Topic 2
個性をより引き出すアニメーションや撮影での演出
アクターの演技を参考にアニメーションへ落とし込む
アニメーション制作のおおまかなながれとしては、まずモーションキャプチャを行い、それを基にディレクターの西田氏がプリビズとして一連のカメラワークを切り、絵コンテに落とし込む。その後、アニメーターたちがプリビズのカメラを整理しながらレイアウトを作成して、アニメーション付け。さらにその後、データはコンポジターに渡され、演出効果を加えて完成となる。
なお、ダンデライオンでのアニメーション付けは3段階に分かれている。1段階目が体を動かし表情を加えるプライマリ。2段階目が揺れものを加えるセカンダリ。3段階目が作監修正を踏まえクオリティを上げるターシャリとなっている。レイアウト作成時のカメラワークについては、「ディレクターの西田から、『プリビズよりももっと良くできるという意見があれば柔軟に対応する』と言われていたので、ここはもっとクイックに、ここはこのキャラクターにフォーカスする、など映像に気持ちを乗せて盛り上がりをより伝えられるようにカメラワークなどを決め込んでいきました」と、リードアニメーターの伊東巧右平氏。
プライマリが終わった時点でシーンデータはいったん撮影チームに渡される。そして3人のコンポジターが2週間かけてBGとの合成、エフェクト演出を加えていく。リードコンポジターの川口紗希氏は「コンテに指示がある内容と、自分たちでこういうことをやりたいという提案を、2週間ほどかけて入れ込んでいきます」と説明する。全カット色が付いた状態、通称「オールカラー」でチェックを行い、西田氏から1カットずつリテイクをもらう。そこから1ヶ月ほどかけて詰めの作業を行いつつ、ターシャリのアニメーションデータと差し替え、最後の1週間で陰影表現やめり込み修正のためのレタッチを行い、完成となる。
モーションの収録とリファレンス撮影
モーションキャプチャについては、ダンスの収録はセガゲームスで、フェイシャルの収録はツークン研究所で行われた。アクターがキャラクターの性格を踏まえつつ踊り、基の振り付けと異なっていてもキャラクターの個性が際立つような演技をしてもらったという。画像はリファレンスを撮影したときのもので、カメラをファンに見立てて、アクターがファンサービスとしてカメラ目線を送る演技なども入れてもらった。こうしたリファレンス映像を参考に、落とし込めそうなところはアニメーションで落とし込んでいる
ダンデライオン流のアニメーション付け
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プリビズ。PV全体の演出的な部分を含めてカメラの方向性を決める
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プライマリアニメーション。プリビズのカメラを整理し、そのカメラに合わせてキャラクターの演技やフェイシャルの方向性を決め込む。「今回はキャラクターの性格や芝居の方向性などに固まっていない部分があったので、キャプチャ時にアクターさんの動きや表情芝居を撮影して、アニメーションの演技に落とし込んだものもありました」(伊東氏)
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セガゲームスによる作監修正
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ターシャリアニメーション。髪や衣装などの揺れものにシミュレーションで動きを付け、リグで動きを整理し、強調する部分は強調していく。その後、作監修正指示に沿って修正し、最終的な表情、ポーズの調整を行う。「顔まわりではリグで動かした後に頂点を調整して、キメ顔をつくり込んでいます」(リードアニメーター・福井雄大氏)
完成カット
キャラクター同士の絆や感情を伝える表現
「SP!CA」のMV。左がプライマリで右が完成カットだ。この場面では手前の2人がアイコンタクトをしたり、右奥の2人がハイタッチするアニメーションを追加で入れるなど、関係性がわかるようにシーンを設計している。左奥のメンバーがひとりで踊っているところもキャラクター性が出ていて面白い
ユニットのひとつ「Just 4U」のMV。「このカットでは『服をしっかり掴んでほしい』というオーダーがあったので、担当アニメーターが頂点を調整して対応しました」(福井氏)。左がプライマリで、リグのみでアニメーションを付けたもの。右の完成したカットを見ると、しっかり服を掴んでいるのがわかる
瞳がアップになる冒頭カット
特に力を入れたのが「SP!CA」MVの冒頭、瞳がアップになるカット
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プライマリ時のモデルのアップ。「より生命感のある瞳にしてほしい」というオーダーに合わせ、まずは形状や整合性は考えずに動きを作成。「カメラがここまで寄るのは想定していなかったのですが、イベントで先行公開が決まったカットだったため、完成度とスピードの両立を考え、このモデルを編集して対応することにしました」(伊東氏)
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セガゲームスによる作監修正。この修正に合わせてまつげの太さや本数、ながれなどをつくり直す
完成カット。ここまでの瞳のアップは非常に珍しく、印象に残る仕上がりになっている
Redshiftを活用したステージの制作
本作ではBGデザインも含めて受託しているため、ダンデライオン側で実在する会場をイメージしたステージを制作。モデリングは協力会社へ依頼している。また、レンダラにはRedshiftを採用。過去にはmental rayも使用していたが、担当者によってスケール感や奥行き、光の加減にばらつきが出る上に工数がかさみがちだった。しかし、2017年に『B-PROJECT』のイベントショートムービを制作した際、Redshiftの一括レンダリングでその問題を改善することができたため、本作でもRedshiftを継続して使用している。「Mayaの中で画づくりを完結しやすいですし、レンダリングが軽く、連番を出すのもスムーズで、メリットは多いです」(西田氏)
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BGのみのレンダリング画像。Beautyパス、およびマスクとリフレクション素材のみを出力している
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最終合成。Maya内で空気感を含めて画づくりをして、Redshiftでほぼ1発レンダリング。コンポジットでキャラクターや演出に合わせて、ブラッシュアップしている
「オールカラー」の段取りを採るコンポジット
コンポジットではまず、1カットずつつくり込む前に、ひと通り色を付けて並べる作業から始める。いわゆる色が付いた状態でのラッシュで、ダンデライオンでは「オールカラー」と呼んでいる。「1カットずつ見ても前後関係がわからなければ判断しきれないので、必ず並べて見ていますね」と西田氏。最初にオールカラーを行うことにより、一連の雰囲気を理解できて、盛り上げるべき箇所を把握しやすくなる、前後のカットで修正内容を合わせられる、など様々なメリットがある
「Just 4U」のMV。左は「オールカラー」で、カットに必要な要素を全て入れ込んだ状態。右が完成カット。強い光のインパクトで、アイドルたちを際立たせている
「La-Veritta」のMV。左が「オールカラー」で、エフェクトは全て入れられている。右がメリハリを付けて完成させたカット