参加アーティスト4名によるギャラリートーク
最終日、展示会の締めとして、当日のセミナーに登場した、帆足タケヒコ氏、北田栄二氏、木村俊幸氏、元内義則氏4名によるギャラリートークが行われた。会場からの質問に各々回答するという形式で進められた。
左から木村俊幸氏、元内義則氏、北田栄二氏、帆足タケヒコ氏
まず、作品を展示した感想が聞かれた。こうした展示が初めてという帆足氏は「思ったより大勢来てくれて嬉しい」と語った。機会があればまた参加したいとも。北田氏は、「昔の作品ばかりになったので、次は新作を出したい」と話す一方で、会社の若いスタッフや同業者にも作品を出してもらって、いい機会になったと言う。元内氏は「過去にも作品を展示したことはあるが、その作品を使用した映像作品の展示の一環であり、アーティストとして名前が出たのは初めて」と言う。職業としてのアーティストをみてもらうという意味では意義があると続けた。木村氏は「今は権利関係が複雑になり、なかなか展示まで行き着かない状況があるが、こうして見せることができてよかった」とふり返った。
CGや映像業界にそれほど興味のない、事前知識のない人が通りがかりにふらっと入ってきて、作品そのものに感心していく。そういう一般のお客さんの声をアーティストが直に聞く機会が得られるのも展示会の意義である。帆足氏が「普段クライアントからはリテイクやダメ出しばかりされ、あとはOKといってもらうだけで、褒められることがない」とぼやくと、木村氏は「褒められるのはすごく大事」だと応じ、皆賛同していた。
続いてストレス解消法について。帆足氏は散歩、自転車、山登りなど外に出ること、北田氏はスタッフが男性ばかりなのもあり、下ネタを振って笑うことだという一方で、ボーっと1人で過ごす時間もストレス解消になると言う。元内氏が「キャラクターものを中断してハードな作品に取りかかるなど、案件を切り替えることが気分転換になる」と話すと、北田氏も「1ヶ月ほどで終わる仕事を次々にやっていくのは気分的に良いリズムだが、なかなかそうもいかない」と応じる。木村氏は、アーティストとして油絵など自分の作品をいじったり、家でギターを弾いたり、子どもと一緒に半日レゴで遊ぶなど、ギリギリまであえて何もしないという。
また、「一番の失敗は?」との質問に対し、元内氏と帆足氏は「失敗はない」と言い切った。「というより、忘れちゃうんじゃないか。嬉しいことはよく覚えているし、嫌なことでも大抵のことは仕事だから仕方がないと処理しているのか、あまり覚えていない」と帆足氏は補足した。こうしたポジティブ思考がアーティストには重要だと、他の3人も意見が一致していた。
好きな映画、ゲーム、マンガなどについての質問には、木村氏は『ブレードランナー』(1982)、『未来世紀ブラジル』(1985)、『エイリアン』(1979)といった名作SF映画を挙げた。それらに限らずたくさんある、とも。元内氏も木村氏と同様80年代SFが好きで、いまでもくり返し見てしまう作品もあるという。対して、帆足氏は「仕事でたくさん見てきたせいか、よくわからない」と個別の作品は挙げなかったが、新しい試みのある作品、バカっぽい作品が好きだと語る。北田氏は映画は「仕事として観てしまい、これが好きといったことはないが、ゲーム『モンスターハンター』が仕事に差し障るぐらい好きで、自分で禁じていたのに最近ついに新しいソフトを買ってしまった」と笑った。
続いて最近嬉しかったことを聞かれ、北田氏が娘さんの誕生を、木村氏は油絵と小説が特装本になったことを挙げた。帆足氏と元内氏は、参加した映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』の完成に安堵の色をみせた。特に元内氏は「ミニチュアをつくるたびに要求されるカットが増え、終わらないんじゃないかと思った」とふり返った。
「今後やりたいことは?」という質問に、帆足氏は「これまでやりたくないことから全力で逃げてきた逃げの人生、これからも全力で逃げる」と笑って回答。「全力で逃げる」が字義通りでないことは言うまでもないだろう。北田氏も「好きなことをやってきたが、業界全体が盛り上がるためにやれることをしていきたい」と語った。元内氏は「辞めない若いスタッフを探したい」という。つくりたいイメージを明確にもっている子ほど、アシスタント的な作業に耐えられず辞めてしまうのだそうだ。木村氏は「自身の子供心、中二病的な部分を意識し、これをやらないで死ねるか、ということを常に考えている」と言い、手法を限定せずに模型、オブジェ、油絵、すべて同じ地平の活動として、なんでもやっていきたいという。
