしていませんので、なかなか募集が集まらないというのが正直なところです。これは我々にとっての課題ですね。

CGW:ちなみに、どういった方を希望されているのでしょうか? 

小沼:Webのディレクターが急務ですね。Webでプロモーションを行う上で、インタラクティブなコンテンツの制作は欠かせません。その際にWebコンテンツの設計をしたり、制作ディレクションをしたりできる人ですね。その上でゲームが好きな人、ゲームに関心がある人が良いですね。通常考えられないくらい莫大なアクセス量のあるWebサイトを作ることが多いので、楽しいとは思いますよ。

CGW:なるほど。

小沼:弊社ではこれまで、対クライアントへの新規営業をしないというスタイルを貫いてきました。おかげさまで、それでも本当に大量のお仕事のご相談をいただいています。だからこそ、もっと個々の案件に対してより多くの労力を割きたいと思っています。そのためには、スタッフの採用と人材育成が必要になるのですが、それだけで結構な時間が必要になります。だからこそ、営業に時間が割けないという点もあるので、1人でも多くの優秀なスタッフを迎えて、個々の案件の精度をひとつずつ上げていきたいですね。

CGW:楽しみですね。2020年はようやく日本でもインディゲームが注目されるようになった年だったかなと。より業界を盛り上げるためにも、ますますのご活躍を期待しています。まずはINDIE Live Expo IIIの開催ですよね。

小沼:そうですね。番組配信を通して、一本でも多くのヒット作品が生まれるようにしていきたいです。

Profileプロフィール

小沼竜太/Ryuta Konuma

小沼竜太/Ryuta Konuma

株式会社リュウズオフィス代表取締役

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