2018年3月の「あにめたまご 2018」完成披露上映会で一般公開された『Midnight Crazy Trail』は、ピコナの吉田 健氏(CEO・プロデューサー)が長年温めてきたオリジナル企画だ。若手アニメーター育成という目的も担った本作の、完成までの道のりを紹介していこう。

※本記事は月刊『CGWORLD + digital video』vol. 238(2018年6月号)掲載の「ピコナ初のオリジナル作品を「あにめたまご 2018」で若手アニメーターと共に制作『Midnight Crazy Trail』」を再編集したものです。

TEXT_永岡 聡 / Satoshi Nagaoka(lunaworks
EDIT_尾形美幸 / Miyuki Ogata(CGWORLD) PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

▲【左】『Midnight Crazy Trail』キービジュアル/【右】左から、亀山銀志氏(モデラー)、吉田 健氏(プロデューサー)、竹富大悟氏(CG監督)、林 文薏氏(若手アニメーター)
©PICONA/文化庁 あにめたまご2018


▲「あにめたまご 2018」第2弾PV。1:06から『Midnight Crazy Trail』のPVを視聴できる


▲【左】「あにめたまご 2018」完成披露上映会の様子。左から、竹富大悟氏(CG監督)、遊佐かずしげ氏(監督)、吉田 健氏(プロデューサー)。右端の島本須美氏(声優)は、井上和彦氏(声優)と共に「あにめたまご 2018」の司会を務めた/【右】左端は井上和彦氏。その横に並ぶ6人は『Midnight Crazy Trail』の制作に携わった若手アニメーター。井上氏の隣から順番に、形部 秀氏、加賀田 哲朗氏、小城英貴氏、高橋尚子氏、林 文薏氏、賴 邦妮氏(写真撮影/CGWORLD)

「あにめたまご 2019」の実施も既に発表されており、参加希望の受託制作団体と、若手アニメーター個人からの応募はこちらで受付中だ。応募締切は、2018年5月31日(木)18時となっている


蓄積してきた行動と熱意がオリジナル作品を実現へと導いた

「あにめたまご」は、日本国内のアニメスタジオからオリジナル企画を募り、その制作現場でのOJTと若手育成講座(OFF-JT)を通して、若手アニメーターを育成する「若手アニメーター等人材育成事業」の通称だ。主催は文化庁で、一般社団法人 日本動画協会が事業を受託している。「あにめたまご 2018」の4作品のひとつに選ばれた『Midnight Crazy Trail』は、ピコナの吉田 健氏が10年以上前から温めてきたオリジナル企画で、何度もブラッシュアップをくり返し、世に出す好機を窺ってきた。2017年初頭、「あにめたまご」の公募が開始されたことを知った吉田氏は、「これはチャンスだ」と思い応募に踏み切ったという。

オリジナル作品を世に出したいと望むプロダクション関係者は多いと思うが、通常業務をしながらの実現は非常にハードルが高い。「作品の設定やあらすじを記した企画書に加え、作品制作を通してどのように人材育成を行うのか、アニメ業界が抱えている課題に対してどう取り組むのかを述べた提案書も制作しました。文化庁への提出書類の準備には相応の時間を要したので、公募が開始されてから企画を考えたのでは間に合わなかったかもしれません」(吉田氏)。ピコナが過去に実施した社員研修や、アニメCG制作の実績も評価されたのではないかと吉田氏は補足した。

かつてゲーム会社で勤務していた吉田氏は、フリーランスとして独立した後、デジタルハリウッド大学大学院に通い、コンテンツビジネスにおける企画書制作やプレゼンテーションの在り方を学んでからピコナを設立した。吉田氏が蓄積してきた行動と熱意が、オリジナル作品を実現へと導いたと言えるだろう。

▲【左】吉田氏が2006年に制作した企画書の表紙/【右】「あにめたまご 2018」に提出された企画書の表紙


▲【左】2006年の企画立案当時、吉田氏が描いたマキナ(本作の主人公)のデザイン画/【右】最新のマキナのデザイン画。ゴーグルなどの要素を残しつつ、現代風のかわいい魔法少女へと大きくリデザインされている