最後にアーティストを目指す若い人たちへのメッセージとして、帆足氏は「今の子はみんな器用だが、やりたいことだけやっていればいい」と言う。「あまりツールに頼りすぎず、ある日CGを取り上げられても何かつくれるぐらいの余裕を持っておいた方がいい」とも。北田氏も「好きなことをやれる範囲で」と語った。木村氏は「評価されなかったり結果が出ないとそれを辞めてちがうジャンルや手法に移りがちだが、自分は何でもかんでもとっかえひっかえやってきて、それで自分が出来上がっているので、若いうちは削ったり整理したりせずいろんなことをやってもいいんじゃないか」と話し、そして元内氏はやはり「辞めない」ことを強調した。「続ければ仕事はあるし、各年代にポジションはできるはずだが、50代40代と若手の間に人がいないのが現状だ」という。また、「独自にアート作品をつくり続ける人もいるが、業界で通用するレベルかというと微妙で、商業ベースの制約の中でやることで技術も上がっていく」と語った。
アートを支えるテクノロジー展示
4Fではセミナーのほか、本展覧会の協賛企業であるSamsungのポータブルSSD T3/T5や、formlabsの3Dプリンタ、Form2も展示されていた。ポータブルSSDは、フラッシュメモリを搭載しているために、HDDに比較して小型で軽量、また衝撃にも強く、動作音もない。Samsung Portable SSD T3/T5は、80mmから100mmを超える寸法の多いSSD製品の中でも最大幅74mmというコンパクトさが目を引く。
SamsungのポータブルSSD T3/T5
外付けドライブの接続方式はSATAからNVMeへ移行しつつある。増大し続けるデータの転送速度はSATAではもはや限界に近い。各メーカーからNVMe対応のSSDは登場しているが、SamsungのT3/T5はベンチマークテストで突出した性能を示している。納品やプレゼンなどでテラバイト単位のデータをもち出す際にSSDを使用している企業はあるが、公称値ほどの速度が出ないケースがある。この場合、元データがHDDにあると本来の転送速度が出せないことがあり、PC本体と外付けドライブのディスクの組み合わせにより差が生じる。この点はこれからも研究対象となるだろう。いずれにせよ、SSDに置き換えることでデータ転送の時間は半分となり、転送に数時間単位を要するデータを扱う現場であれば、それだけ大きな余裕が作業時間に生じるのだ。
SSDのネックはHDDに比較して価格が高くなることだが、2020年頃にはHDと同等の単価まで下げられるとの予測もある。また、現時点でも、電気代も少なく堅牢性ゆえに交換の頻度も下がるSSDは、HDDよりランニングコストが安い。データセンターなど大量のディスクを配置する場合、軽量なSSDであれば、床の補強工事なども不要となる。このため、そうした企業ではすでにSSDへの転換が進んでいる。
formlabsのForm2は、光造形方式を採用した3Dプリンタだ。3Dプリンタの造形方式としては、溶解したプラスチック樹脂を数ミクロン単位で積み上げていく積層方式と、光硬化樹脂を紫外線レーザーなどで硬化させていく光造形方式などがある。積層方式では2~3万の価格帯のプリンタも登場しており、個人の入門向けとしては適しているが、出力した造形物の精度は高くは望めない。
Form2の出力による造形物の展示
光造形でも、硬化させる層に一度にレーザーを照射するDLP方式と、その層の中でさらにピンポイントで少しずつ硬化していくSLA方式がある。光造形型は積層方式よりもなめらかな出力品が得られるが、SLA方式はさらに精度の高いものが出力できる。Form2は卓上サイズで光造形SLA方式を採用し、使用できる硬化樹脂も多彩。値段こそ50万円オーバーではあるが、個人に手が届かないわけでもない。コンシューマ向けの高性能3Dプリンタとして確固たる地位にあると言っていいだろう。
formlabsの展示スペースには、CGアート作品とそれをForm2で出力した立体物が比較展示されていた。CG作品を画面の外に実体化する3Dプリンタはアーティストの表現手法を豊かにする存在であり、今後さらに活躍の場を広げていくだろう。
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「映像制作の仕事展 vol.2 ― 特殊メイクアップ × 背景 × キャラクター × ミニチュア造形 ―」
開催期間:2017年10月17日(火)~10月21日(土)
開催時間:11:00~19:00
会場:ターナーギャラリー
主催:ボーンデジタル
参加アーティスト:元内義則/百武朋/木村俊幸/帆足タケヒコ/北田栄二/鈴木卓矢/森田悠揮/岡田恵太(順不同)
海外アーティスト:AKIHITO/田島光二(順不同)
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