>   >  コロナ禍がゲーム・プロモーションに与えた影響は「ありません」~書籍『伝え方は「順番」がすべて』小沼竜太氏インタビュー
コロナ禍がゲーム・プロモーションに与えた影響は「ありません」~書籍『伝え方は「順番」がすべて』小沼竜太氏インタビュー

コロナ禍がゲーム・プロモーションに与えた影響は「ありません」~書籍『伝え方は「順番」がすべて』小沼竜太氏インタビュー

星の数ほどのコンテンツが存在する時代。発売されたことも気づかれないまま、市場で埋もれてしまう作品も少なくない。大切なのは、消費者にコンテンツの存在を知ってもらうこと。良質なコンテンツをつくることは大前提で、ユーザーに正しくその価値を伝え、選択してもらうことが求められているのだ。エンタメ業界でプロモーションやマーケティングが、今ほど重要になっている時代はないだろう。

その一方で、2020年はコロナ禍に伴い、東京ゲームショウをはじめとした多くのイベントがオンラインに移行した。ここで大きな影響を受けたのがインディゲームだ。インディゲーム開発者はこれまで、イベント出展をはじめとした対面マーケティングを中心に据えてきた。そのため、コロナ禍に伴って自分たちのタイトルを世に知らしめることが困難な状況に陥った。

こうした中、インディゲーム向けのネット情報番組「INDIE Live Expo」をいち早く起ち上げた人物がいる。リュウズオフィス代表の小沼竜太氏だ。同社はまた、ゲーム専門でプロモーション・マーケティング支援を行うユニークな企業でもある。そんな小沼氏が本年、書籍『伝え方は「順番」がすべて: 分単位のコミュニケーションが心を動かす』を上梓した。2020年をふり返りつつ、その内容について聞いた。


INTERVIEW&PHOTO_小野憲史 / Kenji Ono
EDIT_三村ゆにこ / Uniko Mimura(@UNIKO_LITTLE



ゲーム専門のユーザー・コミュニケーションプランナー

CGWORLD(以下、CGW):遅ればせながら書籍『伝え方は「順番」がすべて: 分単位のコミュニケーションが心を動かす』の出版おめでとうございます。ゲームを専門にマーケティングやプロモーション支援を行う会社の代表として、業界では知る人ぞ知る存在かと思いますが、改めて自己紹介をお願いします。

小沼竜太氏(以下、小沼):ありがとうございます。もともと父親がファミコン時代からゲーム業界でプロモーションのお手伝いをしていて、自分も紆余曲折を経て同じ仕事を手がけるようになりました。2004年3月にリュウズオフィスを起ち上げたのですが当時は父親と2人だけの事務所で、その後、ほどなくして父親は離脱し、ゲームをメインとしたユーザーコミュニケーションのプランニング事業を1人でやっていました。

  • 小沼竜太/Ryuta Konuma
    株式会社リュウズオフィス代表取締役
    ryusoffice.co.jp

小沼:当時手がけた主なタイトルに、アトラスから発売されたRPG『ペルソナ3 』(2006)があります。本作のプロモーションを通して仕事の幅がぐっと広がりました。そこから『世界樹の迷宮』(2007)、『ペルソナ4』(2008)を担当し、その後、セガから発売された『セブンスドラゴン』(2009)のプロモーションを契機に開発を担当したイメージエポックとご縁ができたのです。マーベラスから発売された『Fate/EXTRA』(2010)の後に、イメージエポックに合流して、「JRPG宣言」のプロモーション戦略を手がけることになりました。

CGW:それまでデベロッパーだったイメージエポックがパブリッシャーになると共に、JRPGを盛り上げていく決意表明をされたイベントでしたね。当時「JRPG」はイノベーションに乏しい国産RPGを揶揄する言葉として、欧米圏を中心に広まっていた言葉だっただけに衝撃的でした。あのイベント戦略を担当されていたのですね。

