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ピコナ初のオリジナル作品『Midnight Crazy Trail』メイキング〜画づくり編〜

ピコナ初のオリジナル作品『Midnight Crazy Trail』メイキング〜画づくり編〜

ダンスシーンや仮アフレコも若手育成へと結び付く

本作のオープニング内のダンスシーンは、若手アニメーターにとって、とりわけ難易度の高いシーンのひとつだったという。制作にあたっては、遊佐監督が講師を務める福岡デザインコミュニケーション専門学校と、そのグループ校である福岡スクールオブミュージック&ダンス専門学校が協力した。前述の学校でダンスを学ぶ学生たちに遊佐監督がイメージを伝え、自由に踊ってもらった様子を撮影した動画をリファレンスとしながら、ダンスのアニメーションが制作された。単純に動画の動きを真似るのではなく、遊佐監督による味付けが随所に加えられたため、若手アニメーターにとっては学びの多いシーンになったという。

▲ダンスを学ぶ専門学校生による、ダンスシーンのリファレンス動画


▲リファレンス動画を基に制作されたアニメーション。遊佐監督の演出意図、アニメーションとしての見映えなどを考慮しつつ、リファレンス動画の中から最適な振り付けを抜き出してつなげている


▲遊佐監督による修正指示。ポージングや衣装のなびき方に対して、細かな演出指示が出されている。このようなペイントでの指示に加え、遊佐監督自身が3ds Maxを操作してキーポーズに手を加えたり、カメラワークやレイアウトを調整することもあったという


制作初期に実施された仮アフレコは、竹富氏を含むピコナのスタッフによって行われたが、素人の演技には限界があり、アニメーションのタイミングが掴みづらかった。そこで、急遽東京アナウンス学院に協力を依頼し、声優のたまごである学生が仮アフレコを担当したという。「マキナの仮アフレコを担当した学生は、遊佐監督の希望もあり、女性客の声優として本編にも出演していただきました。本作は、様々なかたちで、様々な分野の若手育成へと結び付く作品となりました」(吉田氏)。

3DCGと作画の利点を組み合わせた画づくり

若手アニメーターが制作に慣れてくると、「こういう動きをさせたいです」といった提案が出てくるようにもなったという。「絵コンテに描かれた内容を大幅に変えることは許されませんが、自分にできる範囲の中で、それぞれが高い意識をもってアニメーション制作に取り組んでいたように思います」(竹富氏)。3DCGと作画の利点を組み合わせ、より魅力的な画づくりを実現するというピコナのこだわりも、本作の制作を通して若手アニメーターに伝わったようだと吉田氏は補足した。

▲3DCGで表現されたマキナの顔に対して、作画によるレタッチを加え、より魅力的な表情に仕上げている。このように、3DCGだけでは表現が難しい表情は、作画を併用しているという。セットアップの解説で述べたように、本作のキャラクターは、3Dモデルの目や口と、2Dマップの目や口を切り替えられるようになっている。この機能を使い、カットごとに最適な表現が選択された


▲マキナが大きなバブルに包まれるエフェクトは3DCGで表現されている/完成画。本作の撮影は基本的に外部の協力会社に依頼しており、作中のエフェクトの多くは、協力会社のスタッフが遊佐監督と相談しながら制作した。ただし、前述のような3DCGによるエフェクトはピコナが担当している。なお、本作の美術(背景)は基本的に手描きで表現されている


▲レンダリング画像/完成画。マキナの肩に乗っているソービーという名のモグラは作画で表現されている。このように、3DCGでの表現は難しいと判断された一部のキャラクターは作画が選択された。作品全体の約8割が3DCG、残りの2割は作画で表現されているという。限られた期間で魅力的な作品へと仕上げるため、それぞれの利点を活かした画づくりが追求された


こうして、吉田氏が2006年から温めてきたオリジナル企画は、「あにめたまご 2018」という土壌の上で、様々な相乗効果を生み出し、見事に花開いたのだ。

そんな本作の今後についても、吉田氏は様々な展望を抱いているという。「オリジナル作品をつくれる機会は滅多にないと思うので、いただいたチャンスを活かせるよう、この1作で終わらせることなくシリーズ化を目指していきたいです。本作は全12話を想定しており、魔法使いになることをマキナが受け入れていく過程を通して、マキナの成長を描きたいと思っています」(吉田氏)。そのための体制づくり、制作力の強化に加え、吉田氏以外のスタッフからも企画を提案できるような、創造力豊かな集団へとピコナを成長させていきたいと抱負を語ってくれた。本作のさらなる展開と、若手アニメーターの今後の成長が非常に楽しみである。

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