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1985年3月20日(水)の発売開始から現在まで、30年以上にわたって、50以上の国と地域(2017年現在)で子どもから大人まで親しまれているエポック社のロングセラー玩具「シルバニアファミリー」。3DCGを活用することで新たな魅力を引き出した意欲作にせまる。

※本記事は月刊「CGWORLD + digital video」vol. 232(2017年12月号)からの転載となります

TEXT_大河原浩一(ビットプランクス) / Hirokazu Okawara(Bit Pranks
EDIT_沼倉有人 / Arihito Numakura(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada



information
テレビ東京にて放送中!(毎週土曜日 あさ6時54分~)
『シルバニアファミリー ミニストーリー』
原作/企画:エポック社/脚本:水月 秋/監督・CGディレクター:神谷桃子/テクニカルディレクター:河野貴弘/音響監督:伊藤 巧/OP・EDテーマ:スワベック・コバレフスキ/プロデューサー:山田国寿/制作:小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント/製作プロデューサー:川島 悟/製作総指揮:前田道裕
sylvanian-families.jp/special/tv
© EPOCH

staff
神谷桃子監督/CGディレクター、中田麻衣子CGデザイナー、佐藤絢香CGデザイナー、薬師寺克行CGデザイナー、片山公美子CGデザイナー、河野 貴弘テクニカルディレクター、山田国寿プロデューサー、西村博英CGデザイナー。以上、小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント
www.smde.co.jp

小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント
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コマ撮りの魅力を3DCGの力で発展させる

現在、テレビ東京にて放送中の『シルバニアファミリー ミニストーリー』(以下、シルバニアMS)。あたかも実際のドールたちに命が吹き込まれたかのような動きとルックは、エポック社のロングセラー玩具「シルバニアファミリー」本来の世界観が見事に再現されている。そんな本作のアニメーション制作を担当するのが、小学館ミュージック&デジタル エンタテイメント(以下、SMDE)だ。実はシルバニアファミリーのCG映像化はSMDEによる本作が初ではない。「SMDEならどんな映像がつくれるのかを思索し、『シルバニアファミリー』のドールたち特有のかわいらしさを最大限活かせる映像にしたい、という結論に迷わず至りました」と、『シルバニアMS』にて監督とCGディレクターを兼務する神谷桃子氏はふり返る。その具体案が、「コマ撮りと3DCGの融合」。ルックは実際のドールたちをコマ撮りしたかのようなリアリティをもたせる、その上で3DCGでしか成し得ないアニメーションやエフェクトを加えることで、シルバニアファミリーの新たな魅力を引き出したいと、テストムービーを試作したところ、クライアントも納得し、『シルバニア村のたからもの』と『夢ふくらむ あこがれの街』という、2つの中編(以下、Web版)の制作が決定した。

『シルバニア村のたからもの』
© EPOCH

「これらの2編を評価していただけたことが『シルバニアMS』につながっています。今回のTVシリーズでは、CG制作だけでなく、監督、演出、美術など全ての工程をSMDEで担当。シナリオ会議から参加することで、実制作のコスト管理を適確に行いつつ、チームワークを大切にして取り組むことによって、魅力的な作品に仕上げることを目指しています」(神谷監督)。

『夢ふくらむ あこがれの街』
© EPOCH

3DCG主体の作品では、演出が3DCG特有のワークフローに精通している方が結果的に効率良くクオリティを高められるケースが多いのではないか、と神谷監督。シナリオ開発から一括して制作を請け負うことによって、制作全体の絶妙なバランスコントロールを可能としているわけだ。

Topic 1 プリプロダクション&ワークフロー

餅は餅屋と急がば回れが原動力?