▲【左】同じく2006年に描かれたシャウトのデザイン画/【右】最新のシャウトのデザイン画


▲【左】同じく2006年に描かれたクランチのデザイン画/【右】最新のクランチのデザイン画


なお本作の監督を務めた遊佐かずしげ氏は、専門学校などでの教育経験を活かし、若手アニメーターの指導も兼任した。若手の育成という点でも優れた成果を生み出した本作の、完成までの道のりをさっそく紹介していこう。

OFF-JT期間には、遊佐監督の講座も実施

「あにめたまご 2018」の制作4団体、4作品は2017年6月5日に発表され、21日にオリエンテーションが行われた。その後、7月初頭にシナリオ納品、7月末には絵コンテ、キャラクター設定、美術設定の納品。8月以降はプロダクション作業と併行して、全5日間の若手育成講座が実施された。完成納品は2018年2月中旬だったため、実制作に充てられる期間は約6ヶ月だった。

▲「あにめたまご 2018」期間中のピコナの様子


「キャラクターのモデリングは8月から開始し、セットアップを経て、アニメーションを始めるまでの期間は、OFF-JTとして遊佐監督にアニメーション講座を開いていただき、若手アニメーターに受講してもらいました」(吉田氏)。

2010年に「PROJECT A」の通称で始まった「若手アニメーター等人材育成事業」は、当初、作画の若手アニメーター育成のみを目的としていた。そのため前述の「育成プログラム」は作画アニメーションのワークフローを前提につくられており、3DCGアニメーションを主体とする本作には合わない部分があったという。作画アニメーションの場合は、絵コンテやキャラクター設定があれば、それらを基にアニメーション制作を開始できる。しかし3DCGアニメーションの場合は、キャラクターをモデリングし、セットアップまで完了しなければ、アニメーション制作を始められない。そこで、その期間にピコナは独自でOFF-JTを行なったというわけだ。作画アニメーター出身の遊佐監督から直接指導を受ける機会を得たことで、若手アニメーターは重心移動などのアニメーションの基本をしっかり学べたようだ。

▲遊佐監督による指導の様子。座学に加え、時には若手アニメーター自らが身体を動かし、起き上がる際の重心移動などを学んだ。さらにその様子をスマートフォンなどで撮影し、後から見直せるようにもしたという


▲担当するカットのキャラクターアニメーションを自ら実演し、動きの詳細を確認する形部氏


本作に参加した若手アニメーターは男性3人、女性3人の計6人で、前述の遊佐監督の講座と併行して、日本動画協会が実施する若手育成講座を受講した。その中には、パースやレイアウトの理解を目的とした絵を描く課題や、3DCGによるカット制作を始める前に描くサムネイルの課題などが含まれていた。それらひとつひとつが、若手アニメーターにとっては良い勉強や訓練になり、かなり充実した時間を過ごせたことだろう。現に、「あにめたまご 2018」に参加する前と後とでは、自身の力量が大きく変わったことを実感していると、若手アニメーターのひとりである林 文薏氏は語った。

▲3DCGによるカット制作を始める前に描かれたサムネイル。パソコン上で試行錯誤をする前にイメージを紙に描くことで、動きの内容を整理し、創造力を養うことを意図している


なお、本作の制作進行管理にはSHOTGUNが導入された。「当社はこれまで受託中心の制作を行なってきましたが、本作で初めて元請けとして作品全体の制作進行管理をすることになりました。そのためのしくみをゼロから構築するにあたり、SHOTGUNを本格的に導入したのです。離れた場所にいる監督や協力会社さんとのやり取りにおいて、SHOTGUNの機能がおおいに役立ちました」とCG監督の竹富大悟氏は語った。

▲カット管理の画面。情報がわかりやすく可視化されているため、タスクの担当者は誰か、進捗に遅れはないかといったことが直感的に把握できる


▲SHOTGUN上にアップされたレイアウトに対して、遊佐監督が修正指示を描き込んでいる。「SHOTGUNにアクセスするだけで、いつでも、どこからでも修正指示を出せるので、監督も積極的に使ってくださいました」(竹富氏)


5月25日(金)公開の「ピコナ初のオリジナル作品『Midnight Crazy Trail』メイキング∼画づくり編∼」では、モデリング、アニメーション、撮影といった各工程の詳細をご紹介します。ぜひお付き合いください。