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Blenderによるマッチムーブのススメ

Blenderによるマッチムーブのススメ

2Dトラッカーの性能は、どのソフトよりも優れている

最後に、トラッキングの生産性を高める上でBlenderが有効な理由を4つご紹介します。1つめは、3Dソフトとのデータのやり取りを必要としないことです。マッチムーブでは、トラッキングの計算結果を3Dシーンで確認することで、初めて問題が発覚する場合が多々あります。そのためトラッキングソフトと3Dソフト間でデータのやり取りが頻繁に発生します。Blenderはトラッキング機能をもつ3Dソフトなので、データをやり取りする必要がなく、効率的に作業を進められます。

▲カメラ、およびオブジェクトトラッキング中のBlenderの画面。左側に表示されたトラッキングの計算結果を右側の3Dシーンで即座に確認できるため、ソフト間での煩雑なデータのやり取りが発生しません。また、右側の3Dシーンではトラッキングの整合性を確認するためのガイドモデルを表示しています。このようなガイドモデルを容易に作成できること、平面図や地図なども表示して調整できることもBlenderの利点です


2つめは、業務に問題なく使える高精度のトラッキングが可能なことです。特にマニュアルトラッキングにおける2Dトラッカーの性能は、私の知る限り、どのソフトよりも優れています。ポイントの回転・スケール・パースや照明の変化にも追従し、キャッシュ性能も高いため、非常に速く効率の良いトラッキングが行えます。ディストーション補正、焦点距離の自動算出などに関しても、ほかのソフトと同等の結果が得られます。

3つめは、計算結果の調整が容易なことです。トラッキングデータは、3Dシーン内のカメラやオブジェクトにコンストレインできるため、カメラの高さ情報などを保持したままの再計算が可能で、3Dシーン上での調整を容易に行えます。

4つめは、柔軟な利用が可能なことです。Blenderはいつでもダウンロードできて軽量で、ライセンス数に上限がありません。また、FBX、Alembic、OBJなど、多くのデータ形式に対応しています。

計算結果の調整、データの入出力にも柔軟に対応

  • Blender独自の3Dカーソルは、3Dシーン上での調整に非常に役立ちます。3Dビューは撮影素材を表示した状態で、マウスのみでズーム表示ができるため、細かい確認や位置合せを効率的に行えます


  • FBXデータをインポートする場合の設定例


  • 同じく、エクスポートする場合の設定例。ASCIIだとMayaや3ds Maxでは1Fキーがずれるため、エクスポート前にBlenderのスタートフレームを0Fにしておきます。基本的にFBXの使用に問題はありませんが、Focal LengthのアニメーションはAlembicでのみ対応しています。NUKEへのエクスポートもAlembic推奨です。詳細はCGcompoにて解説しています


ただしBlenderには、オートトラッキング機能がないという欠点もあります。Addonの中には簡易的なオートトラッキング機能もありますが、ほかのソフトのそれとは別物です。筆者の場合は基本的にBlenderだけでマッチムーブを行なっていますが、オートトラッキング機能を使った方が効率的な場合、撮影時にズームレンズを使っている場合、360度映像を扱う場合などはSynthEyesをはじめとするほかのソフトも使います。

Blenderのバージョン2.8リリースが迫り話題になっていますが、マッチムーブ目的で使用する場合には、現行の2.79bを推奨します。2.8の初期リリースではトラッキングの機能更新がないのに加え、本記事執筆段階では3Dビューの背景表示機能などの見直しが行われており、一部機能が適切に動作しません(※)。将来的にこのあたりが改善されれば、EEVEEを活用することで、モーションブラー付きのマッチムーブや簡易合成の確認がリアルタイムに行えるようになるかもしれません。

※ Web転載時点の最新ビルドでは修正が行われており、大きな問題点は解消しています。10月末には2.80βがリリース予定です。

info.

Blender Match move Tutorial Beginner series
トラッキングソフトとしてBlenderを使うための方法を、基礎から解説したチュートリアル動画も公開しています。合わせてご覧ください


▲本記事の冒頭で少し触れましたが、マッチムーブの経験を活かし、高精度なテクスチャスキャンと3Dスキャンの研究・サービスも始めています。興味をもたれた方は、Webサイト(site.cgslab.info)をご覧ください



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