『シルバニアMS』のオファーを受けたのが、今年の3月末だったという。「1話3分で全12話の制作を、10月7日(土)からの放送開始に間に合わせる必要があったのですが、本物のドールにせまるルックに仕上げていく上では、スケジュール的にもタイト。そして、リアル系CGアニメーションについては、ほぼ未経験のスタッフたちといかにしてショット制作していくのかが最大のチャレンジになりましたね」と、神谷監督。この課題を解決するために、本プロジェクトにてテクニカルディレクターを務めた河野貴弘氏によるツールの充実、そしてツールに頼ることができないような技量が必要なアニメーション作成を行うためのチームワークを、神谷監督&河野TDを中心にいかに教育していくかという点に注力しながらプロジェクトが進められた。ワークフローにおいて大きく改められたのが、プリプロダクションだ。Web版では、2D(手描き)の絵コンテを作成 した上でレイアウトを詰めるというオーソドックスなワークフローを採用していたが、今回のTVシリーズでは神谷監督が自ら3ds Maxでレイアウトし、ブロックアニメーションを付けたシーンのプレビューを書き出し、After Effects(以下、AE)やPremiere Proで尺を調整したものを「3Dコンテ」に仕上げている(下表)。3Dコンテを作成することにより、手描きではどうしても正確に再現できないようなキャラクターのサイズ感を基にしたレイアウトが作成可能であると同時に、演出と実作業での認識のズレ具合を最小限にとどめ、小規模体制でもショット制作のクオリティを最大限高めることができているとのこと。「動きのある3Dコンテを作成することによって、ショットのキーポーズはコンテ制作時には決まっているので、なかなかポージングができないような若手のスタッフでも、そのキーポーズに中割を作ってもらうことで作業を一気に効率化することができます。アニメで言うところの原画をこちらで作成しておいて、アニメーターには動画作業をしてもらう感じです。難しいことは特にせず、とにかく"丁寧にショットをつくる"ことに注力してもらいました。工程の効率化によって確保できたリソースを、さらなるクリエイティブワークに充当することで作品全体としてのクオリティを高めています」(神谷監督)。

実作業においては、経験不足によるケアレスミスや、制作時間短縮のためのツールが河野TDによって開発された。「レンダラはV-Rayを採用しているのですが、レンダリング設定なども各パラメータの役割まで正しく理解できているスタッフはどうしても限られます。そこでレンダリングプリセットをテンプレート化したり、グローバルイルミネーションの焼き付けなども1クリックで実行できるようにしました」。「フォルダの階層が深くて探すのに時間がかかってしまうような作業も1クリックで済むようにしたり。デザイナーが極力クリエイティブワークに注力できるようにするための工夫(ツール化)を河野さんにお願いしています。劇場長編など、大きなプロジェクトでは当たり前にやっていることかもしれませんが、実は小規模なプロジェクトこそ、こうしたツール開発が必要だと考えているんです」(神谷監督)。まさに、急がば回れである。

より3DCGに適したワークフローへ



昨年制作されたWeb版と、現在放送中の新TVシリーズのワークフローを比較したもの。Web版の絵コンテは、従来の作画アニメと同じ要領で作成されていたが、本作の登場キャラクターや建物は全て実際の商品と同じ形状/縮尺のため、手描きのコンテでは指定場所にキャラクターが収まらない等、頭身やサイズ感でLOの整合性がとれず、3DLO工程にならないとFIXできないという非効率な面があったという。そこで、今回のTVシリーズでは絵コンテとアニマティクス作業を同時に行う、つまり「絵コンテ」「ビデオコンテ」「3DLO」「アニマティクス」の4工程を1つに集約させることに。「コンテがFIXした段階で画面設計(LO、キーポーズ、タイミング)が完成するので各CUTの3DLOデータをアニメーション班、BG班へ出荷できるんです」(神谷監督)。アニメーション班にはいわゆる動画作業を、BG班にはカメラから見える範囲のBGをつくり込んでもらうという要領で効率良く制作が行えているそうだ

絵コンテとアニマティクスを兼用



現在放送中のTVシリーズ前半(第1~6話)のビデオコンテならびに本編【画像上】と、後半(第7~12話)の3Dコンテならびに本編【画像下】を比較したもの。上述のとおり、新TVシリーズでは、絵コンテとアニマティクスが同時並行で作成されたが、クライアントを混乱させないよう、話数制作が軌道に乗るまではアニマティクスを下地に手描きで清書したものを用意していた

画づくりの明確な指針

画づくりに関するスタッフ向け資料の例



  • 出目と画角に関するもの。キャラクターの顔の歪みや出目はかわいさを半減させてしまうため、きめ細やかに調整している



  • 女の子キャラクターの胸元の調整について。前かがみにしたり、体を大きく曲げると衣装デザインによっては胸元が広く空いてしまう場合があるため、カット単位で修正



  • キャラクターがかわいく見える毛の質感を図解したもの



  • ライティング(顔への落ち影)の調整に関するもの。いずれも百聞は一見にしかずで明快だ

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Topic 2 アセット制作

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Topic 2 アセット制作

目指す表現クオリティを具体的に示すことの重要性

キャラクターのアセットは、エポック社から提供された既存のアセットデータを流用しつつ新たなリグを追加、マテリアルや毛の設定については新たに開発するといったかたちで、『シルバニアMS』への最適化が図られた。毛の表現は神谷監督が過去案件にて使用実績のあるHair Farmを採用。実際の商品特有の毛羽立ち感などが見事に表現されている。キャラクターのアセットは、服装などの仕様に商品構成を基にした厳密なルールがあり、物語の舞台のちがいによって多くのバリエーションが制作されているという。当初のキャラクターのアセット制作では、ライティングの調整や毛の表現など幅広い表現についての調整方法やNG表現について、スタッフによる仕様書が作成されており、その資料をベースに制作が進められている。「人によってかわいいなどの感覚は異なるため、抱くイメージも変わってしまいます。そこで光の当て方や、目の表現など細かく解説した資料を作成しています。感覚的なものではなく、適切な設定をすることで確実に意図した表現を導きだせるようにすることを心がけました」(神谷監督)。

