>   >  新進気鋭のアーティストによる多彩なVR映像が東京に!「THE KALEIDOSCOPE 2016 WORLD TOUR TOKYO」開催
新進気鋭のアーティストによる多彩なVR映像が東京に!「THE KALEIDOSCOPE 2016 WORLD TOUR TOKYO」開催

新進気鋭のアーティストによる多彩なVR映像が東京に!「THE KALEIDOSCOPE 2016 WORLD TOUR TOKYO」開催

<2>4人の参加アーティストがVR映像を大いに語る

イベントの開催時間が中盤に差し掛かった頃、会場に設営されたステージでは4人のパネラーによるトークセッションが行われた。トークのなかでもっとも興味深かったことは、VR映像を通じてストーリー表現をすることに対して非常に大きな期待感を抱いており、視聴者自身が世界のなかにあたかも存在するかのような体験によって、今までの映像では体感させることができなかった現実感を取り込むことができると、かなり前向きに捉えていることだ。

新進気鋭のアーティストによる多彩なVR映像が東京に!

左からkaleidoscopeのVRエバンジェリストNick Ochoa氏をモデレータに、4名のアーティストが登壇

その一方で、VR HMDによる映像では視聴者が任意自由に視点を変更できるため、そのままでは作り手の作為によって映像世界の特定の事象に注目させることは、従来の映像と比較して非常に困難だ。その解決策にほぼ全員が共通して、Tyler Hurd氏の3Dサウンドによる特定方向からのSEやフラッシングFXによって注意喚起するということに同感の意を表していた。たしかに音や光は有効な方法だが、フラットスクリーン映像がもともと内在させていたカメラワークやカット割りによって必然的に視聴者の感情に訴えかける手法が、VR映像ではどうしても弱くなってしまうことについての話題はなかった。

また、VR体験はHMDとコントローラーとのセットが大前提だと誤認しているパネラーもおり、フォースフィードバックグローブやフルボディモーショントラッキングよるコントロールがすでに実現していることを知らないのか、より没入感を高めるために全身を使った操作の登場に期待していると発言していた。

先行するVRゲームやHMD連動デバイスの開発現況にもっと関心を払って調査分析し、ゲームと差別化していくべき部分を見出すのは重要だと筆者には思えるのだが、VRゲームの現況を踏まえて発言していたと思われるアーティストは、登壇者のうちLenz氏だけで、海外においてもゲームと映像は近くて遠い業界なのかと思わせた。このまま差別化を意識しないで、VRゲームとVR映像の垣根が低くなると、たしかに360度の映像表現空間とインタラクティビティという映像クリエーターにとって斬新な手段を得ることができたとしても、従来からの優位性である強力なストーリーテリングが損なわれてしまうように感じる。VRゲーム開発者同様、ひとつひとつ試行錯誤を繰り返しながらVR映像クリエーターも前進している過程にあるということだろうか。

個人的には、こと映像に関しては360度にこだわる必要すらないように思える。360度の視界のせいで要素密度が散漫になるくらいなら、いっそのこと左右140度くらい、上下100度くらいに限定して、その先は従来通りのフレームで切り取ってしまったほうが、既存の映像テクニックも併用しながら新たな映像体験を打ち出すのに有効ではないかと思えた。

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Joergen Geeds氏とUli Futschik氏(Geeds氏と共に2016年オフィシャルセレクション選出作品「EDGE OF SPACE」プロジェクトに参画)

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Christopher Lenz氏(2016年オフィシャルセレクション選出作品「REMINDER」に参加)とTyler Hurd氏(「BUTTS」が2016年オフィシャルセレクション選出、「ORLD FRIEND」で2016年kaleidoscopeベストアニメ体験部門グランプリ)

取材を終えた直後、筆者にはこの「KALEIDOSCOPE東京」で披露されていたVR映像をどう理解すればいいか、ちょっと解釈に戸惑う部分があった。というのも、似たようなベクトルで進むなら、コンテンツから受ける興奮や作り込みという意味で、やはりゲームに分があるように感じられたからだ。率直に言って、はたしてこれで大衆的なエンターテイメントとしてエンドユーザーは満足するのかな、という思いがあった。また、従来の映像ではフレームがあるからこその"見せ方"がある。カメラコントロールをユーザーに"奪われる"ことで、監督や撮影監督の狙いを視聴者が見過ごす可能性があることに対して、先に述べたように「はたしてそれでいいのかな」という思いがよぎった。

その一方で、体験したVR映像はちがっても、体験を終えたばかりの来場者の表情を見ると皆一様に晴れやかな表情をしていたことから、そう肩肘を張らなくてもあらゆるVR体験が広く新しいものとして受け入れられるのだな、という実感も得られた。よくよく考えてみると、ドームシアターやアミューズメントパークといった非日常での全周囲映像や、立体視映像の歴史は長い。数年前に残念ながら立体視可能な平面ディスプレイは失敗してしまったが、潜在的な家庭でのニーズはあるはずだ。今まで非日常の体験だったものが、大掛かりなホームシアター環境を整備しなくても家庭のリビング環境で繰り返し何度でも日常的に体験できるというのは、やはり意義深いと言えるだろう。それらに思いを巡らせると、VRゲームと映像の接近と差別化の落とし所が何となく見えたような気がして、「THE KALEIDOSCOPE東京」参加アーティストの取り組みが懐にストンと落ちた。

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新進気鋭のアーティストによる多彩なVR映像が東京に!

「GearVR」(左上)の「THE NIGHT CAFÉ」と「Oculus Rift」(上)の「SURGE」はインディ作品。これらに対して「GearVR」の「EDGE OF SPACE」はプロダクションの招待作品だ

今年に入り、VR HMDを取り巻く環境は急速に整備されている。すでに「Oculus Rift」や「HTC Vive」といったPCに接続するタイプのHMDがリリースされており、今年の10月にはPlyaystation4用の「Plyastation VR」が発売される。VR HMDは、そのインタラクティブな特性と今までのホビー機にない没入感から、ゲームコンテンツでの利用が期待されており、実際、どちらかというとハードコアなゲームが先行している。

とは言え、そういったコアなゲームだけでは多くの支持を集めるとは思えないし、そもそもHMDの活用がゲームに限定されているわけでもない。そんななかで開催された「KALEIDOSCOPE東京」は、映像分野での活用の方向性を示してくれたと言える。独立系アーティストの作品展ということで、それぞれの作品にはやや前衛的で実験的なものが多かったように思えるが、たしかにVR映像コンテンツのあり方の一端を示してくれた。こういった取り組みによって"実際に体験してみないと魅力が伝わらない"VRが、より多くの人に伝わっていくことを願ってやまない。

TEXT & PHOTO_谷川ハジメ(トリニティゲームスタジオ
EDIT_UNIKO

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