>   >  「経験に勝るものはない。行動するのみ」〜Villard代表・岡田恵太氏、連載3周年インタビュー
「経験に勝るものはない。行動するのみ」〜Villard代表・岡田恵太氏、連載3周年インタビュー

「経験に勝るものはない。行動するのみ」〜Villard代表・岡田恵太氏、連載3周年インタビュー

「経験に勝るものはない」

CGW:Villardの設立当初はスタッフを雇われていたんですよね。

岡田:はい。今は1人でやっていますが設立当初は3名ほど雇っていました。今でこそ1人でこなせていますが、当時は色々とスタッフに助けてもらいました。ただ、自分がクリエイティブなことをしながらの経営では難しいと感じ、両方ではなく「経営かクリエイティブ」のどちらかに専念した方が良いと考えました。これまでの経験から、会社の在り方としてどのようなものが正しいのだろうと日々考えてきました。本当に沢山の経験をさせてもらったおかげで、今では自分なりの答えが出たように思います。後は、世間がまだコロナ禍で先が見通せないというのもありますし、しばらくは1人でやっていこうかなと思っていますね。

CGW:世界はどんどん変わっていきますし、岡田さんのお考えやスタイルも、世の中の動きに柔軟に対応されているんですね。もしかしたら、またスタッフを迎えようと思うことがあるかもしれませんし。

岡田:そうですね。そういうときがきたら、またご縁のある方と一緒にお仕事をさせていただくことがあるかもしれません。ただ、一緒に働いてみたいなと思うのは「自分で色々と経験された方」ですね。自分もまだまだ吸収することは多くありますし、またちがった刺激を感じることができる気がするので。何事も「経験に勝るものはない」と思っています。

CGW:岡田さんは、海外のお仕事も沢山されていますが、どういったかたちで依頼が入ってくるのですか?

岡田ArtStationやInstagram、Pinterestの「作品の関連付け」から自分の作品を知ってもらい、依頼のメールが来るというケースがほとんどです。その後、メールやビデオ会議で打ち合わせをするという感じですね。

CGW:ゲーム、映画、CMと多方面で活躍されていますが、特にこの業界で仕事がしたいという希望はありますか?

岡田:自分の好きなものを優先して作りたいとは思っています。ただ、最近はゲームでもかなりの情報量を扱うことができますし、本当に表現の幅は広がったので、そういった理由もあり特に「どの分野の仕事がしたい」と固執はしていないです。ということで、もし何かやりたいことがあるのにどうしてもできないのであれば、思い切って環境を変えてみるのも良いと思いますよ。だって、やりたいことを実現したくて、この業界に入ってきたんだから。

CGW:今後、ご自身のクリエイティブ活動にどのように向き合って生きていこうとお考えですか?

岡田:ここ数年、時間の使い方や金銭感覚、色々な方との交流により若い頃より様々な価値観が変化しました。自分の若い頃って、「お金が欲しい」とか「美味しいものを毎日食べたい」ということよりも「もっと有名になりたい」、「自分を認めてもらいたい」といった承認欲求が強かったんです。今はそういった承認欲求よりも、自分の活動や「本当にしたいことは何か?」といった自分自身を見つめることが多いように感じます。もしかしたら一生探していくものかもしれませんね。

CGW:いろいろなものを手に入れようとしますからね。お金も、仕事も、家庭も、時間も、幸せも......と。しかも、それらを手に入れることが「当たり前」と考えていたり。でも岡田さんは、中途半端になるくらいなら望まない。自分の準備ができたらそのときに考える、というお考えなんですね。

岡田:そうですね。例えば、「あのクルマ羨ましいな」とか「あのクリエイターは成功して羨ましいな」とか思うことがあるじゃないですか。でも実際は、良い思いばかりしているわけではなくて、それなりにいろいろと抱えているものがあると思うんですよね。苦労なんて誰にだってありますから。そういったことも、自分で経験しないとわからないことですよね。

CGW:これまで多くの方にお話を伺ってきましたが、そういったデジタル・アーティストたちは皆、特別才能に恵まれているとか、一段飛ばし、二段飛ばしで調子よく昇り詰めたようにイメージされがちですよね。でも実際に詳しくお話を聞いていると、実はとても普遍的なことで悩まれていたり、思うようにいかなかった時期にとても苦しまれていたり。そういった問題を全力で乗り越えて来られたんだなとつくづく思います。

岡田:そうなんですよね。めちゃくちゃ努力してますよね。中には、努力と捉えずそういったものすら楽しんでいる人もいますけどね(笑)。そういう方々は本当に強いと思います。上達するための練習すら「生活の一部」として普通にやってのけるんですよね。心から凄いなと思います。

CGW:岡田さんはどちらのタイプですか?

岡田:自分は、若い頃は練習ですら楽しめていたタイプだったと思います。学生の頃はサッカーの部活が終わった後、美術部に顔を出して先生に絵を見てもっらったり教えてもらったりしていました。もちろん上達することを止めたわけではないのですが、最近は少し価値観が変わってきたように感じています。特にネガティブなわけではないです。

CGW:もしかすると、次のフェーズに向かっているということかもしれませんね。新しい景色を見ようとしている......とか。

岡田:そうかもしれませんね。自分の「次の在り方」というか。そのあたりをいろいろと模索している最中なのかもしれません。

CGW:岡田さんが見たい「次の景色」はどのような景色なんでしょうね。連載で掲載している作品においても、いろいろと模索をされていたりするのでしょうか。

岡田:そうですね。毎月作品のテイストがちがうかと思いますが、自分の強みや持ち味を保ちつつも、「こういうテイストはどうだろう」と探っていたりします。

▲連載に掲載している作品のテイストも様々。岡田氏自身も日々R&Dを繰り返している

CGW:ちなみに、月1のペースで連載を続けていらっしゃいますが、連載用のモデルを制作するのに毎月どれくらいの時間をかけられているのですか?