背景セットやプロップについても既存のモデルデータを利用しているが、提供されているCADデータにはない部分を作成したり、ドールハウス的な質感を追求するためにマテリアルが調整されるなど、多くのブラッシュアップが施されている。背景のアセット制作も河野TDを中心とした数名が担当しているが、背景に配置するアセットには、実際の商品にないものも多く、デザインから起こす必要があったため苦労したという。シルバニアファミリーの世界観に合うようなデザインを作成するため、監督が用意した絵本や画集、写真をリファレンスとして、ディテールやスケール感、密度を具体的に共有しながらモデル制作を行なっているとのこと。

もちろん、アセット制作の作業効率を高めるためのツールも開発された。河野TDが本プロジェクトのために開発したツール群は、「KN Tools」と総称されており、3ds Maxにランチャー的なツールバー群として実装されている。KN ToolsはMAXScriptで組まれたスクリプトランチャーで、ファイル操作からレンダリングプリセットまで、デザイナーの人為的なミスを極力少なくするツール群で構成されている。今回背景モデルなどデータ的に重たいモデルも多かったため、XMeshを使ってプロキシとハイメッシュデータを効率良く切り替えるツールといった、効率化を図るためのツールなども開発。さらに、3ds Maxに実装されるツールだけではなく、AE向けのもの、さらにはPremiere Pro向けのツールなども開発されている。

キャラクターモデル



  • ショコラウサギの女の子(CV:種﨑敦美)完成モデル、シェーディング表示



  • メッシュ表示


ボディのベースリグを表示させた状態。めり込み回避などの簡易的なもので構成されているが、あくまで人形としての形状を崩さないためであり、顔まわりは特にシンプルに仕上げられている

ルックデヴ

キャラクターに対するライティングの例



  • 調整前



  • 調整後。本シリーズでは、意図的に背景とキャラクターのライティングを個別に設定している(詳しくは後述)。キャラへのライティングは基本的に全ショットが順光だが、ひとえに毛並みが綺麗に見えるように仕上げるためだ


本文で述べたとおり、本作の毛並みの質感は主に3ds Maxプラグイン「Hair Farm」を活用しているが、特にこだわったのが、実際の人形たち特有のボタン糸や衣服の毛羽立ちだという。「お人形のかわいらしさをそのままに、3DCGで表現する。例えばボタンを服に縫い付けている糸の毛羽立ち感、洋服の縫い目など、実物のドールと比較しながらディテールとスケール感を大切に調整していきました。リアルな整合性に因われず、"キャラクターのかわいらしさ"を最重視しています」(神谷監督)

背景シーンにおけるXMeshの活用

背景セットにおけるXMeshの活用例



  • XMeshでプロキシシークエンス(ダミーモデル)を表示させたビューポート。全体のポリゴン数は、1,095,508



  • XMeshでレンダーシークエンス(本番モデル)を表示したビューポート。全体のポリゴン数は、377,231,411


完成した本編CUT。本プロジェクトのBGアセットは、できるだけXMeshを組み込むという方針が掲げられている。「XMeshに変換して、プロキシ化。シーンのデータ容量をできるだけ軽量化することで、ショットワークの作業効率を高めることができました。そのほかにも、ダミーモデルと本番モデルのビューポート切り替えや、元のXMeshを更新してもレンダリングの際は自動的に最新のマテリアルを割り当てる等のスクリプトを書いて、様々な作業をツール化することで効率化を図っています」(河野TD)


森や草などの植栽をつくるForestPackのライブラリにもXMeshを組み込んでいる



  • 今回開発したインハウスツール「XMesh Loaders」UI



  • 3ds Max用植栽プラグインForestPack上のライブラリ。カスタムしたXMeshの木を選択した状態



  • 樹のモデルをXMeshにコンバートする作業例



  • 実際のシーン例

「本作には自然に囲まれたシーンが多数登場するのですが、「タウンシリーズ」の建物や小物と同様に、樹木や茂みも相応にハイメッシュです。そうしたオブジェクトを直接読み込むとすぐに数百MBに達してしまうため、こちらもXMeshで軽量化しています」(河野TD)

