>   >  "実在感"と"ユーザーにとっての魅力"のあくなき追求がVR制作のコツ〜「コンテンツ東京2016」レポート
"実在感"と"ユーザーにとっての魅力"のあくなき追求がVR制作のコツ〜「コンテンツ東京2016」レポート

"実在感"と"ユーザーにとっての魅力"のあくなき追求がVR制作のコツ〜「コンテンツ東京2016」レポート

<3>対象の魅力を突き詰め、VRならではの映像体験に高める

先述した注意点が安全面の配慮だとしたら、VRならではの魅力的な映像コンテンツを作るにはどうしたらいいか。ここで指摘されたのが「プレイヤーの立ち場を定義する」ことと「対象の魅力をVRで徹底的に掘り下げる」ことだ。
『JOUSOUND VR』のプロトタイプ版では、アイドルグループのライブにVRで参加できる映像コンテンツが作られた。この際も単にステージ上で映像を収録するだけでなく、「新規メンバー(=プレイヤー)を囲んで公演前に円陣を組む」「ライブ実施」「終了後に楽屋でねぎらいの言葉がもらえる」という、一連のストーリー体験ができるように心がけたとのこと。

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人気アイドルの息づかいまで聞こえてきそうな距離にまで急接近できるのも動画系VRならではだ

また実在感を高めるために、「出演者にカメラ(=プレイヤー)を見て演技をしてもらう」「アイドルがパーソナルゾーン(45センチ以下)に近寄る」といった演出を実施。全天周映像の特性をいかして、「一度の画角におさまらない、複数の注視ポイント」も盛り込んだ。何度も繰り返して楽しめるコンテンツ作りがめざされたのだ。

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何度もくり返し体験してもらえるコンテンツづくりがユーザーの満足度を高める秘訣になる

一方、インタラクティブシネマの『眠れぬ魂』では、プレイヤーは役者の視点を通してストーリーに参加していく。そのため両者の視点を自然に融合させるために、通常ムービーシーンからVRシーンへのトランジションを意識したオープニング映像が作られた。「役者の表情」→「視線」→「VRによる主観映像」といったスタイルだ。
VR作品ではちょっとした違和感が生じるだけでも、実在感を損ねる遠因になる。映像撮影時に映り込んだ照明を削除する際も、単純に光源だけを処理するのでは、周囲の照り返しが残ってしまう。そのため後から懐中電灯など、光を発するプロップを合成するなどの配慮がなされた。他に複数の重要なモチーフがあるシーンでは、パララックスをまたがないように、レンズの角度調整も行われたという。

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「演出意図」と「安全性」のバランスをとることが重要。特にVRの普及段階では、安全性に重点をおいたコンテンツづくりが求められる

演出意図に合わせた機材選定も重要だ。『JOYSOUND VR』では現実的な導入コストで4K・60fps映像が撮影できることから「GoPro HERO4」を6台使用し、音声はPCMレコーダーで別途収録している。さらに屋内シーンでは2テイク撮影したものを合成して、違和感のない照明効果を実現。GoProを連結するリグも二種類用意し、用途に応じて使い分けられた。
一方、『眠れぬ魂』ではカメラと主人公の距離が近いため、レンズ数の少ないカメラリグが採用された。これによりステッチングやデータマネジメントのコストが減少できたという。このほか『お台場夢体験!』では、PS VRの立体音響機能を生かして、人の話し声などをピンマイクで別撮りしておき、ワールド座標に別配置するなどの工夫も行われている。これによりシーンを印象づける音が際立ったとのこと。

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<4>映像とゲームの間に広がる文化のちがいを乗り越える

後半ではリアルタイムCGによるVR映像コンテンツ制作に話が移った。ゲームエンジン上でCGデータを制作して実機上で再生し、処理落ちなどの問題点をつぶしていく。講演中では『シン・ゴジラ』がこの例にあたる。
この時、重要になるのがレンダリングパイプラインの再検討だ。特にプリレンダーCG向けに作られたCG素材はリアルタイム処理を考慮する必要がないため、ボーン構成やスキニングがリッチにできる。ところが、こうして作られたデータ構造には、ゲームエンジン上での再生に対応していない場合があるのだ。秋山氏は「なるべく早く実機上で再生して、アセットが正しく出ているか確認する必要がある」という。

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プリレンダーCGの映像では一瞬しか表示されないパーツのために数万ポリゴンも使われることがある。そのためPS4上でリアルタイム再生すると、全体的に処理が重かったり、コマ落ちなどが発生してしまう例もみられる。秋山氏は「一瞬しか表示されないシーンでは、思いきって挑戦数を減らすなどの対応も必要」だという。

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映像制作とゲーム開発の間を隔てる「リアルタイム処理」とい名の"みぞ"。後々苦労しないためにも、早期に実機上でのテスト再生を行うことが重要だ

もっともアセットの流用自体は問題ではない。PS VRで開発中のタイトル『Until Dawn: Rush of Blood』は好例だ。本作はPS4むけに発売されたホラーアドベンチャー『Until Dawn - 惨劇の山荘 -』の世界観やアセットが流用されたスピンオフタイトルになっている。

『Until Dawn: Rush of Blood』PlayStation VR

過去資産の再利用ありきで企画や制作が進むと、VR映像コンテンツとしての魅力が半減したり、VR体験自体が破綻する恐れもある。『Unit Dawn』の例でもPS VR版ではジャンルがガンシューティングに変更された。VRコンテンツとしての企画が優先で、そこに使えるアセットを探す姿勢が重要というわけだ。
重要なのは「動画コンテンツではなく、VRコンテンツとしてのポイントをおさえる」ことだと指摘する秋山氏。そのためには、これまで慣れ親しんだ映像コンテンツの方程式に固執しすぎず、違う文化や制作手法を受け入れる柔軟性が求められる。その上で「VRでどのような体験を強調するのか」を掘り下げることが、コンテンツを魅力的なものにする鍵となる。

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VRで鳥を眺めても面白くない。しかし鳥と共に大空を舞うコンテンツにすれば、VRならではの体験になる。『シン・ゴジラ』についても企画会議が難航したものの、最終的にゴジラの巨大感を体感できるような内容にしたという。「この掘り下げを妥協せずに、徹底的に極めてほしいですね」(秋山氏)。

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黎明期では、完成してから意外と「これ、VRの意味あるの?」という会話になりやすい。最初から「VRの意味をどこに求めるのか」について徹底的に掘り下げることが肝要である

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