岡田:だいたい1〜2日で作ると決めていますが、半日で作るときもあります。「やばい、原稿の提出は明日だ! やらなきゃ〜!」って(笑)。

CGW:クライアントワークが忙しい中、毎月本当にありがとうございます(泣)。少しでも楽しんで制作していただけたらと思います。何よりも身体が一番大切なので、くれぐれも無理をされないようにお願いします。

岡田:ありがとうございます。とび職をしていた頃からジムに通い始め、今でも週3で身体を鍛えにジムに行っていますし、風邪もしばらくひいていないし。いたって健康ですね。

CGW:かなり身体を鍛えられていらっしゃるようですね。

岡田:服が好きなので、きれいに着こなすためにも身体を鍛えているんです。

CGW:本当に毎日お忙しいかと思いますが、連載にしてもジムにしても、休まずコツコツと継続するのはかなり大変だと思います。やる気はあっても続かないものですからね。

岡田:なかなか続かない人は、完璧を求めすぎてるのかもしれません。ジムのトレーニングでも同じなんですが、1週間とか2週間続けたからといって何も変わらないんですよ。続ける秘訣は、「0か100か」ではなくてどうしても気持ちがのらないときでも「50%で良いからそれでもやる」なんですよ。連載も同じで、月によってはクオリティにばらつきがあると思うんです。100で作る月もあるし、すごく忙しくて50くらいの月もあります。でも50でも良いから見映えがするラインまでは作って提出する。「絶対に毎回100%の作品でなければならない」というルールがあれば別ですが、ある程度任せていただけるので、そういう感じでコツコツと続けていくのが良いのかなと思っています。

CGW:どうしても面倒に感じるときは誰しもありますが、「とりあえず50%クリアでOKとする」と考えると余裕が生まれますね。

岡田:あと自分は形から入るタイプなので、本格的なものをとりあえず揃えて、そこから気分を上げてスタートします。自分が良いと思ったものを身につけたり使ったり。何にしても、自分が「良い」と思ったらそれで良いんじゃないかなと。

CGW:モチベーションを維持する術(すべ)を知っておくことも重要なポイントですね。そのためには自分のことをよく知っておかなければならないわけですが。

岡田:例えば経営に関することにしても、いろいろとアドバイスをもらったりいくら言葉で教えてもらっても、アドバイスを自分で噛み砕くところまでなかなかいかなくて。自分で痛い目をみたり、自分で失敗したりしないとわからないんですよ。その結果、損失を被ることもありますが、自分で実際に体験してから吸収することが多いんです。「だから言ったじゃん」って言われますが、「いやいや、自分でやらんとわからんし」って。

CGW:聞いているだけだと納得感を得にくいし、やはり自分の経験だとリアルさが段違いですからね。やはり「経験に勝るものはない」ですね。

岡田:CGの勉強をするにしても、チュートリアルや本を見ると「自分でもできる」と思うし、確かに方法は理解できるかもしれません。でもいざ自分で作ってみると全然思い通りにいかないことが多いはずです。だから「体現する」ことが大切なんだと思います。恋愛でも同じじゃないですか。他人の意見を聞いたところで、絶対にその通りにはいかないですよ。ただ、「だから言ったじゃん」と後で言われるかもしれませんが(笑)。

CGW:おっしゃるとおりです! 本当にそうですよね。実際、3年間の連載を通してご自身で改めて気づいたことはありますか?

岡田:やはり「荒々しいもの」を作るのが好きなんだなということです。丁寧に作ってみるなどして手法をいろいろと試しましたが、「未完成な部分があるものに魅力を感じる」ことを改めて実感しています。連載で作るモデルも、荒削りなところがあったり、少し欠けているところがあったり。絵にしても描き殴ったものやラフなものが好きだったり。仕事となると未完成ではダメなので、きっちりと作らなければなりませんが、自分の作品として認識され評価されているのは荒々しさを感じる作品なので、それが自分の作家性なのかなと思うようになりました。

CGW:最後になりますが、今後の目標をお聞かせください。

岡田:自分の作家性を改めて認識することができたので、原点回帰ではありませんがもっと追求していこうかと考えています。Substance PainterやMARIなどの便利なツールがあるので、それら習得したスキルを駆使して、かつて制作した「未完成な感じの作品」のクオリティを上げるのも面白そうですね。今後も「自分のテイスト」をしっかりと出して行こうと思います。

CGW:岡田さん、今日はありがとうございました! これからも連載を楽しみにしています。





Profileプロフィール

岡田恵太/Keita Okada(Villard Inc.)

岡田恵太/Keita Okada(Villard Inc.)

デジタルスカルプター、3Dコンセプトアーティスト。1991年7月生まれ、広島県出身。2012年大阪の専門学校を卒業後、大阪のゲーム会社に就職。2013年に退職し上京した後、1年ほど建設現場の作業員(荷揚げ屋)などをしながらZBrushを独学で習得し東京のゲーム会社へ就職。2015年からフリーランスとなり、PS4用ゲームのDLC『Bloodborne The Old Hunters』をはじめ主にクリーチャーなどのコンセプトモデルを手がける。2017年3月、新会社「Villard」を設立
www.artstation.com/artist/yuzuki
www.villard.co.jp

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