作業効率を高めるインハウスツール「KN Tools」

河野TDが開発した「KN Tools」のUI


ツールバー全体



  • レンダリングプリセットの選択



  • レンダリングサーバの選択


レンダリングプライオリティの選択。主な役割としては、1.即座にCUTフォルダ、ファイルにアクセスできる(エクスプローラから辿る必要がない)、2.インクリメンタル(番号増やして増分)保存(保存のダイアログを表示しないので、ショートカットできる)、3.VFBをビューポートでキャプチャして表示(ビューポートを見ながらレンダリングの範囲選択が行える)、4.レンダリング設定のテンプレート選択 (ヒューマンエラーを軽減)が挙げられる。「そのほかにも保存場所を指定せずに自動で書き出し先を作成するなど、他のデザイナーたちと共に改良を重ねています」(河野TD)

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Topic 3 ショットワーク

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Topic 3 ショットワーク

物理的な正確さと演出のさじ加減

ショットワークについて。海のシーンでは、海単体と、島に打ち寄せる波をつくる必要があったため、Phoenix FDのバージョン3から実装されたFlipSolver機能を持つWaveForceヘルパーが活用された。河野TDによれば、Phoenix FDのバージョンを上げることで、他の部分で不具合が出る可能性があったが、この波打ち際の流体表現で新しく追加されたFlipSolverを使いたいということで、あえて3へバージョンアップして使用したという。このFlipSolverの機能によって、綺麗な打ち返す波の状態を作成することができたのだとか。波が引いた後の湿った表現には、Wet Mapを使って表現。「Wet Mapを用いれば、シミュレーションをかけた後にVRayBlendMtlのAmountスロットにPhoenix FDのParticleTextureを入れるだけなので、とてもわかりやすく便利な機能でした」(河野TD)。海の流体表現ではコースティクスも必要だが、そのためにVRaySunを使用してレンダリングすると、ノイズなど細かい調整が難しいため今回は単純にスポットライトを使ってレンダリングを行なっているとのこと。VRaySunでレンダリングすると、1フレーム50分程度のレンダリング時間がかかるが、スポットライトを使って効率化することで8分程度でレンダリングすることができたという。試行錯誤が多かったというが、TDが直接ショットワークにも関わることで、効率の良いショットワークのワークフローが構築されている。

ショットワークではレンダリングコストとのバランス取りが難しい局面が多々ある。例えばライティングに関しても、外のシーンでは極力ライティングをシンプルにして、室内ではIESライトプロファイルを活用し、柔らかい雰囲気になるように色温度などにも細かく気が配られているため、外観は、1フレーム15~20分、内観でも1フレーム30~45分と、シーンによってクオリティとコストのバランスがとられている。コストはかかるが、IESライトによるシーンリニアワークフローを導入することで、シーンリニアワークフローを利用した効率良くクオリティが高い画づくりができたという。また、背景とキャラクターは完全に別レンダリングされており、キャラクターの動きは2コマ打ち、カメラや背景、エフェクトはフルコマでレンダリングして、AEによるコンポジットで調整するという効率化も図られた。背景のライティングは先述したとおり、カットによって細かくライティングが施されているが、キャラクターに関しては、順光でライティングし、目のハイライトも、リフレクションマップを使用したフェイクなのだそうだ。「最終的な決め手は、"キャラクターたちがかわいく見えること"。費用対効果を高めていく上では、こうしたジャッジが欠かせませんが、その意味でも演出が3DCG制作に精通していることが強みになると思います」と、神谷監督。

IESプロファイルを用いたライティング

本作では、夜の屋外や内観シーンのライティングにIES(Illuminating Engineering Society)ライトプロファイルを多用している。「IES(北米照明学会)プロファイルは、現実世界の照明器具の城戸やフォールオフの照度データが反映されているのでリアルなライティングが行えます。ライトの形がはっきりと出るため、建物やステージ等の図面を参照しつつ、ライトの位置を試行錯誤しながら配置していきました」(河野TD)。



  • IESライトの配置例。右下はグレーマテリアルのレンダリングイメージ



  • Web版の第2話に登場するファッションショーのステージ照明のライティング。光の筋などを演出するシーンでは、IESライトとVRayEnvironmentFogを組み合わせてレイアウト