小沼:個人的にも契機となるイベントでした。その後2年して取締役を退任して、再び『ペルソナ5』(2016)をはじめとする『ペルソナ』シリーズの4タイトルのプロモーションを一気に引き受けることになります。私とアシスタントの2人で進めましたが、さすがに限界を感じていました。そこで2014年頃から本格的にスタッフを増やしはじめて、現在は30名くらいの規模になっています。もっとも、会社が成長しても業務内容は変わらず、ゲーム業界におけるユーザーコミュニケーションのプランニングと実施を中心に事業を進めています。

CGW:今年からインディーゲームのネット紹介番組『INDIE Live Expo』も始められましたね。

小沼:6月に第1回を行い、第2回が11月でした。現在は第3回の準備を進めているところで、2021年の中ごろまでに実施したいと考えています。おかげさまで『INDIE Live Expo I』で紹介したタイトルの中から、『クラフトピア』という大ヒットタイトルが生まれました。『INDIE Live Expo II』で紹介したタイトルでも『天穂のサクナヒメ』をはじめ、話題作や注目作を取り扱うことができました。インディゲームの登竜門ではありませんが、『INDIE Live Expo』できちんと情報を発信するとヒットする、という実績を積み上げていきたいですね。関心のある方がいたら、ぜひ公式サイトからご連絡いただければ幸いです。

CGW:そもそもゲーム専門でマーケティングやプロモーション業務を担当されている会社を勉強不足で知らなかったのですが、他にあるのでしょうか?

小沼:珍しいと思います。大手の広告代理店がゲーム専門のユニットを起ち上げることもありますが、あまり長続きしない傾向にありますね。これは書籍にも書きましたが、ゲーム市場自体は過去40年間で一貫して成長を続けていて、動くお金も大きくなっています。そのため市場で勢いが出てくるたびに大手が参入を試みて、少し経つと撤退するというサイクルが続いています。移り変わりの早い業界である一方で、過去40年間における文脈の蓄積もあるわけで、その時々のトレンドを切り取るだけではなかなか上手くいかないのではないでしょうか。

CGW:ハードウェアも変わるし業態も変わるし、さらに担当者も変わりますよね。余談ですが、昔は企業ごとにプロモーションのキーマンがいましたよね。「任天堂ならあの人」、「セガならこの人」という感じで、その人さえ捕まえておけば大丈夫みたいな。ただ、今はそうしたキーマンがわかりにくくなりましたね。

小沼:ゲームに限らず、様々な業界で宣伝やユーザーコミュニケーションの垣根がどんどん壊れています。その一方で、扱うメディアも昔は雑誌が中心で、たまにテレビCMがあった程度だったものが、Webサイト、SNS、イベント、生放送......、とどんどん広がっていきました。

こうした流れに対して、大企業を中心にメディアの増加にあわせて部署を新設してきたわけですが、その結果とてもじゃないけど1人で全ての内容を管理できなくなってきたんです。これは、弊社のように外部で宣伝をお手伝いさせていただく側にとっても課題になっていて、あまりにも広がりすぎている各専門部署に対して、どのように対応していくかが問われています。

CGW:ちなみに、そうした案件におけるカウンターパートはどういった部署になるんでしょうか? プロモーション担当の部署なのかプロデューサーなのか......。

小沼:ケースバイケースですが、プロデューサーや経営者の方と戦略を練っていくことが多いですね。その上で、プロモーション担当の方と個別のお話をしていきます。ただ、冒頭で話したようにプロモーションの分野が多種多様にふくれあがっているので、現場で実務を担当されるプロモーション担当の方は大変だろうなと思います。

CGW:なるほど。つまりプロデューサーの下に様々な分野のプロモーション担当がいて、大手パブリッシャーだとそれが日本と北米と欧州とかに分かれていて。それらが本来であれば1つの目標に向かってゴール思考で連携を取って進めていくべきなんだけど、人が多いと調整が大変なので、上手く戦略を組み立てていくといったことが鍵になっているんですね。

