Topic 3 ショットワーク
物理的な正確さと演出のさじ加減
ショットワークについて。海のシーンでは、海単体と、島に打ち寄せる波をつくる必要があったため、Phoenix FDのバージョン3から実装されたFlipSolver機能を持つWaveForceヘルパーが活用された。河野TDによれば、Phoenix FDのバージョンを上げることで、他の部分で不具合が出る可能性があったが、この波打ち際の流体表現で新しく追加されたFlipSolverを使いたいということで、あえて3へバージョンアップして使用したという。このFlipSolverの機能によって、綺麗な打ち返す波の状態を作成することができたのだとか。波が引いた後の湿った表現には、Wet Mapを使って表現。「Wet Mapを用いれば、シミュレーションをかけた後にVRayBlendMtlのAmountスロットにPhoenix FDのParticleTextureを入れるだけなので、とてもわかりやすく便利な機能でした」(河野TD)。海の流体表現ではコースティクスも必要だが、そのためにVRaySunを使用してレンダリングすると、ノイズなど細かい調整が難しいため今回は単純にスポットライトを使ってレンダリングを行なっているとのこと。VRaySunでレンダリングすると、1フレーム50分程度のレンダリング時間がかかるが、スポットライトを使って効率化することで8分程度でレンダリングすることができたという。試行錯誤が多かったというが、TDが直接ショットワークにも関わることで、効率の良いショットワークのワークフローが構築されている。
ショットワークではレンダリングコストとのバランス取りが難しい局面が多々ある。例えばライティングに関しても、外のシーンでは極力ライティングをシンプルにして、室内ではIESライトプロファイルを活用し、柔らかい雰囲気になるように色温度などにも細かく気が配られているため、外観は、1フレーム15~20分、内観でも1フレーム30~45分と、シーンによってクオリティとコストのバランスがとられている。コストはかかるが、IESライトによるシーンリニアワークフローを導入することで、シーンリニアワークフローを利用した効率良くクオリティが高い画づくりができたという。また、背景とキャラクターは完全に別レンダリングされており、キャラクターの動きは2コマ打ち、カメラや背景、エフェクトはフルコマでレンダリングして、AEによるコンポジットで調整するという効率化も図られた。背景のライティングは先述したとおり、カットによって細かくライティングが施されているが、キャラクターに関しては、順光でライティングし、目のハイライトも、リフレクションマップを使用したフェイクなのだそうだ。「最終的な決め手は、"キャラクターたちがかわいく見えること"。費用対効果を高めていく上では、こうしたジャッジが欠かせませんが、その意味でも演出が3DCG制作に精通していることが強みになると思います」と、神谷監督。
IESプロファイルを用いたライティング
本作では、夜の屋外や内観シーンのライティングにIES(Illuminating Engineering Society)ライトプロファイルを多用している。「IES(北米照明学会)プロファイルは、現実世界の照明器具の城戸やフォールオフの照度データが反映されているのでリアルなライティングが行えます。ライトの形がはっきりと出るため、建物やステージ等の図面を参照しつつ、ライトの位置を試行錯誤しながら配置していきました」(河野TD)。
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IESライトの配置例。右下はグレーマテリアルのレンダリングイメージ
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Web版の第2話に登場するファッションショーのステージ照明のライティング。光の筋などを演出するシーンでは、IESライトとVRayEnvironmentFogを組み合わせてレイアウト
完成した本編CUT
「ライティングで気をつけたいのは、テスト段階でマテリアル・テクスチャを貼らないことです。グレーマテリアルを割り当て、VRayRTでライトの方向、強度、色温度、全体のライティングを確認しながら進めていました。色温度は、部屋やステージなどは温かみのある3000~3600K程度を意識して調整しています」(河野TD)
シリーズ中には、海のシーンも登場する。「海面や波のコースティクスは、綺麗に出そうと単純にSubdivsを上げてしまうとレンダリングコストに直結してしまいます。今回のシーンでは、Subdivs値が10,000で1フレーム7~8分、同30,000で1時間くらい要したため、コースティクスを適用する範囲を細かく調整してベストバランスを探りました」(河野TD)。コースティクス用スポットライトを用意し、VRaySunとは切り離してコースティクスを調整しやすい環境を構築したという
スポットライトで海のコースティクスの範囲を指定
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範囲を指定せず、広範囲にコースティクスを適用した例。レンダリングは速いが、結果がノイジーである
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スポットライトで範囲を最適化したレンダリング例。レンダリングの速度はあまり変わらないが、見映えが改善された
範囲を指定せず、広範囲のままSubdivs値を3倍(30,000)に上げた例。右上の画像と見映えは大きくは変わらないが、レンダリング時間が約7倍増えてしまったという
3Dエフェクト
海のシーンでは、海面に加えて島に打ち上がる波をつくる必要があった。「波のエフェクトにはPhoenix FD 3.0を活用しました。バージョン3を導入した理由は、新機能FlipSolverです。この機能を用いることで打ち返す波が表現できるようになりました。また、波が打ち上がった後の湿った砂地にはWetMapを利用しています。シミュレーション後、VrayBrendMaterialのAmountスロットにPhoenix FDのParticleTextureを入れるだけなので、とてもわかりやすく重宝しました」(河野TD)。波間の泡については、シーン構成との兼ね合いでシミュレーションが非常に重くなったため、まず多めに泡をシミュレーションし、その上で、PRTファイルを書き出し、Krakatoaで量を調整するというワークフローが構築された
完成した本編CUT
「噴水などのポリゴンの変移する水回りのメッシュもXMeshにしました。ポリゴンの頂点数が変移しても利用できることがXMeshを使う理由のひとつです。ただ、Phoenix FDを併用したところ、バージョン3で実装された機能を用いないと適確にコンバートされないという落とし穴もありました」(河野TD)。そこで、Phoenix FD 3.0のExportからMeshを選択してXMeshに書き出したという
完成した本編CUT
雲を抜けると眼下に広がるシルバニア村、というのは、過去シリーズから継承される『シルバニアファミリー』アニメーション作品お馴染みのファーストカットである。この雲表現についてもリアリティが追求された。「Unreal Engine 4のtrueSKYプラグインを活用しています。当初はFumeFXも検討したのですが、UE4なら雲の形状や密度などをリアルタイムで細かく調整できますし、知り合いの薦めもあったのでこちらを採用しました」(河野TD)。ワークフローとしては、まず3ds MaxでベイクしたカメラをFBX経由でUE4に読み込む。そして、trueSKYプラグインで雲の量と、形状、スピードを各パラメータで調整していく。trueSKYでは時間帯をスライダで指定できるため、意図した時間帯をMatinee機能で撮影、その連番データをAEに読み込み、一連のコンポジット処理が施された
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UE4のMatinee機能で雲のアニメーションを撮影
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trueSKYのパラメータ。積雲や層雲など、多種多様な雲を表現できる。下部の時間タイムラインをスライダコントロールすることで、日中日没など、ライティングも調整可能
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第1特集 Houdiniイズム
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■雇用形態
契約社員(正社員登用制度あり)
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■勤務地
〒101-0051
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