完成した本編CUT




  • 「タウンシリーズ」のデパート全体のメッシュ表示。657個のライトが配置されている



  • デパートシーンにて、実際に使用したカメラアングル



  • グレーマテリアルでテストレンダリングしたもの



  • 完成した本編CUT

「ライティングで気をつけたいのは、テスト段階でマテリアル・テクスチャを貼らないことです。グレーマテリアルを割り当て、VRayRTでライトの方向、強度、色温度、全体のライティングを確認しながら進めていました。色温度は、部屋やステージなどは温かみのある3000~3600K程度を意識して調整しています」(河野TD)


シリーズ中には、海のシーンも登場する。「海面や波のコースティクスは、綺麗に出そうと単純にSubdivsを上げてしまうとレンダリングコストに直結してしまいます。今回のシーンでは、Subdivs値が10,000で1フレーム7~8分、同30,000で1時間くらい要したため、コースティクスを適用する範囲を細かく調整してベストバランスを探りました」(河野TD)。コースティクス用スポットライトを用意し、VRaySunとは切り離してコースティクスを調整しやすい環境を構築したという


スポットライトで海のコースティクスの範囲を指定



  • 範囲を指定せず、広範囲にコースティクスを適用した例。レンダリングは速いが、結果がノイジーである



  • スポットライトで範囲を最適化したレンダリング例。レンダリングの速度はあまり変わらないが、見映えが改善された


範囲を指定せず、広範囲のままSubdivs値を3倍(30,000)に上げた例。右上の画像と見映えは大きくは変わらないが、レンダリング時間が約7倍増えてしまったという

3Dエフェクト

海のシーンでは、海面に加えて島に打ち上がる波をつくる必要があった。「波のエフェクトにはPhoenix FD 3.0を活用しました。バージョン3を導入した理由は、新機能FlipSolverです。この機能を用いることで打ち返す波が表現できるようになりました。また、波が打ち上がった後の湿った砂地にはWetMapを利用しています。シミュレーション後、VrayBrendMaterialのAmountスロットにPhoenix FDのParticleTextureを入れるだけなので、とてもわかりやすく重宝しました」(河野TD)。波間の泡については、シーン構成との兼ね合いでシミュレーションが非常に重くなったため、まず多めに泡をシミュレーションし、その上で、PRTファイルを書き出し、Krakatoaで量を調整するというワークフローが構築された



  • Phoenix FDの「WaveForce」ヘルパーに、OceanTexを割り当て、波の動作を制御



  • 波シーンを俯瞰で見たもの



  • 泡(Foam)をパーティクルデータとして出力



  • パーティクルをKrakatoaからレンダリングした例。パーティクル総数を調整しながらレンダリングすることが可能に


完成した本編CUT


「噴水などのポリゴンの変移する水回りのメッシュもXMeshにしました。ポリゴンの頂点数が変移しても利用できることがXMeshを使う理由のひとつです。ただ、Phoenix FDを併用したところ、バージョン3で実装された機能を用いないと適確にコンバートされないという落とし穴もありました」(河野TD)。そこで、Phoenix FD 3.0のExportからMeshを選択してXMeshに書き出したという



  • Phoenix FDで計算したシミュレーション後の噴水データ



  • XMeshでコンバートしたデータ。メッシュを連番出力した後、外部ファイルとして読み込んでいる


完成した本編CUT


雲を抜けると眼下に広がるシルバニア村、というのは、過去シリーズから継承される『シルバニアファミリー』アニメーション作品お馴染みのファーストカットである。この雲表現についてもリアリティが追求された。「Unreal Engine 4のtrueSKYプラグインを活用しています。当初はFumeFXも検討したのですが、UE4なら雲の形状や密度などをリアルタイムで細かく調整できますし、知り合いの薦めもあったのでこちらを採用しました」(河野TD)。ワークフローとしては、まず3ds MaxでベイクしたカメラをFBX経由でUE4に読み込む。そして、trueSKYプラグインで雲の量と、形状、スピードを各パラメータで調整していく。trueSKYでは時間帯をスライダで指定できるため、意図した時間帯をMatinee機能で撮影、その連番データをAEに読み込み、一連のコンポジット処理が施された



  • UE4のMatinee機能で雲のアニメーションを撮影



  • trueSKYのパラメータ。積雲や層雲など、多種多様な雲を表現できる。下部の時間タイムラインをスライダコントロールすることで、日中日没など、ライティングも調整可能



  • AEによるコンポジット作業



  • 完成した本編CUT



  • 月刊CGWORLD + digital video vol.232(2017年12月号)
    第1特集 Houdiniイズム
    第2特集 3DCGポートレート 2017

    定価:1,512円(税込)
    判型:A4ワイド
    総ページ数:128
    発売日:2017年11月10日
    ASIN:B076KVMCC1

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    (2)CGアニメーター
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    (2)MAYAを用いての背景美術モデリング
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