ブロックチェーンは「公開して広げていく」もの
井出:「Connected Inkビレッジ」といって、実はもうつくってしまったんですが(笑)。
施井:えぇ! すごい!!
井出:東京のオフィスのビルをコミュニティに開放して、工房みたいに改造しているんですよ。それを京都やつくば、デュッセルドルフ、ポートランドなど、様々な都市にビレッジをつくっていき、ドローイングだけでなく様々な制作、音楽、パフォーマンス、教育にいたるまで、全てがカオスにごちゃまぜになって、各都市のビレッジがクラウドでゆるく繋がっているという状態にしようと。ワコムのデジタルインク技術と実装が進めばブロックチェーンで繋ぎ、どのビレッジでつくられていても文化や思いを発信していけるという、そんなフィジカルなコミュニティというか、「村」をつくろうとしています。
施井:なんだかすごいなぁ......。それはもう始まってるんですか?
井出:いやまだ(笑)。「とにかくやるぞー!」と言ってつくりはじめちゃって(笑)。描いている思いは壮大なんですが、まずは各都市で小さく始めていき、どこの地からもデジタルインクが飛び交って、それが少しづつ繋がっていく様子を実証していけたらと考えています。こんな時期だからこそ、「ここに来たらこんな手触り感がある」という体験ができる場を設けて、「自分=個」が少しずつ認知されていく経験を築いてもらえたらと。
施井:面白いですね。世間はリモートワークにより、ますますインターネットを主軸とする環境になってきたのに、ワコムさんは「フィジカルに集う」方向で行くという(笑)。
井出:(笑)。「今の時期、ビルを借りてこんなに高い固定費をかけて、意味あるんですか!?」とよく聞かれます。でも、こんな時期だからこそ、リアルの場で集うって大切だと思うんですよ。場所を問わずリアルに集って生み出されたものが相互に繋がる。それが「新しいかたち」なんじゃないでしょうか。「Connected Inkビレッジ」は、それを実証していく実験場なんです。
CGW:さて、いろんな話題で盛り上がってきたところですが(笑)、スタートバーンさんとワコムさんによるブロックチェーンサービスは、今後どのように進められていくのでしょうか?
井出:話が飛んだようで、「個の復権」というところでビレッジとブロックチェーンは関連があるんですよ(笑)! そうですね、サービスとして正式に開始するのは、もう少し先になりそうですね。でも今って、ベールを剥いで「さあどうぞ! 使ってください!」みたいな時代ではないと思っているんですよ。
施井:そうですね。「できていること」と「これからやれること」を共有して、徐々にかたちになっていく感じですね。
井出:みんなで「こんなことができるぞ」と騒ぎながら進めていくのが大切なのかな。頻繁に顔を見せて、修正しながら進めていくという感じでしょうか。
CGW:テスト的にプロジェクトに参加したい人を募る、というのもアリかもしれませんね。
施井:それもアリですね! プロジェクトに参加してもらって、「Connected Inkビレッジ」にも遊びに来てもらって。そこでどういったものになっていくのか。リアルの場で体験・実証してもらったりとかね。
井出:今年も実装のトライアルをしましたが、「何月何日に完成」という感じのものじゃないんですよね。スモールスタートで始めるかもしれないし。
藤ちょこ:クリエイターとしても、実際にサービスが開始される前に細かく情報共有してもらえると、どうやって使えば良いかイメージしやすいのでありがたいです。
施井:今回の対談でも新しい気づきがあって、どういうものが世間に求められているのか、そのフィードバックが得られるのは大きいですよね。
CGW:今回改めて思ったのが、ブロックチェーンが「1点もののアート作品の販売・管理」だけではなく、Unityのアセットストアのようなアセット販売だったり、「本当に許諾の範囲で使われているのか?」といった場面でも、ブロックチェーン活用のメリットが大きいように感じました。買って使う側の意識はもちろん、売る側も権利の管理がしっかりと行えることで、安心して値付けができるようになります。また、こういう「ストック型の収入」で、クリエイターの生活が成り立っていくこともあり得ますね。
施井:そのとおりですね。今日の話でいうと、1点もののアート作品はもちろん、CGのパーツ制作の話とかデジタルアセットの販売とか、そういう観点は今回初めて得たものでした。本当に「デジタルの世界での小売り」になっていき、CGクリエイターがリアルなものをつくる職人とほぼイコールになる世界ですよね。
CGW:ブロックチェーンによる環境が整備されることで、「デジタルでのものづくり=好きなことをして生きていく」ことが実現していきそうですね。
藤ちょこ:ブロックチェーンを使うことで、クリエイターの生活に直接繋がっていく。そういう感覚がもてると、クリエーターとしても先々に希望を抱くことができそうです。
▲藤ちょこ『彼岸の花嫁』©藤ちょこ / fuzichoco
施井:だからこそ、こうして発言していくことは重要なんだなと思うんです。そこに反応が生まれて気づきが生まれ、もっと良いサービスにしていくことができるので。
僕はもともと、「クリエイティブの世界がもっと良くなれば良いのに」と思ってはじめたわけです。別に自分たちが1番でなくても良いと思っていて、誰かが先にそれをやってしまっても良いんですよ。15年前からアーティストにお金を落とすしくみづくりを考えてきて、それをずっと言い続けてきました。ようやく何とかかたちになってきたなと思うんですよ。スタートバーンだけではできないことです。
井出:そうですね。小さくてもコミュニティがコミュニティを呼んで、体験がつくられていく。こういう方法でなければ、実現できないことなのかもしれません。
CGW:現時点で発表されている段階では、5社による共同プロジェクトとなっているようですね。今後、一緒にこのプロジェクトを進めていきたいパートナーさんはいますか?
井出:たくさんいます。まだ完成していないけれど情報はシェアしているという状態なので、各社共に興味をもってもらえています。そもそも、スタートバーンさんがどでかいプラットフォームをドーンとつくって囲い込もう! としているプロジェクトではないんですよね。いろんな人や企業とコラボレーションして、プラグインのようなかたちで様々なサービスとして一緒に動かしていき、APIを開いて繋げていく。ブロックチェーンってそういう技術ですからね。「囲い込む」のではなく「公開して広げていく」ものだと思います。
CGW:様々な企業・場面でサービスを採用してもらって、それが広がっていくというイメージですね。
井出:そういう感じです。そもそも「個の復権」を目指してのブロックチェーンなわけで、唯一無二の「シングルジャイアント」な考え方ではないんです。だから、どういうところとプラグインで繋がって連携していくか、それが肝なのかな。
CGW:そろそろお時間になってきました。みなさん、今回の対談はいかがでしたか?
井出:クリエイターが置かれたポジションに対して、しっかりと光が当たる社会にしていく。クリエイターを守っていくことに加えて、新しいことにどんどん挑戦していきたいと改めて思いました。それをやるからこそ、ワコムのテクノロジーには「道具としての価値」があるのだと。
藤ちょこ:ブロックチェーンってすごい技術だとは思っていたけど、ふわっとした理解しかなかったんですよね。だけど、新しい価値であったりとか、クリエイターの実績までも担保できる、夢のある技術だということを今回知ることができて、本当に勉強になりました!
施井:今、結構感動してしまっています。「ブロックチェーンで何ができるか」は散々議論してきたはずなのに、またまだ新たな気づきやアイデアが出てくるというのは本当にすごいことですよね。やはり、長くクリエイティブに向き合ってきた人たちと話すことは重要だなと感じました。大変刺激を受けました!
CGW:皆さん、本当にありがとうございました!