2018年3月の「あにめたまご 2018」完成披露上映会で一般公開された『Midnight Crazy Trail』は、ピコナの吉田 健氏(CEO・プロデューサー)が長年温めてきたオリジナル企画だ。前編の〜若手アニメーター育成編〜に続き、以降では本作の画づくりの過程を紐解いていく。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 238(2018年6月号)掲載の「ピコナ初のオリジナル作品を「あにめたまご 2018」で若手アニメーターと共に制作『Midnight Crazy Trail』」を再編集したものです。

TEXT_永岡 聡 / Satoshi Nagaoka(lunaworks
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD) PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

▲『Midnight Crazy Trail』の作中カット
©PICONA/文化庁 あにめたまご2018


▲【左】吉田 健氏(プロデューサー)/【右】竹富大悟氏(CG監督)


モデリングではかわいいを追求

モデラーの亀山銀志氏は、一番苦労したのはマキナの頭部だったとふり返った。「マキナのビジュアルはなかなか決まらず、非常に苦労しましたね。顔や髪のモデリングは何テイクも重ねられ、どんどん変わっていきました」(亀山氏)。レンダリング画像をレタッチしながら「こういう顔がかわいいんじゃないか」「こういう目がかわいいんじゃないか」と、遊佐監督とモデラーが、何回もくり返し検証していたと竹富氏は補足した。

▲マキナの設定画


▲【左】初期段階のマキナの頭部/【右】先の頭部のレタッチ画像


▲モデリングの参考用に遊佐監督が描いたマキナの顔


▲【左】レタッチ画像や遊佐監督が描いた絵を参考にしつつ、ブラッシュアップされたマキナの頭部/【右】さらにブラッシュアップを重ね、完成したマキナの頭部。初期段階と完成モデルを比較すると、細かな調整が随所に施されていることがわかる。例えば初期段階の前髪は分かれ目が少なく、なびかせても板状に動いてしまうことが予想された。そのためより細かな分かれ目を入れ、ちょうど良い落としどころを追求したという


▲【左】完成モデルのマキナのカラー/【右】完成モデルのマキナのライン


▲【左】完成モデルのマキナのマスク/【右】完成モデルのマキナのシャドウ


▲マキナの完成モデル。3種類の衣装があり、全て構造が異なる。「シナリオ段階から衣装替えを予定していましたが、作業負荷を考慮し、部分的に同じ衣装を使い回す予定でした。しかし、それでは変身した感じがしないという遊佐監督の意見を受け、全てを替えることにしたのです。大変ではありましたが、マキナのかわいさがさらに引き立ったと感じています」(吉田氏)


3Dモデルをキャラクター設定にできるだけ近づけるため、前述のような調整が納得いくまで続けられた。そのため、3Dモデルがある程度形になった段階で先行してセットアップを行い、アニメーションを付けてもらいつつ、3Dモデルを差し替えるタイミングを相談したという。「最終モデルは11月に完成していましたが、セットアップの仕上げが済み、3Dモデルの差し替えができたのは12月に入ってからでした。若手アニメーターにとっては、差し替えを挟んでのアニメーション付けはかなり大変だったと思います」(吉田氏)。

セットアップでは使い勝手を重視

3Dモデルの調整時には、リグ構造やモーフターゲットに影響がないよう配慮していたため、差し替えによってすでに付け終えたアニメーションが大きく変わってしまうことはなかったという。「キャラクターの表情はモーフターゲットで付けており、最初は6パターン程度用意していました。しかし全然足りないことがわかり、途中で30程度追加しています。3Dモデルを差し替えてもモーフターゲットの順番が変わらないようにしていたので、形状が変わっていても、そこにキーが打たれていれば意図した表情になりました」(亀山氏)。

セットアップに関しては、特に若手アニメーターの使い勝手を重視し、様々な工夫を施したという。「各キャラクターのボディのリグは3ds MaxのBipedをベースにしていますが、洋服のリグは全てちがいます。マキナの場合は3種類の衣装があり、スカートの重なり具合ひとつとっても大きくちがうので、形状に応じた補助ボーンを入れることで対応しました」(竹富氏)。

▲【左】マキナの全身のセットアップ。上部にあるeye3D、eye2Dの文字を押すと、3Dモデルの目と、2Dマップの目を切り替えられるようになっている。カットに応じて使い分けることで、自由度の高い豊かな表情付けが可能になったという/【右】あごの直下にあるピンク色のコントローラを操作することで、あごの上げ下げができるようになっている。より繊細なアニメーション付けも可能だが、若手アニメーターにとっての使い勝手を重視し、シンプルでわかりやすいコントローラづくりが心がけられた


本作は伝統的な作画アニメを意識した画づくりをしているため、カットによっては手足にスケールをかけ、大きさを誇張することもあった。これに対応するため、当初はBipedのボーン自体に直接スケールをかけることも検討したが、3ds Maxの仕様上、動きとスケールのキーが同じ箇所に打たれてしまい、どちらのキーなのかアニメーターが判別しにくいという問題が生じた。そこでスケールのキーを分けるため、手足などの誇張表現が必要な部分にはダミーを配置し、そのダミーを介してメッシュにスケールをかけるようにしたという。