小沼:そうですね。ただ、そうした経験のある人がまだまだ少ないので、大変だろうなと思います。


キーワードは「in Minutes Operation」

CGW:こうしたメディアの現状を踏まえて、本書では「in Minutes Operation」という概念を提唱されていますね。ゲームに限らず、今のプロモーションやユーザーコミュニケーションで求められていることを上手く言語化している感じがあり、膝を打ちました。

CGW:その一方で、誰もが「それが理想」だと知りながらもいろいろな理由で実現できない......、そういった現場のジレンマが透けて見えるような印象もあります。簡単に説明していただけますか?

小沼:in Minutes Operationはまさに言葉通りの意味で、分単位のマーケティングオペレーションのことを指します。大前提として、情報にはそれが世に出た瞬間、注目に値する内容であれば人から人へと自然に拡散していく性質があります。それが昔は「人の噂も75日」ではありませんが伝達速度が遅かったので、その価値が減衰しにくかったんですね。ある情報が数日から数週間かけて広がっていくことも珍しくありませんでした。

それが今では、SNSなどの発達で何分、何十秒、下手すれば数秒で世界中に拡散される世の中になりました。ただ、そんなふうに情報の伝達速度が速くなったことで、価値の低下が激しくなったのも事実です。その結果、重要な情報であればあるほど、長期間にわたって話題を集めることが難しい社会になってしまったのです。そこで弊社では、情報の価値が新鮮なうちに最大限拡散させるための手法や考え方を「in Minutes Operation」と呼んでいます。

CGW:まさに分単位で様々な施策をリアルもバーチャルも含めて展開していくということなんですね。

小沼:そうですね。その一方で本のタイトルを「伝え方は「順番」がすべて」としたように、情報を出す順番を間違えるとせっかくの情報も十分に広がらないという問題が生じます。そこで、その設計を丁寧にしようということですね。ただ、先ほどもお話しした通り、実際の施策では複数の専門部署が関わるので、それらを有機的に連携させるところが大事なポイントになります。

CGW:まさに本書で書かれていることですが、SNS、Web、生放送といった具合に、「何をやるか」が重要なのではなく、「どのような順番でやるか」が重要だという話ですね。読みながら、ゴール思考の考え方に似ているなと思いました。学生のレポートなどに顕著なのですが、人は課題を与えられると反射的に「何をするのか」と考えがちです。そうなると次から次へとアイデアが浮かんできて、優先順位がつけられず中途半端な内容になることが少なくありません。そのため授業では、まず「なぜやるのか」という理由を固めるように言っています。そうすれば、「どうやるのか」「何をやるのか」と自然に発想が繋がっていくからと。

小沼:そうですね。本来、実施するアクションには理由があり、解決したい課題に紐付いているはずです。それを忘れないようにすれば手段を誤ることはないと思います。「何かやること」が大事なのではなくて、常に「何を伝えたいのか」、「何を解決したいのか」に立ち戻って考えることが大切だと思います。

CGW:そうした考え方や問題意識は、業務を通じて徐々に生まれてきたものでしょうか? 影響を受けた人やエピソードなどはありますか?

小沼:『Fate』シリーズで知られるTYPE-MOONの武内 崇さんの影響がすごく大きいですね。以前、同社の仕事を手がける中でミスをしたことがあります。出すべきではない情報を出すべきではないタイミングで出してしまった。まさに手順を間違えてしまったわけです。その際、武内さんに「情報の価値をわかっていますか」と叱っていただきました。もちろん、自分も情報の価値について理解しているつもりでしたが、言葉に出して言われたのは初めてでした。それがきっかけで、情報には必ず価値があることを強く意識したのです。

この気づきをきっかけに、それまで試していた様々な手法の中で、上手くいったケースと情報の価値という概念が融合していきました。これがin Minutes Operationという概念に体系化されていったのです。

CGW:大きな気づきをもたらした一言になりましたね。

小沼:そう思います。


コロナ禍に適したゲームイベントの設計

CGW:2020年はコロナ禍に伴い、東京ゲームショウをはじめとした多くのゲームイベントがオンライン開催に移行しました。どのイベントも手探りで、上手くいったこともあったし反省や改善すべき点もありました。それらを踏まえて、現状をどのように見られてますか?

