>   >  『ウイニングイレブン 2019』Enlightenの導入が実現した効率的なライティングワークフローとは~CEDEC 2018レポート(5)
『ウイニングイレブン 2019』Enlightenの導入が実現した効率的なライティングワークフローとは~CEDEC 2018レポート(5)

『ウイニングイレブン 2019』Enlightenの導入が実現した効率的なライティングワークフローとは~CEDEC 2018レポート(5)

<2>なぜ、『ウイイレ 2019』でEnlightenが導入されたか

続いてコナミデジタルエンタテインメントの山下氏が登壇し、『ウイイレ 2019』におけるEnlightenの導入事例について発表が行われた。「Enlightenは間接光がつくり出すリアリティのある見た目を表現できるのはもちろんのこと、ゲームプレイ中にライトやマテリアルを変更することで、時間の変化、天候の変化を簡単に実現することができ、ライティングワークフローが非常に効率的になるのがポイントです。アーティストが少しライトを調整したとしても、すぐに結果が得られるので、作業時間の短縮に大きく役立っているのではないかと思います」(山下氏)。

Enlighten導入のながれを解説するコナミデジタルエンタテインメント山下氏

今回『ウイイレ 2019』で、なぜEnlightenを導入するにいたったのか。「『ウイニングイレブン』シリーズは20年以上続いているサッカーゲームです。自社エンジンを用いて2014年まではフォワード・レンダリングを使っていました。選手以外の全てがライトマップで、選手のみリアルタイムレンダリングで描画されGIの利用は最小限でした。2015年以降は、選手も背景もディファード・レンダリングで全てリアルタイムライトで扱っていました」(山下氏)。

『ウイイレ』シリーズは毎年リリースするタイトルであるため、制作期間は1年よりやや短い10ヵ月ほど。『ウイイレ 2019』ではグラフィックスパイプラインの刷新を目指し、相当大きな改造を行なったという。そもそも、なぜ今Enlightenなのか? それは、本シリーズにおけるライティング調整の制作コストの高さに端を発する。

『ウイイレ』シリーズのライティングは、物理的な照明の正しさよりもゲームとしての遊びやすさを追求するため、基本的には見映えの良さを最優先に調整されている。つまり、ライティングがゲームプレイにとても影響するということだ。「濃い影が変に地面に伸びていては、とても遊べません。ゲーム時間が正午ですと太陽が強く、影のコントラストが強すぎて遊べません。また夕方16時頃に設定すると影は弱まりますが、正直見映えがしない画面になってしまいます。遊びやすさを重視し、ゲームプレイチームから常時フィードバックしてもらいながら調整しています」(山下氏)。

影が伸びすぎてプレイしにくい画面になっている例

スタジアムの屋根が影になってプレイしにくい画面になっている例

ライティングは常に微調整をくり返し、マスターアップ直前まで対応が続くという。調整対象も1つや2つにとどまらない。本作ではスタジアムが約40種類あり、それに朝・夜などの時間帯、晴れ・曇りなどの天候といった諸条件を組み合わせるとゆうに200パターンを超え、膨大なライティング調整コストを抱えることとなった。当時ライティングは1~2人のスタッフのみで対応しており、『ウイイレ2018』まではかなり無茶な実装になってしまっていた。そこでライティングワークフローの改善策としてEnlightenを導入することになったというわけだ。

スタジアムについては、現地でレーザーによる3Dスキャンを行い、そのポイントクラウドからモデルを制作している。開発スタッフに作業量の見積もりをヒアリングしたところ、GIに非常に時間がかかっていたのだという。そこで、プローブの配置、ライトマップの生成、UV展開など、見映えを良くするために手作業で行われていた様々な工程を全て自動化。ゲームプレイ中も調整が可能なほどの、シンプルなワークフローが実現した。

講演日の朝に使用許可が得られたばかりのスタジアムの3Dスキャンの様子

再構成されたスタジアムのCG

結果的にどちらのライティングが良いか? と質問を投げかけると「2018年版の方が良い」というスタッフもいますが、大きくみると、『ウイイレ 2019』ではライティングに嘘をつかなくなった点が大きな変化だという。『ウイイレ2018』までは手動でGIを設定していたため、情報量が不足しのっぺりしている箇所に補助ライト、嘘ライトと呼ばれる本来存在しないライトが大量に置かれていた。それによりかえってライティングに整合性が取れなくなるという悪循環が発生し、処理負荷も上がっていたとのこと。「『ウイイレ 2019』のフローでは情報量が確保できるようになり、少ないライトで整合性が取れゲームとしても成立するようになりました」(山下氏)。



  • 『ウイイレ2018』(左)、『ウイイレ 2019』(右)の比較。影や照明に注目



  • 同じスタジアムでの昼(左)と夜(右)の様子。前作までは昼と夜だとライトの構成が異なり使い回すことができなかったが、本作では素直にライティングできるようになったため、太陽光とスタジアムライトで自然なバリエーション演出が可能に

ライティングをフォトリアルにするのはそこまで難しくなく、きちんと計算してベイクすれば良いのだが、ねらった「画」をつくるためには膨大な微調整が必要となる。この1回あたりの調整は微々たるものだが、その調整の積み重ねの総量が『ウイイレ』開発の根底にあった問題であった。そこでEnlightenを開発に採用した一番の効果は「ライティング調整のイテレーションが早くなったこと」だと山下氏は語る。調整にかけられる時間が増え、トータルで数日分の時間が稼げるようになった。綺麗なGIは当然のこと、作業できる時間が増えた結果、全体のクオリティが上がったと考えているとのこと。

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<3>開発と同時進行で実施されたインテグレーション

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