▲手足のスケールを調整するためのコントローラ。このほかにも、カメラ位置に応じて眉や鼻の位置を変えたり、目のスケールを調整するコントローラが用意されている。また、若手アニメーター向けの仕様書には重要度の高いコントローラをわかりやすく明示し、扱う情報量が少なくなるよう配慮したとのこと


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3DCGと作画の利点を組み合わせた画づくり

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ダンスシーンや仮アフレコも若手育成へと結び付く

本作のオープニング内のダンスシーンは、若手アニメーターにとって、とりわけ難易度の高いシーンのひとつだったという。制作にあたっては、遊佐監督が講師を務める福岡デザインコミュニケーション専門学校と、そのグループ校である福岡スクールオブミュージック&ダンス専門学校が協力した。前述の学校でダンスを学ぶ学生たちに遊佐監督がイメージを伝え、自由に踊ってもらった様子を撮影した動画をリファレンスとしながら、ダンスのアニメーションが制作された。単純に動画の動きを真似るのではなく、遊佐監督による味付けが随所に加えられたため、若手アニメーターにとっては学びの多いシーンになったという。

▲ダンスを学ぶ専門学校生による、ダンスシーンのリファレンス動画


▲リファレンス動画を基に制作されたアニメーション。遊佐監督の演出意図、アニメーションとしての見映えなどを考慮しつつ、リファレンス動画の中から最適な振り付けを抜き出してつなげている


▲遊佐監督による修正指示。ポージングや衣装のなびき方に対して、細かな演出指示が出されている。このようなペイントでの指示に加え、遊佐監督自身が3ds Maxを操作してキーポーズに手を加えたり、カメラワークやレイアウトを調整することもあったという


制作初期に実施された仮アフレコは、竹富氏を含むピコナのスタッフによって行われたが、素人の演技には限界があり、アニメーションのタイミングが掴みづらかった。そこで、急遽東京アナウンス学院に協力を依頼し、声優のたまごである学生が仮アフレコを担当したという。「マキナの仮アフレコを担当した学生は、遊佐監督の希望もあり、女性客の声優として本編にも出演していただきました。本作は、様々なかたちで、様々な分野の若手育成へと結び付く作品となりました」(吉田氏)。

3DCGと作画の利点を組み合わせた画づくり

若手アニメーターが制作に慣れてくると、「こういう動きをさせたいです」といった提案が出てくるようにもなったという。「絵コンテに描かれた内容を大幅に変えることは許されませんが、自分にできる範囲の中で、それぞれが高い意識をもってアニメーション制作に取り組んでいたように思います」(竹富氏)。3DCGと作画の利点を組み合わせ、より魅力的な画づくりを実現するというピコナのこだわりも、本作の制作を通して若手アニメーターに伝わったようだと吉田氏は補足した。

▲3DCGで表現されたマキナの顔に対して、作画によるレタッチを加え、より魅力的な表情に仕上げている。このように、3DCGだけでは表現が難しい表情は、作画を併用しているという。セットアップの解説で述べたように、本作のキャラクターは、3Dモデルの目や口と、2Dマップの目や口を切り替えられるようになっている。この機能を使い、カットごとに最適な表現が選択された


▲マキナが大きなバブルに包まれるエフェクトは3DCGで表現されている/完成画。本作の撮影は基本的に外部の協力会社に依頼しており、作中のエフェクトの多くは、協力会社のスタッフが遊佐監督と相談しながら制作した。ただし、前述のような3DCGによるエフェクトはピコナが担当している。なお、本作の美術(背景)は基本的に手描きで表現されている


▲レンダリング画像/完成画。マキナの肩に乗っているソービーという名のモグラは作画で表現されている。このように、3DCGでの表現は難しいと判断された一部のキャラクターは作画が選択された。作品全体の約8割が3DCG、残りの2割は作画で表現されているという。限られた期間で魅力的な作品へと仕上げるため、それぞれの利点を活かした画づくりが追求された


こうして、吉田氏が2006年から温めてきたオリジナル企画は、「あにめたまご 2018」という土壌の上で、様々な相乗効果を生み出し、見事に花開いたのだ。

そんな本作の今後についても、吉田氏は様々な展望を抱いているという。「オリジナル作品をつくれる機会は滅多にないと思うので、いただいたチャンスを活かせるよう、この1作で終わらせることなくシリーズ化を目指していきたいです。本作は全12話を想定しており、魔法使いになることをマキナが受け入れていく過程を通して、マキナの成長を描きたいと思っています」(吉田氏)。そのための体制づくり、制作力の強化に加え、吉田氏以外のスタッフからも企画を提案できるような、創造力豊かな集団へとピコナを成長させていきたいと抱負を語ってくれた。本作のさらなる展開と、若手アニメーターの今後の成長が非常に楽しみである。