小沼:業界の中でも、今年初めていわゆるオンラインイベントや生放送の仕事に携わった人が大勢いると思います。その上であえて言うと、こと東京ゲームショウに関しては、率直に言って成功とは言いづらいと思っています。それ以外にも失敗しているオンラインイベントは非常に多いですね。その理由はよくわかります。「イベントをオンライン化する」という発想だとこのようになるんですよ。

小沼:東京ゲームショウをはじめとしたイベント会場では、そこを歩くだけで様々な情報が目に飛び込み音が聞こえてきますし、それらに反応する多くの来場者がいます。その結果、情報密度がものすごく高い空間になります。それがイベントの特徴であり面白さだと思います。

その一方で、オンラインイベントにはインタラクティブな要素はあるものの、基本的には情報の流れが一方通行なんです。また、体験がモニタという二次元の空間に閉じています。つまり、まったく別物なんですよ。そのため、単純に三次元でやっていたものを二次元にしようとしてもなかなか難しいと思います。

ただし、これはイベントの内容によってもちがいますね。音楽ライブやカンファレンスのように、来場者の意識がステージに向かって集中している二次元的な催しならオンラインにも向くと思います。

CGW:それぞれで適したやり方があるはずということですね。INDIE Live Expo はいかがでしたか?

小沼:当初から「オンラインイベント」と称していました。私自身、生放送の黎明期から生放送制作に携わっていたため生放送の特性については熟知していますし、制作のスタッフも「ニコニコ超会議」、「闘会議」といった、オンラインを前提としたイベントの制作実績がありました。そのため、当初から生放送フォーマットに最適化したオンラインイベントを志向しデザインしました。

プロモーション面では、関係者を意識して増やして自然発生的な話題の醸成を目指しました。その際、in Minutes Operationという言葉こそ使いませんでしたが、出展してただいたクリエイター、デベロッパー、パブリッシャーの皆さんには、INDIE Live Expo内での情報公開にあわせて独自のプロモーションを同時に展開してもらうように提案させていただきました。

こうした中で、1回目から特性を理解してプロモーションに成功した方々もいますし、2回目では特性を理解して行動した方がより増えたように思っています。

CGW:ちなみに、ゲームプロモーションにおいてコロナの前後で決定的に変わったと感じられることはありますか? 

小沼:実は何も変わっていないと思うんですよ。少なくとも、ゲーム・プロモーションに携わっている私の立場や仕事に関していうと、コロナの影響は極めて少ないと言うか何も変わっていません。

CGW:興味深いですね。もう少し詳しく説明していただけますか?

小沼:当然ユーザーの生活習慣は大きく変わったと思います。相対的に家の中で過ごす時間が増えたりインターネットに繋がる時間が圧倒的に長くなったり。ただ、そもそも情報を届ける行為であったり、何か新しい情報を望んでいたり情報を受け取ってくれる人がいたりという状況自体は変わっていません。その手段として、リアルのイベントが封じられたというだけです。手段が少なくなった点では変わりましたが、本質的なものは変わっていないと言えます。

CGW:これまでリアルイベントの存在感が大きかったため、それがなくなった喪失感が大きかったというか、多くの人が注目しがちなんでしょうか? 

小沼:はい。リアルイベントは手段の1つであって、それが全てではない。目的ではないので手段が1つ減ったという認識です。


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Profileプロフィール

小沼竜太/Ryuta Konuma

小沼竜太/Ryuta Konuma

株式会社リュウズオフィス代表取締役

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